第3章の第47話 くじ引きと、ヴァツラクロコヴィオスのお肉
【ファミリア星立総合運動公園陸上競技場】
【――くじ引きが行われていた】
【その間にスバル達は、恵ケイのご両親と接近を図っていた】
今、会場と化した競技場では、
世界保健機関(WHO)の職員たちが、縦一列に並んでくじ引きを行っていた。
どの人達も黒に蝶ネクタイの正装だ。
一目見ただけで、身分の高さが伺える。
またその後ろでは、ティフさん達が難民達に呼びかけていた。
『事前告知していた通り、今から皆さんには、家族とペアを組んで一組として扱います! 家族と離れ離れになりたくない方は、代表者1名を立てて壇上に上がる準備をしててください!』
「!」
その言葉を聞いた人たちは。
「あなた、当たりを引くのよ!」
「……」
それはプレッシャーだった。親父さんが呟いた言葉は。
「……よしっ! お前が行けっ!」
「……え?」
「これは子供でもできる! いいか当たりを引くんだぞ!? お前に任した!! だから頼んだぞ!!」
「……マジ!?」
それは自らの子供に運命を委ねる行為だった。
☆彡
――そして。
「――あら? スバル君」
恵ママが声をかけて。
そこへ歩み寄ってくる僕が手を挙げて返事を返すのだった。
「久しぶり……といっても、君とはつい最近顔を合わせたばかりよね?」
「はい」
僕は恵ママの質問に軽く返した。
「……」
「……」
僕の顔が向いたのは、恵パパさんだった。
「……何かね?」
「……1つお尋ねしますが……。……チアキさんは?」
「「…………」」
「…………」
沈黙。それが肯定だった。
「――やはり、そうですか……」
チアキは、あの場で消え失せていたのだった……。
「バッカじゃないのあの子!!」
「!」
「「!」」
その発言はスバルの後ろから聞こえ、振り返ると――
「クコンちゃん」
その人物の名を呼ぶのはアユミちゃんで、その人物はクコンちゃんだった。
「全球凍結するっていうのに残るだなんて、自殺するようなもんよ!!」
「……」
「「……」」
そう、それが一般理解だ。
とここでクリスティさんが。
「……そのチアキちゃんってどーゆう子なの?」
とクリスティさんがそう尋ねると、その超乳に眼がいった子供達が。
「デケェ」
「有り得ねえだろ」
「うわぁ」
「エロい」
「あれが動くんだぜ……スゲェな」
「ああ、エロい」
「クッ、これだから男子共は……!!」
「最低ねッ!!」
と声が上がっていくのだった。
とここで恵パパさんが。
「スバル君、……このご婦人は?」
「あぁ。この人はカナダで拾った外国人女性のクリスティさんです」
「カナダ人?」
と恵パパさんが呟き。
ここで恵ママさんが。
「あぁあなたって、確かあの時、雲の下に映っていたスバル君を緊急手術してた人よね?」
「――はい」
「……」
恵ママの問いかけに答えるクリスティさんに。
思い起こされるのは、あの手術の場面だ。
その時、僕は聞き流していた。
「えっあの時の人!?」
「あのグロイやつか!?」
「臓器がドックン、ドックン……オエッ」
「うわっ、飯がマズくなる……」
「オエッ……」
「臓器の闇密売人の人じゃなかったんだ……」
「……ッ」
【――酷い言われようだった……】
【これが子供達の目線なのね。ショックだわ……女医として……グスンッ……】
【でも、これはわかる。この子達には悪気がなく、見たまんまの感想を述べてるだけ……】
クリスティさんが内心複雑な気持ちでいると、元ホテルの女性従業員さんがやってきて。
「あなた達謝りなさい!!!」
「「「「「え~~!!!」」」」」
「……」
と子供達に謝るように促す。まるで年配の指導者。
そして、頭を下げて謝る生徒が多い中、一部の生徒だけは「ごめんなさい」と謝るのだった。
あたしはこの光景を見て、ビックリだ。
指導してる……素直にそう思った。
とここで別の従業員さんがやってきて。
「済みませんね、子供達が……」
「本人達も悪気はないんです」
「……いえ、気にしてませんから……」
【ウソ、メチャ気にしてる……】
とここでトドメの一言が。
「明日から、朝飯抜きにしますよ」
「「「「「ごめんなさ~~い!!」」」」」
とこれには、もう速攻で子供達は謝るのだった……。
「………………」
これには何も言えなくなるあたし。
これは懐柔してるわ……。やっぱり子供達は、どこまでいっても子供達だった……。
「……」
「……」
その様子を見送るのは、恵パパさんとスバル君。
そのパパさんが口を開く。
「……姫様は、やるべき事があって残られたんだ……」
(! ……残っただって……!?)
チアキがやるべき事。
僕は恵パパさんから、その事を端的に聞いて、心の中で驚き得た。
「……」
「……」
そのパパさんとママさんは、何か思うところがあり、呟きを零す。
「……あの後、迎えの人がきたといって、私達と別れたの」
「迎えの人?」
「ええ。……でも、その後の消息がわからなくて……」
「……そうですか……」
「ごめんなさいね」
「いえ……」
どうやらチアキさんのその後の消息を辿るのは、難しそうだった……。
「……」
恵パパさんは見下ろす感じで、そんな僕の様子を見ていた。
僕がその視線に気づき、顔を上げると。
恵パパさんは、ハァ……と息を吐いて答える。
「あの後、『親書』はどうなった?」
「!」
そう、それがチアキさんが残した偉業だ。
☆彡
――僕はその事を話した。
先ず、僕はチアキさんから直接その親書を受け取り、その足で、念のためにシンギン副隊長に預けた。
アンドロメダ王女様に渡るように願って。
チアキの言う通りだった。
あらかじめ彼女が予知していて、希望の種を残せるよう、託(ことづけ)をしたんだ。
その後は、レグルスの仕組んだ事件を経て、僕は意識を手放し、セラピアマシーンで治療を受ける。
その後の話は、みんなから聞いている。
その後を引き継ぐ感じで、アユミちゃんが、クコンさんが、クリスティさんが、そして、Lが事情を説明してあげるのだった。
これには一同、驚くばかりだ。
「すごいな……」
「この若さでこの内容って……。……ハァ、感心するわぁ~……!」
「……」
僕は、恵パパさんとママさんから関心の声をかう。
「……で? L!」
「んっ?」
「偶然僕が拾ったのは、その『シアノバクテリア』だけど……! 君も『LUCA』を入手したんだよね?」
「んっ! まあね」
ここで僕は、「う~ん……」と考える。
「………………」
みんながそんな僕の様子を見詰めて。
「……なに考えてるんだい!?」
とパパさんから尋ねられた。
「いやぁ! 何でそんな事がわかるのかな――? って思って」
「ああ!」
「そんな細菌があるだなんて、あの時僕は一言も話していないし……。周りにも話題がなかった……。なんでそんな小さなものに気づけるんだろう? う~ん……」
「考えてみれば、ホントに不思議だね」
「うん……不思議ちゃんだよ」
それが僕達の意見だった。
そんな僕達の様子を見ていた恵ママさんが。
「……姫様は、昔から不思議な子でね」
「!」
「!」
スバルがLが、その人に振り返る。
「その人を見ると――少し先の未来が見えるの」
「少し先の未来……?」
「ええ、姫様が君を見て。
――温泉地に足を運んでいて、その小さな星の小瓶の中に、その星の息吹といえるものを閉じ込めていくのを、見えたそうよ」
「……」
「……」
「「「……」」」
スバルが、Lが、アユミとクコンとクリスティさんが、その耳を傾ける。
「きっと、なんとなく察していたのね……君が、地球に春をもたらすことを――」
「春?」
「ええ、今は冬の時期に当たる。きっと長い休眠の時期になるでしょうね……」
「……」
「……でもね……春が来れば、冬の雪解け水が溶けて、
冷え切っていた大地にも芽吹く花がある。
最初は少数、でも月日を重ねる度に、やがて緑の大地が増えていき、人の往来が盛んになる。
……。
人はそれを、春を呼んだというのよ」
「……」
「……」
「「「……」」」
「『またどこかで会いましょう』――これが最後の伝言よ」
「……」
♪この胸に宿る、あなたへの、想い
♪夢を追って、飛んでいく、あなた
♪今だけは、傍にいて欲しいの
♪伝えたい言葉探して、見つからないまま
♪あなたの背中を、追う日々は、意味もなく過ぎてく
♪あたしには、少し先の未来が、見えるだけ
♪あたしの贈り物は、あなたの役に立ちましたか
♪いくつもの、光の風が、あなたを後押ししてくれる
♪塞ぎ込むあなた、さあその涙を振り払って、前を向いて飛んで行って
♪あなたの後ろに、夢と希望が続いていく
♪あたしは、今だけは、あなたの止まり木になりましょう。
♪あなたに触れた、てのひらに残る、あなたの温もり。
♪この柔肌、胸に揺れる思いは、なに
♪あたしも、あなたに見合う、女になるように、
♪未来で交差する場所で待ちましょう
♪だから今しばし、許して
主題歌:止まり木にて休む、傷ついた白い鳥
作詞・作曲:チアキ
チアキはその優しい瞳で、天を仰いでいた。
吹き付けるは、今は、冷たい風と雪だった――
【あの日の想いが宿る――】
「……」
僕は、今ばかりは胸にこう手を当てて、その言葉の重みを、胸にしっかり刻み付ける。
「……自分を信じて」
「――はい」
ニコリ
と恵ママは微笑みかけるのだった。
☆彡
「――んっ!? そこにいるのは!!」
「!」
それはクリスティ(あたし)にとって聞き覚えのある声だった。
「そこにいろよッッ!!!」
「やばぁ!!!」
あたしは家族のみんなに見つかちゃったのだ。
パパの後ろには、長女、三女、四女の姿があった。あたしはその次女にあたる。
「――!」
これにはスバル君、恵パパ、恵ママさんも気づく。
「見つけたわよクリスティ~~!!!」
「親不孝者~~!!!」
「恥知らず!!!」
「ッ」
これにはあたしも、ビビる。
とここでLが。
「……何あれ?」
凄い形相で迫ってくるパパさんに、その後ろを小走りで走る娘たち。
だがこの人ゴミの中、その速度は思い切り落ちる。
「あんた達済まない、そこを通してくれ!!」
「何だなんだ!?」
「誰かあの女を誰か捕まえて――!!!」
「うえっ!?」
これには難民達も、この状況についていけず驚くばかりだ。
とここでLが。
「ねえ、これって争いにならない?」
「う~ん……あの人の顔どう見ても、すごい剣幕だし……。……なるかも……」
「……」
そのスバルの言葉を、僕が聞いて頷き得る。
「絶対に許さんぞッッックリスティ~~!!!」
「ヒ――ッ!! やっぱり――!!!」
凄い形相のパパさんの剣幕、その怒声に驚く、娘のクリスティさん。
これにはスバル(僕)も、なんとなく察するのだった。
「何があったの!?」
「あー捕まったらあたし終わりだわ!! きっとあの時の事を、まだ根に持ってるんだわッ!!」
これにはクリスティさんも頭を抱えて、悩むほどだった。
とここでLが。
「フ――、仕方ない」
「……どうするの!?」
「どこか遠くの山奥に棄ててくるよ。まぁ僕もついていくから、時間になったら戻ってくるよ。――じゃあ」
「!」
「「「!」」」
その時、サイコキネシス(プシキキニシス)で、その凄い形相のパパさんと美人3姉妹の体がぼんやり光り、その場から浮き上がるのだった。
これには周りもビックリだ。
そして、そのまま、シュン、とその場から消え去るのだった……。
それは、Lのテレポート(チルエメテフォート)だった。
だがこれには、周りにいた人達も。
「うわぁあああああ!!! 人が消えた――ッ!!」
「ちょっと待って!! 今浮いてなかったぁ!?」
「どこに消えたんだあの人達!?」
これにはクリスティさんも。
「……えっ……?」
と恵パパや恵ママさんも。
「人が消えた……どこに……?」
「ウソ……でしょ……」
「あちゃ~!」
そのスバルの言葉に、何か知っていそうな体から、クリスティさんが、恵パパがママさんが振り向いて。
「どう説明するんだよ、L……」
☆彡
どこかの山奥。
それはテレポート(チルエメテフォート)によるあの場から、強制離脱だった。
パッ。
その高度、上空約3000m。
それは富士山の山頂からダイビングするに等しい高度だった。
「は!?」「え!?」「はえ!?」「ふえ!?」
もう間もなく、急転直下の勢いで落下す。
「うわぁあああああ!!!」
「「「きゃあああああ!!!」」」
叫び声を上げながらクリスティさんのご家族の方は、命綱なしのダイビングを強制されたのだった。
とこれにはLも。
「あっ、ポイント間違えた……!? まぁ、いいか! 僕がついてるし!」
そのまま僕は、宙に浮いていた状態から、急下降する。
追いかける、追いかける、追いかける、でやっと追いついた。
――ああああああああああぁぁぁぁぁ……
頭から落ちていく4人、バババババッと激しく空気を切り裂きながら落ちていく――
もうそれは恐怖さながらの大絶叫だった。
僕も並行して急降下する中で、小さい腕を組んで考え込む。
「さて、どう反省させるか……? それが難しいんだよね。う~ん……」
「た、たぢゅべで~~!!」
「べべべべ!!」
「うわっ、凄い変顔!?」
それは落下時による風圧によるもので、うまく喋れもせず、激しく打ちつける風圧によって、顔の表面が激しく隆起し、波打つように変顔になるのだった。
美人台無しである……。
「まぁ後で考えよう……!」
と僕は、軽く考えるのだった。
☆彡
その頃、僕はみんなに説明していた。
「あれはLのテレポート(チルエメテフォート)で、あの人達を連れて、どこかに飛ばしたんだよ」
「「「「「飛ばした――!?」」」」」
「う~ん……正確には、Lもつききりでいるから、時間になったら戻ってくると思うよ」
「どこに連れて行ったのよぉ……?」
「えっ? さあ?」
「「「「「…………」」」」」
「多分、このアンドロメダ星のどこかだと思うよ。う~ん……暇になったら、僕も連れて行ってもらおうかな――」
僕が何となしにそんな事を考えている頃。
【――それはスカイダイビングさながらであった】
【地球でのスカイダイビングは、ヘリコプターから飛び降りて、約6秒後に最高速度に達し、その落下速度は約200㎞から240㎞程度だ】
【だが、それもあくまで地球での話だ】
【ここは、地球よりも数倍の重力を持つアンドロメダ星なので、落下速度は尋常ではない――】
「あばばばば!!!」
「「「イヤヤヤヤバッガミジュマ~~!!!」」」
ここで少し計算してみよう。
まず、アメリカ人女性の平均身長と体重を求めなければならない。
だいたいアメリカ人女性の20代女性で、平均身長は163.2㎝、平均体重は70.7㎏である。
だが、彼女達の場合は、クリスティさんと同じように、モデルみたいな体形よりも、グラビアアイドルのような体系の方が近い。爆乳や猛乳寄りだしね。
当然、その体重は重くなる。……失礼。
……女性が怒ると何かと怖いので、ここは思い切り譲歩して、平均体重70.0㎏と仮定させていただきます。
次に落下高度は、約3000m。
これは日本の富士山3776mに近い。こちらを参照させていただく。
で次に、スカイダイビング、落下速度の計算である。
ここに地球での一例がある。
質量m 70㎏。
落下距離h 3776m
空気抵抗係数k 0.24㎏/m
重力加速度 9.80665m/S2乗
これを計算すると。
経過時間t 74.38397361848sec(セコンド)秒となる
落下速度V 53.481519393622m/s(1秒間に進む距離)または 192.53346981704㎞/h(1時間に進む距離)時速となる。
つまり、地球では、約200㎞の落下速度を体験し、富士山から飛び降りた場合、地上激突まで1分と14秒ほど要するわけだ。
――これをアンドロメダ星での影響下に置き換えると。
重力は3倍以上かつ4倍未満であることから、3.8Gと仮定して。
体重70×3.8G=266となり。
これを計算すると。
質量m 266㎏。
落下距離h 3776m
空気抵抗係数k X.XX ㎏/m(地球よりもその星の体積が大きいので、その受ける影響もまた大きい)
重力加速度 37.26527m/S2乗(9.8×3.8=37.26m。地球よりも重力が重いので、重力加速度も当然ながら増す)
これを計算すると。
経過時間t 22.358602032393sec(秒)
落下速度V 203.11812185476m/s(1秒間に進む距離)または731.22523867715㎞/s2乗(1時間に進む距離)時速となる。
つまり、アンドロメダ星では、約731㎞の落下速度を体験し、富士山から飛び降りた場合、地上激突まで1分を切り、約22秒で激突するわけだ。
その差、3倍以上。
あの時、宇宙探査機が通った道を、この日、この4人が生身で体感することになるのだった。
ただし、重力は体感できても、大気成分値が微妙に違えば、その空気抵抗係数と重力加速度は、また大きく変わってくるので、そこだけは留意してほしい。
~~もう目前まで迫る――
「「「「~~~~~~ッ!!!」」」」
その時だった。
4人の体がサイコキネシス(プシキキニシス)の光に包まれて、減速しながら……次第に静止いくのが……。
「――ハッ、ハァッ、ハァッ」
止まっていた呼吸が戻る。
4人とも物凄く冷や汗かいていた。
「……反省した?」
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
「「「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」」」
「う~ん? もう一度ダイビングする? それともやめるー?」
その時、僕はこのサイコキネシス(プシキキニシス)を切って。
ドシャン
と4人を宙から落とすのだった。
「痛で~~!!!」
「あああああ!!?」
「ひぎぃいい!!?」
「ああん~~!!?」
4人はそれぞれ悲鳴を上げるのだった。
ここは地球とは違い、ちょっとした高さでも、それは高い所から落ちた距離と変わらないほどの衝撃と激痛を受けるのだった。
これにはLも耳を、塞ぐほどだ。
「もうしょうがないな。君たちが悪いんだよ、あの場で騒ぎを起こすもんだからさ。……って聞こえないか!?」
「痛てて……一体全体どうなってんだここは……!?」
続々と娘たちも立ち上がっていく。
Lの声は聞こえないし見えもしない。……空気と化す。
「……何で競技場からこんなところに……!?」
「みんなはどこに行ったのよ」
「ってか何であたし達だけ……クスンッ」
「大丈夫大丈夫! もう少ししたら帰るからさ。少し遊んで行ったらー? クスクス」
Lは意外とおちゃめで、悪戯っ子だった……。
☆彡
スバルは目を瞑って、精神を集中していた。
スバルの元から、一羽の白い鳥が飛び、競技場を飛び出していく。
街を抜けて、厚い雨雲の中に進む事しばらく。
赤い岩肌の岩石地帯を抜け、広い森が広がっていた。
そこにいたのは、Lとクリスティさんのご家族だった。
「――いたっ! あっちの方角だ!!」
「!」
一同、スバルの指さす方角を認める。
「……どこまでいったのよ……」
「え~とここから、とても信じられないほどの距離みたい……」
「「「「「はあ!?」」」」」」
「う~ん……なんて言ったらいいか……。飛行機でも相当時間がかかりそうな距離で、あいつ……そんなにジャンプできたのか……」
「……」
クコンちゃんが口を零し、スバル君が言い、一同驚愕。
そして、なんとなしにスバル君がいい。アユミちゃんが黙って考えて、口を零すと。
「まるで瞬間移動ね……」
「「「「「瞬間移動!?」」」」」
と一同驚愕するのだった。
【それは距離にして、1276.4㎞】
【長崎から千葉間ほどの距離感だ】
【人の足で歩いて約220時間、車で行けば15時間と24分ほどで、JRなら約8時間と59分もかかるほどの広大な飛距離だ】
「う~ん……」
これにはスバル(僕)も困った感じで、頬を指でポリポリとかいていた。
「まぁ厳密には、テレポート(チルエメテフォート)なんだけど……まぁ、なんでもいいか」
「軽っ……」
スバルの声に相槌を打つのは、女子生徒の1人だった。
「えーと………………」
「!」
スバル(僕)はこの場から、ある人物を探すために首を動かしていた。
とこれに不審に思ったのは、アユミちゃんだった。
「どうしたの?」
「いやぁ、ヒースさん達はどこかなぁって思って……?」
「え……ヒースさん?」
「うん、何でもヒースさん達が派遣した宇宙船には、ワールドシステムロード社の総帥様たちが乗ってたらしいんだ」
「へぇ~」
アユミちゃんがそう納得すると、周りも「へぇ~」と関心を買うほどだった。
「僕も一目会ってみたいなぁと思ってね! ……どこにいるんだろう?」
「……」
アユミちゃんがそのスバル君の様子を疑っていると。
「スバル君、……それでもう一度探したら?」
「う~んでもこの会場、ヒースさん並みの力の強い人たちが、チラホラいるからなぁ~。
あっちの方には5人ほど固まっていて、あっちとあっちには3~4人ほど固まっている。
この競技場の外にも、警戒しているのか、結構強い人たちが見回してるし……」
「へぇ……そんな事までわかるんだぁ」
「うん。みんな僕よりも断然強くて、強さはうまく隠しているけど……。それでも、僕が仮に20としたら、平均でも1000以上は離れてる……。
体に力が入っていない状態でそれなら……魔力を込めた時、グッと上がるはずだよ。
ハッキリ言ってメッチャ強い人たちだよ。やっぱり宇宙人は……!」
「! そんなに強いの!?」
「うん。後ね、Lとかレグルスなら、すぐに見つけられるんだけど……気配が独特だから……!」
「へぇ~そうなもんなんだぁ」
「……んっこれかな? 近くにシャルロットさんと同じ気配がある……!」
僕の顔は、その方角に向いた。
「……もう見つけたの?」
「やっぱりすごいわね」
アユミちゃん、クコンちゃんと関心を買うほどだった。
「3人はここにいて」
「「「え?」」」
「……」
「「……!」」
僕は、アユミちゃん達から視線を切り。
代わりに、恵パパさんとママさんに視線を促すのだった。僕の意図を汲み取った2人は――
「――ああ、わかった」
「気をつけてね」
「うん」
頷き得た僕は、「じゃあ」と手を挙げてその場から離れていくんだった。
その場に残された3人は。
ポツン……
「えーと……」
これには対応に困るのだった……。
だが、この場には、スバル君との付き合いが長いアユミちゃんがいたことで。
「フゥ……」
「「!」」
「……またか」
「えっ?」
「まぁ昔からなんだけど、あたし達に任せたってところね」
「「……」」
それが付き合いが長いアユミちゃんが覚えた感想なのであった。
☆彡
スバル君の足が向かった先は――
ヒースさんとシャロットさんの2人がいるところだった。
今2人は、久保星斗総帥のご家族の方々と話し合いをしていた。
もちろんその場には、あの豪華客船に乗船していた人々もいるのであった。
【久保星斗総帥】
【その妻、久保夜空】
【その息子タマキ】
【その娘ツムギ】
【元TVリポーターのニューズ】
久保星斗総帥は、ラフな格好をしており、いったいなぜ大企業の総帥様がこのような格好をしておられるのか、疑問を覚えるほどだ。
しっかりした格好をしているのは、どちらかと言えば、奥様の方で。
子供達は、まだ子供なので楽な格好をしていた。
まぁそれなりに身分の高さがあるので、それ相応の楽な格好だ。
で、この場には容姿端麗な元TVリポーターの姿があったのだった。
「そうは言うが、君! 私はすべての財産をあの日失ったのだよ……! ……今更どうしろと!?」
「だから考えがあるんです!」
久保星斗総帥、ヒースと言いあい。
これには中々引き下がらない総帥は、嘆息するのだった――フゥ……。
そこへ足を運んできたのは、スバル君だ。
「ヒースさん!」
「! ……来てくれたか」
「!?」
スバル君の登場の声に。
言葉を投げかけるヒースさん。
その少年の顔に見覚えがある久保星斗総帥は、それなりに反応を示す。
無理もない、さきほどまで、あの壇上でスピーチを行っていた少年なのだから。
久保星斗総帥は、その口を零し。
「君は……」
「あ――っ!! さっきまでスピーチを行っていた子だ!!」
ツムギちゃんがスバルの顔を指差すのだった。
これにはお母さんも。
「コラッ! 人を指さすもんじゃありません」
「! ……は~い……」
と娘のツムギちゃんの腕を掴み、降ろせて注意を促す。
とこれにはツムギちゃんも謝るのだった。
とこの光景を見ていた僕は。
「はははは……」
と苦笑いするしかない。
で。
「――君も、私に何か用なのかい?」
「……はい」
「……」
「!」
久保星斗総帥が僕に声を投げかけて、
僕はそれに頷き得て答えた。
そして、僕は久保星斗総帥から首を切って、ヒースさん達に顔を向けると。
久保星斗総帥は、その様子の違いに感づいて。
「こんな子供が……か」
「…………?」
あれ、と僕はその時、首を傾げたんだ。
何だろう、何かが引っかかる。
ヒースさんが、この時、僕の行為仕草に気にかけて、声をかけてきて。
「……んっ? どうしたんだい?」
「いやぁ、どこかで見た顔だなぁって……」
「TVじゃない? 有名な大企業だし……」
「いやそうじゃなくて、間近でなんか見たような……う~ん……」
「?」
僕は、この時、このアロハシャツを着たおっさんをどこかで見ていて、何か思い出すものがあった。
その時、僕の脳裏に過ったのは、
――あの時、あの厄災の混濁獣に立ち向かっていく時、手にしていた大太刀だった。
「あ――っ!!!」
「!?」
「思い出した!! その服の人って、大きい船にいて、ホッキョクグマと対峙していた人だ!!」
「!?」
「「えっ!?」」
「間違いないよ!! うん!!」
コクンと僕は強く頷き得た。
「――何で君がその事を……?」
「ああ、あの時、あなたからあの長い刀をぶんどったのが、僕達だからですよ!!」
「ッ!?」
「いやぁ懐かしいなぁ」
僕は感慨深くなる。
「あの後、どうなったんですか!? アンドロメダ王女様が言うには、ボロ屑になった剣を、どこかの船に投げ捨てたらしいですが……!?」
「ッ!?」
思い出すのは、そのボロ屑になった剣が、船の上で発見された様だった。
これには久保星斗総帥様も。
「じゃ、じゃあ何か!? あの場に君がいて、私から『末乃青江』を奪って、鉄屑にしたのかい……!?」
「鉄屑って酷いなぁ……。エルスの力に耐え切れなくて、一撃であぁなってしまったんですよ」
「一撃……一撃だって……」
これには久保星斗総帥様も、大変ショックを受けたようで、後ろにふらついた上で頭に手を置くのだった。相当ショックを受けていたようだ。
「一振りであーなるし、焼きが甘いんじゃないですかー?」
「……そんな、一撃……ッッ!?」
「……なんか悪い事したかな……?」
「……あれは、夢じゃなかったのか……。……あぁ……『国家資料標本』がぁ……ッッ」
これにはスバル君も。
「………………」
なんとなく自分が悪い事をしたな~~と察するのだった……。
「「………………」」
これにはヒースさんもシャルロットさんも、何も言えない……。
でも僕は、この場にヒースさん達がいた事が気になって、お尋ねしてみると――
「――で、……なんて言ってたの?」
これにはヒースさんもシャルロットさんも。
「あぁ……ッ」
「……」
と嘆くばかりだ。
「!?」
事情を知らないスバル君は、そんな2人の態度に気づけるはずもない……。
そんな事はわかり切ってる2人は、これも仕事だと割り切って、「ハァ……」と重い溜息をついて。
シャルロットさんから語り出すのだった。
「――ありのままを言っただけよ」
「? ありのまま?」
「ええ……」
顔を上げたシャルロットさんは、続く言葉を投げかける。
「……あたし達のグループに入らないかと……誘っているのよ」
「ああ」
それに何となく察するスバル君。
「今あたし達は、優秀な人材を集めています!」
「! ……」
頭を痛めていた久保星斗総帥が、それに気づき振り返る。
「そこで、地球の大財閥の3本の指に数えられるワールドシステムロード社のあなたの存在は……外せません」
「……」
そう言われて私は、ボソッと呟いた「地球1だ……」と。
「あっ……アハハハハ」
とこれには笑って誤魔化すシャルロットさん。
とこれには横にいたヒースさんも嘆息する思いだ。
「? 大財閥……?!」
「「?」」
「?」
僕は首を傾げる思いだ。
「変だな……僕はTVで見た時は、大企業で通っていたはずだけど…………!?」
「ああ」
「そーゆうこと!」
そんなスバルの疑問に、タマキとツムギさんが反応を示したのだった。
「君々!」
「んっ?」
「大企業というのは合っているわよ! ただし、それはグループ的なものの長ね」
「長?」
「財閥というのは、いくつもの企業を有し支配している人だ!」
これには横で聞いていた久保星斗総帥様も嘆息した。そんな事もわからないのかと……ッ。
それがスバル君の力量(レベル)なのだ。
なおも、息子さんタマキ少年の説明が続く。
「一番わかりやすく言えば、お金持ちの一族が経営する企業グループだと考えてくれ!
父さんの会社の下には、
お金に関する銀行を初め、保険会社、IT、軍事、公的機関への繋がり、
飛行機や船、ロケットなどの部品工場、電機、商事、郵送運搬運輸、工場や工業、薬の製薬会社、病院、不動産、建設業等々……数え出したらキリがないほどの大企業に融資している。
大企業の集まりなんだ。これを財閥と呼んでいる」
「大財閥だ……!!」
「そうよ……つい最近まではね……!」
一同の間に沈黙の間が流れる。
それを言っていた娘ツムギちゃんも息子タマキ少年も、拳を震わせるほど悔しい思いだった。
失うのは、ホントに一瞬だった……ッッ。
「……」
「……」
「……」
久保星斗総帥、久保夜空、ニューズと重い顔をしていた。
あの日、彼等はすべての財を失ったのだ。
その時、シャルロットさんが。
「――過去の栄華を、再び、取り戻しませんか?」
と投げかけた。
「だから何度も言ってるだろ? 地球が氷漬けになって、もう私達にできる事は何もないと……!!」
「……」
「「……」」
これには妻も子供達も、望みがないほど打ちひしがられていた。
「もう、ほっといてくれ!!」
「……」
「……」
「……諦めるんですか!?」
「――!」
――振り返る久保星斗総帥。
その口をついて出た言葉は、希望の少年スバルのものだった。
「……僕は諦めませんよ……絶対に……!!」
「……」
「……他の人が諦めても、僕は諦めないから……!! いつの日か、必ず、地球を復興させて、再び地球の難民達を、僕達が建てたファミリアに入れるから!!!」
「「……」」
頷き合うヒースさんにシャルロットさん。
そして、久保星斗総帥たちが口を開いていく。
「なに?」
「地球を復興……?」
「何言ってんだお前……ッ」
「本気……ッ」
「うん!! ――この宇宙には、まだ未知の科学技術がある!! 眠ってる……!! だから、僕が橋渡しになります!!」
それはあの日の言葉を想起させた。
見詰めるのは、ヒースさんとシャルロットさんの2人だ。
「……」
「……」
――その言葉は、その言葉の重みは、あの時、宇宙の法廷機関の場で宣言した言葉だった。
「僕は諦めない……!! だけど力がない、人脈がない、人手が足りない……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「それに、やり方だってわからない……だから、もがくしかないんです!! みっともなく無様に……ただただ動くしかありません!!
……でも、そんな僕でも、周りにはヒースさんやシャルロットさん」
「!」
「!」
「アンドロメダ王女様やデネボラさん、そして、L達みんながついてる!
……。
……今は答えを出さなくていいです。けど考えておいてください。――僕のファミリアに入らないかと」
それはスバル君からの勧誘だった。
「「……」」
「「……」」
「「「「「……」」」」」
「……」
言葉を失ってしまう久保星斗総帥に夜空、タマキ少年にツムギちゃん、そしてニューズさんたち豪華客船に乗っていた乗員たちは、そのスバル君の行動にただただ驚くのだった。
スバルはその背中を向けて、歩み出していくのだった。
「……」
「……」
その行動を見送るのは、ヒースさんとシャルロットさんの2人で。
「また、呼びかけます!」
「……何度でも……!」
ヒースさんがそう言い、シャルロットさんが会釈をして、この場を去っていくのだった。
それを見送っていた人達は。
「……クソッ、何だよあいつ……、……クソッ……」
「……」
タマキ少年が愚痴を零し、久保夜空が、その少年の背中を見詰めるのだった……――
☆彡
で。
「スバル君!」
「!」
僕に声をかけてきたのは、デネボラさんだった。
「もうすぐ、一般の人のくじ引きが始まるわよ。壇上に上がってくれる?」
「わかりました」
「うん」
と小さく頷き得るデネボラさん。そして、ある事に気づく。
「……あれ? Lは?」
「ああ、Lならあっちのず――っと遠いところから気配がしますよ!」
僕はその方角を指さした。
「何だってまた。ハァ……」
溜息をつきたくなるデネボラさん。
「はは……」
これには僕も苦笑いしかない。
「仕方ない。後で私が呼び行くわ」
「あれでも、相当離れてるから、Lみたいにテレポート(チルエメテフォート)ができないと……!」
「チッチッチッ!」
「?」
「わかってないなー! あたしもできるのよ。テレポート(チルエメテフォート)!」
「ええっ!? そうなの!?」
「当然でしょ? テレポート(チルエメテフォート)なんで、エスパー系の初歩じゃない!」
「初歩なんだ……」
意外な事実が判明したのだった……。
「瞬間移動が初歩って、何だそれ……」
「――あっちの方角ね」
デネボラさんがそっちの方角を向いて、意識を集中すると。
「……って何やってんのあの子?」
「んっ……?」
僕も意識を集中して、その気配を探る――
☆彡
――白い鳥を通して、現在の状況を俯瞰する。
「ヒィ! ヒィ! ヒィ!」
ゲォオオオオオ
【ヴァツラクロコヴィオス】
と雄叫びを上げる大型の生き物。
それはアンドロメダ星の生き物で、爬虫類のトカゲみたいな見た目をして、顔がカエルみたいな、全身がワニのクロコダイルみたいな殻に覆われていた。
その頭の上に乗っているのはLで、遊んでいた。
その大型の目の前には、ワザとサイコキネシス(プシキキニシス)で浮かせている好物の食べ物があった。
その生き物は、必死で好物を食べようとしているが、決して食べられず。
その代わりに、大型生物が人を追いかける体ができていた。
逃げまくる4人は、汗だくで、それこそ必死で逃げていたのだった。
「ヒッ! ヒッ! ヒッ!」
「もう何でこんな事になるのよ――!!」
「パパ――!! がんばって――!!」
「ヒー―ッ! ヒ――ッ! もうっ何をどう頑張れと!?」
その時、パパさんの足が石につまづいて、前のめりにドシャンと転がるのだった。
「うわっ!!」
「「「あああああっ!!!」」」
グォオオオオオ
迫る絶望の大足。
その大型の生物が動く度に、その尻尾が触れて、その先端についている鉄球みたいな鈍器が、木の幹に当たり、簡単にへし折れていく。
あれに踏まれたり、体当たりされたり、鈍器にぶつかってもあっけなく最期を迎えてしまう。
クソ――ッ何だってこんな事に。
ヤバい、ヤバい、ヤバい。
「クッ……」
(俺もここまでか……!!)
その時、シュンッとスバルを連れたデネボラさんが現れた。
「!」
「「「!?」」」
驚くパパさんに。
美人三姉妹もこれには驚き得る。
いきなり少年が、窮地の場面に現れたからだ。
きゅ、救世主か。
すかさず、デネボラさんがサイコキネシス(プシキキニシス)で止める。
パパさん、美人三姉妹の目には、まるで少年が停めたように見える。
とこれにはLもビックリだ。
「えっデネボラ!?」
「……」
デネボラさんは至って涼しい目で、その大型の生物を、念力の力で軽く弾き飛ばすのだった。
「!!?」
ドドォオオン
と土煙を上げながら、面白いように転がっていき、無防備なお腹を上に向けて倒れる大型生物……。
グォォォォォ……。
「「「「へ?」」」」」
「何だ今の生き物……!?」
「……」
「……」
僕がそんな事を考えていると、デネボラさんがLを見ていて。
「こらっL! 遊ぶんじゃありません!」
「え~~!」
「え~~じゃないでしょ! あんな生き物で遊んで、……可哀そうでしょ?」
「……可哀そう……なのかな……」
グォォォォォ……
「う~ん……こうしてみるとなんとなく……」
スバルは興味を持ち、その大型の生物の元へ歩み出すのだった。
近くまできて、見てみると……。
その大型生物は、唸り声を上げながら、呻いていた……。ちょっと可哀そうである……。
「ふ~ん……」
僕は興味を持ち、その無防備なお腹に触れると……プニュッ、プニュッ、プニュッ、プニュッとしていた。
「あれ? これ? ……なんていうか、ゼラチン質というか、豚足みたいな……?」
「!?」
これには生き物も慌てて、ジタバタするのだった。
「こいつってもしかして……食べられる?」
グォ!?
「……うん、食用の1つだよ」
「……」
スバル、L、デネボラさんと述べて。
これが食用だと知り、デネボラさんも渋々、食用の許可を降ろすのだった。
――ドンッ
その時、この森に一条の雷が落ちたのだった。
その理由は、もはや語るまでもない。
☆彡
【ファミリア星立総合運動公園陸上競技場】
ザワザワ
と人だかりができていた。
難民達みんなの関心を引いたのは。
パチッ、パチッ
デネボラさんとスバル君が仕留めた、あの生き物の肉だった。
まる焼けで香ばしく、美味しそうな匂いであげていて、食欲をそそる。
だが、見た目が悪いのはご愛好だ。
「――そろそろできたかな?」
スッ
と僕が懐から取り出したのは、『恵ケイの護り刀』だ。
僕はそれを使って、硬い殻を裂いていく。
「あっホントだ! デネボラさんが言うように火を通したら鱗に刃物が入る……!」
僕はデネボラさんから指示を受けていて、そのお肉をカットしていく。
「……」
そして、今、取り出したのは、一口サイズのお肉だ。
「……頂きます」
モグモグ、モグモグ、ゴックン
と咀嚼してから飲み込む。
お味は……。
「………………」
一言も発せない後ろを姿を見た人々は。
「やっ、やっぱり……毒があったんじゃ……」
「あんな見た目の悪いものを食べるからよ……」
だが。
「……意外にいける!」
「「「「「えっ!?」」」」」
モグモグ
「ん~~っなんていうか……、
こう鳥のタタキと合鴨肉のハム、それをボンレスハムを足して2で割ったような……。
それでいて、このコリコリ触感! 豚の豚足とコラーゲンが混然一体になって、
フルーツを原料に食べている生体だ……。
不思議と甘みがある……これは糖質や脂質か……?
……こいつ、ひょっとして、キリンやウサギみたいな草食動物なんじゃ……!?」
「!?」
「ええ、当たりですよスバル君」
「ああっ! やっぱり!」
「……」
「!」
先にデネボラさんが振り向いた先は、皆さんだった。
僕も合わせるように振り向いて。
「……あぁ良かったら、皆さんも食べてください。中々いけますよ。あむっ」
――その後は、少年スバルが調理したものを、周りにいた大人たちが群がり、その肉を切り取って食べていく。
みんないい笑顔を浮かべており、これが初めてのアンドロメダ食だった。
とそこへ足を運んでくる人が。
「!」
「スバル君!」
その人物はアユミちゃんだった。
クコンちゃんやクリスティさんの姿はなく。……僕同様向こうに任せてきたか。
「これ……なんて名前のお肉なの?」
「えーと……」
僕が振り返った先は、デネボラさんとLだった。
デネボラさんがその名を告げる。
「ヴァツラクロコヴィオスのお肉ですよ」
「ヴァツラクロコヴィオス……」
「へぇ~……なんか美味しそうな名前……」
ググゥ~~
とその時、アユミちゃんのお腹から可愛い腹の虫が鳴ったのだった。
とこれには一同。
「「「「あっ……」」」」
アハハハハッ
と呵呵大笑を上げるのだった。
☆彡
それから僕達は、デネボラさんに促されて、再び壇上に上がる。
次に執り行われるのは、一般人枠のくじ引きだった。
まずスピーチを行うのは、ティフさんだ。
『これから一般人枠のくじ引きを行う!』
「……」
手に皿を持ち、その肉を食べる一般人たち。
その後ろでは、肉をごっそり食べられた可哀そうな草食動物『ヴァツラクロコヴィオス』の姿があったのだった……。
骨がカタッとなる……。
もう残っているのは骨だけで、尻尾にあった鈍器の鉄球みたいなものは、子供達が手掴みで掴みながら、圧すなどして遊んでいた。
「クッ…クッ……」
「オオオオオ」
「重い~~……」
「「「どうやって運んだのこれ――っ!?」」」
まだ幼い子供達は、それを圧すことを楽しんでいた。
だが、まだまだ子供なので、力が弱く、とても圧す事なんてできなかった……。小さな幼子たちの力では。
『――! ――!』
スピーチを続けるティフさん。
その近くでアンドロメダ王女様(わらわ)は物思いにふけっていた。
(――なるほど。あの地球人たちの対応の変わりよう、緊張を和らげる効果があったか……フフフッ。
さしずめ、氷漬けになる母星から離れ、初めての星で極度の緊張状態にあったのじゃろう。
それは警戒心に当たる……。
……つく昨日まで、学校に通い、会社に通い、いつもの日常生活を送っていた……。
友達、家族、兄弟、親戚、会社の同僚等との付き合いを離れ、孤独を送るものも、中には少なからずいる。
それはこの顔ぶれを見ても、一目同然……!!
予想に反して、大人よりも子供の数の比率が多く感じられる……。
それはなぜか……!?
……これはおそらく、スバルがあの時言っていた言葉。
……頭の中にマイクロチップを埋め込んでいた大人たちがおったのじゃろう。
あの時、わらわが地球に報復を仕掛けた日、わらわの攻撃の余波を受け、脳に埋め込まれていた電極が異常動作過電流を起こし、脳死に至る……。
これは、スバルたちから聞いた話をまとめると……、そう結論づけられる。
……スバルの親は、わらわが殺したようなものじゃ……。
……恨みも買おう……。
じゃが……、本人にはその意思が見られない……。
…………気持ちの整理もつかむじゃろうに……なぜ……!?
……。
じゃが……! 今地球人に必要なのは、今じゃ!
下手に調理した料理をふるまったところで……、
……その警戒心をより強めるだけ――……」
『俺の親は殺されたようなもんだ、クソッ、クソッ』
『パパ……ママ……どこ~~』
『何であたしだけ、こんな目に……』
『あの日、突然……宇宙人たちに殺された……』
『俺は、騙されないぞ』
『……あんな子供を使って……魂胆が見え見えだ』
『……絶対に、許せない……ッッ』
「――……多分に、そんな輩はチラホラいた。みんな怒りを溜め込んでおったのじゃ。
このどうしようもない現実に……ッッ。
……過酷じゃ……! スバルも心が辛かろう……。
あの齢(よわい)で、周りを牽引していかなければいけない……。
……わらわにできたであろうか……!?
いや、できぬはずじゃ。
それは多くの子供達にも言える事。
……あれぐらいの歳なら、訳も分からず泣きわめき、どうしようもない現実に圧し潰されて、1人で閉じ籠っておるはずじゃ……。
何がこうまで、スバルをかりたてる!?
不安でいっぱい、その双肩の重圧は並大抵のものではない……。
……あの『ヴァツラクロコヴィオス』の食用肉は、スバルなりに考えたものじゃろう。
……。
……何か、何か、何か……いい手はないかと考えていたはずじゃ。
その時、ふとLの気配がこの競技場から消えておった。
おそらく、何か口にできるものをと……探しておったはずじゃ!
求められた食材は、特別な調理などいらない、原始的な食べ方じゃった……。
下手な手を加えるより、何よりシンプルさを求めた。
……こちらは小細工はしていない。
それは相手方の警戒心削ぎ、安心感を得る……。
その為に、進んで自ら食べた。
これは、何も怪しいものはないと、集団に訴えた。
……スバルなりに工夫を凝らした、真っ当なやりよう……)
「……フフフフッ、色々と参考になるわ」
「?」
(のぅ……スバルや)
その声に不審に思い振り向いたのは、アイちゃんと周りの3英傑たちとデネボラさんだった。
「あれはお前のアイデアか?」
「いいえ」
「?」
「ただ、そこに目の前に、未知の食材があったので……」
「……」
「食べたかっただけです」
「……」
「……」
「……は?」
「そもそも、セラピアマシーンで起きてからスバル君、一口も、何も、口にしていませんので……」
「あっ、そゆ事……」
沈黙……。
何てことはない、ただ食べたかっただけだった……ザ・シンプルイズザ・ベスト、単純明快だった……。
TO BE CONTINUD……