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第3章の第62話 X9 バイクマンの手術3



【――あの新しい術式には、終始圧倒されたわ……】
【新しい術式か……そう言えば、ドクターイリヤマとドクターライセン絡みで、特許の話が出てきたことがあったよな?】
【そう言えば……!?】
【特許……!?】
【?】
【……はい。訳がわかんなくて、特許を持っている人が現れたらしいです】
【……妙だな……】
【? ……どうかしたんですかミノルさん?】
【いや、個人が特許を取るためには、特許申請をしなければならない】
【特許申請……!?】
【ああ、発明をした人の氏名などを書いた願書に、特許を取りたい発明の内容をまとめた書面を添付して、特許庁に申請するんだ】
【へぇ~~……】
【あれ? そう言えば昔お兄ちゃんが……?】
【う~ん……】
【あら? どうしたのスバル君?】
【うん、自分にもそんな話が上がったんだって】
【えっ……!?】
【まだ申請も何もしていないのに……身に覚えがないのに、勝手に周りで騒がられたんだって……詐欺とハメ落としじゃないのかな?】
【詐欺とハメ落としか……フムゥ】
【……うん……でね。昔、ハッキングを受けたことがあるんだって】
【ハッキング~~ゥ!?】
【うん……許せない奴等でね……。人の周りで勝手に騒いで、周りに酷い迷惑行為を被らせたんだよ】
【主にニセ電話詐欺で、電話で取り次いで回って、集団で圧力をかけたんだって。詐欺メールも送りつけられたらしいよ】
【多くの人を言葉巧みに騙して、信じ込ませて、陥れようとしたんだって】
【金を巻き上げるような悪い連中だよ】
【でね、人の顔写真を取ってメールを無作為に飛ばしたんだって、それもアメリカ中に!!】
【どうしようもない問題だって】
【……】
【実際、酷いもんだよ!!】
【人の持ち物を盗んだり、盗んだものを、兄弟の人に頼んで、シレッと返したり、ノートパソコンを初期化させたり、人の家庭菜園にナイフを入れたり】
【人のアカウントを無効化して、小説の繋がりを断って、あちらに引き込もうとしたり】
【極めつけは、人の書いた未公開の小説を盗み見て、他の人に見せびらかして、凄い迷惑行為を被ったんだよ!!】
【こっちがウェーブグローバルを切断しても、アカウントを辿って、ハッキングまでやってのけるような、優れたハッカー集団もいるんだって】
【へぇ~……】
【で、そいつ等は潜伏していて、今も平然と仕事をしてるんだよ。昔、人を自殺まで追いやって、その証拠を揉み消して……ね】
【何で捕まんないのよ!?】
【実際、何かされたわけじゃないから……その誘発行為により、その人を自殺まで追いやったんだよ】
【だから、証拠なんてない!! 共犯意識に囚われてるから、口が裂けても言えない人達なんだよ】
【で、お兄ちゃんはここ数年間、就職できずにいたんだって……】
【クリスマスシーズン前に、腕時計型携帯端末も、就活中に強制切断されたり、とある音声レコーダもハッキングされてて、とある人のメッセージと歌手の歌がハッキングされてて、焼き増しされたらしいよ】
【うわっ……もろ犯罪じゃん……】
【うん……知的財産権の侵害だよ】
【そんな悪いハッカー集団もいるんだなぁ】
【うん……許せないよね……!! でね、ノートを盗られそうになったけど、その重要機密のリフィルを思い切って、破り捨てて燃やしたんだって。もう信用できないから】
【あぁ……】
【人の知的財産権を奪って、自分たちの手柄にしようとするなら、こちらも思い切って、自分の頭の中だけに留めた方が一番なんだって】
【なるほどねぇ……】
【……でね、仮にノートをあちらに回しても、何らかの形で、事故死に見せかけて、亡き者にしようと企てたんだって】
【状況証拠も金とコネの力で騙して、証拠もまた揉み消す気でいたからさぁ】
【だから、見せる気はないって!!】
【そして、その事件に誤って、首を突っ込んでしまっている兄弟も、騙されて利用されていたんだって】
【でね、一番危うい立ち位置にいるらしくて、難を逃れるために、多くの知人に教えて、無事、回避できたらしいよ】
【へぇ~……】
【……で、クリスティさん、その後どうなったの!?】
【うん? そうねぇ……――】


★彡
――これでようやく、この救命士用体外循環小型人工心肺装置を離脱できる。
『――これより、『救命士用体外循環小型人工心肺装置』を離脱します!』
「……ムッ!? ちょっと待って!?」
私は、レムリアンのその声に待ったをかけた。
『!?』
「どうなってる……!?」
それは不可思議そのものだった……。
(何だ……!?)
私は、既視感を覚える。
その縫い跡を見て疑問を覚え始める。
私の様子に習うように、横から、レムリアンが覗き込んできて。
『?』
「?」
あたしはなんだろうと思ったわ。
ドクタースプリングが、疑問の言葉を口ずさむ。
「……おかしい……!? どうやってこいつは、救命士用体外循環小型人工心肺装置を、体内に、巾着袋縫いができたんだ……!?」
『……さすがに変ですよね……』
「ああ……」
『絶対、変ですよ……外から、この手技は行えないハズ……』
それは大きな疑問だった。
この手術室なら、設備が整っている以上、それができる……。
だが、あれが起きたのは外での出来事だ。
違和感だらけだ。
(あの時現場には、ドクターイリヤマとドクターライセンが、付近にいたが……)
ボソッ
(まさか……ドクターイリヤマが……!?)
と私はそれを小さい声で呟いた。
だが、それを一蹴するのはレムリアンだ。
『いえ、それはないでしょう!』
キッパリ
「だよなぁ……」
コクリ
と頷き得る。
『うんうん』
(あのクソ爺にそんな繊細な腕前はないはず……。じゃあいったい……誰だ……!?)
それは謎の人物の仕業だった。
(とても、救急救命士とは考え辛い……。医療用アンドロイドの線も考えられるが……。……ダメだ、どうあっても正解に結びつかない……)
私は、わからないとばかりに頭を振るう。
その時、
「――!」
心臓手術行っていたクレメンティーナが、その手で心臓を裏返した時、あるものを発見した。
そう、それは――
「――あら?」
「? どうしたクレメンティーナ?」
「少ないわね……」
「? 何がだ……?」
「(裏面)ここにあるはずの心網(しんもう)が余分に切り取られているのよ。あってもなくても、構わない臓器だけど……」
「『!?』」
私たちはそれを覗き込む。
「なっ……!?
Are You Kidding(アー ユー キィディング)……!?」
『信じられない……!?
Cant Believe it(キャント ビリーブ イッツ)……!?』
「バカな……こいつはどうやって……!? どんな手技で、どんな救急を行ったんだ……!?
Idiot How Is This……!? What Kind Of Emergency Did You Use……!?(イディオット ハゥ ディス……!? ホワット カインド オブ エマージェンシー ディド ユー ユース……!?)」


【――そう、あれは激震だったわ……】
【思わず、鳥肌が立つほどの……】
【……】
【……それは、ドクタースプリングとその医療用アンドロイドAIナビ:レムりアンの腕がか……?】
【いえ、違うわ、パパ……】
【じゃあ、その新しい術式が……!?】
【……それも違うわね……】
【!?】
【……あたしが言いたのは、人にはマネできない芸術……!! そう、神業がかった救急の御業がなされていたことよ……――】

私はそれを一目見て。
「――ゴットハンド……!!」
と呟きを落とし、思わず面を喰らってしまうの。
顔に手を当てて、後ろによろめいてしまう……。
「えっ……!?」
『……ッ』
「……そんなバカな!? 絶対に有り得ない……!? 有り得てはいけない事が起きてる……!?)
こんなの常識の埒外だ。
「神業がかった……神の御業だ……」
『……』
「……」
ドクタースプリングが、レムリアンが、あたしが。
「……」
『……』
ドクターライセンが、オーバが戦慄した、震撼した、激震した。
「「「『『――ッ』』」」」

【――そう、戦慄! 震撼!! 激震したの!!! あの場、あの時、あたし達は、息を飲み、呼吸すら忘れたわ………………】

「……」
ドクタースプリングは、その鋭利な切り口と救急救命士用体外循環小型人工心肺装置の取り付けを見て。
「……ドクターライセン?」
「はっはい!?」
「……思い当たる知り合いはいないか?」
「……いません……。僕が知る限り、ドクターイリヤマにも、不可能な神業です……」
「……そうか……」
(いないか……思い当たる知り合いは……)
それは私もだ。
「フッ……」
「? ……スプリング……?」
あたしは彼の名を問いかける。
彼は哀愁じみて。
(……いるんだよな……まだ見ぬゴッドハンドが、この広い世界のどこかに……)
「……」
『……』
ドクタースプリングが、レムリアンが。
「……」
あたしが。
「……」
『……』
ドクターライセンが、オーバが息を飲んだ。
ゴクリ
訪れるは、長い沈黙。
「………………
………………
………………」
そして、この手術室にピッ……ピッ……ピッ……と命を刻む、電子音が響いていた。
一同、同じ思いを巡らせる中、
「……」
『……』
「……」
「!」
その沈黙を打ち破るように、ドクターライセンがこう語りかける。


★彡
「……そ、そう言えば……!」
「!」
振り返るあたし達。
「クレメンティーナさんから手提げかばんを盗った犯人は、そろそろ捕まった頃でしょうか?」
「……」
「……」
そう声が聞こえてきて、
その応対に当たりのは、あたしではなく、ドクタースプリング(マイダーリン)だった。
「……ここにいるぞ」
「シュ――ッ……シュ――ッ」
「……」
「……こいつだぞ、ひったくり犯……」
コクリ
「……」
とあたしが頷き得たことで、
「………………」
見る見るうちにドクターライセンのその顔が豹変し、ワザとらしく驚嘆の声を上げる。
「マジで!? ウッソー!? ウワァ――ッ!! 信じられないくらいスゴーイ!!!
でもこれ、凄い偶然だねー!?
ビックリ仰天だよ――ッ!!!
No Kidding(ノー キィディング)!? No Way(ノー ウェイ)!? Wowww(ウォウウウ)!! Thats Unbelievable(ザットゥス アンビリバボー)!!!
But This Is a Big Coincidence(バット ディス イズ ア ビッグ コインシデンス)
Im Astonished(アイム アストニッシュト――)!!!」
凄い驚きぶりだったわ……。
そして、マジでという古い語源は、200年前の流行り言葉の1つで、正式には冗談言わないでよ……が語源である。
その発祥は、某ニンテンドーゲーム、ムジュラの仮面。デクナッツ姫からだと囁かられている。
これにはあたし達も。
「……」
「……」
『……』
素の顔で驚いていたわ……。
あたしは嘆息し、講師にこう告げる。
「……ホントよ……」
「……」
ドクタースプリングも嘆息し、
「……大真面目な話だ……」
「……」
と告げる。
その横で同様に頷き得るレムリアン。
「ウソ――ン!? こんな事ってあるんだなぁ……」
ドクターライセン(僕)はもう、ワザとらしく驚くばかりだ。
でも、なぜか納得の思いで、腕を組んで、こう語る。
「意外と世間は狭いもんだな……うんうん」
コクッ……
とこれにはスプリング(私)も、ワザとらしく小さく頷き得る。
「……」
「!」
「……」
そこへクレメンティーナさんが、人工心肺技師の立ち位置に就く、僕の顔を覗き込んできたので。
「……どうかしましたか……クレメンティーナさん!?」
「……」
あたしはその時、その人に妙な違和感を抱いていた。でも……。
「……いいえ……」
手術中ということもあって、それを億面に出すこともなかった。
「シュー―ッ……シュー―ッ……」
あたしは患者さんに向き直り、今は、その命を救いたいと思う。
「………………」
あたしはただひたすらに、誠実に、愚直なまでに血管吻合を。
「……続けます」
あたしは、手術を再開したの。

【――その時からあたしは、妙にドクターライセンを怪しんでいたわ……同時に彼も、そして遅れてやってくるドクターイリヤマもね】
【……】
【……】
【……】
【……】
【……】
【でも、今、あたしの目に映るのは、患者さんだった。……今ばかりは、助けたいと思っていた】
【どうして、ひったくり犯なんてしたのか、そいつに問い質したかったから……】
【だから、心に迷いの種を持っていたの……。そう、危うい均衡であることだけは……】
【……確かだったわ……】

ズキッ
手技を行うあたしの手が痛みだしてきた。
事の発端となった、こいつに怪しい動機すら覚える。……それは、人の子として仕方がなかった……。
(――ここで、この結紮の糸に電メスをワザと当てれば……!?)
そんな悪い子の考えを持ち始めてしまう。
あたしは心に迷いが出始め、どうするか、どうあるべきか焦巡(しょうじゅん)し兼ねていたわ。
チラッ
と気づけば、彼の結紮を見ていて。
「……? どうしたクレメンティーナ?」
「……いいえ」
「……」
あたしは、彼が見ている前で、ウソをつける自身もなく、ただ誠実に、心をロボットのようにし、言われた指示の内容に従うように……するしかなかった。
ただ今だけは……。
(医療用アンドロイドみたいになろう……うん……)
そう心に決めるしかなかったから……。

「自分の持ち物を奪った、ひったくり犯を、大学生が救うか……」

「!」
「!」
その声の主は、ドクターライセンであった。
彼は、清々しいほど、ニィと笑みを浮かべて、こう語りかける。
「学校内で、クレメンティーナさんの持ち株が上がるでしょうね!?」
「えっ……!?」
それは期待の声だった。
確かに、その話の筋が通れば、あたしは構内で人気者になる。
しかも、自分の持ち物を奪ったひったくり犯を。
「……」
この重傷者を救うという物語(ストーリー)になる。
それは躍進の一歩だった。
ニィ
だが、悪い笑みを浮かべるは、ドクターライセン。
(そうは、簡単にいきませんけどね……)
そう、そうは筋書き通りにはいかない。
こちらで調整調整して、クレメンティーナを陥れてハメる。
その甘い奸計は、誘発行為であり、甘い誘いなんだよ。
だが、そこへ異議を唱えるのが、なんとスプリング様だったりする
「……だが、今はまだ何も持たない一学生だ!」
「!」
「!」
「現場を預かる私の判断で、この事は私たち4人とナビたち4人のヒミツにしよう」
「……」
「……」
コクリ
と頷き得るドクターライセンに、あたし。
もっともだ。
そして、自然な話の流れになる。……そう、仕向けられたのだ。
(――これで、クレメンティーナが私たちに疑いの心を持つことはない。今日会った事は、出来得る限り、自然な流れになる……)
そう、この筋書きは、このドクタースプリングの掌の上にあった。
あたし達は、僕たちは、あくまでゲームの駒に過ぎない。

――そして、その様子を伺うのは、いくつかあるうちの1台の医療用アンドロイド。
そのアンドロイドは、直立不動姿勢で立っていた。
その電脳空間では、ドクターライセンのAIナビ:オーバを初め、スチーム、エキナセアがその光景を見守っていた。
『ああっ……『クリスティ』……ッ』
エキナセア(あたし)は、主人の本当の名前を言った。それは心配のあまり。
『……これで、あの娘(こ)もこちら側に落ちる……!!』

【イリヤマ・ケビンのAIナビ:スチーム】
ドクターイリヤマと同じく、髪の色を有し、ボディカラーは全体的に医師と同じ、白衣を基調としている。
本人になるべく似せているらしく、厳つい顔つきである。

『後は、僕たちが抱きかかえるわけですね? スチームさん!?」
『フフフフ』
その電脳空間には、リアルタイムの動画が録画保存されていた。


★彡
【――さあ、これで心臓と肺の吻合も終わり、残すは術中に残った肋骨の欠片を、すべて回収するのみになった】
【骨の欠片か……】
【ええ、微細な欠片を含めれば、その数……7つ】
【7……】
【そのまま、縫い閉じたらマズいからね】
【あら? 人工心肺装置を、離脱するのは?】
【それはやっちゃマズいわね……】
【えっ!?】
【実は、人工心肺装置には加圧試験というものがあって、万が一それで、出血が起きた場合……、……術野が血の海になるでしょ?」
【あ……】
【それが原因で、血流に乗って流されて、患者さんの体のどこに流れるか……そんな危険性もあるのよ】
【……1番マズイパターンは、それが原因で動脈が傷つけば、二次被害が出る危険もある……】
【なるほどね……】
【手抜きは一切できないわけか……】
【いったいどれぐらいの大きさなの?】
【そうねぇ……。大きいもので、5から10㎜程度。小さいもので1㎜未満ね】
【1……1ィ~~!?】
【そうよ、だから、どんな些細なものも見逃さない、診断がいるの】


ピッ
とその時、クレメンティーナとドクタースプリングが掛けているゴーグルに、電子情報のやり取りが行われた。
現存する、骨の欠片は7つだ。
『お役立てください』
とレムリアンからの進言があった。
コクリ
「……」
「……」
あたしとスプリング様は、お互いの顔を見合って、頷き合う。
(初めての手術、ここが正念場よ!!)
「(血管鉗子)『クラブ サテンスキー』!」
「(血管鉗子)『クレイフィッシュ フォガティ―ソフトジョウクランプ』!」
執刀医あたしは、これが欲しい、
第一所助手スプリングも、これが欲しいと、
機器出しを兼任する第二助手レムリアンに催促する。
それはまるで、合いの手のように手渡されていく。絶妙なコンビネーション。
手術が進む。
血管鉗子を選んだ理由としては、骨専用の鉗子はなく、代替品として起用したからよ。
(機器出しがいるといないとで、全然違う……!! これが命の現場……!!)
クラブ サテンスキーと、クレイフィッシュ フォガティーソフトジョウクランプは血管鉗子の1つ。
クラブはカニ、クレイフィッシュは北米ではザリガニと呼ばれているの。
ほら、挟むみたいでしょ?
医療器具の名前は、その進化先として、ハサミを持った実際の生き物の名前が、名づけになっていくのよ。
ほら、なんとなくイメージの定着がしやすいでしょ? フフッ
1欠片、2欠片、3欠片と取り去っていく。
ジワァ……
とその時、出血漏れを確認した。
それを間断なく、助手の位置に就くスプリングが、血液吸引機で吸い上げ。
「コロレーヌ」
「いや! ここはシルクフィブロイン8-0だ!!」
「シルク!?」
「ああ、拍動する臓器が相手ではない!!」
それは、心臓と肺には使えないが、他には使える見込みがある魔法の糸だった。
「この糸と針なら、ゆっくり解けて、患者さんの体に吸収されて、体の一部になる!!」
「まるで魔法の糸みたい」
「シルクフィブロイン8-0!」
レムリアンの手が伸びてきて、それが手渡される。
実は、この結紮の糸は、数値が大きくなるほど、細くなっていく。
意外とここを、混同しやすい人が多い。
勉強になったかな?
「シルクフィブロイン……」
あたしは声に出して、その名を覚えようとする。

【――凄いわ、そんな糸があるだなんて……】
【フフッ、そうね……!】
【実は、このシルクフィブロインは、バイオ改良の元、進化した蚕(かいこ)の糸から得られるの】
【バイオ医療の1つよ】
【それは、革新的なバイオ医療の1つ、遺伝子組み換えなどのバイオテクノロジーを活用した医療の事で】
【培養した細胞を移植する再生医療(リジェナレイティヴ メディスン)や】
【また、抗体医薬品という免疫細胞を使った医薬品などもあるのよ】
【そして、その革新的な医療技術は、既に多くの皆さんの命を救っているのをご存じかしら? クスッ】
【ああ、あれか……!】
【フフッ、そうねミノルさん、あれね】
【あれか……】
【あれ……!?】
【スバル君は、まだまだね……】
【ムスゥ……どうせ僕はまだまだ子供ですよ……】
【コラコラ、すねらないすねらない……】
【フフッ】

そう、今、遠い昔の時代で生きているあなた達を救ったのは、
このバイオ医療であり、新型コロナウィルスに感染した人から、その感染症の大元を取り出して、
そのDNAから、遺伝子情報の一部を転写して作られるmRNA(メッセンジャーRNA)。
つまり、mRNAとは、遺伝子組み換えの技術が使われたもので、それを人工的に精製したのがワクチンなのよね。
ここまでは、当然知ってるかしら?
そう、これから、あなた達の生きる世の中は、このmRNA医薬が未来を大きく変えていくことになるでしょうね。
これを、バイオ医薬品の一種と説くのよ。
よーく覚えておきなさい。
とと、あたしの話ね。
クレメンティーナ(あたし)の手術は続く。

【――途中までは順調だったわ……途中までは……ッ!!】

クレメンティーナの手技は、とても、まだ一学生とは思えないほど繊細だった。
私たちはその様子を認める。
4欠片、5欠片と取り除いていく。
「段々と見え辛くなってきたな……】
「ええ、まるで間違い探しゲームね……血の色と同化して、判別がヒドク難しいわ……」
「焦るなよクレメンティーナ」
「わかってるわよ。……間違ってリンパ管を掴んで、引き千切っちゃたら………………」
あたしの脳裏に不安がよぎる。
(リンパ管を切除したら、後遺症が残る……!!)
それは取り返しのつかない、医療ミスだ。
「………………」
緊張の一時が流れる。
「6つ目……」
あたしは6欠片めを取り除く。
「……」
その様を見て、一番、驚いたのはドクターライセンだった。
「アンビリバボー……」
それは驚倒ものだった……。
思わず、口元のマスクに手を当てる。
「ホントにこれが、人を始めて切る人の手ですか……!?」
僕は疑いを持った。
(ジェネラリストの素質……ッッ!! 素養……ッ!!)
それは上手く育て上げれば、何千人、何万人と救える医師の腕だった。
僕はこの時とばかりに、衝撃が受ける。
そこへスプリング様の御言葉が。
「クレメンティーナには、私と父の2人で、英才教育を施している……!! これぐらいできて当たり前だ!!」
「えっ……!? でもまだ、本校に入ってから数ヶ月ですよね!?」
「いやァ! 高校生の時から目をつけ、私が引き抜いた! 1年はとうに経過している」
「ウソ~~……!?」
これには僕も、今更とばかりに驚く。
「フッ」
先行投資だ。
「……」
クレメンティーナは、医師の卵だ。
しかも、金の卵だ。
そんな奴が、スタート時点から、もう既に技量を積んでいるのだ。
それは目に見えて、頭角を表すようになってくる。
「……」
未来の自分のために。
そして、あわよくば自分等の計画のために。
「……」
何も知らないクレメンティーナは、その手をもって、目の前の患者さんを救おうとしていた。
「本校の生徒達と一線を画すのは、そのたゆまぬ研鑽の日々だ!!」
「……!」
僕は驚き、クレメンティーナさんの手技を見ていた。


★彡
――そして、ようやく、この手術室にドクターイリヤマが遅れて入ってくる。
「!」
一同、その人物の登場に振り返る。
「……」
『……』
「……」
ドクタースプリングが、レムリアンが、あたしが。
「……」
『……』
ドクターライセンが、オーバが。
「……」
全員の注目を浴びるドクターイリヤマ。
その最初の第一声は。
「――そのバイクマンの身元が割れたぞ!」
その場から歩み寄ってくる。
「当時の状況証拠を突き詰めていけば、クレメンティーナ」
「……はい」
「そいつはひったくり犯だ」
「……」
「……」
歩み寄ってくる、遅れてやってきたこの場に、ツカツカと。
「……」
「……」
手術中のあたしと対面し、いかにも睨みつけるような視線だった。
「フンッ……驚かないんだな?」
「おおよそ予想はできてましたから」
「……代われ」
「ハア!?」
「引き継いでやると言ってるんだ!! そんな精神状態で、まともな手術なんてできるものか!!」
「……クッ」
あたしは、このクソ爺から視線を切り、目の前の患者さんの術部を見た。
やりかけの手術だ。
ここで引き揚げるなんてできない。医師の端くれとして……ッ。
「……」
「……」
「………………」
「………………」
沈黙が流れて。
何も言わない少女に、その講師はねめつけるように見て、こう言う。
「――何も言わないつもりか……!? それならこちらにも考えがあるんだからな!?」
「ッ」
『……!』
その時、レムリアンの声が上がる。それは機転を利かしたものだった。
『うわぁ……教師が生徒を虐めてるところ、初めて見たぁ!?』
「ッ!?」
『いいんですかぁ!? 毎度毎度、自分の趣味で、問題を起こすのが大好きな人』
「なっ!?」
『構内の噂になってますよ!
黙認はしていますが、講師たちはご存じなのですよ、ドクターイリヤマ!?
よろしいんですかぁー? 気に入らない生徒が現れる度に、問題行動を起こしていますよねー!?
自分に順々に懐くなら、コネと金の力で、不正を働いて、免許を取得しやすくしますが……。
そうでない生徒は、頻繁に落としてますよねー? ドクターイリヤマ~!?』
「ッ」
『知ってるんですよ、就職支援室の皆さんを初め、多くの講師たちは……。あなたそれで、気に入らない生徒のところにきた求人の話を、ご自身の判断で勝手に捨ててますよねー?
どうするんですか? いったい?』
「何の証拠がある!?」
『ハァ……またそうやって、調整調整して真実を隠蔽工作して、理想の虚実を持ち上げて、そちらを事実にすり替えるんですか?』
「……」
『金とコネの力を使って……』
「……」
『今ここで、大事なのは患者さんの命です!! あなたは自己心肺装置の維持管理に就いた方が、賢明だと推奨しますが!?』
「……」
バチバチ
と医療用アンドロイド:レムリアンが、ドクターイリヤマに物申した。
「こいつ……たかがアンドロイドの分際で」
「聞き捨てならないな」
「ハッ!」
しまった、俺はこの人に振り返る。
ムスッ
とするドクタースプリング。
「レムリアンは、私の古くからのAIナビだ。相棒といってもいい」
「しかし! スプリング様!? こいつは人間である俺を侮辱したんですよ!?」
「……ハァ。その点については私から謝ろう。済まないなドクターイリヤマ君」
「!?」
「おとなしく下がりなさい。なっ?」
それは上からの通告だった。
事を荒立てるな。
不意に嵐を持ち込めば、居場所をなくすぞという通告にも見えた。
「……クッ……!」
苦々しい……俺よりも青臭いクソガキが……ッ。
だが、ここで騒ぎを持ち出せば、分が悪いのは俺だろう。
ここはおとなしく引いてやる。
キッ
「!」
俺はこの女を見据えた。
こいつだ。こいつが関わった事で、私の人生に汚点がついたんだ。
覚悟しとけよ。
「……ッ、人口心肺技師に就きます」
「うむ!」
俺はそう言い残し、この場を退いていく。
その時、クレメンティーナたちがやり残しの術部をチラ見して。
(こいつ……いったいどこでそんな技術を……!?)
奇しくも、ドクターイリヤマ(俺)は、この場にいたドクターライセンが見聞きした出来事を知らない。
その為、クレメンティーナが如何にしてここまで上達したのかを知る術はない。
それを知ったのは、後になっての事だ。
「……」
俺は義憤が溜まったまま、人口心肺装置へ向かう。
その時、ドクターライセンが。
「では先生、僕に代わってお願いします!」
「ああ、わかった」
「僕は、動脈血ガス分析装置にも就きますので、麻酔科医として!」
僕は、動脈ガス分析装置へ向かう。
動脈ガス分析装置とは、肺が酸素を取り込んだり、二酸化炭素を排出する能力を調べ、呼吸器系のガス交換機能に異常がないかを調べる検査の事だ。
今の手術で重要だよ。
その検査では、動脈血中の酸素と二酸化炭素レベルを測定し、動脈血の酸性度(PH)を判定するんだ。
その動脈血ガス分析値の正常値は。
Pao2(動脈血酸素分圧)80~100Torr
Sao2(動脈血酸素飽和度)96+-2%
Paco2(動脈血二酸化炭素分圧)40+-5Torr
Hco3-(獣炭素イオン)24mEq/L)
PH(ペーハー、人体の血中は、中性から塩基よりで7.35~7.45の間)7.40+-0.05
BE(ベースエクセス、正常な二酸化炭素分圧を求める理論的な酸の量) 0+-2mEq/L
この血液ガスわかることは、1.酸素化、2.喚起、3.代謝(腎機能)、4.酸塩基平衛の4つだよ。
「……」
人口心肺技師に就くドクターイリヤマ(俺)は、ここからクレメンティーナ達の様子を見て、胸中穏やかではなかった。
(ホントにこいつは、まだ一学生か……!? こいつの結紮の手技は……! さっきまで観察していた電メスの当て方は……! もう同学年の誰よりも、頭1つ分飛び越えている……!!
……気に入らない……)
俺は奥歯を、ギリギリと噛み締めて。
「……」
チラッ
と医療用アンドロイド視点と監視カメラに注意を向ける。
(フンッ……まぁいい、これから起こる事に比べればな……胸がすく思いだ)
「……」
手術中のクレメンティーナを見て。
(こいつの人生を壊すことになるとはな……。……だが、悪く思うなよ……!?)


【――ようやく、ドクターイリヤマが入った事で、この手術中に4人の医師が揃ったの……!】
【そう、執刀を続けるクレメンティーナ(あたし)に】
【助手に就くドクタースプリング】
【様々な医療機器を取り扱い、兼麻酔科医としても就くドクターライセン】
【現場監督としても、その場で仁王立ちで立ちし、時々、あたし達の様子を伺うドクターイリヤマ】
ピッ……ピッ……ピッ……
【そう、パパと姉さんが見聞きした通り、その場には、医師(候補生も含め)4人しかいなかったの……】
【そう、たったこの4人しか……】
第二助手に就くレムリアンがサポートし、
三次元測定人口整骨整形製造プリンターにより、人口の肋骨生成に入っていたオーバから、声が上がる。


★彡
『――できました!』
『時間ピッタリです! お願いします!』
『はい!』
オーバの声に相槌を打つは、レムリアン。
早速オーバは、できあがったそれを運んでくる。
『どうぞ!』
とそれを機器出しの近くに置いた。
ドクタースプリングがそれを見て。
「よしっ! 中々の出来栄えだ!」
『……』
ほんわかな顔をするオーバ。
「クレメンティーナ!」
「はいっ!」
「すべての骨の欠片を取り除いた後、人口心肺装置を離脱する!」
「……はい!」
「その後で、できあがったこれを、患者さんの骨に取りつける!!」
コクリ
「……」
と頷き得る。
「その後、術部に何か見落としがないかよーく確認した後、結紮して縫い閉じる、その後、患者さんの容態を見て、手術終了となる」
「……はい」
「続行だ!」
その言葉を胸に、ゴールが見えたあたしは、まだ残っている肋骨の欠片を探す。
「………………」
「………………」
じっくり術野を見渡す。
時には臓器を持ち上げたりして見て。
血管鉗子で動脈や静脈を避けたりしながら、それを丹念に探すの。
(ないわね……どこにあるの……?)
その時、
ズキッ
「ッ」
急に傷みが酷くなってきた。
その病状の異変は、ドクタースプリングもレムリアンも知るところになった。
「!」『!』
「……」
あたしは痛みに我慢して耐え忍ぶ。
(我慢よ我慢……!!)
手術を続ける。
「……」『……』
その異変に2人は勘づいていた。
クレメンティーナ(彼女)の顔に玉のような汗が汗ばんでいたからだ。
だが、今ここで彼女が抜けるのは、惜しくなった……。
成長する我が子を、誰が邪魔したいだろうか。そんな不思議な心境だった……。

――そして、動脈ガス分析装置に就くドクターライセンと、
「!」
人口心肺装置に就くドクターイリヤマが、その異変に感づいていた。
「!」
それはモニター画面を通して、その手技の拙さが、繊細さを失われた手が、浮き彫りになっていた。
「………………」
あたしは残り1欠片を探して。
(速く速く、残り1欠片を……いったいどこにあるの――……!?)
それは、焦巡となって、手技の拙さが、繊細さを失われた手が表面化していた
それは異変であり、不調だった。
(手技が……)
(微妙に間が……)
(雑に広がってるな……)
ドクターライセンが、オーバが、ドクターイリヤマがそれに感づく。
ズキッ、ズキッ
と痛むあたしの手。
(いっ……痛い……)
でも、それでも、痛みに耐えかねて、進むしかない……ッ。

【――あたしの医師の腕は悲鳴を上げていたの。左手も右手も……】
【……それはそうだよね】
【……ええ】
【……】
【それはまるで、羽ばたく翼をやられたようだった……】
【――そう、翼をもがれた鳥のように――】

段々と手技が荒くなってきていたの……。
「……」
『……』
スプリングがレムリアンにアイコンタクトを飛ばし、それに頷く。
私が、クレメンティーナさんの手技を見たその時だった。
あっ……。
それは血管鉗子が、動脈に触れた時だった。
それは掠った程度の損傷だった。
ビュッ
「!」
『!』
と動脈が切れ、勢いよく血が噴き出した。
(そっそんな!? なぜ……!?)
あたしは慌てて、噴き出している方の動脈の根元を抑える。
それにより、幾分か噴き出していた鮮血の勢いが衰えていく。
すかさずレムリアンがバックアップに入り、血液吸引機で吸い上げていく。
「す、済みません!!」
あたしは済みませんと謝る。
「……」
もう恥ずかしくて顔も上げられない。
『……』
その時、レムリアンが。
『落ち着いてください』
「!」
顔を上げるあたし。
続けてレムリアンはこう言う。
『こういったミスは、世界中どの病院でも、稀に起きている事です』
「……」
私は、チラッとクレメンティーナさんが持っている血管鉗子を見て。
『おそらく、器具が動脈に触れた程度の、掠った程度の損傷だったのでしょう』
「……」
ここにあって医療用アンドロイドAIナビ:レムリアンは凄く落ち着いていた。
『これは動脈血と言って、色鮮やかな血の色です』
「……」
『大丈夫。まだ生き生きとしていますよ。ここからですよ。踏ん張りましょう』
「………………」
心中迷うあたし。そんなあたしは、
「うん……」
というしかなく、小さくな頷いたの。
そこへレムリアンの合いの手が伸びてきて、血管鉗子を持つあたしのかわりに、代わりの血管鉗子で予後的に抑える。
『血管鉗子は優しく持つんです。このように……。決して強くに握ってはいけません。弱く抑える程度でいいのです』
「……」
『ここから動脈血が流れて、自然な酸素の流れを取り入れるんです。……決して血管を痛めてはいけません』
レムリアンは、顔を上げてこう言う。
『血管吻合をお願いします! ドクタークレメンティーナ』
「……はい……」
(悔しい……)
あたしは悔しさを覚える。
自分が仕出かした不始末を、自分で行う。それはいい……。
この優しい言葉が、妙に心に突き刺さる。
パッパッ
血管吻合を行うあたしの結紮。
それを見たレムリアンが、なんとも心に残る言葉を吐いてきて。
『……悪くない……結紮ですよ……)
(悔しい……)

【――あの悔しさを覚えてる……】
【あたしは心の痛みと手の痛みを我慢したまま、決して上手いとは言えない結紮を心掛けるの】
【ひと針ひと針丁寧に、丹念に……】
パッパッ
【でも、普段のあたしと比べれば、それは術中においてよどみが起きていたの……】
「……」
【レムリアンも気づいていたわ。でも何も言わないの……】
【変に心に残るのよね……】
【――そう、あたしが理想とする、結紮ラインには遠く及ばずとも、日々の日夜研鑽している結紮すら及んでいなかったの……】
【傷の痛みもあるけど、心に問題が残っていたのね……】
【あの時あたしは、そう、実力の半分の力すら出せていなかったの……ッ】

(悔しい……こんなはずじゃあ……!! こんなハズッッッじゃあ――――!!!)

【あたしは心の中で、悲鳴を上げたの……】

キュッ

【――そして、結紮が終わる……】
「………………」
(酷い……)
【それは見た目が悪いとは言わずとも、だらしがない血管吻合だったの……】
『……』
「……」
【レムリアンも、そう彼も何も言わず、心に何とも言えないわだかまりを抱えていたわ……】
【そう、医師であれば、もう、医師免許(ドクターライセンス)剝奪ものよね……!?】
【? ……あのぅクリスティさんの医師免許って?】
【あぁ、そうね、日本とアメリカじゃ違うものね……いいわ】
【……意味は、まぁ大体似てるけど、あたしのドクターライセンスは……】
【『M.D.,Ph.D』というのよ!】
【『M.D.,Ph.D』……!?】
【ええ、『Ph.D』。通称Doctor Of Philosophy(ドクター オブ フィロソフィー)。直訳では哲学博士って言ってね。でも医学会では、キチンとした博士号でもあるの】
【そして、『MD』。通称Doctor Of medicine(ドクター オブ メディスン)。医学博士ね】
【その免許(ライセンス)効果は絶大で、ハーバード大学を初め、他校での教鞭、外科医・内科医・薬剤師等々、製薬・製造等も行えるの】
【スゴイ免許よ!】
【でもね……当時のあたしはまだまだ無免許で……ッ】

「………………」
この時、あたしはヒドク落ち込んでいたの。
その時、レムリアンが声をかけてきて。
『クレメンティーナさん!』
「!」
その声で顔を上げたの。
レムリアンは続けてこう言ったわ。
『肺の下にある横隔膜はよく探しましたか?』
「……ええ、あたしもそう思って、ここをよく探したわ。ここも震えるところだからね……」
『う~ん……外傷性の事故ですか……』
「!」
私は時として、この人たちに成長を促すために、ヒントを与える。
落ち込んでいるあなたを、立ち上がらせるためにも……。
『フッ……。事故の衝撃で、2欠片ほど同じ位置に飛んだ可能性もあります』
「2つ……同じ位置に……」
『ええ、センサーには反応しましたが、手術がここまで伸びたことで、その位置が微妙に移動した可能性があります……。
例えば、血液吸引機で吸い上げた時とか、臓器の裏側などに癒着したとかです』
「あっ!」
『……』
チラッ
と私は、今までに取り除いた6つの欠片を見て。
『今までのは大きさからして、1㎜以上です』
「……」
『まだ0.6㎜ほどの大きさの欠片が、未回収です』
「0.6……!!」
あたしを身を乗り出して、くまなく術野を見渡す。
「………………」
0.6㎜。それはとんでもなく細かい欠片だ。
この色鮮やかなピンク色の世界で、それを探すのは至難の業だ。
「……」
ここで呼気を吐いたドクタースプリングは仕方なく、助け舟(ヒント)を出すことにした。
「クレメンティーナ」
「!」
「迷うようなら、術中X線などを打診してもいい。……ちょうどそこにいるドクターイリヤマは、手が空いてるんだしな?」
ハッ
とこの言葉にあたしは、イリヤマを使うことにした。
「術中……」
『必要ありませんよ』
待ったをかけたのは、他でもないレムリアンだった。
『……お忘れですか? 誰が肋骨の欠片の場所を仮断定してたんですか?』
「あっ……」
「クスッ」
しまった感を覚えるあたしに。
思わず、クスリ笑いをしてしまうドクタースプリング。
「……」
あたしはこの人をジト~~と見るのだった。だ、騙されたぁ……。
だけど、そんなあたしの心情を知らないレムリアンは、平常運転で。
『再び、サーチングをかけます』
再び、それを探す。
『手術台の重み……患者さんの容態の変化……。
熱源の変動……血流等の流れ……。
血液吸引機などにより、生じた気流の変化……。
レントゲン、CT、MRI、PET等々……
X線に感知あり!
場所は肺底部です!!』
その詳細な情報が、あたし達が掛けてあるゴーグルを通して、電子情報でやり取りされる。
だけど、その場所が……。
「……ッ、背中の裏側まで回ちゃってる!? しかもこの位置は……!?」

【――あれは最悪だったわ……】
【あたしは知らず、そうとは気づかずに、吻合をして縫い閉じちゃってるから、背中の裏側、肺底部にある血管周辺に縫い合わせていたの……】
【どうやって取るの!?】
【なんてお粗末な……】
【……】
【切る訳にもいかないわよね……】

「――問題ない」
「えっ?」
「術野を傷つけない、
『ミミズ蠕動運動(ぜんどううんどう)血流カテーテル』Earthworm Peristalsis Blood Flow Cathete(アースアーム ペリスタルスィス ブラッドフロウ カテーテル)がある!!」
ドクタースプリングがそう唱えると、まるで阿吽の呼吸の如く、レムリアンがそれを手渡す。
その医療器具を受け取ったドクタースプリングは。
「すべての吻合を済ませているが、まだこの『救命士用体外循環小型人工心肺装置』からのところから、攻める事ができる――!!」


★彡
【――そう、謎のゴッドハンドが残してくれた】
【『救命士用体外循環小型人工心肺装置』を完全に離脱完了後、縫い閉じていた巾着袋を解き】
【その三尖弁の穴に、『ミミズ蠕動運動(ぜんどううんどう)血流カテーテル』を通したの】
【その執刀には、まだ未熟なあたしに代わって、ドクタースプリングが行ってくれたわ】
【彼は、ゴーグルに表示された電子情報を頼りに、曲がりくねったいくつもの血流の流れに乗って、ついにその1欠片がある血流の壁に辿り着いたの】

クイクイ
と私は、この医療器具をまるで手足のように動かし、ようやくここまで辿り着いた。
「――欠けを確認!! 血流の壁を破り、問題の1欠片を特殊共振動で破砕する!!」
カチッ
と私は入りのレバースイッチを上げた。
すると、術中の血流の壁を破り、共振の針が1欠片に接触し、特殊共振動を起こして、
その問題となっていた1欠片をバラバラにした。
あとは、
(引き抜く)
(引き抜く)
(引き抜く)
丁重に丹念に、バラバラの破片を1つも残らず、除去し。
「『スパイダーメディケアパッキング』をして、終了だ!」
ポチッ
と私がボタンを押すと、特殊な針が内部に収納されて、クモの糸が現れた。それで縫合を行っていく。
「………………」


【――クモの糸?】
【ええ、クモの糸は、再生医療に使われているの】
【クモの糸にはね。『フィブロイン』と『セリシン』という2種類のたんぱく質から構成されているの】
【特に、医療の世界で有用な働きをするのよ】
【……いったい何のクモが……?】
【! ……始まりのベースは、ジョロウグモだったそうよ】
【ジョロウグモ……!?】
【ええ】
【それなら日本にも……!?』
【あたしが見たバイオ医療の教本には、こう記されているわ】
【タンザニアに生息するジョロウグモの一種には、非常に強度の高い糸を吐き出す種類を突き止めた】
【その耐引き裂き性はナイロン以上で、弾力性はスチールの4倍以上、250度の高温の熱環境にも耐え、耐水性も備える】
【さらに抗菌作用もあるため、人体に用いる事が可能である】
【主に用いる箇所は、神経再生手術や難しい症例などに取り組むのが望ましい】
【その発見者は、ウィーンにあるMadUni Vienna(メディカル ヴィエナ)大学病院の形成外科学の教授である、Christine Radtke(クリスティーン ラトケ)氏である】
【神経の再生ができるの!?】
【ええ】
【そいつは凄いな……】
【フフッ……そうね。でももっと凄いのは、その人達の研究チームよ。もう200年前の過去の偉人だけどね……!】



「――終了だ!」
「……」
これにはあたしも、驚いていたわ。
いとも簡単に終わらせたからだ。
これにより、すべての肋骨の欠片も取り終えた。
――そして、また別角度では。
医療用アンドロイドAIナビ:レムリアンが、すべての肋骨形成を終えるところだった。
元からあった骨と人口肋骨を奇麗に繋ぎ合わせて、その下から特別な薬品を縫っていき、その上から特別な薬品のシートを張るのだった。
それは骨・カルシウム代謝薬の1種だった。
『――こちらも終了しました!』
(早やッ!?)
これには心なし、あたしも今更とばかりに、自身の未熟さを痛感せざるを得ない。
「速いな!」
『フフッ』
これにより、手術の順番が繰り上がった。
予定手術では、すべてを骨を取り除いた後、人口心肺装置を離脱し、その後、人口肋骨を取りつける手はずだった。
だが、予定手術時間や患者さんの容態を考え、レムリアンの判断で、すべての骨を取り除いている最中に、人口肋骨を取りつけたのだ。
これにより、患者さんの心臓の負担が減り、予定よりも軽くなった。
グッジョブ、レムリアンである。
「よーし! 術野を良く点検して、人口心肺装置を離脱しよう!」
「『はい!!』」
――術野を覗き込む。
「……」
『……』
「……」
スプリング(私)はよく心臓の様子を確認して、何か見落としているものがないか、じっくり見る。
レムリアン(私)も肺の状態をよく見て、何か見落としているものがないか、じっくり観察する。
そしてクレメンティーナ(あたし)も、自分が手掛けた心臓・肺・肝臓・血管などをよく確認して、自分の手技に何か誤りがないか確認を取ったわ。
「異変なし!」
「こっちも大丈夫です!」
この2人なら、大丈夫だろう。そもそも経験値が違う。
卓越した医師の腕が裏付けした自信だ。
でもあたしは違う。
「………………」
胸中に不安を覚える。
頬に汗が伝うのは、痛みだけではなく、不安や恐れからだ。
その時、ドクターイリヤマの声が上がる。
「おいっ! 何やってんだクレメンティーナ!!」
「!」
「ここは他と比べて速いんだ!! いつまでも学生気分でいるんじゃないぞ!! 実戦だからな!!」
(……ッ、実践……!!)
そう、あたしは、そうドクターイリヤマに諭され、患者さんの容態を見る。
「シュー―ッ……シュー―ッ」
「かけられているのは、そいつの命だ!! 速く急げ!! 時間がかかるだけ、人口心肺装置を離脱するとき、患者さんの心臓の負担も大きいんだぞ!!」
「……」
黙るあたし。
正直言って、やっぱりこの人は。
(やっぱり嫌いだわ……こいつ……)
あたしはこの位置から、この人を睨みつける。
その視線に感づいた俺は。
「フンッ……筆記はいいが、やっぱりこいつには技能は向いてないな」
そう、視線と言葉を飛ばした相手は、ドクターライセンだった。
僕はこう答える。
「まだ机にかじりついている子ですよ……」
「フンッ、俺が見てる感じ、生徒全員でスタートしたら、だいたいわかるようなものだ。筆記に向いているやつか、それとも技能向きがかなぁ……」
そう言葉を零すドクターイリヤマ。
「……」
『……』
「……」
ドクタースプリング、レムリアン、クレメンティーナが聞き耳を立てて、その言葉を聞く。
「だいたい仕事ができる奴は、動きながら考えるものだ。
そうでない奴は、ほら、あーゆう感じに止まるんだ。それは自分が何をしたいのかわかっていないからだ。
講師(俺)の話をよく聞かないから、そうなるんだ。
こう言った奴等は、現場では使えないんだよ」
「さすがに言い過ぎですよ……良くやってる方じゃないですか?」
「フンッ、俺の若い時と比べたら、全然だな!!」
「……」
この言葉にドクターライセン(僕)は、マスク中で呼気を吐くのだった。
「………………」
それでもってあたしは、怒りを禁じ得ず、自分は誠心誠意で取り組んでいるのに、まるで横から知ったかぶりで、バカにされた感じだったわ。
そこへ顔を上げたドクタースプリングが。
「人には長所短所がある!」
「!」
「確かに仕事が速い奴は優秀だが……そんな奴に限って、慣れた頃にアラが目立つものだ」
「スプリング……」
「私も、医師の家系だが……とりわけ上手い方ではない」
「……」
その言葉に、ドクターイリヤマが、ドクターライセンが耳を傾ける。
「この手にかかっているのは、患者さんの命だ。
その患者さん1人1人によって、症例が違う。
その度(たんび)に、その症例に適した術式が必要なんだ。
その医学知識は広く深い……。
医学知識の海だ。自分の手技が、その症例に当たった時、これでいいのかこれでいいのかとよく自問自答したものだ……」
私はクレメンティーナの顔を見て。
「メリハリのある医師の道を進むか。
それとも患者さんの身の安全を第一に考え、ご家族の元に送り届ける医師になるか……。
早いか遅いかの違いだが……。
少なくとも私はそうは思わない。
続けられる、自分の足で、その道を歩みなさい」
「……はい」
あたしはほんわかな微笑みを浮かべる。
「医師は甘いぐらいがいい。それが人の命を救う手だ」
「……」

【――その言葉を聞いて、あたしの心に何かがストンと落ちたの……】
【そして、レムリアンが……】
【『仕事のプロフェッショナル精神で挑めば、いつかはそのつぼみも、花開きますよ』――と】
「……ええ」
ニコリ
とあたしは微笑みを返すのだった。
そして――
「――血管からの血液漏れはありません!!」
あたしはそうハッキリ言い、ドクタースプリングの顔を見て。
コクリ
「……」
と私は頷き得て。
「……ホントに血液漏れはないな?」
「……はい!」
言い切った。
「よしっ! 後は、稼働中の人工心肺装置から、試験的に加圧試験を行い、確認を取る必要がある!」
コクリ
「……」
「……」
とドクターライセンが、ドクターイリヤマが頷き合う。
あたしはこの時、心の中で。
(上手くいってよ……お願いだから……。
この人口心肺装置離脱時に、患者さんの生命存続ラインが正常に保たれているかどうか……。……この人の全力疾走時の心肺機能に耐えきれるか……)
「………………」
あたしは、この時、一抹の不安を覚えてしまう。
やっぱり初めての難手術という事もあって、不安でいっぱいで、圧し潰されそうになっていたわ。


★彡
「……よしッ! 試しにドクターイリヤマ! 加圧試験を……!!」
「はい……!」
「ドクターライセンは、もしものために備えてくれ!」
「わかりました!」
ドクタースプリングは、そう指示を飛ばした。
仁王立ちで現場監督を行っていたドクターイリヤマは、人口心肺装置へ向かって歩みを進める。
そこで、万が一のためにドクターライセンが、いつでもバックアップを取れるよう、準備を行う。
「……」
「……」
その時、麻酔科医のドクターたライセンが、薬の調整を行いつつ、ドクターイリヤマにアイコンタクトで指示を送る。
それを受け取ったドクターイリヤマが、気づかれないよう、小さく頷き得る。
(あぁ、わかってるよ……!)
そのまま、人工心肺装置の前に立ち、圧力計に由来する圧力計数を、上昇させる。
それも必要以上に加圧気味だった……。
もちろんそれは、現場の医師であれば、絶対に行ってはならない重大な規約違反である。
(悪く思うなよッ!!!)
そして、その最悪が訪れる――
パッパッパッパンッ
ブシャ――ッ
「キャアアアアア!!!?」
(そっそんな……ッ!? こっこんなはずじゃあ~!?)
あたしは今更とばかりに後悔を覚える。
それは、ドクターイリヤマ達が仕組んだ共謀罪だった。
その現場の様子を認めるように、医療用アンドロイドと監視カメラが動いていた。


☆彡
――クリスティの回想シーンから戻り、現在。
「――やはりお前のせいじゃないかァアアアアア!!!」
ドンッ
とダイアンさんは怒り、そのテーブルを強く叩いた。
ビクッ
とする一同。
その場に訪れるのは、重い静寂……。
「……」
「……」
「……」
スバル、恵ミノル、恵アヤネさん。
「……」
「……」
お怒りの父ダイアンに、長女ルビーアラ。
「………………」
【――沈黙するクリスティ……。その胸中に由来するはいったい……――】


TO BE CONTINUD……


☆彡
おまけ
「さーて今回は特別に、実際に医療の現場で使われているメスについて、説明するわよ!」
「ただし! 200年後の世界の話だがな!」
「メスの種類はね。『普通のメス』『機械式のメス』『電気メス』『超音波メス』そして、『レーザーメス』の大別して5種類に分類されるのよ!」
・普通のメス
・機械式のメス
・電気メス
・超音波メス
・レーザーメス
「今回はその中から、交通外傷という事もあり、早期の止血・凝固を早めるため、電気メスを選択(チョイス)したんだから!」
「一般の患者(クランケ)の場合は、主に超音波メスを用いている! 早期退院治療ができるように、我々としても、心掛けているんだ!」

・普通のメス
NO.1『シックルメス』
少し近未来先のメス。
デザイン性に近いのは、切りつけ包丁とカマキリの刃だろう。
切りつけ包丁は、西日本の文化包丁であり、ウナギ裂き包丁の斜め逆カットバージョンだ。これが後に、形を変えて三徳包丁になっていく。
一番の利点は、切っ先が鋭く、繊細な飾り切りをするのに打ってつけなところだ。
カマキリの刃は、刃の先が特徴的な丸いカーブのデザインを描いたもので、
刃が入りやすい。
持ち手のグリップは、滑りにくい仕様のものとなっている。
刃の特徴は、
3枚合わせのステンレスクラッド複合材ではなく、
地金を異なる刃物の二枚広げにして、その上から軟鉄ステンレス複合材でクラッドしている……4枚合わせのものだ!
しかも……!!
心材はなく、異なる鋼の層が幾重にも折り重なり、そう、まるでコアレスダマスカス鋼のようになっている。
心材がない事から、コアレス鋼という。
それにより、本来なら火造り鍛造の際、特殊合金刃物鋼にプレス機を打ち下ろした時、
炭素含有量が打ちつけられる度に、不純物として抜け落ちていくが……。
この仕様変更により、強力に、高い炭素含有量で保持しつつ、切れ味、長き切れ、靭性、錆びにくさ等を高めている!

・機械式のメス
NO.2『マルチメス』
術者のゴーグルと連動し、電子情報のやり取りを行いつつ、適時、適切な部位の切開を目的としている。
術者が患者さんの術部に当てがって、軽いボタン操作1発で、対称の部位を1発で切り裂くことができる。
その時、甲高い音が鳴るのが、最大の特徴である。
誰でもお手軽に、楽に素早く、切開できるのが最大の持ち味である。

・電気メス
レベル順に、パルフォロン、パルフォート、パルフォルグ、パルフォシスの4段階。

NO.3『イオンプラズマ パルフォロン マンチスツー モノポーラ』
電気メスには、大きく分けて2種類ある。
その名を、モノポーラとバイポーラといい。
主にモノポーラは組織の切開・剥離に、バイポーラは止血・凝固に利用されている。
モノポーラは、
組織の切開を目的に利用されている。
メスの先から反対側に置かれた対極板まで、生体に電流を流して切開する方法が挙げられる。
この時、電流は体内に流れても、メスの先だけが熱を持つというもので、焼いて固めることができる。
これにより、出血が少なくて済みのだ。
そして、未来進化系のマンチスツー モノポーラは、
その名前の由来は、カマキリの腕刃からきていて、その鋭利な刃先で、対称を切り裂きつつ、剥離を進め、適度に焼いて、虚血を少なくすることができる。
なお、救急医療で、取り急ぎ術部を切り開いていくのを、目的としているため、
止血・凝固するのには適さない。
第一助手、第二助手の方で、適時、止血・凝固ができる電気メスが求められる場合もある。
別名、タイムアタックの電気メス。

NO.4『アルゴンガスプラズマ パルフォート モノポーラ』
アルゴンガスプラズマ パルフォロン モノポーラのモデルは、
アルゴンプラズマ凝固装置APC2である。
その医療機器の特徴は、非接触式で広い面を浅く凝固できることにある。
一番の特徴は、広範囲の出血を、素早く浅く焼灼(しょうしゃく)することにより、止血が可能となっている事だ。
実際の医療の現場では、術部の違いや、術式の違いにより、上手く現場の医師が使い分けているのだ。
救急性:大
面積:大
優先度:大
主に早期治療に使われる、その為、優先度は比較的高い。

NO.5『キリカンアルザ パルフォルグ バイポーラ』
キリカンアルザ パルフォート バイポーラのモデルは、
キリカン電気メス alsa ADC 160 PULSE(アルザ)である。
その医療機器の特徴は、高周波電流をパルス状(断続的)に出力されることで、組織に対する不要な効果を低減する新技術「パルスモード」搭載していた事だ。
この特徴的な出力波形により、繊細な出力効果を実現し、有害とされる組織炭化や煙の発生を最小化に実現している。
救急性:小
面積:小
優先度:中
主に難しい症例に使われる。その為、優先度は比較的中ぐらいで、神経やリンパ管を避けて、手術進める事ができる。
心臓・脳外科の世界で、強そうだ。

NO.6『ブラッドレイ パルフォシス シャークバイス バイポーラ』
電気メスには、大きく分けて2種類ある。
その名を、モノポーラとバイポーラといい。
主にモノポーラは組織の切開・剥離に、バイポーラは止血・凝固に利用されている。
バイポーラは、
組織の凝固(止血)を目的に利用されている。
先端がまるでピンセットのようになっており、一方の先からもう一方の先へと電流を流すことで、病巣をつまんだ時、その間、止血・凝固できる優れモノなのだ。
そして、未来進化系のブラッドレイ パルフォシス シャークバイス バイポーラは、
掴んだ対象に、特殊な光と波長の周波数帯を当てて、組織表面にまるで外傷性はなく、止血・凝固ができる。
その名前の由来は、サメの歯とバイスプライヤーからきていて、より強く嚙んで、対称を保持しつつ、
外傷性もなく、その対象物の臓器内部、そう、誤った箇所に流れている虚血を、塞き止め、
早期に止血・凝固できる優れモノなのだ。
ただし、仕様に当たっては、脳や心臓などの臓器の内側で出血が見られた場合に限り、その使用が認可される。
内部焼結ができる優れモノなのだ。
救急性:極小
面積:臓器内部に作用
優先度:極小
主に心臓や脳外などの難しい症例に使われている。その為、優先度は限りなく低く、また、特殊な光や周波数帯である事から、神経やリンパ管を避けて、安全に手術ができるよう心掛けている。
心臓・脳外の世界で、最も心強い存在だ。
別名:最終仕上げの電気メス。

「――だいたいこんなところだな!」
「そうね!」
「だが、実際の医療の現場では、メスよりも、クーパーなどの器具の種類が多く、また針や糸となってくれば、その数は所狭しと多い」
「だから、機器出しの人の技量が高く買われるのよね」
「ああ、私たちの手術を陰ながら支えている、縁の下の力持ち的な存在なんだ」
「そうよね。また臨床工学技士や麻酔科医といったエキスパートの人たちの力を借りながら、あたし達は日夜、人々を救っているのよ」
『『またね~~!!』』
とエキナセアとレムリアンがしゃしゃり出てきて、クレメンティーナとスプリングが「「あっ……!?」」と声を漏らすのだった。


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