第3章の第52話 語られる怨魔の試練! 怨魔の産声
【スバルの精神世界 調理場】
モグモグ、モグモグ
と魔法の先生と師匠が、スバルの手作りパンを食べていた。
「マズイ……練りがあまいわ」
「もう一度作り直せスバル」
「グッ……!」
不評を買うスバル君。
スバル君の手作りパンは、美味しくなかった……。
その後、いくつも作り直し、パンをかじっただけの山が増えていく……。増えていく、増えていく、増えていく。
とここで、魔法の先生が厳しく一言。
「原材料の無駄遣いよ! あなた考えて作ってるの!? ねえっ!?」
「……」
説教する先生に、頷き得る師匠。
これにはスバルも。
「グッ……」
「原材料を練って、こねて、焼き上げたものがパンよ! ……あなた、やる気があるの?」
「何でそれが魔法になるの……?」
ブツブツ
と呟くスバル。
「ハァ……。出来の悪い……」
魔法の先生も、これには溜め息をつかんばかりだ。
予想の斜め下に、スバルが作るものは不出来だった……。
「いーいスバル君!」
「!」
「魔法は世界なのよ!」
「世界……? なんか大げさじゃない?」
「その程度の認識なら、小さい炎で十分!」
「……」
とここで師匠が。
「あいつに勝ちたいなら、その認識を改めろスバル!!」
「……」
「認識を改めない限り、お前は一生、魔法を使えない……」
「………………」
☆彡
【スバルの精神世界 修行場】
スバル(僕)は座禅を組んで、魔法というものを学習しようとしていた。
「………………」
その目を開けるスバル。
「まるで感じない……」
そう呟くスバル。
感じ取るのは『無』だった……。
「それはお前が未熟だからだ」
「……」
師匠がそう述べ、頷き得る先生。
「……ホントに魔力開発できたの? まるで感じないんだけど?」
「それはあなたの目が、開いてないからよ」
「? 目が開く……?」
「……時間がないな」
「……」
コクリ
と頷き得る先生。
師匠が一言。
「スバル! ……立て!」
「? ……あっ」
師匠が剣を投げてよこす。
僕はそれを受け取って、師の言葉が語られる。
「お前に足りないのは、死に対する恐怖だ! そこから学び取らないといけない」
「死に対する恐怖……!?」
「俺は父からこう教わった……!
……。
『死に対する恐怖を乗り答えた時、そこに答えがある』……と!」
「死に対する恐怖を乗り答えた時……?」
「その答えは……――お前自身で見つけ出すんだ」
鞘から刀剣を引き抜いて――構える師匠。
「抜け」
スバルは、鞘に収まった剣に手をかける。
「恨むなら、自分に対する甘さを怨め」
「――!」
――一瞬だった。
ガシィン
まだこっちが抜いてもいないのに、いきなり師匠が切りかかってきたんだ。
そこで僕は、鞘から剣をわずかに引き抜いた状態で、それを受け止めるしかなかった。
ギギギッ
師の剣が、僕の手に持った鞘を叩き割ろうとしていて、圧し込んでいた。
「なっ!?」
「これからお前を殺す!!!」
「!? ハ――ッ!?」
そこからは一方的だった。
怨
「!?」
湧き上がる怨魔の気炎。
「『怨魔轟臨』!!!」
圧し込まれる――ッッ。
その技は、あの時、師匠と先生が夫婦喧嘩した時に見せたものだった。
ドォオオオオオオン
ちり芥と化す。
【――勝負は一撃で決まった……】
【僕はなすすべもなく、この身を失った……】
【だけど、僕の意識はそこにあって、再び、肉体が回生される】
【その理由と洞察は、ここが僕の精神世界だからだ】
「………………」
「――」
待つ師匠と、復活していくスバルの肉体。
だが――
【――時間をかけて肉体回生させるも、その後再び、肉体を回生させられる、それが幾たびも幾たびも……】
ドォオオオオオン
【僕は師匠の手にかかって、殺される】
【それは永遠と繰り返されて、僕の気力を削いでいった――……】
【精神力を大きく削られて、意識がもうろうとした時――】
「ッ……あぁ……うっ……」
僕は立ち上がれないでいた……。
「これよりお前に、怨魔の試練を与える……!!」
「うっ……ううっ……んんっ……」
厳しい師匠に。
冷たい石畳の上で倒れている僕。
――その後、僕は師匠に首根っこを捕まられて、どこかに連れていかれる。
ズズッ、ズズッ
「は、離せ~~……」
「……」
何も答えない師匠。
「……」
その後ろから何も言わず先生が付いてくる。
☆彡
【怨魔の試練場】
カツン……カツン……
石造り床を歩く度に、そんな音が聞こえる。
(どこまで連れていかれるんだ……?)
沈黙の間が流れる――
【――その時、この身に感じたのは、悪寒と冷ややかな心の穴だ】
【穴だ】
【僕の背中、後ろの部屋から、悪寒を感じる。心を蝕むような……】
師匠は僕を肩に担いでいて、ちょうど、僕の背中が部屋に向いている感じだ。
そのまま何も言わずに、放り捨てる……。
(え――――――…………)
落ちていく、落ちていく、落ちていくこの身が。
向こうに見えるのは師匠と先生の顔で、石造りの部屋を照らす松明の灯だ。
それが段々と遠ざかっていき……。
僕の背中は、何かの生き物の上に落ちた。
ドシャ……
「シャ――ッ」
「うわぁあああああ!!!」
【蛇だ、数多の蛇だ。真っ暗闇の中、僕の知覚がそれを感じ取る】
【ゾゾゾッ、と蠢いて気持ち悪い】
「し、師匠何をッ!? ムグッ」
僕の口を、蛇の尾が巻き付き、数多の蛇が喰らいついていく。
声を上げられない僕は、苦しみの声を上げる。
「~~~~~~!!! ~~~~~~!!!」
涙、涙の涙目を開けるスバル(僕)、叫ぼうとするも声なんて出せない。
そんな酷過ぎるよッッ。
「乗り越えろスバル、時間がない!!! この試練を乗り越えた時――、お前は魔力と怨魔の力を同時に手にしている!!!」
「~~~~~~!!!」
「退け! 閉めるぞ……!」
【そうして、この部屋、唯一の出入り口が音を立てて閉じられていく……】
ゴゴゴゴゴ……ドンッ
【そして、辺り一帯に訪れるのは、冷たい闇の静寂……――】
僕は、蛇の尾を掴んで、口元から離し、恫喝を上げる。
「クソ野郎ォオオオオオ!!!」
――閉まった石扉の向こうで。
「――行くぞ!」
「……いいの?」
「ああ」
歩み出す師匠。
「……古き代から、こうして俺達は乗り越えてきた……」
カツンカツン
「……」
カツンカツン
先生の前を師匠が通り過ぎていき、
その時、先生は目線を負うように、師匠に向けていた。
「フッ……」
と笑みを浮かべる。
「怨魔の習得は、闇の中から蠢きを上げて生まれる……!! 茶でも飲んでいるぞ」
「トコトンまで、追い詰めるわけね?」
「ああ、絶望の中から、新たな怨魔が生まれる。……怨むなら、俺を怨め……、……スバル……!!」
――深淵より深い奈落の闇の中。
ガブッ、ガブッ、カブッ
と数多の蛇が少年に食らいついていく。
「ギャアアアアア!!!」
ゾゾゾゾゾ
と数多の蛇が蠢いて。
(クッ、いったいここには何10類の生き物がいるんだ!?)
眼なんて見えない。
今頼りになるには、第六感だけだ。
僕の知覚が感じ取ったのは、蛇だけじゃないッッ。
キキキキキッ
蝙蝠が。
ヴヴヴヴヴ
ハチが
ヒュ―ン、ヒュ―ン
死体に群がる、腐った骨肉に群がるハエが白アリが。
ゾゾゾゾゾ
数多の蛇が。
クモの巣を張るクモが。
ムカデが。
ゴキブリが。
フンコロガシ(スカラベ)が。
数多のアリが。
死体に群がる死出虫が、ウジ虫が、卵を植えつけていた。
害虫という害虫が、この部屋一帯に充満していた。
なんておぞましいんだ。
「クッ、クッ、クッ……! こんなところで死んでたまるか――ッ!!!」
僕は、蛇や虫をかき分けて進むが。
次々と群がられて、ガブッガブッと噛みつかれていく。
これには僕もたまらず。
「いっギャアアアアア!!!」
と叫びながら、前のめりに、バタッと倒れる。
「く、くせぇ……何なんだここは……!?」
その時、手が何かに触れて、スパッと切れた。
「痛て!?」
傷みで目を瞑るスバル。その目を開けて、僕の知覚がそれを拾う。
「こっこれは……!!」
それは錆びた剣だった。
倒れ伏した僕は起き上がり、立って、それを引き抜くと……。
「!?」
生前の持ち主の手が、一緒についてきた。
ウエッ。
「……この気配の形って……もしかしかして……」
ここは真っ暗闇で、眼なんて見えない……ッッ。
感じ取れるのは、音、臭い、肌触りぐらいだ。
カタカタ
「ほ、骨~~~~~~!!! うわぁあああああ!!!」
ズゾゾゾゾゾっ
ガブガブガブ
「い・イヤダァアアアアア!!!」
【怨魔の試練は、過酷を極めた……】
【それは過去に、実際にこの試練に挑み、命を落としていった数多の挑戦者たちの成れの果てだ……】
【ここを出る方法はただ1つ……】
【魔力の発現と怨魔の力の産声をあげて、外に出る以外に、他にない――】
☆彡
ソファーに腰かけているスバルは、その当時の話をアユミちゃんに話すと。
「……」
「……」
メチャクチャ嫌そうな顔をして、思い切り引いていた。
「……マジ……?!」
「……」
「とんでもない、師匠ね……」
「先生も大概だけど、本気で怒らせたら、1番怖いのは……、……師匠だ」
この時僕は、ブルリ、と打ち震えた。
「……」
「先生はたまにあーやって、僕相手にストレスを発散しているけど……ストレスが過大に溜まったら……師匠の右に出る人は……、……いない……」
「……」
「……」
押し黙るアユミちゃんと。
あの当時を思い出して、苦い顔を浮かべるスバル。少年は俯いてて、あの当時の恐怖を思い出しているようだ。
「ホントに、この世に地獄というものがあるなら、あれこそがまさに地獄だ……」
「……その師匠は何のために……そんなバカげた試練を課したの?」
「……」
「……目的は……?」
「………………」
☆彡
【ここに閉じ込められてから、44分が経過していた――】
バキィン
非情な宣告を告げるかのように、錆びた剣が折れた。
スバルは単身戦い続けていたが、訪れるのは無情。
場に群がるは、数多の蛇の死骸。
そして、スバルの手によって壊された数多の亡骸だ。
ヒュンヒュンと折れた刀身が回転しながら、ガシ――ンと骸に突き刺さる。
突き刺さったのは、骸骨の頭だ。
【――絶望と恐怖の最中、僕は、とうとう最後の武器にまで見放された……】
スバルが手に取った武器は、それだけじゃなく、錆びた槍や錆びた大剣やら、錆びた斧がそこかしこに転がっていた。
いずれの武器もとうに壊れている。
一番最初に手に取った錆びた剣には、蛇が突き刺さっており、まだ元気に生きていて、活動しまくっていた。
チョロチョロ舌を伸ばすあたりなんか、まるで恐怖をそそるようだ。
「シャー―ッ」
飛びかかる数多の蛇。
「あああああ」
体に巻き付かれた僕は、その蛇を振り払う。
「!」
僕の目線の先は、あの闇夜の中へ向けられる。そこから僕は、「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」と無様に息を上げながら走る。
【――僕はそこから逃げ出したいと思った】
【まったく光が見えない、闇夜の中駆け出し】
【数多の蛇と害虫という害虫に群がられて】
【たった1つの助けを求めて、ひた走っていた】
【……今でも覚えている】
【乱れる呼吸と精神、動悸と息切れ、ここに落ちてから僕は……】
「クッ」
走るスバル。
その途中、クモの巣にかかるが手で振り払う。
ガブッガブッ
「シャ――」
痛い、痛い、痛い……ッ。
でも、構うもんか、生き残るためには……ッ
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
辿り着いた先は、この部屋の壁だった。
ドンッ
と叩いて、外の人に報せる。
「出して出して!!! ここから出して!!!」
ドンッ、ドンッ、ドンッ、ドンッ
「ねえ、お願いッッ!!! お願い……だよぉ……ッックックッ」
ヴヴヴヴヴ
「ハッ!?」
数多のハチに刺される。
「あああああ!!!」
少年は、激痛のあまり慟哭を上げながら、足を折って、崩れ落ちていく。
(痛い痛い、立ち上がれない……ッッ!!!)
群がる蛇、害虫たち。
「クッ……」
ぬちゃ……
とその時、僕は、腐敗した血肉に触れる。
「ウプッ……おげえええええ」
僕は思い切り、吐瀉物を吐いた。
キキキキキッ
蝙蝠が群がり、スバルを犯していく。
「あぁ……死ぬ……僕はここで……し……死ぬ……」
【――気が狂いそうになっていた………――】
☆彡
「……」
「……」
「信じられない……」
「今でもよく覚えているよ。あれはもう、修行じゃない……」
「……」
「虐めでもない……」
「……」
「精神を墜とす、奈落の闇への手招きだ……」
「……」
「……」
「どうやって魔力を……?」
「……意識が離れた時、見えたのは闇の中の光だった………………」
☆彡
【――修行開始から、4時間44分】
【抵抗の意思の消えた僕は、……生き物としての生が終わり、死というものを体感していた……】
ヌチャヌチャ、ブチッブチッ、バリボリ
【耳も失い、聴覚はまったく感じず】
……
【無音の世界だった】
……
【鼻も麻痺していたのか、臭いもまったく感じず】
……
【肌もないのか、触覚も感じない、痛みがない】
……
【………………】
……
【目なんて最初から見えないから、そこにあったのは、僕という、意思の概念だけだった……】
……
スバルの目は虚ろで、目が濁り、まるで光を宿していない……。
【永遠なる虚無……】
……
【死もない、生もない】
……
【何もない、無の概念だ】
……
【あるのはただ1つ、僕という意思の概念だけ】
……
【そんな時見えたのが、小さくか細い、光の粉……マナの粒子だった】
光だ。
小さな光の周りに、ベールみたいな光が見える。
【……僕の肉体は死に、意識だけが切り離された】
「!?」
「……」
「……」
「……」
【――マナの粒子は、少年を待っていた】
【この域に辿り着くまで】
【少年はようやく、生と死の概念を、この身をもって知り、その循環たる世界に、触れたのだ】
【それは、『禁忌への扉』だ】
【少年の目指す先は、地球の復興であり、その魂のシコウの在り方は、『禁欲』であり、『真理の探究』なのだから――】
「君は……」
「……」
「いや、君達は……」
それは1つに見えるが、決して1つではない。
「……そうか……。……そーゆう事か……。……これが……、……心なんだ………………」
【生と死の循環】
【考えてみれば道理だ】
【すべての生き物は、一固体では生きられない。複数の個体があって、生と死の循環を繰り返し、その食物連鎖の中で、僕達が生き、僕達という意思の概念が生まれる】
【心というのは、1人では生まれず、別個体があって、初めて生じるのだ】
【それは生命に限らない。世界が、風景が、思い出があって、初めて心と認識できるんだ】
【心という、概念に触れた僕は……こう悟る――】
「心とは、1つじゃ生まれないんだね……」
とほくそ笑む。
「……」
【マナの粒子は答えてくれる。すべての在り方を】
【心を通じて】
【僕は僕であり、世界は世界、世界の在り方の中に、僕がいて】
【僕がいる事で、世界という概念を知り、それに触れる事ができる】
【概念とは理解であり、それを知ることによって、始めて、無から有となり】
【有は無であり、それを繰り返す、命の連鎖であり、この世界の真理だ】
「知りたい……、……教えてくれる?」
「……」
「僕は知りたいんだ。君の事を。君達の事を、この世界を、この世界の在り方を……」
「……」
「僕は、知りたい……! この世界が、僕が続く限り――」
【世界の概念に触れるとは、知るとは、そーゆう事だ】
【そこに自分という個がいて、初めて認識できるのだから】
【僕は、初めて、その概念に触れたんだ】
【そう、その名を――】
【――】
【収縮していた世界が、宇宙が一転し、極小サイズの宇宙から、加速膨張していく――】
その瞬間、
暗闇の世界から一転し、光の大爆発が起こり――宇宙空間が垣間見えた。
そんな気がした。
☆彡
光が爆ぜる。
不思議な空間だった。
音が鳴っている、結晶みたいなものが、色々な光彩を放っている。
「ここは……」
『ここは『始まりの間』よ』
それは女の人の声だった。
「!」
『……』
「……あなたは……」
姿は見えない。
それは、認識すらできない、高次元の存在だった。
『循環を経て、世界の概念に触れて、ここまできた……。――そう――あなたは、あれを持ってるものね』
「……」
『来るべきは時は近い。あたしの任も、ようやく終わる……』
「……」
『あなた達を待っているわ。いつまでも……』
「……」
『だからその時まで、お休み…………』
「………………」
☆彡
師匠と先生たちは、お茶を嗜んでいた。
「「……」」
そんなある時。
ドォオオオオオオオオオオン
「「!!!?」」
大爆発が起こり。
急いで顔を向ける。
「まさか!?」
頷き得る師匠と先生。
走る、走る、走る。
石伝いの通路は、煙で充満していた。
黒煙で、まるで先が見通せない中、口元を塞いで急いで走る。
辿り着いた先は――
熱した通路。
唯一の出入り口から黒煙が上がっている様だ。
「!?」
何かを感じ取る。
「この気配は……!?」
「あいつ、まさか……!?」
先生、師匠と述べあい。
頷き得た師匠と先生は、その黒煙の中に身を投じる。
落ちていく、落ちていく、落ちていく。
黒煙の中に身を落としていくと――その様が変わる。
「「――!?」」
「これって……!?」
「ああ、混沌だ……!!」
落ちていく、落ちていく、落ちていく、自ら光る魔力ガスの中へ――
スタッ、スタッ
と着地を決める師匠と先生。
「……」
「……」
辺りを伺う。
「どうなってる!? 用意した蛇も害虫もいない!! 昔の亡骸も錆びた剣もない!!」
「炎も、何も上がっていない……。……まるで、何かに喰われたみたいな……」
「……」
「……ここだけ、何もない……」
「……」
辺りを探る師匠。
「……あいつは……。……いた!! 近いぞ!!」
師匠が、先生が、走る、走る、走る。
この自ら光る魔力ガスの中を――
そして、辿り着いたのは、うつ伏せで倒れた状態のスバルだった。
急いで俺は、スバルを起こし。
「おいっスバル!! 何があった!? おいっ!!」
少年は何も答えない。
師匠はスバルに何度も呼び掛けてみるが、その反応は返ってくることはなかった……。
☆彡
石壁を背にして、スバルはそこでようやく目を覚ました。
「んっ……ここは……?」
「起きたわね」
「……」
立った状態の魔法の先生と。
木製のベンチの上で腰かけている師匠。その師匠が手にしているのは、何かの本だった。
「……起きたな、スバル……」
「師匠……」
僕はその人を見ると、心の中から怨みが膨らみ上がってきた。
駆け出す。
「この野郎!!!」
「……」
拳を突き出すスバル。
本を読んでいた師匠は、その本を閉じて。
怨ッ
ドォン
と怨魔の気炎を乗せたスバルの拳は、師匠に殴りかかっていた。
止まっていた時は一瞬。
「……」
「……」
殴りかかった姿勢のスバルと。
掌で受け止めた師匠がいて、両者とも怨魔の気炎を行使していた。
「ブッ殺してやる!!!」
「フッ」
僕は拳を引いて、全身から何か力が噴き出していた。そのまま殴りかかる。
それを受け止める師匠。
なら蹴りだ。
これも受け止める。
「あああああ」
「……」
頭に血が上っていたスバルは、全身から何か信じられない力が噴き出したまま、殴る殴る殴る。連続パンチだ。
だが、これをすべて師匠は、片手でいなしていた。
「だあああああ!!!」
スバルの回し蹴り。
これを腕で防ぐ師匠。だがここでちょっと驚く。
「!」
何とスバルは飛んでいて。
空中からかかと落としを振り下ろすからだ。
「でやあ!!」
ドンッ
「……フムッ」
師匠はこれを両腕で防いでいた。
決め業の空中かかと落としも防がられて、僕は床に足をついて。
「クソッ」
と零す。
「このっ!!!」
そのまま拳を突き出して。
師匠の顔面にヒットしたかと思えば。
「あ……あ……あぁ」
僕の胸元に、先に師匠の拳が決まっていた。
師匠の顔面にヒットしていたと思われる拳の先で、無傷の師匠の顔が横に動いて、こう告げられる。
「……浅いな」
と。
「ゲホッ」
と僕は傷みに耐えかねて、その場で吐瀉物を吐く。両手両足を地面について、僕は呼吸を荒げていた。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
「フンッ! 俺の顔面に1発いいのをぶち込みたいなら」
師匠は読んでいたその本を捨てる。
「――!」
「その魔導書を見て、『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタァ)を覚えるんだな!」
「ガイア……ヴァリィティタァ……!?」
僕は、その魔導書を手に取る。
「???」
そこには書かれていたのは、古代文字。
当然、僕には訳が分からないので。
「……」
その本を持った手が打ち震える。
いやそれは、僕が持っているから震えているんだ。
(まったくわからねえッッ!!!?)
見た事もない古代文字でビッシリだった。
こんなの1つも読めないから、1つもわからない。
「……ようやく、魔力と怨魔、双方をその身に宿したな」
「!」
顔を上げる僕。
僕はようやく、現状を認める。
「あ……」
それに気づいた。
「……」
これには驚いていた。
その魔導書のページが、次のページへ移動する。それこそ、風にでも吹かれたのか。
「そいつを覚えたら、1発だけ喰らってやる!」
「!」
背を向ける師匠。
僕はその背中を見る。
「……おい、魔法の先生!」
「!」
師匠は僕に背を向けたまま、斜め後ろにいる先生に、こう言葉を投げかける。
「こいつなら覚えられる……!! 予定変更だ!! 効くぞ、そいつなら……!!」
「……」
先生は足を伸ばして。
「あっ」
僕からその魔導書を奪ったんだ。
先生は、それを見て。
「……『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタァ)……ねぇ。……良く見つけたものだわ、こんな禁書を……。確かに、あの宇宙人相手には……」
「ああ、勝てる……!!」
「――!」
「かもな……」
「……」
(どっちだよ……ッッ)
黙って見詰め返す先生に。
ガッカリの僕。
師匠の言葉が告げられる。
「が、これを習得すれば、あの手の宇宙人には必ず効く……!!」
「……残り時間を見ても、これ1つだけに絞ったほうが良さそうね!」
「あぁ……任せたぜ、先生!」
「……」
これには先生も嘆息す。
先生は僕に向き直り、こう語りかける。
「仕方ない。やるからには本気で勝ちに行くわよ、スバル君!」
「……」
【こうして僕は、なし崩し的に魔力と怨魔の力を同時に習得したんだ……!!】
☆彡
ソファーに腰かけているスバルとアユミちゃんの2人。
「「……………」」
語られた魔力と怨魔の産声は、驚愕の事実だった。
「……」
「……」
「……」
「……」
ち、ち、沈黙が重い……ッ。
その時、アユミちゃんがボソッ……と呟いた。
「禁術指定ね……」
と微かな声で。
「……?」
その声はか細く、僕には聞き取れないものだった……。
そのアユミちゃんが、僕に向き直り。
「……ねえ、スバル君? ……正直に言ってくれる?」
「……何を?」
「あたしが魔法を使うには、どうしたら……、……いいと思う?」
「……」
アユミちゃんに顔を向けていた僕は。
「……」
正面に顔を向けて。
「……」
自分の足元に視線を落とす、と。
「……やっぱり難しいよね?」
とアユミちゃんが呟く。
これには僕も。
「うん……」
というばかりで。
「何か、安全に覚えられる方法ってないのかな?」
「……」
「……」
【――それは必要な話だと思う】
【これから先、僕たちが目指すのは、開拓者(プロトニア)試験だ】
【合格のためには、仲間達の力がいる】
【その為にも、是が非でも、その危うい力に手を出さないといけないから――】
「あたし思うんだけど、今期の試験は逃してもいいと思う」
「え……?」
「……時間がいるのよ……うん……。……今後を考えないと……」
「……」
「……」
間。
そして、アユミちゃんの口から語られたのは。
「……開拓者(プロトニア)試験は来期でもいいと思う」
だった。
これには僕も。
「……星王様も同じ事を言ってたな……」
「……うん……」
頷き得るアユミちゃん。
あの場で聞いていたのは、スバル、L、レグルス、そしてアイちゃんだが……。どうやらアユミちゃんも聞いていたようだった。
カラクリは疑問に思えるけど……。
「仲間がいると思う」
「……」
「シシド君は前に話していたとおり、スバル君の中で決定していて、他のメンバーは実質決まってないじゃない?」
「……うん……」
「メンバー決めからいるのよ……! 力を身につけるために……」
アユミちゃんは、その両の掌を握りしめて。
「……その時間と魔法の力がいる……!」
「……うん……」
「だから少しでも安全に、魔法を覚えられる手段を講じないと……。……あたしはそう思うけど?」
「……」
「スバル君は……、……違うのかな?」
「……」
足元を見ていた僕は、
「……」
正面を向いて。
「……」
ちょっとだけアユミちゃんの顔を覗かせて。
「うん」
と小さく頷き得る。
「……」
これには、ほくそ笑むアユミちゃん。
「よしっ! じゃあ探そうよ! 安全な魔力開発を!」
にっこり顔のアユミちゃんは、手を叩いて、そう宣言した。
「やる事はいっぱいよ!!
でも、1個1個確実に潰してば、いいんだよ!!
……この広い宇宙のどこかに、きっとあるはずよ!! 安全な魔法開発が……!! それを知っている人が……!!
こっちから探しに行こうよ!!」
アユミちゃんは明るかった。
アユミちゃんは僕の中で、まるで――
(――まるで太陽だな……)
目の前のアイドルは、太陽に見えた。
僕は俯きながら、アユミちゃんから視線を切り、どこかを向いてこう呟く。
「人探しか……」
ふと僕の脳裏に過ったのは、地球で別れた彼女、チアキちゃんの存在だ。
「そう言えばチアキちゃんも……」
「んっ?」
「あっいや、確かチアキちゃんも、霊力が使えたはず!」
「霊力……!? ……んんっ?」
「えーと霊力というのは、魂の力の事で。
僕が使っているのは魔力、これは精神から生じる魔力なんだよ!」
「……どう違うの?」
「えーと……どう説明したらいいんだ? これ……? う~んと……」
「……」
あたしが見ている前で、スバル君は「う~ん……う~ん……」といい悩んでいた。それだけ難しいのだ、どう説明するのか。
「……じゃあ、ポイントだけ教えて」
「ポイントか……」
★彡
――それはまだホテルにいる時、チアキちゃんとの会話だった。
「……そう言えばチアキさん!」
「んっ?」
「さっき言ってた、5歳の時に霊力を覚えたんですよね? 凄いな~~どうやって覚えたんですか?」
「……」
「んっ? 5歳……? って事は……保育園児? 幼稚園時のときくらい?」
僕は言ってて、自分で疑問を覚えるほどだ。
これにはチアキさんも嘆息して。
「……子供の時が、霊力や魔力を覚えやすい体質なんよ」
「体質……?」
「うん、それは幼児の時だけの特権なんよ。……うちの家系はな代々、寒い雪山の中に、そうした子供を置き去りにし、目覚めてから引き取りに行くんや」
「え……?」
「個人差があって、1日で目覚める子もおれば、1週間以上目覚めない子もおる……。
うちの場合は、3日目でようやく目覚めたから、水準はバランス型や。
ホント……腹が減ってなぁ、こう喉が渇いて、痛ぅて。
そこら辺にあった雪を掬い上げて、口に運んだんやけど、胃が熱ぅて、体が冷え冷えや。
かえって逆に、脱水症状になって、腹をすかせたもんや。
……。
……一番辛いのはなぁ、誰もいない事……や。
……。
最後に、死んでも、誰も看取ってくれない……寂しい氷の世界や……。
肌寒ぅて、凍りそうで、魂まで凍りつきそうで、
足の先まで凍りついて、血を流しながら歩いたもんや……ヒタヒタ……ヒタヒタ……。
死にきれなかったんやなぁうち……。
その細腕を見ると、衣類もボロボロで、破れた衣装の上から見えたんは、凍傷やアカギレやった。
ウチはな、涙を流しながら、それこそ、
か細い声で、誰かを、助けに求めたんや……。
……。
でもな、冷たい雪山の中、誰も、助けにきてひぃひん。
……極寒の雪山やった……。
なんで、うちだけ……。……こうも他の子達とこんなに違うんや……。
……。
うちはな、自問自答した……。
だから、呪ったや……。
絶対に許せない、と……。
うちはな、涙ぐみながら、怒りを糧に、生き凌いだんや……」
「……僕と同じだ……!」
「……せやろうなぁ」
「?」
「うちもあんたも、同じ穴のもんや」
「……それはどーゆう?」
「……」
チアキさんは、呆けた僕の顔に両手を添えた。
その手はひんやりしていた。
「……いずれわかる」
「?」
「その時が来るまで、答えは待ってる」
「あっ」
チュッ
とチアキさんは、僕のほっぺにチューをして、離れる。
これには僕も驚いていた。
「……」
「……他に何か、聞きたいことある?」
そう問いかけるチアキさん。可愛らしい笑顔だ。
僕から見ても、その子はずっと奇麗で可愛く、他の子達より魅力的な花があった。
僕に対して、やや背中加減を向けたチアキさんは、胸を突き出し加減で女の子っぽく、背中で手を結んでいた。その顔はほくそ笑んでいて、
「……」
この時、僕はドキッとしたんだ。
「……」
僕は赤くなりながら、頷き得る。
「フフフッ、ウブやなぁ」
チアキさんは、僕と比べて、ずっと大人っぽかった。
「……さっきの話で、どうしてそんなに差が?」
「……あぁ、日数の事?」
「うん……」
「せやな……。う~ん……わかりやすく説明せなな」
「……」
「じゃあ1つ訪ねるけど、スバル君!」
「!」
「スバル君は、1日で目覚めた子と1週間で目覚めた子、……どっちが優秀な子やと思う?」
「えっ……それはやっぱり、1日なんじゃ?」
「ブブ――!! ハズレや!」
「えっ? じゃあ、大きいほう?」
「ブブ――!! またハズレや!」
「えっ? じゃあ、どっち?」
「クスクス」
と小気味に笑うチアキさん。
(ホントに何も知らへんから面白い子や)
心の中でも笑うチアキさん。
「う~んせやな。少しわかりやすく説明せなな!」
「……」
「速く目覚めた子!
これは早熟タイプで、環境適応能力に準じやすい性質の子や!
逆に遅い子!
これは大器晩成タイプで、将来的に大きく育つ、伸びしろが大きい子や! ちょっと育つまで時間はかかるけど……コツコツ続けていけば、きっと周りも驚くような変貌を遂げる……!
どっちも優秀なんよ!」
「どっちも優秀!?」
「せや! ようできとる! どっちも無駄がない、どっちも優秀なんよ!」
「……」
【――彼女は哲学していた――】
☆彡
僕はアユミちゃんにそう説明した。
「どっちも優秀!?」
「うん」
これにはアユミちゃんも、あの時の僕同様驚いていた。
「……どーゆう事なんだろう?
「う~ん……」
これには僕も考えさせられるところだ。
きっと答えは、一生出てこない。それがすべての答えだからだ。
「なんか、アユミが教わった事と全然違うなぁ~」
「え?」
「アユミはね。親戚に知り合いがいて、その人達が先生や教師、講師といった人達と通じているんだけど……」
「あ~~だから僕にものを上手いのか……!」
僕は遅まきながら、納得す。
だからあの時、アユミちゃん、僕に勉強を教えるのが上手かったのか。
「うん。その人達が言うには、物覚えが早く、1を聞いてすぐに答えられる子が優秀な子なんだって!」
「そんな人もいるんだ……!」
「うん、世界は広いもの! でね、アユミがそんな問題を聞いたらまったく解けないもの……。でもね。その人は、誰よりも早く即答もできて、ダンマリもするんだって」
「だんまり?」
「無口って事よ! 対極みたいな……よくわかんない人でね……アユミちゃんも会った事はないんだけど……」
「どんな人なんだ? それ……?」
「う~ん……よくわかんない。雷のように早くて、風のように掴みどころがなくて、でも実態が掴めない感じ……? でも、もうさすがに死んでるんじゃない? 全球凍結で……」
「惜しいなぁ……」
「うん……」
「……」
「……」
なんか惜しい人を亡くしたような感じだった。
沈黙の間が流れて――
(――あれ? なんか魔法と関係ないような……)
話をしてる。
ふと、僕がそんな事を考えていると。
チラッ
と隣にいるアユミちゃんの横顔を見た。
今、アユミちゃんは僕の顔を見ておらず、その視線は、クリスティさん達がいるところへ、違うか……。
あっちに向けられていた。
「………………」
アユミちゃんの横顔は、まるでモノ恋しい顔つきだった。
そう、向けられている視線の先は、自分達のいた大村小学校とは違い、生徒数が断然多い長崎学院の生徒達だった。
その生徒達は談笑し合っていて、その話題は、今日出てきた料理の数々だった。
「美味しかったね!」
「うん!」
「もうお腹いっぱい!」
「宇宙って、いろんな料理があるんだね~!」
「もうあんなの初めて!」
「未知の大発見だよね!」
「言えてる~!」
「キャッキャッ!」
「ウフフフ」
「宇宙の1の料理って何だろうね!?」
「いつかは食べたいね!」
「食べたい~!」
こんな会話が聞こえてきたあたしは、
「ハァ~……」
となんとなしに溜め息をついて、お腹をさする。
(お腹空いたな……)
と。その時、ついでにおっぱいが、プルンと揺れて。
これには僕も。
(おおおっ!!)
心の中で嬉しそうに反応してしまう。悲しい男の性だ……ッ。
「はぁ~……お腹空いたねぇ……」
「そだね……」
お腹をさするアユミちゃんに。
そのおっぱいを見詰めるスバル君、その喉を、ゴクリと鳴らして。
(ホントによく育ったものだ……)
まだ未成熟のそれ、青ものだ。だが、きっと美味しい。
この頃だけの、潤いと張りと艶がある。
僕の手が、自然とそれに伸びた。
「宇宙の1の料理か……どんな食材なんだろう……?」
「きっと柔らかいと思うよ」
「柔らかいのがいいの?」
「うん、きっと甘くて、美味しいと思うよ」
「ふ~ん……」
(きっと今が食べ頃かな……。早熟のバナナみたいに……)
伸びていく。
「……」
僕の手が吸い込まれるようにそれに伸びていく。
「それは美味しそうだね!」
関心を持ったあたしはそう呟いた。目線は斜め上に、背筋を正して、足を振っていた。
それを想像しちゃう、きっと、なんて美味しいんだろう、と。
その際、自慢のおっぱいが、プルルンと揺れる。
「あたしも食べてみたいな――!」
嘘、偽りない本心を述べる。
僕は、ゴクリ、と喉を鳴らして。
手が、ワキワキ、しながらそれに伸びていく。
(やばい、絶対、美味しい……これ)
伸びていく魔の手。
「どんな食材で、どんな調理法があるんだろう? 焼くのかな? 煮るのかな? 揚げるのかな? 加工調理するのかな? 混ぜるのかな? 炒めるのかな?
それとも……低温調理法かな?」
「きっと、生でも美味しいと思うよ。いや、絶対、生がいい!!」
「生か……! 美味しそう……だね……」
この頃になれば、いかにあたしだってそれに気づく。
怪しい視線を感じていた、それも男の子特有の怪しい視線を。
でも、あたしは気づいていない様を、フリをして、目線だけを下げていた。
自分の胸元を見ると、スバル君の魔の手が迫っていた。
段々とその距離が縮まってくる、あゆパイのピ――ンチ。
でも、あたしは心の中で。
(スバル君も男の子だものね……フゥ……)
とあたしは心の中で溜息をつき、あの子達を見詰めたまま、気づいていないふりをする。
「生か……? へぇ~冷やすの? サーモンや大トロみたいに活魚で切り分けるの?」
「とれたてピチピチ、フルーツみたいにジューシーな果肉だと思うよ」
「へぇ……一口だけ、かじってみたいね」
その距離、約30㎜(3㎝)と超近い。
「ううん、プルンプルンだと思う」
「プルンプルンか……リンゴの果肉とは違うね。シャリシャリ感じゃない……近いのは何かな?」
「皮はブドウみたいで、果肉はジューシーなメロンだと思うよ」
「へ――それ、アユミちゃんも食べてみたい~~!」
その距離、約10㎜(1㎝)と最接戦。
その時、アユミちゃんが腰を動かして、跳ねた事でおっぱいが揺れる揺れる――タユンタユン
「……ッ」
(どうしよう!?)
この頃になると、さすがのあたしも、心の中で迷いが生じていたの。
振り返るは、当時のあの光景――
★彡
「マズイわ!!! スバル君好きだからッ!!!」
「いーい!!? あの子は私達の望みだから!!! スバル君に言い寄っちゃダメよ!!!」
ここぞとばかりに、少女達2人は、クリスティさんに注意して、前もって釘をさしておくのだった。
だが、この時クリスティさんは。
「いいけど……。あの子、チラチラ見てたわよあの時……。――あの手もニギニギしていたし……やってみたいんじゃないのかしら? う~ん……」
あの時の情景を振り返ってみるクリスティ(お姉さん)。
スバルは、それが好きであり、いつかはなってしまうやもしれない。
乙女的に、細い指を顎に当てて考えちゃうクリスティさん。
それはとても、魅力な的な仕草に見えて。
これを見て聞いていたアユミちゃんは。
「あうっ……」
とまいちゃう……。
ど、どうしよう……。あたしだってわかる。普段から付き合っているからだ。あの子の事は誰よりもわかるし、あたしは知っている。あの子が落ちるのも、時間の問題だった……。
(マズイ! なんとかしなきゃ!)
「どうしようクコンちゃん~~!?」
「大丈夫よ、あたしも好きだから!」
あたしは友人に助けを求めたら、
クコンちゃんはグーサインを出してきたのだった。
これにはあたし心の中で。
(あれ~~何で~~ッ!?)
(スバル君はあなたとやりたいのよ! むしろやっちゃいなさい! ……でも、あたしは友人だから、助言を出すだけで、影から見守るから!)
「どっちの~!?」
悲鳴を上げるアユミちゃん。もう訳がわかんないよ~ォ。
「フフ、ライバルね!」
「あら~いい度胸ね。おばさん! ……おっぱいだけで若さに勝てるのかしら!?」
「フフ」
「フフ」
謎のライバル宣言を交わし合う2人。
その隣で被害を受けるのは、スバル君の長馴染みであるあたしだ。
(……まさかのライバルが増えちゃったよぉ~~ォ!?)
もう訳がわかんない~。
アユミちゃんの葛藤は増えるばかりであった。
「おっぱいね」
「若さよ」
「どっち~!?」
謎の口論は続く――
★彡
「――チッ、外したか……!! 今度は外さん!!」
もう一度構えなおす。
次に狙うのは、少女の方だ。
「!」
『!』
「レグルス!!」
すぐにその名を呼ぶアンドロメダ王女。
――パンッ
構えた拳銃(ハンドガン)の口径から発砲された弾薬は、螺旋回転を描きながら、直線状を突き進む。
それは人々の頭の上を、物凄いスピードで飛んでいく様だ。
都合三度のいい描写が入る。人々の頭の上を疾駆する、疾駆する、疾駆する。
そして、同じように、レグルスがもっと素早く駆ける。
すれ違う両者。弾薬とレグルス。互い違いに行き交う。
先に辿り着いたのは、レグルスだ。
「炎上爪!!」
そして、その弾薬は――
『――!』
アユミちゃんの目の前で静止していた。
一瞬だけあたしがビビる。それを捉える。
それは、Lとデネボラさんのサイコキネシス(プシキキニシス)で静止している様だ。
すかさずスバル君がアユミちゃんに抱き着き、ドシャン、と押し倒す。
だが、仮にもしも、スバルが行動していた頃には、間違いなく手遅れで、アユミちゃんは絶命していただろう。
弾薬の高速回転が弱まっていき……。止まったところを確認して、その念力を解いて、床上にカララン……と落ちるのだった。
落ちた先は、あたしの目の前だったの。
『――ッ』
それは間違いなく、あたしの命を奪おうとした弾薬だったの――
★彡
――その後、会場のゲートで、あたしはクコンちゃんに泣きついていた。
「こ、恐かったよ~~!!」
これにはクコンちゃんも、状況が状況だったので、あたしを抱き留めて、あたし髪の毛をすくうのだった。
あたしはその間、「エグッ、ヒグッ」と泣きついていた。
――それが落ち着いてきた頃。
「……どうしよう」
「?」
あたし達はベンチに座っていて、隣にいるのは友人のクコンちゃんだ。
「……」
あたしの手元にあるのは、あたしの命を奪おうとした銃弾があった。
それをクコンちゃんも見ていた。
「……」
「……」
人殺しの道具、あたし達が思うのはそれだ。
とクコンちゃんが、その銃弾からあたしの横顔を覗き込んできて。
「……あの時、スバル君が身を挺して護ったんだよね? 押し倒していたけどさ」
「……」
これにはあたしも頷き得る。
真実は少し違うが、おおよそは当たっている。大衆の目にはそう見えたからだ。
「なかなかできないわよあれ? いいなぁ……」
「え?」
「あたしが彼女だったら、何かご褒美をあげたいな!」
「ご褒美かぁ……」
「……」
「……」
これにはあたしも考えさせられる思いだ。
確かにあれから、スバル君は何度もあたし達の命を護ってくれている。
レグドの時、磔の時、全球凍結での難民大移動の一件、そして発砲事件。
少なくとも4度、あたしはスバル君に助けられている。
(何か……お返しをしないといけないかも……)
あたしはそんな事を思っていた。
友人のクコンちゃんは、そんなあたしの顔色を伺っていた。
「あの子の好きなものって何かな?」
「好きなもの……かぁ」
――とその時だった。
「あ――っもう!! ジロジロ見て気持ちわる!!」
「「!」」
知り合いの人の声が聞こえた。
振り返ると、そこにいたのは――
「「――クリスティさん」」
だった。
ゲートの向こうから歩いてくるのは、不承不承のクリスティさんだ。
正直ムカついている。
理由は少し考えればわかる、きっと、あの体が原因だ、おっぱいが注目の的になり、やらしい男たちの視線を浴びていたからだ。
その人は、あたし達の元に歩み寄ってきて、腰かける前に、こう尋ねてきた。
「見たわよ」
「!」
「やっぱりいい子ねスバル君って!」
「見たんだ」
「ええ」
「隣いい?」
「ええ」
「うん」
隣にクリスティさんが座り。
席順としては左からクコンちゃん、アユミちゃん、クリスティさんという順になる。
とそのクリスティさんが。
「あーあ……あたしがまだ16歳くらい若ければな~」
と、急に年齢の話を持ち出してきた。
これにはあたし達も。
「「16?」」
「ええ、あなた達と同じぐらいの年齢だったなら、これぐらい許してるわね」
ブルルン、ブルルン
とクリスティさんはワザとおっぱいを持ち上げて、左右におっぱいを揺らしながら、
「あなたの好きなように取り扱ってくれて構わないわよ。ただし! 美味しいディナー付きの夜景で、付き合ってくれるならね」
「カッ!?」
「ウッ」
「うっふ~ん♪」
このお姉さんは扇情的で、魅惑的な子悪魔だ。
並の男の子なら、簡単に落ちる。
パッチ―ン☆
とウィンクも忘れない。
「……ッ」
これにはあたし達も、同じ女としてショックを受けていた。
一番ショックを受けていたのは、他でもないクコンちゃんだ。
彼女が自分のを認めると、ズ~~ン……と絶壁だった。もう悲しいほどに……。
「………………」
これには何も言えず、ただただ、ショックを受けていた。
おっぱいがある女の人と、おっぱいがない女の人、
どっちが男性に好まれるかと問われれば、俄然、おっぱいがある人だろう。
これにはあたしも。
「……」
顔がヒクヒクしていた。
クコンちゃんも、ない胸を上下にさする動きをして。
「おっぱいか………………」
もう、かける言葉すらない……。
あたしはそれを見てて。
(なんかごめんね……)
となぜか友人に謝るほどだった。
でも、いいかもしれないと、心のどこかで引っかかっていた。
一考の価値はあるかも、フムゥ……。
「……」
あたしはクコンちゃんの横顔を覗き見つつ、心のどこかで。
おっぱいか……。でも、安っぽい女の子にならないだろうか? いくらスバル君が、好きなものでも……。
「……」
「……」
あたしはクコンちゃんを横顔を覗き見つつ。
あのクリスティさんの発言が気にかかり、顔を上げて、こう尋ね返す。
「!」
「あの気持ち悪いって?」
「あぁ! おっさんやおじさん達が、こればかりじろじろ見て、気持ち悪いって事よ!!! フンスーーッ」
それはおっぱい問題で、周りから注目を集めてしまい、気持ち悪さを覚えるほどだった。
若いお姉さんが、中年男性以上からジロジロとみられる。
うん、かとなく気持ち悪い。
「難民でしょうが!!! そっちを気にしろって!!!」
「ははっ……」
「言えてる……」
苦笑いを浮かべるアユミちゃんにクコンちゃん。
「……あの」
「?」
アユミ(あたし)は、クリスティさんにこう尋ね返すことにした。
「……クリスティさん!」
「んっ?」
「あのね。男の子って何が好きかな?」
「ん~~?」
「大人なんだから、子どもの好きなものはわからないんじゃない? そもそも外国人だし……」
「だよね……国も違うし……」
「いや、そもそもあたし達、難民でしょ?」
「「!?」」
「持っているものといえば、この体か、医師としての特技か、もしくは労働力ぐらいよ」
「……」
「……」
クリスティさんの言っていることは、概ね正しい。
「話が戻るけど、あたしがあなた達と同じぐらいの小学生なら、あの子にあげられるものといえば、この体か、愛情で表現するしかないんじゃないかしら?」
「愛情……?」
「ありがとうって、触らせてあげるのよ。両想いなら、これほどいい提案はないわ」
「……」
「……両想いか……」
「うん……」
それをなんとなしに呟くクコンちゃんに、頷き得るあたし。
(どうなんだろう?)
とアユミ(あたし)は思ってしまう。
(そういえば、意識してなかったな……)
あたしとスバル君の関係は、長馴染み同然で、恋人関係ではなく、意中の相手としては、意識していなかった……。
「当時のあたしは、そりゃーもう巷で話題に上がるほどの、超がつくほどのかわいい子でね! これもEカップあったんだから!」
ムフン
とおっぱいを寄せて上げる。
あたし達は、その小学生時代のクリスティさんのカップ数を聞き、驚き得る。
「E!」
「デカッ! ホントに小学生!? さすがに外国だわ!!」
「ムフフフ、凄いでしょ! スゴイ周りからモテたんだから! お触りもあったけど……ね」
「日本だったら、もう犯罪だよッ!!」
そう、触ったら痴漢。もう性犯罪である。
これにはなんとなしにアユミちゃんも、反論しちゃう。
「お触りって……男の子は嬉しいかもしれないけど……。触られるあたし達は嫌だなぁ~……」
「うん……」
「別に気持ちよくないもん……。揉まれても、変にくすぐったくて、相手が嫌らしい顔するもん!!」
「吐息も、やらしいけどね!!」
あたしにクコンちゃんと、それぞれ威勢の嫌なところを上げる。
これは本心だ。
意中の相手以外、決して触らせたくない。
とこれを聞いていたお姉さんは。
「まっ! そーね!」
「……」
そのお姉さんの声を聴き、あたしは黙り、横からクコンちゃんが。
「変に触らせても、揉んだ挙句、発情して変な事してくるに決まってるもん!! ママに聞いたわ!! 男はオオカミだって!!」
ワオ――ン
でも、アユミちゃんの脳内のスバル君は。
ワンッ
と忠犬だった。
これにはあたしも、まるで納得するように頷き得る。少なくともあの子に、それはないわ……。
「まぁ、一理あるわね! あたしも実際何度もそれを見てきたし……」
「「えっ!?」」
「ドロドロの愛憎劇だったわよ……。年齢も関係ない。既婚者や当時付き合っているだけのカップルも、それで犯罪を犯していたしね……」
(……これは……)
(やらかしてるわね……このお姉さんなら……)
「まぁ、犯罪は止めた方がいいわよ」
とクコンちゃんが。
「わかってるわよ!! そんな事は!! あなたに言われなくとも!!」
「……フンッ」
もう毒舌ぶりのクコンちゃん。
なぜかクリスティさんとの仲も悪くなるばかりだ。
これは彼女の性格の問題なので、どうしようもない……もちろん、クリスティさんも……。
あたしは、クコンちゃんの横顔を見ながら、こう心の声を投げかけるの。
(彼氏ができるのだろうかな……? いささか不安だよぉ……クコンちゃん~)
もう不安しかない。
「……」
「……」
ニアミス中のクリスティさんにクコンちゃん。
「フゥ……」
と大人のクリスティさんは溜息をついて、こう言葉を零す。
「もしもよもしも!! あの子がそれを望んできたら、こっそりと!!」
「コッソリ!?」
(こっそり……)
クリスティさんに、驚き得るクコンちゃんに、一考の価値があるアユミちゃん。
とここでクコンちゃんが。
「……ズルくない?」
と。
これには「うっ」となるクリスティさん。
「……」
「……」
「……」
間。
その沈黙を打ち破るように、クコンちゃんが、そのクリスティさんの見事なまでの超乳を見つつ。
「あたしが仮に男子なら、その体に騙さられてるわ」
(えっ!?)
「フフン♪」
それはクコンちゃんの本心だった。
仮とはいえ、これにはあたしも驚いて。
そのクコンちゃんの本音が聞けて、気分を良くしちゃうクリスティさん。
でも、そのクコンちゃんがあたしに振り向いて。
「!」
「……でも、あの子はあなたのでしょ!?」
これには、再確認させられるように、クリスティさんも反応した。
「!」
「……」
「……」
「……」
2人の視線が、あたしに向けられていた。
少なくともこう思ってるんだろう。あたしとスバル君が、お付き合いしていると。
クリスティさんが口を開く。
「あたしが仮にあなたの立場なら、あの子の彼女なら……! 今、あたしの命があるのはあの子のおかげだから、何かで恩返ししたいわね」
「……うん……」
これには頷き得るあたし。
とクコンちゃんが。
「あーあーあたしも彼氏が欲しいー!」
「「!」」
それは本心だ。
とクリスティさんが。
「あたしもいい大人だから、タイムリミットが近いのよねぇー! 30を超えたらもうおばさんだし婚期を逃したくないわ!
チャンスがいつ来てもいいように、心の準備をしておかないと……!」
「心の準備……」
そう、心の準備。
自然、あたしはあの子が好きなもの、この胸部に膨らんでいるおっぱいに視線を落とす。
「2人きりの秘密って、なんか甘美で♪ ご褒美したいわね! ウフッ」
さすがのお姉さん。
きっと心の中で、未来の旦那さん像を想像してしているのだろう。
その頬に手を当てて、赤らめているあたりなんか、何を考えているんだろう。
「……」
「……」
あたしとクコンちゃんは、そんな人の様子を見ていて。
(30前が勝負……!!)
(40過ぎたら、例えお付き合いできても、子供ができ難いからね……!)
奇しくもクリスティさんは、いい見本だった。
「ハァ……」
とクコンちゃんは、自身の絶壁に視線を落として、残念そうだった。
その視線も、なぜかあたしの胸部の膨らみに向けられて。
「大丈夫よ! あなたにはこれがあるんだから!」
「あっ……!」
隣にいるクコンちゃんが、ワザとらしく、あたしのおっぱいを横から指圧で軽く圧し込んじゃう。やぁ~ん。
ぷにゅん、
といかにも柔らかく形を変えるおっぱい。
「やぁん、やわすぎ~」
プニッ、プニッ、プニュン
「やぁん~! 陥没しちゃてる~!」
悲鳴を上げるあたし。
「アハハハハ」
お姉さんは軽快の笑みを浮かべていた。
☆彡
「……」
あたしは今までにないくらいドキドキしていた。
(彼氏か……こっそり……)
あたしは、気づいていないようにふるまい、あの子達を見ていた。
(上手い言い訳を……こっそり……。2人きりの秘密……甘美……こっそりご褒美……)
いざっ。
「おーい!! スバルくーん!!」
その時声がかかった。
一瞬でスバル君は、その伸ばしていた腕を引っ込める。バレたくないからだ。
あたしのおっぱいのドキドキはお預けになり、元気をなくしたようにションボリしちゃう……。
2人一緒に振り返って。
そこにいたのは、
声を投げかけてきたのはクコンちゃん。
彼女を初め、クリスティさん、あの時の少女達と、シャルロットさん。
あたしの目には見えないけど、スバル君の目には、アンドロメダ王女様とデネボラさん、そしてLが見えた。
「――んっ?」
――その時、スバルが偶然、目にしたものは、なぜかヒースさんとレグルスが一緒になって、離れていく姿だった。
(何だ……!? 2人一緒に……?)
いったいどこへ出かけるんだろう。
僕がそんな事を思っていると、女性陣達がこちら側にやってきて、こうお願いしてきた。
「ちょっとお願いがあるんだけど、ちょっといいかな?」
「え……?」
(……どうやら気づかれてなかったみたい……ホッ……)
とこれには僕も、一安心していた。
こんな多くの彼女達に目撃されていれば、そこで僕の人生は詰んでいた……。これには心の中で、安堵を覚える。
「……」
その時アユミ(あたし)は、俯いていたの……。
何で邪魔するのよ……。こっちがせっかく必死で頑張ってたのに……ッ、あと少しというところで……ッ。
「ハァ……」
「?」
あたしは友人のクコンちゃん達に邪魔されて、スッゴイショックを覚えてたの……。
と彼女達が。
「「「「「お願いします~」」」」」
「は?」
「?」
彼女達から、なぜかお願いされるスバル君。
えっ、えっ、いったい全体どーゆう事。
「なっなに?」
これにはスバル君も、訳がわかんない。
シャルロットさんから、願いの打診が告げられる。
「スバル君、ここは人助けだと思って割り切ってください!! 放送を通じて、難民達に呼びかけてください!!」
「え?」
とクリスティさんが。
「あたしが上手くリードするわ!! 『急性の心肺機能血流欠乏症』になった患者さんが各難民地域で続発していると、ヒースさんやシャルロットさんを通じてさっき連絡を受けたの!」
「ええっ!? それって大変なんじゃ!?」
「ええ、だから呼びかけるために、君の力がいるのよ!! 地球人類難民達の代表として!!」
「――!!」
【――行動はすぐだった】
【みんなの読み通り、報告を受けた地球人たちは、その即日のうちに『急性の心肺機能血流欠乏症』を発症していたのだ】
【これは、地球よりも重いアンドロメダ星に移った事で、個人差によって大きく分かれるが……。重篤化していた患者は、一様に胸を抑えて苦しんでいた……ッ】
【心肺機能の過剰運動だった――】
ドックン、ドックン、ドックン、ドックン
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ」
胸を抑えて、男性も女性も関係なく、難民地区の場所も関係なく倒れていた……ッ。
「……」
中には泡を吐いて、意識を失っている人達もいた。
「頭が痛い……」
「汗が止まんない……」
「体が熱いよぉ~~!!」
「何なのよぅ~~これはいったい~!?」
全員、謎の病で頭を悩ませていた。
「うっ……」
胸を抑える女性。
「く、苦しい……胸が……」
「ま、まさか……」
男の人が、子供だと思われる息子の心音に耳を当てると……ッッ
ドックン、ドックン、ドックン、ドックン
「……ッッ」
驚いてその身が引く。
「……」
あまりにも信じ難い事態を目の当たりにして、大汗をかいて、顔が赤くなっていた。
「お、俺もか……ひょっとして……?!」
もう訳がわかんない。わかるのはヤバいという事実だけ、こんなの事例がない。
どう対処すればいいんだ。
自分の胸に手を当てると、それが如実に伝わる。
「……いったい何の病気なんだ……!? ……こ……こんなのいったい、どうすればいい……!?」
絶望を覚える男性……。
【――その時だった】
【街頭大型TVと都内放送を通じて、少年の声が上がったのは、スバル達は民間のTV局から語りかけていた】
『――皆さん、聞こえますか!?』
「!」
「!」
「!」
「!」
「!」
ホテルで、病院で、学校で、商業施設で、仮設テントで、その少年の声が届いた。
『安心してください! 今皆さんを蝕んでいる原因が判明しました!!』
「「「「「!?」」」」」
『病名は、『急性の心肺機能血流欠乏症』です!!
これは、地球の1Gの環境下からアンドロメダ星の3G以上の環境下に移動したために起こる、『人体の環境適応能力』です!!
それが異常動作して、心臓のポンプ機能が異常動作を起こしているんです!!』
「なっ!」
「心臓が!」
「おい、心臓の音を聞いてみろ!!」
『僕のグループにクリスティさんという女医の方がいます!! それによって原因が特定できました!!
アンドロメダ王女様たちを通じて、今、皆さんの元に医師団を向かわせています!!
その人達の指示に従ってください!!』
「……」
「……」
「……助かるのか俺達……?」
ザワザワ
とその人達の顔に、希望が宿っていく。
『そして、もう1つ、お願いがあります!! 今難民地区にいる世界保健機関(WHO)とお医者様の方がいれば、その人達と協力してください!! 皆様方の協力も必要なんです!!』
「「「「「!!!」」」」」」
『医師の方も、女医の方も、講師の方も、研修医の方も、学生もすべて、これに協力をお願いします!!
今、そちらにクリスティさんの教えを受けた方々を向かわせています。
その人達にどうか、ご協力をお願いします!!』
街頭TVの中でスバルは頭を下げてお願いしたのだった。
これを見聞きしていた人達は。
「あんな子も戦っているのか……!?」
「まさか、そんな症状もあるだなんて……」
「まさか……これが、初めてじゃねえ?」
「「「「「!?」」」」」
「俺達地球人類が、このアンドロメダ星にきて、初めて病気に打ち勝つ歴史ってのは……!?」
ハッ
一同、関心を覚える。
――とその時だった。
バタバタ
とその現場へ駆けつけていくは、シャルロットさんを始めとした医師団だった。
別所では、ヒースさんを始めとした医師団が駆けつけていた。
「患者さんを見せてください!!」
「もう大丈夫です! 患者さんの容態を見せてください!」
それぞれの場所で、歴史が始まる。
「あなた達は?」
「あなた方は?」
それぞれの場所で、地球人、アクアリウス星人、アンドロメダ星人の協力のもと、新たな歴史が紡がられていく。
「あたしは、アクアリウスファミリアからきたシャルロットです!」
「僕は、アクアリウスファミリアから派遣されたヒースというものです!」
「「皆さんを助けに来ました!!」」
【それは、アンドロメダ星にきて、初めての偉業だった――】
☆彡
おまけ
ホテルの中で待ちぼうけをくらう、クリスティさんのご家族の方々がいたのだった……。
「遅い……」
「あたし達をこんなに待たせて!」
「とっちめてやるんだから!」
「ええ、そうね……! 時間も守れないルーズな子にはこうしてやるわ……!!!」
グサッ
と出された料理にフォークを突き立てる長女。それは怒りをはらんでいた。
クリスティ、危うし……。
TO BE CONTINUD……