第2章の第30話 先達としての落とし前と試練! 勝負レグルス 試合スバルの勝利
(僕の全部を持ってけぇえええええ!!!」
冷気の大瀑布が打ちつけられた。
その時、『光熱球』に閃光が発せられ、瞬く間に大爆発を起こしたのだった。
天井が、壁がその大爆発に屈し大きく爆ぜ飛んだのだった。
ドォンとその建物から爆煙が立ち昇った。
アンドロメダ王女の宇宙船にて。
モニター画面に映るその光景を見ていた者達は。
「ん?」
「あ?」
それはヒースとシャルロットのちょっとした呟きだった。それに対しわらわは流し目を送った。
(ようやく気づいたか……)
「これ……ひょっとして指導……してる?」
それはシャルロットの感じた言葉だった。
「そうですよ」
「!」
「……レグルス隊長とは長い付き合いだからわかるんですけど、あの人、伝えるのがどうにも苦手みたいで、あー言ったやり方になりがちなんですよ。
だから、よく周りで誤解を招いてしまう。
衝突の原因を作るから、前に色々あって、ロクな人生経験を送れず、性格が捻くれてしまった……。
フゥ……。
だから、これはスバル君に残せる最後の指導として、嫌な役回りを演じてくれてるのです」
「そんなまさか……!」
「レグルスとは、そんな不器用な漢なのじゃ……」
わらわはそう言い含め、モニター画面に映る戦いの行く末を、その不器用な指導法を見送る。
その事を知らない、その事に気づけないスバルは、全力の戦いに応じる。
(さあ、次の一手はどうする!?)
レグルスは、数少ないスバルが全力を出せる相手だ敵だ。だからこそ、その配役を演じきることができる。その力を引き出すことができる。
室内の至る所で小さな炎が上がっていた時だった。その歌声が響いたのは――
「『――我、大地の女神ガイアと契約を結びし者なり。古き大地の精霊達よ、天を地に返し、地を統べよ』!!」
それはスバルの詠唱の歌声だった。その声は弱々しく、たどたどしい。ただし、力強い声だ。
Lが「スバル」と呟いた。
レグルスがどこからくるのかと周りに警戒を払う。
周りは爆煙だ。一寸先は闇。相手がどこにいるのかわからない。
だけど、スバルにはそれがわかる。『危機感知能力』クライシスサーチング(クリシィエクスベルシーフォラス)がそれを可能にしていた。
その時、シャ――ッと滑る滑走音が聞こえた。
「!」
俺はその音がした方向黒煙を見た。すぐさま炎上エナジーア弾を撃つ。
黒煙を払い壁に着弾し、炎が上がる。
(外したか)
俺はその手を下ろした時、足元を見た。
(凍っている)
それはさながら氷のリングのように。
その時、シャーッ、シャーッ、シャーッとまるで複数人の人がいるかのように滑走音が聞こえた。
俺はたまらず炎上エナジーア弾を撃つ、撃つ、撃つ。
外れる、外れる、だがそのうちの1つに着弾し、瓦礫の破片が燃え上がった。
俺は瞬時に悟った。
(ダミーか!)
つまりこの音の正体は、たくさんの瓦礫の破片(ダミー)を飛ばして滑らせて、俺の注意をそれに向ける事だった。
つまり本体は。
その時、ダンッと力強く飛ぶ音がした。
「そこだあ!!」
俺は炎上エナジーア弾を撃った。
それが黒煙を払い、その先にあった瓦礫の破片を爆砕、瞬く間に燃え上がらせた。
「何っ!?」
これすらもダミーだった。
馬鹿なタイミング的に外しようがない。なら本物は――
――その時、シャ――ッと俺に急接近してくる奴がいた。奴だ。
しまった、ワザと音を立てて俺の意識をこれに誘導させたのか、その間に奴は俺に急接近していた。
完璧なタイミングだった。
もうここ以外にチャンスはない。
「『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタァ)!!!」
突き出すその手、それはスバルのものだった。
その瞬間、ズドォオオオオオンとレグルスを重力場に閉じ込めた。
「ウォオオオオオ!!」
「ニギギギギギ!!」
重力場に抗うレグルス。
逃がしてはならぬものかと力を込めるスバル。
そして――
「呑め!! 『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタァ)!!」
スバルの呼びかけに呼応するように。重力場が変形し、重力球に転じた。
引力の法則にしたがい、周り中の瓦礫の破片と黒煙が吸い寄せらていく。
その瞬間、周りが晴れた。
これは攻撃を畳みかけるチャンスだ。
「『氷原を荒べ、100条の氷柱(つらら)! 我が腕に宿りて、彼の者を撃て』!!」
「!」
スバルの呼びかけに応えるように、冷気の気流がその腕を中心点として渦巻く。
「『氷柱』アイシクル(パゴクリスタロス)!!!」
その手を突き出して砲声す。
地を這う氷柱、空中を飛ぶ氷柱の雨が連続射撃を敢行する。
それは吸い込まれるように重力球の中へ入っていき、次々と氷の華を咲かせた。
「ハァアアアアア!!!」
攻撃の手を緩めない。このチャンスを逃してなるものかとばかりに、撃つ撃つ撃つ。
次々に投じられる氷柱の雨は、重力球の中に吸い込まれていき、氷の華を咲かせていった。
そんな中、僕は有り得てはいけないものをみた。
笑ったんだ。レグルスが……。
「!?」
そして、重力球が臨界点を迎え、瞬く間に爆ぜた。
その時、当商業施設の外観のどこかで大爆発が起こり、比喩抜きで滑るように傾いた。その大爆発のあった箇所から黒煙が立ち昇ったのだった――
――ズゴゴゴゴゴ
黒煙が室内全域を覆っていた。
その時、一陣の風が吹き、室内全域の黒煙を払っていく。
立っていたのはスバル、そしてレグルス。宙に浮かんでいるのはLだった。
スバルはボロボロ、その腹部からおびただしいほどの出血量が。
レグルスもボロボロ、その様はまさに満身創痍だ。
「ゼエッ……ゼエッ……」
「ゼハッ……ゼハッ……」
僕は腹部の出血を抑えるために手で押さえていた。
僕も、あいつも、もう体力と魔力の限界だ。
(やばい、目が霞んできた)
それは両者同じだろう。
グラッ、グラリといってなんとか意識を保とうとしていた。いつ体が傾き、倒れてもおかしくない重症ぶりだ。
それはこの出血量とエナジーアの粒子から見ても、明らかだ。
その時、おぼつかない足取りで歩んできたのはレグルスだ。
僕も、それに応えるようにおぼつかない足取りで進む。
相中で、僕達は相まみえた。
「ゼエッ……ゼエッ……」
「ゼハッ……ゼハッ……」
お互いの呼気がうるさいほどだ。
「これで最後だ」
「ああ、これで」
レグルスの手がボッと燃える。
僕の手がキィンと冷える。
「……」
L(僕)は刮目していた、その眼に映るは、2人の男の聖戦だ。
それはさながら、アンドロメダと地球の決着であるかのように――
レグルスは拳を振りかぶる。
スバルも拳を振りかぶる。
両者ほぼ同時にその拳を打ちつけた。
炎上するはずだったその拳が、相手の体にぶつかっても燃え広がらない。
氷付けにするその拳が、相手の体にぶつかり凍てつく。
まるで対照的。
殺さない拳(炎)と殺す拳(氷)だった。
両者、ここから行うのはただの殴り合いだった。
レグルスのボディブローがスバルの腹部に叩きこまれる。その箇所から出血する。
「グッ」
スバルがその拳を片手で掴み、ジャンプをし、もう片方の拳を叩きこむ。
「ヘッ」
ドカドカとリングの中央で両者一進一退の攻防を繰り返す。
バキッとその顔を殴られたスバルが、殴り返す。
ドカッとその胸を殴られたレグルスが、殴り返す。
「ゼハッ、ゼハッ」
「ゼハッ、ゼハッ」
両者戦い疲れたのか、その腕をだら~んとしていた。
「ゼハッ、ゼハッ……中々楽しめたぜ、地球人! だが、やはり勝つのは俺だ」
俺は最後まで演じきる。
ボッボッと弱々しく燃える炎が、ボォオオオオオと燃え上がり、光熱の炎上爪になる。
「爆華炎上爪!!! これで決める!!」
「……」
やはり妙だ。
戦い疲れているのか。こいつの技からは殺す気がしない。
上手く言えないが、見せかけだけだ。
「ゼハッ、ゼハッ……」
僕は足元を見て、転がっている『鉄筋の棒』を見つけ、それを拾った。
「何のつもりだ!?」
「――お前を叩き伏せる!!」
なんか納得がいかない。釈然としない。
僕は殺すのではなく、倒す道を選んだ。
だが、そのためには勝たなければならない。身命を賭して――
「――もう忘れたか!? 俺達エナジーア星人にはほぼどんな物理攻撃もきかないんだぞ」
「このままならね。だけど……『氷柱』」
スバルが手に持っている『鉄筋の棒』に冷気の舌が伝い、パキパキと氷漬けにしながら拡張していく、冷気の気流が逆巻き、それはまさしく『氷の剣』としての生成だった――ヒュオオオオオ
「魔法剣の真似事か!?」
「ゼハッ……これできくだろ!?」
「ゼハッ……フンッ」
「フッ」
L(僕)は、2人の顔を見て「2人とも笑ってる」と呟きを落とした。
レグルス(俺)は、左手で利き手の手首を固定(ホールド)し『爆華炎上爪』に力を込める。燃え上がる炎。
その熱が僕の元まで届き、チリチリする。
スバル(僕)も『氷の剣』をしっかり握りなおし、力を込める。凍てつき冷気の気流。
その冷気が俺の元まで届き、ヒンヤリする。
「行くぞ、『爆華炎上爪』!!」
(『怨魔轟臨』に氷柱を込める!)
「はぁあああああ!!」
怨っと最後の力を振り絞り、怨魔の気炎を全身から発するスバル。
両者ほぼ同時に必殺技を繰り出す。
レグルスが繰り出す技は、爆華炎上爪。
激しく燃え盛る爪を振り下ろし、攻撃の瞬間に最大パワーをぶつける技だ。
対してスバルの繰り出す技は、ただの怨魔轟臨ではなく、氷柱の冷気を込めた怨魔轟臨であった。
その身から怨魔の気炎だけではなく冷気の気流も噴き上げる、この土壇場で出す合わせ技だ。それを武器に乗せ、攻撃の瞬間に最大パワーをぶつける技だ。
互いの必殺技は相反し、似通っていた。
両者の必殺技がぶつかり合うドォンと。
業のせめぎ合いが両者を襲う、激しい炎と冷気が暴れ狂う。
「ヌグッ!!」
「うああ」
レグルスの全身が激しく傷つき、エナジーアの粒子が噴き上がる。
スバルも全身が激しく傷つき、皮膚を裂き、鮮血が舞い散る。
「「あああああ」」
2人とも屈するものかと、負けてはなるものかと組み合ったまま、必殺の波動をぶつけ合う。
圧しつ、圧されつの激しい必殺のぶつかり合いが続く。
「ヌオオオオオ!!」
「あああああ!!」
その様子を眺めていたLは「まるで炎と冷気のぶつかり合いだ」と零した。
その時、シシドが目を覚ました。
それは両者の高い必殺技のぶつかり合いの中で目を覚ましたものだった。
その眼に映るのは、冷気を操る少年と何者かはわからない炎のぶつかり合いだ。
それは感動ものだった。
その時、少年の心をくすぐった「……スゲェ」と呟きが落ちる。
そして、ようやくこの場に医療カバンを引っ提げたクリスティが到着した。
その口から零れたのは「スゴイ……」だった。
「ハァアアアアア」
「クアアアアア」
ドォンと両者の必殺技がぶつかり合ったまま、それを下に向けて着弾爆発させるのだった。
爆ぜる大爆風。僕達は吹き飛ばされた。
ドォンと俺は瓦礫の中に叩きつけられた。
ドォンと僕は壁に叩きつけられ、肺から呼気が「ガハッ」と漏れた。その際、手に持っていた『氷の剣』を落とした。
その大爆風がL、シシド、クリスティにも押し寄せる。
「んっ」
「クッ」
「キャ」
その大爆風が止むと粉塵が舞い上がっていた。
あたしはそれを見て「なんて子なのよ!!」と叫ぶ。
「……」
うつぶせで倒れているスバルは、その身をググッと起こして。バタッと仰向けに倒れた。
「ゼッ……ゼッ……」
(どうすればあいつを倒せる……!?)
「ゼッ……ゼッ……」
(体力はもう限界の限界、もう空っぽだ……)
僕は手に力を込めた。その手指はブルブルと震えていた。
無理もない、僕は怖い敵と戦ってるんだ。死線だ。死にたくない、だから戦うんだ。生きるために……っ。
(……怖い、逃げ出したい、でも死にたくない……っ!! でも)
僕はググッ……とその身を起こそうとしていた。
だけど、ガクン……と力が入り切れず、僕は起き上がれない。
(ダメだ、心が負けてる……)
「ゼッ! ゼッ!」
僕は荒い呼気を吐いた。
そして、この建物の穴から見える外の景色を見上げた。
空は黒雲で覆いつくされ暗く、吹雪が吹雪いてた。そして時折、ゴロゴロと雷鳴が鳴り響いていた。
ゴロゴロ、ゴロゴロ、カカッ
ピカッと光る青白い雷光(光の速さの三分の一、秒速約10万㎞)
ゴロゴロとなる雷鳴(その音の速さ秒速約340m)
雷の本体である稲光(秒速約200㎞から10万㎞の速さで)落ちる
そのスバルの眼に、しっかりそれが捕らえられた。
★彡
――その時、スバルの精神世界での記憶が蘇る。
それは、女の先生の一言から始まる。
「やっぱりスバル君は、魔法の才があるわね」
僕はそう言われる前、手を突き出した姿勢であり、ある魔法を放った後だった。
「魔法のステージを上げる前に、ここで1つおさらいしましょう。『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィチィタァ)を覚えるときは、さぞ苦労したでしょう?」
「うん、最初の魔法だからか、物凄く難しかった……」
「それもそのはず! 『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィチィタァ)は神の名を冠した神聖魔法だもの!」
「……え?」
「初級魔法、中級魔法、上級魔法、極大魔法、神聖魔法の5段階があって、氷魔法を例にしましょうか!?
『氷の球』『氷柱』が初級魔法、
『氷瀑』が中級魔法、
『氷の嵐』が上級魔法、人によってはこれを合成魔法だなんて論じる人がいるけど……。まぁ、どっちでもいいけどね。
で、『凍る世界』が極大魔法!
そして、神聖魔法のヘルメスの名を冠した魔法がある……!
氷の極大魔法と氷の神聖魔法。
この2つはどちらも絶対零度だけど、その域が違う!!
限界突破をできるのが神聖魔法の凄いところ! まぁ詳しく言えば差別化にもなるんだけど……。
今は言っても、よくわからないか……!?
……もうわかるでしょ? 敵の力があまりに強大で、時間がなかったから、基本とか順序を無視して、あなたは神聖魔法を習得したのよ!」
「えええええ!?」
これには僕も驚く。
先生はしたり顔で、師匠は黙って頷いた。
「……」
僕はそれを聞いて唖然としていた。だが、ここである疑問が浮かぶ。
「……あれ? 僕、氷柱と氷瀑はできるけど、氷の球は教わっていないような……?」
「……マズッたわ」
先生は僕から目を反らすように後ろを向いて。
「また順序を無視してた……」
「「オイッ!!」」
またやっちゃった感の先生がいて。
その後ろから僕と師匠がツッコミを入れたのだった。
で、向き直って、平常運転に戻る先生。
「……まぁ後で教えればいいか!」
快活の笑みを浮かべる先生。
僕の魔法の先生は、そんな感じの人だった……。
(人選ミスなんじゃ……)
僕がそんな事を思っていたら、師匠が言葉を投げかけてきて。
「……氷の球を教えるのか?」
「いいえ、教えない」
「……なに?」
師匠の助言を、先生は軽く一蹴した。
「やろうと思えば、もうできるもの! 後は自分でできるようになると思うし、ノウハウの心配はないわ。
氷柱の時、もう教えてるもの。だから、今更基本を教える必要がない!
……ね、スバル君!?」
可愛く笑みを浮かべて、首を横におる先生。
「……」
「……」
僕も師匠も、何も言えない。明らかな人選ミスだ。
ホントにこの人が魔法を教える先生でいいのかと思えてくる……不安しかない……ッ。
「うーん我ながらよくできた大先生ね! 過程を通り越して結果に辿り着く最短な道のり! あたしこそ大魔導士だわ! ホホッ」
「……」
僕はあまりのショックでゲンナリしていた。ホトホト疲れる……っ。
師匠はそんな僕の肩に手を置いて。こいつには何を言っても無駄だとばかりに顔を振った。
とてつもない人選ミスだった。
「……で、これから何を教えるんだ?」
「スバル君、両手に炎と氷を発して、左手には炎、右手には氷よ」
「? ……」
何をする気なんだろう。
僕は先生に言われるがまま、左手には火炎、右手には冷気を発現した。その氷の球は、教え忘れていた冷気の球だった。
「これが炎の球と氷の球! 実はこの2つは、温度変化なの!」
わかりやすい図にすると温度の上昇が炎、温度の低下が氷だ。
「グングン温度を上げれば、炎の中の分子の働きが活発になる火炎! 対してキンキンに温度を下げれば、冷気中の物質の働きが弱まる冷気! 実は、この2つは対比なのよ!」
「……」
僕はこの説明を一度受けているので、頷いて答えた。
「この2つを合成しようと思っても、大気中の分子の運動の変化が生じて、温度の反発作用が生じ、分子運動の渦が起こる。これが風の気流となって発生する! 試しにやってみて」
「よっよーし!」
僕は、試しに火炎と冷気をぶつけ合った瞬間、光が爆ぜて、風が乱気流となって暴れた。そのせいで僕は、軽く吹っ飛んだんだ――
「――うわっ!?」
ドサッと遠方に投げ出されて倒れる僕……いっ、痛い……っ。
「……」
その様を見て言葉を無くす師匠……。
「魔法の開発は、失敗の連続だわ。あたし達魔法使いは、日夜こうやって失敗を繰り返して、偶然にも新たな魔法を発現していくの……開発の歴史よ!」
とシリアスに決める先生。
その頃僕は、「痛てて」と起き上がる。
「いや、絶対にお前、こうなることを知っていた上でやらせただろ?」
「テヘッ! バレた?」
((……年を考えろ!))
僕達は心の中で思うだけで、それを決して口には出さなかった。言ったら言ったらで、また騒ぎになるからだ。
(騒ぎになると、またこの人ヒステリックを起こして手に負えないからな……)
「ハァ……」
僕は溜息を零した。
それを不審に見ていた先生は。
「――今の溜息……なに?」
「なんでも……」
「……」
僕はあえて言わないことにした。
先生もそれ以上は言及しない。
その様を見ていた師匠は。
(人間できてきたなスバル)
うんうんと頷く師匠。
(お前はヒステリックを起こす女とは付き合うんじゃないぞ。後々大変苦労するからな……!)
師匠は、弟子の将来性を心配していたのだった。
ハッキリ言って、人を騙す女や、証拠隠滅を行う女、ヒステリックを行う女とは、お付き合いは願い下げだ。
「――まぁいいわ。話を続けるわね」
「……うん」
「だからあたし達は、この自然現象を当てはめて考えた……それは雲にあった!」
「雲……?」
「低気圧と高気圧は知ってるわよね? 知らなくても話は進めるけど、いいわよね!?」
「えーと……」
「じゃあ、進めるわね」
「……」
弟子が何を言ってもダメな人なので、そのまま説明モードに入る先生。
「高気圧とは、大気中で周囲と比べて、相対的に気圧の高い所、そこから風が周囲に吹きだす。その特徴としては下降気流。
対して低気圧とは、大気中で、周囲に比べて相対的に気圧の低い所。風がそこへ吹き込む。その特徴としては上昇気流。
つまり、何がいいたいかというと、大気圧の違い!
大気圧とは、空気中にある物体に働く圧力の事。
スバル君が魔力を1込めるだけで、1013.25ヘクトパスカルの大気圧が、その風の気流が生じたわけね。
風の代表格としては、それは台風が当てはまるわね。
その中心気圧は、905ヘクトパスカル!
一般的に、気圧が低いほど危険度が増すのよ!」
「え~と……」
「スバル君は、火と氷では冷気が得意だから、風の性質変化では、台風が発現しやすい!!
対して火炎が得意な人は雷の素、電荷の働きを表してプラズマを発現しやすい傾向にある、そこから雷撃を放つことができる!!
なぜ、風の性質変化で、この二極化に分かれるのか?
嵐、大雨、暴風、雹の礫、そして雷。
この謎に迫る必要があった……!」
キィーン
魔法の先生の掌の上に、風と冷気が集まり、雹が生成される。
地上で観測できるあたし達には、できる事はたかが知られている……!!」
「……」
「温度が上昇すると、物質は個体から液体になって」
雹が溶けて、水になる。
「液体から気体に状態変化する」
そのまま水が沸騰して、水蒸気になったのだった。
「これが物質の三態よ」
掌の上に残ったのは、水滴の後だった。
「……実は、これには先のステージがある!!」
「!」
「気体の次は、プラズマよ」
「プラズマ……?」
「……」
「……」
先生が師匠の方を見て、師匠が頷いた。
その手を僕が見えるようにして、魔法を発動する。
バチッ、バチチチチチッ
それは青白い電気だった。
「青白い……電気……」
バチチチチチッ……
その青白い電気が、僕の目の前で消えていっていったのだった……。
魔法の先生の話が続く。
「物質の状態変化は、今わかっているだけで、全部で5態!!」
「5態……!?」
コクリと頷いた後先生は。
「物質の崩壊よ。あたし達はこれを『コラープス』と呼んでいる」
「『コラープス』……」
【――物質の第5の状態、『ボース=アインシュタイン凝縮(BEC)』である】
【物質とは、そもそも粒子の集団の結びつきであり、その形を保っているものだ】
【その粒子の集団が、ある一定の温度以下で、突然、最低値のエネルギー順位に落ち込む状態を指す】
【簡単な例で言えば、プチトマトがあり、それを極低温のBECに生じさせると、各原子の波動関数が互いに重なり初め、振動する】
【その後、粒子系全体が同一の波動として、振舞うようになり】
【その形を保っていたプチトマトが、波動崩壊を起こし、中心部から奇麗に、球体状に崩壊して爆発四散するのだ】
【これを、『ボース=アインシュタイン凝縮(BEC)』といい、アインシュタインが論じたものである】
【生まれた時代こそ違うが、魔法という概念が、一足先に辿り着いていた答えだ】
【これを『物質の崩壊(コラープス)』として、話を進める】
「当初はあたしたち魔法使いも、何人も死傷者を出していた、危険極まりない魔法だった。でも、知りたいという、この世の真理を探究するものとして、その興味の関心の飽くなき奴隷だった……」
「……」
「それを禁欲という。……そんな時偶然見つけたのが、氷の氷点下を下回っていくと、氷振が起こる現象だった」
「氷振……?」
「地震みたいなものよ。大地の物質から蒸気が出始め、凍てついていく様、まさしく『凍りつく世界』」
「……」
「氷点下273.15ですべての物体は凍りつく。ここまでは極大魔法も神聖魔法も到達できる域! その先を行くのが、神聖魔法の真の恐ろしいところよ」
「……」
「地上では、重力があるから、途中で重力場が生じてしまい、すべて同じ状態だった……。……物質はね」
「物質は……」
「これを生きている人間にやればどうなるかわからない。あたし達と同じように、魔力を高めてガードするでしょうから」
「……」
「どうしても勝たないといけない敵、どうしようもない時、使用を許可するわ。君なら人の道を踏み外さないだろうから……ね」
「……」
僕は小さく頷いた。その心中では……。
(……絶対零度を下回れば……いったい何が起きるんだ……!?)
【――人には誰しも制限(リミッター)がある】
【それ以上、出力できないようになっている】
【先の氷の貴公子にしてもそうだが、まだ全力の神聖魔法ではなかったのだ……】
「……」
【――スバルはこの時、禁欲にそそられた……、絶対零度273.15より低い温度はある】
【2013年1月8日11:30 by Buzzap! 編集部からインターネットに公開された!】
【考えられる限り宇宙で1番低い温度、絶対零度】
【なんとその絶対零度よりも低温の状態に到達したという実験報告がされました】
【発見者は、ドイツのルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンの物理学者ulrich Schneiderさんとその研究チームである】
【ある温度の物質の持つエネルギーを考えた時、そこに含まれる粒子のエネルギーは通常であれば平均と同じか、その近似値となります】
【ただし、その中でも稀により高いエネルギーを持つ粒子が存在することがわかってきました】
【状況が逆になれば、絶対零度を下回るエネルギーを持つ粒子が観測されるハズだとして実験を行いました】
【Schneider氏とその研究チームは、超低温で気体状のカリウムを試験的に使用しました】
【レーザーと磁場を使って原子を格子状に配列】
【絶対零度以上では原子は互いに反発し合うのですが、そこで磁場を操作することにより、原子同士を引き寄せ合う状態を作り出しました】
【――Schneider(シュナイダー)氏によると】
【『この操作により、原子は最も安定した最低エネルギー状態から』】
【『一瞬のうちに可能な限り最大のエネルギーを持った状態へと移行しました』】
【『まるで谷を歩いていて、気がついたら山の天辺にいるようなものです』……と語られていた】
【絶対零度以上では、こうした反転は安定していないため、原子は内部崩壊を起こします】
【ですが、ここでさらにレーザーを使って、原子がその状態を保つためにエネルギーをその都度与えいい状況を作り出しました】
【その結果、元素番号19番『カリウム』気体は、絶対零度ギリギリの低温から、10億分の数ケルビン(K)低い温度を記録しました】
【――絶対零度より、低い状態では何が起こるのか!?】
【原子の集団は通常であれば、重力に従って下方に引っ張られるのですが】
【絶対零度より低い温度においては、重力に逆らうようにして上方に上がっていく原子が見られるようになります】
【――また、絶対零度より低い状態の原子は、重力に逆らってこの宇宙の膨張をもたらしたとされる(現状では確認されていない)』】
【『ダークエネルギー』と似たような振る舞いをするとの事】
【――今回の実験では、粒子は内部崩壊しようとしたが、崩壊はしなかった】
【それは絶対零度より低い温度が粒子を安定させたからだという】
【――Schneider(シュナイダー)氏は語る】
【『実に興味深いのは、この奇妙な特徴がこの大宇宙と、そして同様に実験室でも突然発生したという事だ』】
【『宇宙学者はこの事にももっと注意すべきだろう』】
【――果たして、極小サイズの宇宙誕生なるか!? まるでSFのようである――以上、by Buzzap! 編集部からの引用でした】
【――いったいどんな未知の世界を見たのだろうか!? 知的好奇心をそそられる】
【当然、実験室では真空状態で行われたはずだ】
【通常物質5%。ダークマター27%、ダークエネルギー68%】
【初めに、ダークマターとダークエネルギーは、既存の科学技術力をもってしても、わからないのである】
【ダークとはこの場合、黒や漆黒、暗いなどの意味ではなく、わからないなどの未知の可能性を示す】
【つまり、答えは1つではなく、可能性の数だけ及ぶ、それが人のロマンであり、宇宙のロマンだからだ】
【ダークマターとは、人に眼に知覚できない質量】
【ダークエネルギーとは、この宇宙が膨張するために必要なエネルギーのやり取りであり、また空間に作用するもの、万有斥力だと言われている】
【万有斥力……おそらくこーゆ風に見えたのだろう?】
【物体、空間作用、私達の視界の認識、この3要素で捉えてみよう】
【物体が凍りつきながら光を発し、万有斥力の力で空間が奥の方に伸びていき、私達人間の視界から遠ざかっていくイメージ図だろう】
【これならば、七夕に見える夜空の夏の大三角、ベガ、アルタイル、デネブの3つで説明できる】
【ベガ(琴座)は織姫、アルタイル(鷲座)は彦星、そしてデネブ(白鳥)であり、2人の間を天の川が流れ、文通のために白鳥の化身であるツルが行き来してるのです】
【さらに言えば、ベガとアルタイルは少しずつその距離が離れていっています】
【地球からベガまでの距離25光年、地球からアルタイルまでの距離17光年、そしてベガとアルタイルの遠ざかっていく距離は、実に15光年です】
【15年に1日しか会えず、2人の愛の深さが伺えます】
【これが宇宙の膨張、万有斥力であり、ダークエネルギーをわかりやすく諭した例えです】
☆彡
「――と話した通り、これが物質の5態ね。でも、ここに辿り着くためには、まず、物質の4態を納めなければならない」
「……」
「君が、本気で地球を復興したいなら、この力をマスターしなきゃならない」
「……」
これには僕も、コクンと強く頷いた。
ニコッと笑みを浮かべる先生。
「物質の4態、それは……」
「……」
ゴクリと喉慣らし。
「――それはプラズマよ」
(……さっき言ってたけど……)
僕はあえて、言及しないようにした……。
「プラズマとは何か!?
それはさっき見せた雹などの物体が、温度を上昇させると……。
物質は個体から液体に、液体から気体に状態変化する、これが物質の三態!
この時、気体の温度が上昇すると気体の分子構造が乖離して原子となる!
さらに温度が上昇すると、原子核の周りを回っていた電子が原子から離れて、正イオンと電子に分かれる。
この現象を電離という!
そして、この電離によって生じた荷電粒子を含む気体を、プラズマというのよ!
これが自然界のプラズマの正体!
代表的なのが、太陽風、オーロラ、積乱雲から走る稲妻、冬の時期の静電気。
この宇宙を構成する物質の99%以上が、プラズマなのよ!
人の頭の中、思考回路にも微弱な電気信号が流れていて、これもプラズマ一種だと説明がつくの」
「は、はぁ……」
物凄い説明が長くて、僕の頭の中には入り切れない……っ。
「まぁ、子供には難しいか……!」
「……うん……」
「仕方ない。後でわかりやすく、図で書いてあげるわ」
先生も苦笑いだった……ハハッ……。
(頭の悪い子に、ものを教えるって大変ね……)
(ホントは図じゃなく、TVなどの動画にしてほしいけど……)
師と弟子は顔を見合わせて……。
「あははは……」
「はは……」
互いに苦笑いを浮かべるのだった。
それを見ていた師匠は。
(口頭での説明などしても、誰もがついていけないだろ!! バカか!?)
腕を組んだままの師匠は、距離を取っていて、心の中で愚痴を零したのだった……。
「――では次に、風の性質変化の反対にあるものは何か?」
「えーと……風か天を表すから……地とか?」
「正解!」
【――ここで精神世界の魔法の先生は、考え違いを犯す】
【それは地球という小さな視点でしか見ておらず、全体を見ていないからだ】
【あくまで昔の人の捉え方であって、古来式を論じる】
「今までスバル君は、魔力を練り上げて、魔法を行使するとき。どこから還していたと思う?」
「還す……か」
「……」
「火や氷は少なくとも、大気から取り込んで、還していた感じがする……」
「……」
「ということは、火、水、風は天を指し、地なんかは金と木を指す……という事?」
「……」
笑みを浮かべる先生。
「正解。属性は全部で10あって。それぞれ、
天の火、水、風!
地の木、金、地よ!
そして正と負の光と闇、月と霊に分かれてるわ!」
「ふんふん」
【スバルはそのまま鵜吞みにしてしまう】
【それはなぜか!?】
【それは弟子が師に教わる立場だからである!!】
【スバルが生きている時代は、地球を含め、すべての惑星が太陽の周りを回っているとする考え方、『地動説』Heliocentrism(ヘリオセントリズム)といいます。すなわち太陽中心説である】
【これに対して師匠や先生たちの生きていた時代は、地球は宇宙の中心に静止していて、すべての天体が地球の周りを回っているとする考え方、『天動説』Ptolemaic theory(プトレマイオスセオリーといいます】
【地球やその星にあるものを、そのまま利用する魔法である】
【また、属性や系統などの概念が浅い時代背景である】
「今までマナを取り込んで練り上げる時は、天を意識して練り上げていたけど、次からは地を意識して練り上げていきましょう。
そうすれば地の魔法の代表格、
『金剛石の礫』や『地爆』、『尖角の岩石』や『岩雪崩』、『地震』や『地割れ』などを起こす事ができる!!
大地の息吹をその身に受けて、感じる事!
大地の脈動を感じ取って、そこから大地のマナを引き出す感じよ。
これは世界の国々によって、大地の質感が違うもの、それは目で見ればわかるわよね?
地面、ゴツゴツとした大地、河川敷、海辺の砂浜、干ばつした大地、砂漠、洞窟などによって、その大地のマナが違う!!」
「……」
「……」
何も知らずに、ただただこの時ばかりは、魔法の先生の教えを信じるスバル。
この時師匠も、先生の話しぶりを聞いて、もっともだという思いで、頷き得た。
「まぁ、今のが大元の下地だから。おいおいこんな感じでいいだろうと学習して覚えればいいわ」
「……」
【――それが僕が教わった地の魔法だった】
【師匠や先生たちの生きていた時代の魔法体系は、属性の相性図ではなく、属性の対称性である】
【その為、僕はこれから先、新しい魔法の概念に触れて、両者の良いところと悪いところ、双方を覚える事ができるのだ】
【この世に無駄なものなんてない――】
だいたいこんな感じだろうか。
これが基本となる六芒星の属性相性図。
風
火 水
金 六芒星 木
地
次に朝と夜となる概念の陰陽属性。
光
月 正と負 幽
闇
火と水、地と風、金と木、光と闇、月と幽の10の概念だ。ここ等辺は、チアキの話と同じである。基本となる六芒星の属性関係と正と負だ。
「フムゥ……。これで火と水、風と地か後は……」
「うん、木と金、光と闇、月と幽ね」
「それがよくわかんないんだけど……」
師匠、先生、僕と言いあう。で先生が。
「もう何度も言ってるでしょ~~」
「いや、僕、ここにはそう訪れていないんだけど……」
「……ハァ、仕方ない、出来の悪い弟子を持って苦労するわ……」
「……」
僕は、一言余計だと思い、顔がピクピクしていた……。
(これでも努力してる方だぞ……!! そもそも教え方が悪いッ! アユミちゃんならノートに書いたりして教えてくれるのにッ!)
「……」
僕は内心怒っていた……ッ。
「――いい!? 基本となる六芒星の属性関係図はね!
『相反する属性』なの! 『相対関係』とも呼ばれてるわね!
例えば、火と水、地と風、木と金、光と闇、月と幽という具合にね。
でも、お互いに助け合える『相互助力関係』もあってね! それぞれ、
『風』は『火』を助けよく燃える。
『金属』だけじゃ脆く『大地』の力を与える事で硬度と強靭性が増す。
『植物』に『水』を与える事で成長が育まれる。
他にも、
『水』は『風』を助け毒素を清める。
『火』は『金属』を溶かし、複数の金属を混ぜた合金を作れる。中には水との反応性が高いものもある。
『火』は『植物』を燃やし、栄養価の高い豊かな木炭や石炭、活性炭やオキ、ススを作れるの。
また、汚染された毒沼を清めるために、金属イオン交換が有効だったりする。
反応性の高い金属と木炭を毒沼に沈めて、『水』と『風』魔法で北風が吹き、汚染された毒沼を浄化していく。
その過程で、
金属イオン交換が行われて、有害な物質をかき混ぜながら、ろ過していく方法ね」
「! そんな方法もあったのか……!」
「ええ、戦時中、暮らせない場所があって、どうにかしたいという思いで形作られた魔法よ。元はあたし達人間のせいだしね」
「……」
「また、戦時中だったことから、兵士たちの武器が折れたりもした。
だからあたし達魔法使いは、急増で武器を生成する現場に迫られた……ッ。
兵士たちが使う武器がなければ戦えない、それは負けを意味する……。
……そこで、戦場に連れてきていた鍛冶師の出番となる!
鍛冶師の注文は、火と炉、それと材料がなければできない……という無茶ぶりだった。
現場は、荒れた大地地帯。森もなく、山などの鉱山も周辺にはない。
……さあ、どうする?」
「う~ん……使えるとしたら、荒れた大地にあるものしかないから……おそらく、水も貴重だと思う」
「……」
「……」
「……やっぱり、地の魔法しかないな」
「……」
ニィと笑みを浮かべる先生。
「正解!
まず大地の魔法で、粘土質の炉を作り、周りをさらに補強するというものだった。だいたい熱が内部に溜まりやすいようドーム型のものが求められた」
「やっぱり『大地の魔法』か……」
「その後は?」
「う~ん……日本なら、日本刀がモデルだから、そっちの方を出してもいい?」
「いいわよ」
「昔、TV番組で見たんだけど。日本刀を作るには、1番は『玉鋼』を使われていた。でも、大昔の刀剣は、鉄鉱石か砂鉄のどちらかがいるものだった……どちらも『金属性』だ」
頷く先生。
「次に必要なのが燃料だ。日本のたたら製鉄には木炭が使われていた。えーと確か、品質のいい木炭は、1番は『たたら炭』、2番は『赤松炭』、3番は『なら炭』……だった……かなぁ~?」
「なによ自信がないわね……!」
「僕も刀剣は詳しくないんだよ!! TVゲームなら好きだけどね!!」
「ハァ……まぁいいわ。正解にしておいてあげる。……『木属性』と『火属性』の合わせ技よ!」
(やっぱり……)
僕は、そう睨んだ……。
「そこからは鍛冶師の出番! 鍛冶師が使えた魔法は、『火属性』と『風属性』! そして熟練の金槌さばきよ!!」
「ああ、あの何度も打ち鳴らして、中の不純物を出すあれか」
「ええ、最初は塊状もので、何度も打ち鳴らして、火の子が激しく舞い散る中、真剣な顔つきで、金槌が何度も打ちつける度に段々と刀剣の形になっていく。
刀剣の赤々とした温度を見ながら、随時、炉の中に戻して、再び、何度も叩き合う。
そうして刀剣の形になってくる!!」
「表面と裏面の折り返し打ちか」
うんうんと頷く僕。
「……知ってる? ただの金属じゃなく、ワザと不純物として団子状の砂鉄を加えていたのよ、あたしが見た時は、主にその辺の砂だったけどね!」
「地金か……。そう言えば大昔に、僕の住んでいた大村市にも刃物製作所がいくつかあったって聞いたことがあるな……?
なんて言ったっけあれ? 松原? 林田? 竹田農具刃物製作所……だっけ?
僕の死んだ曾ばあちゃんは、カボチャを割るとき牛刀を使ってて、普段はいつものハイス鋼と、普段は使わない長い刃物の鶴平悠作の日本刀造りの日本鋼を大事にしてたな」
「……話が脱線しかけそうだから戻すわよ」
「うん……」
(覚えていたら、後で回収するか……刃物を持った危ないやつに思われそうだけど……)
僕はついそんな事を思ってしまう。どちらもよく切れるいい刃物だったことを覚えてる。日本鋼なんかハマグリ刃だし、相当熟練者の鍛冶師だったと思う、大昔に死去してるけどさ……。
「でね。燃焼中の木炭も火の勢いが劣ろえてくるから、『風魔法』を適度に送ることで、
炉内の温度がグングン上昇して、稀にいい『金属』が手に入るの。
最後は『水魔法』で、常温の温度で熱した金属を急冷することで、分子構造がギュ~~と固く結合して、硬くて、強靭な刃物が作れたわけよ」
「へ~」
「――まあ、ここまでがフツーの剣の入手方法! 質問! 今までにいくつの属性魔法を使ったでしょうか?」
「えっ!? え~と……」
僕は指をおって数えていくと……。
「『地』、『金』、『火と木の合わせ技』、『火と風』、そして『水』かな……?」
「……」
ニィと笑みを浮かべる先生。
「正解!!」
「いやぁ!」
と照れる僕。
「伝説級の武器を創造するには、ここからさらに、『光』とか『闇』を加えていくといい! 魔剣とも呼ばれてるわね!」
「魔剣? それじゃあ光の剣と闇の剣になるだけで、氷の剣とかは?」
「『魔石』がいるわね。しかも特別な才能を持った鍛冶師じゃないと作れないからね!
「『魔石』と『特別な鍛冶師』か……」
「『魔石』は魔剣の核とも呼ばれていて、その凝縮方法と製法は、一子相伝とされてるの!!」
「じゃあダメじゃん!!! 僕の時代じゃ血は途絶えてるよ!!!」
「……」
もっともだ。これには先生も困り顔になる……。
「――まあ、これはもう諦めるしかないわね……」
「地球じゃ全滅だろうしね……」
「あたし達の時代じゃ、スバル君のところみたいな長細い刀じゃなく、叩き切る事を目的としたぶっとい剣が求められた」
「日本刀と西洋刀の違いか……」
「ええ、まぁそんな感じね……」
「……?」
時代背景がわからないから、まあ、そんな感じで理解するしかない。
「敵はフルアーマーを着込んで、ぶっとい剣を持っていた。お互いにそんな感じでやり合ってたわね?」
「ああ」
頷き合う師匠。
「……?」
(いったい過去に何があったんだ……!?)
不可思議に思う僕、だが、それは後回しでもいい問題だ。今は――
「――と属性の話に戻るわね」
「うん」
「属性には大別して3種類に分かれる! 1つは火と水などのように『相対関係』! 今スバル君に言ったように『相互助力関係』! そして『相互反作用関係』もある!!」
「……? 『相互反作用関係』……?」
「ええ、それぞれ、逆の発想の理念で。
風がなければ火は燃えず。
火は植物を燃やす。
植物は大地から栄養を吸い上げる。
地は水を汚す。
水は金属を錆びつかせる。
錆びついた金属の匂いは風に運ばれて病原菌の素となる。
つまり、相互助力関係と相互反作用関係は、正と負の二面性があるの!」
「まるで正と負だ……」
「ええ、だから、次に正と負の属性の理念がある!
相反する属性は、光と闇、月と幽。
相互助力関係は、光と月、闇と幽。
相互反作用関係も、光と月、闇と幽。
光がある事で月明かりが生まれる、逆になければ真っ暗闇。
闇がある事で幽が活動しやすくなり、人の恐怖心を増幅し、呪いの力が強まる。逆になければ活力が減退し、この世に存在できる力が弱まる…………」
「ふむぅ……」
スバルは優しい感じで頷き得て、考える人になる。
「なんで月と幽があるんだろう?」
「あたし達の生きていた時代は、疫病や飢饉があったからね。実際に幽霊を見た人もいるし、呪いや呪術というものまであった」
「……」
「誰しもが怖いのよ、得体の知れなさが……ね」
「……」
「実態を持たない幽霊に攻撃できる手段は限られていて、呪いには注意しないといけない。
だから、月明かりの出ていない日は、特に危なくて、部屋に引きこもっていた。
最悪出歩くなら、月明かりの下、出歩くしかなくて……。
こういう迷信が信じられていた。
あの世の霊はこの世に帰ってきて、悪さをする。月の加護を受ければ魔除けとなり、遠ざける事ができる。また、呪いを打ち消す力があると、当時のあたし達は信じていた」
「……迷信か……」
ここでスバルは疑問を覚える。
考える人のポーズを取って、顎に丸めた指を当てがって考える。
「いつも思うんだけど、なんで太陽がないんだろう? 火が太陽と同じものだからか……?」
「そうね。太陽は王様の象徴だから、魔術や魔導、魔法体系でも、特別神格化されてたわね」
「ふ~ん……」
「……」
僕は考えて、その様子を見ていた先生は、言葉を投げかけようか一瞬考える。
(太陽は特別なのか……)
「……お天道様は特別なの。
太陽から届く光が、あたし達人間や、動物、植物たちの元気の素。
太陽がこの地上から姿を消せば……。
この世は暗黒の世界になると信じられていて、悪霊たちの楽園となる。あたし達にとっては永遠の地獄ね……。
昔の人達はそれを信じていて、だいたい世界の均衡を考え、7対3ぐらいとしていた。
それぐらい太陽は特別で、神格化されたのが王様なのよ!」
「フムゥ……」
【スバルが疑問を持つのももっともだ】
【昔の人の捉え方は、太陽は明るい光のようなもので、熱く火のようなもの、時々、雨雲や雷雲でお隠しなって、嵐や雷を起こす、風の気まぐれみたいなもので、お天道様と捉えていた】
【だが、朝に日が昇れば、夜には沈み、今度はお月様が出てくる】
【朝と夜のサイクルだ】
【だが、昔の人は、太陽が出ている時間とお月見様が出ている時間を比べて、太陽が長く昇っていることが、肌でわかっていた】
【だいたい7:3ぐらいか?】
【火と水、地と風、木と金、光を太陽グループとして。残りの月、霊、闇を月のグループとしたわけだ】
【当時、昔の人達は、王を神の化身として捉え、同一視していた】
【王の『地』、それは神の『地』であり、私達民衆はそこに住まう事が許された特別なものだ】
【日々の暮らしぶりの中に溶け込む、『火』と『水』と『木』の有難み】
【だが、有事の際は、神の国を犯す侵略者と戦う、栄光ある兵士達、その手に持つは『金』属の剣だ槍だ】
【王はその中でも、特別な存在であり、黄金色の王冠を被り、政治を行っている】
【時として、侵略者を前に、兵士たちに激を飛ばす、勇猛果敢さが描かれている】
【兵士たちの争いが長期戦になる時、追い『風』が吹き、気候が変わる】
【王とは天を味方につけるもの】
【それは王の力が振るわれた時をおいて他にない、豪雨を呼び、雷を落とす】
【……それが天の火の力だ――】
「――じゃあ早速、『火雷』ファイアサンダー(ピュールケラヴノス)から覚えましょう!」
「ブッ」
これには師匠も、思わず吹き出してしまう。
(考えられんぞこいつ……ッ!!)
『ピュール』は古代ギリシャ語で火を表す。
他にも単数においては、ピューロス、ピューリとあり。
現在ギリシャ語ではフォティアであり。これが英語圏に伝わりパイロとなっている。
『ケラヴノス』は古代ギリシャ語で雷を表す。
中世ではブロンテ―、ブロンティ、
現在ギリシャ語ではブルンティ、ヴロンディだとされている。
これには師匠も怒鳴る。
「また順番と順序を無視するなッッ!!! フツーは初級魔法の『百雷』からだろう!!! しかも『火雷』は俺の数少ないとっておきだ!!」
「いいじゃない。1個くらい」
「よくない!!! 基本を疎かにするといつかとんでもない目に会うんだぞ!! 身体障害とか神経性後遺症とか、この子の人生を少しは考えろよっ!!」
「何言うんだか……ハァ……。あんたの教えた怨魔流も大概でしょうがッッ!!」
「あれは基本を守れば、後遺症にはならないんだよ!! しばらくまともに動けないだけだ!!」
「じゃあはっきり言うけど、いつまたレグルスやレグド、災禍の巨獣みたいな敵に襲われたら、この子、どうやって自分の身を守るのよ?」
「うっ……それは……」
「多少危険な行いでも、何もしないで死ぬよりは、何かできて戦える武器を与えた方が、後悔が残らないで良いのではなくて? う~ん? お姉さん、何か間違った事言ってる~かな?」
「フグッ……!! ヌグググ」
完全に正論で返されて、師匠は何も言い返せなかった。
「宇宙に出れば、悪い奴が当然出てくる。ずる賢い敵、力が強い敵、素早い敵、巨大な敵やものすごく小さい敵、見えない敵や常識外の宇宙人だっている!!
手札は多い方がいいでしょ?」
「クヌッ……!」
言い返せない師匠。その顔が面白顔だ。
「初級なんて下地じゃない基本じゃない! あたしは使えるものは使うけど! 最悪を想定できない人種は、いつか祖国を滅ぼされるのよ!!
あれ~? 祖国を滅ぼした人がどこかにいなかったかなぁ~? う~ん?」
「クッ……! 勝手にしろ!!」
「ニヒッ」
師匠は女の口喧嘩に負けて、そっぽを向いてしまう。
先生はしてやったりのいい笑顔を浮かべて、僕にブイサインをするのだった。
それを見て僕は。
「ハハッ……」
と空笑いで返すしかなかったのだった。
それが、僕が『火雷』を覚えた経緯であった。色々先生はぶっ飛んでいた……。
☆彡
そして、現在――
僕はその黒雲に手を伸ばして、掴んだ。
(……そうだ。僕にはまだ……っ!!)
僕は身をひねり仰向けからうつぶせになった後、手を地についてググッと起き上がる。
「あああああ」
気勢いっぱい僕は立ち上がった。
「……」
その際、ブシュッと腹部から出血した。
「まだ試していない魔法があった……!」
僕は正面を向いた。
あいつは待っていてくれていた。
「ゼッ……ゼッ……」
あいつも「ゼッ……ゼッ……」と呼気が荒かった。
「覚悟はできたか?」
「何のだ?」
「死ぬ覚悟だ!」
「冗談! やっとこいつに気づけたよ!」
僕は手を天高く上げる。その直上で、青白い雷光が駆け巡り、ゴロゴロと轟く。
「被害は甚大!! 巻き込まない自信はない!! 死にたくない奴は離れてろッ!!!」
「!」
Lはすぐさま、その場から離れてバリア(エンセルト)を張った。
シシドは訳がわからず混乱するばかりだ。
クリスティは何かあるなと踏んで、急いでその場から離れた。
「ハッ! これだからガキの戯言は! いったいお前に何ができる!? そんなボロボロのなりで! 魔力もすっからかんなはずだ!」
僕は片手だけじゃなく、もう片方の手も上げて、残り少ない体力と魔力を振り絞る――
「ああ、僕の魔力はすっからかんだ。でもな……ゼッ、ゼッ、僕の体力と魔力を1つにすれば、どうにかこいつ一発を打ち下ろせるんだ!」
「何を打ち下ろすと……?」
ゴロゴロ
「この地球で最も巨大なエネルギーだよ!」
「エネルギー!?」
僕は顔を上げた。
黒雲に迅雷が駆け抜ける。その青白い稲光は何条もの光に枝分かれして駆け巡っていた。
「僕ごとでいい!!! この戦いに終止符を!!!」
「まさか――ッッ!! よっよせ――っ!!」
その時、魔力がスバルを中心として回る回る――
(――最高神ゼウスよ! 僕に力を!)
ゴロゴロ
「『駆けよ稲妻! 轟け!』
それが詠唱だった。超短文詠唱を経て放たれる。
「『火雷』ファイアサンダー(ピュールケラヴノス)!!!」
僕はその手を振り下ろした。
光速移動で駆け抜けるレグルスは、その凶刃を突き出す。それは吸い込まれるようにスバルの胸部に。
その瞬間、僕達を強烈な閃光が包み込んだ。
そして、この商業施設に雷が落ちたのだった。
ドォオオオオオンと地響き似たものが起き、粉塵が舞い荒ぶ。
一番現地の近くにいたシシドは、その被害をモロに受けた。
前方から粉塵と共に小さな破片がたくさん飛んできて、体を打ちつける、ガッガッガッと。その際、「ッ……ッッ」と呻吟の痛みを我慢する声があがる。
その時だった、前方から瓦礫の破片が飛んできて、その顔面を強打し、ドサッとまた意識を失った……。
それはクリスティが隠れていたところまで、粉塵が押し寄せたのだった。その際、クリスティは「キャッ」と叫んだ。
そして、やや遅れてまたドォンと稲光音がした。
これにはあたしも「ヒィッ!!」と悲鳴を上げたわ。だって相当怖かったんだもの。
そして、ソ~ッと中の現場を見たら。
何かの炎が消え、信じられない面持ちのスバル君が自分の胸部を見ていたわ。
そして、「あっ」と呟き、ドサッとスバル君が倒れた。
「…………」
スバル君は目を開けたまま、ゆっくりとその目を閉じていく。
血の湖が広がり、ゆっくりと寒気が襲ってきた。
(ダメだ……。眠い……)
「だけど……勝ったよね……」
僕の視線の先には、倒れ伏したレグルスがいた。
起き上がる気配は……ない……。
そうして、『氷の剣』だったものは砕け『鉄筋の棒』に戻ったのだった。
「……師匠……先生……」
その目はゆっくりと閉じられたのだった――……。
☆彡
血の湖が広がり横たわる少年スバル。その胸部と腹部から出血が酷かった。
その少年は意識を失っていた。
その近くには、少年に重傷を負わせたレグルスが横たわっていた。
レグルスも重傷で、その身からエナジーア粒子が立ち昇っていた。
その様子を眺めていたのは、Lだった。
あの一瞬、僕は見た――
★彡
――閃光がスバルとレグルスを包み込んだ。
ドォオオオオオンと『火雷』がレグルスとスバルに直撃した。主に直撃したのはレグルスで、スバルはその感電だった。
声すら上げることできない2人は苦しんだ。
その身から黒煙が立ち昇る。
ふらつく2人。
だが、一歩その足を力強く踏み込む者がいた、レグルスだ。
レグルスの凶刃が、そのままスバルの胸部を突き刺した――
その時、スバルの体内では、その心臓の脈が停止していた。
レグルスの凶刃がその心臓を突き破り、あるものを残した。それは光熱のエナジーアだった。
それは体内から、エナジーアとなって全身を駆け巡り、雷撃の影響で脳死寸前だったものまで活力を与える、レグルスの力でスバルは息を吹き返した。
「ガハッ」
とスバルは血反吐を吐いた。
ニヤつくレグルス、その手を引き抜いた。
胸部から噴き出すおびただしい出血量。
顔を上げるスバルはその目をギラつかせて、その手を突き出した「迸(ほとばし)れ!!」と追加の呪文を唱えた。
その瞬間、レグルスの全身を覆っていた『火雷』が少年の呼びかけに応えた。
瞬くに閃光が走り。
ドォンと火炎と電撃が暴れ狂う。
レグルスは声を上げることもできず、その場に倒れ伏した……。
「………………」
流れる静寂、長い沈黙。
――その時間が終わりを告げて。
胸部を押さえていた少年は、レグルスを見下ろしていた。
「――ゼッ、ゼッ」
そしてスバル(僕)は、自分の新たに開いた胸部を見た。押さえていたその手を退かして。
「あっ」
これは助からないと思った。
そして僕は、膝を折り、ドサッと倒れ伏した。
「…………」
僕は目を開けたまま、ゆっくりとその目を閉じていく。
血の湖が広がり、ゆっくりと寒気が襲ってきた。
(ダメだ……眠い……)
「だけど……勝ったよね……」
僕の視線の先には、倒れ伏したレグルスがいた。
起き上がる気配は……ない……。
そうして、『氷の剣』だったものは砕け『鉄筋の棒』に戻ったのだった。
「……師匠……先生……」
その目はゆっくりと閉じられたのだった――……。
辺りに静寂が流れる――
L(僕)が初めに口をついて出た言葉は「勝った」だった。
続いて「スバルが勝った」と呟いた。
僕はすぐに彼の元に駆け寄る。その身を空中浮遊させて。
そこで見たものは……。
「スバル! スバル! やったね! 君は大したものだよ……スバ……ル……」
反応が返ってこない少年が倒れていた。
それは、限界を超えて戦った戦士の姿だった……。
僕はよく見た。
笑みを浮かべる少年は倒れ伏していた。段々と血の湖が広がっていく。
それはかなり凄く、ヤバいくらいに危険な状態だった。
「あああああ!! スバルどうしよう!!」
僕はようやく現実を理解した。
これには僕もどうしていいかわからず、頭を抱えてパニックになった。
ほんとどうしよう。
「どうしようどうしよう! どうすればいいの!?」
僕は忙しなく動き回った。当たりを見回してよく探す。
少年を助けられる手立ては何かないものかと、よく探す。
だけど、どれだけ探しても見つけられなくて……。
「……」
僕は、自分の力のなさを痛感した。
同時にこう心にどす黒い何かが込み上げてくるものがあった。
(こいつだ! こいつがやったんだ……!!)
僕は手を振り上げた。
トドメだ、介錯(かいしゃく)してやる。
その手にエナジーアが集束したときだった。
「スバル君!」
僕はその手を止め、掌に集まっていたエナジーアが霧散化させた。
僕はその声がした方へ振り向いた。
その人は地球人の女の人だった。
☆彡
その人は20代半ばの外国人の女性だった。
『金髪よりのローズゴールドブロンドカラーの長い髪』に珍しい青い瞳『アースアイ』をもつ特徴的な美人さん。
整った顔立ちをもち、体のボディラインで特徴的なのはその超乳だろう。
その人は以前スバルがあった、クリスティという名の女性だった。
その人はお医者さんをカバンを持ち、千切れるんじゃないかと心配するくらい、こう胸に片手を添えても、ブルンブルン揺らしながら走ってきた。
「き、君は……」
それはあの時会った、女医だった。
だが、悲しい事にLとレグルスの姿は、この女医には見えていないのだ。
僕は気になりつつ、その人の周りを浮遊して回る。
この人からも、そしてレグルスからも注意を逸らさない。
「大変ッッ!」
あたしはこの子の状態を読み上げた。
「魔法使い君! 魔法使い君! ダメね、反応が返ってこない……患者は呼びかけに反応しない模様!」
あたしはうつぶせに倒れていたこの子を仰向けに返した。
そして驚いた。なんて酷い状態なの。
「重度の火傷と裂傷! さらに胸部と腹部に深い裂傷を確認! 緊急蘇生が必要と判断する!!」
あたしは可能な限り、今のこの子の状態を読み上げる。
【――それは1人でできる声出し確認だった。それにより、不意の医療事故を軽減する】
あたしはお医者さんカバンを開けて、医薬品を片っ端から確認する。
「出血が酷く、輸血が必要だと判断! ただし、血液型がわからないため、輸血パックは使用できません!」
あたしは輸血を除外した。
緊急手術が必要だ。
でも、その前にあたしは注射器を手に取った。中身はもちろん麻酔だ。
「麻酔注射します!」
あたしはその注射器をポンッと圧して、麻酔を注入した。
200年後の未来では、注射針は廃れて、ハンコみたいに圧すことで注射できるのだ。痛みはない。
これで準備完了だ。いよいよ手術に移れる。
「執刀医他すべて、このあたしクリスティが務めます! クーパー」
あたしが手に取ったのは、クーパーだった。
あたしはクーパーを使って、その裂傷の穴を広げて見る。
「臓器の裂傷を確認! 大事な動脈なども切れているか傷ついている模様! この場で縫合! 緊急手術を施行します!」
次にカバンの中からメスを取り出す。
あたしはそれをジッとみて、覚悟を決めて、その子の腹の中へ。
これを見ていたLは。
「グロッ!! そっそれでスバルは助かるんだよね? ねえ!?」
と心配して声をかけてみたが。
その返答は、当然ながら返ってこない。そもそも見えないし聞こえないのだから、当然の成り行きなのだ。なんかホントに虚しい……ッ。
「心臓に刺し傷を確認! 結紮に入る前に『整理食塩水』で一度きれいにします」
カバンから『生理食塩水』を手に取り、一思いに胸部の穴の中へかけた。
これには意識を失ったスバルもたまらず、引き付けを起こした。
「患者が暴れている模様! 辺りは血の海です! 抑えつけに入ります!」
とあたしは意識を失って暴れる魔法使い君を抑えつけに入った。
その患者の上から胸から覆い被さる。その際、もにゅんもにゅんと暴れた。
「患者が暴れるのが収まってから、手術を再開します」
とあたしは声に出して、テキスト通りに施術を行っていくのだった。
周りには同業者が1人もいない。ここであたしが失敗するわけにはいかなかった。
☆彡
それを見ていた人達は。
チアキは水晶玉に映る光景を見ていた。
「ちょっと大丈夫なん!? ……さすがに今回ばかりはマズイんとちゃう!?」
アユミちゃんとクコンさんの2人は、黒雲に映る映像を見ていた。
「この女誰よ!!」
あたしアユミは見ず知らずの外国人の女の人に反応した。
「外国のお医者さんみたいだけど……まさか……!」
「まさか……?」
「臓器の闇密売の人……だったりして……」
「……冗談でも冗談はやめてよ怖いよ!!」
「もしくは、エイリアン専門の闇密売人とか……」
「……」
アユミちゃんは凄い顔で怒っていた。
「マジメに……」
「ハイ、マジメニシマス。ダカラ、ソノ顔ヲ止メテクダサイ」
あたしクコンは、アユミちゃんに畏怖と恐怖を覚えた瞬間だった。
言葉が、一昔前のロボット語みたいになっていた。片言とも言う。
☆彡
危機を脱した2人は離れ、クリスティはスバルの緊急手術を続けていた。
「心臓の結紮中に、あたりに血の海が広がってきました。ガーゼをお願いします」
あたしは首をフルフルとふった。
「患者は思ったより残された血液が足りない模様! ガーゼなんて使えません。貴重な血液の損失を少しでも防ぐべきです! 大丈夫、あたしの腕ならやれます!」
フゥ……重い息を吐いて、一度リラックスするあたし。そのまま望むことにした。
勝負だ、女医の生命をかけて。
「このまま結紮を第一優先で施し、人命の救助を第一とします!!」
あたしは何人切ってきたことだろう。
その手で何人の命を救えなかったことか。
時には人に邪魔されたこともあった。
そのお返しもした。
人生色々だ。
全て上手くいくはずがない。
でも、今だけは……。
「必ず成功しないといけない……」
(もっと、もっと早く! もっと早く!!)
「頭の中で理想の結紮イメージを創り上げる! この手は、その反復運動を繰り返してきた!」
(いつだったか、その理想の結紮イメージを夢の中でみた……!)
「現実を夢に近づける努力を積んできた! 大丈夫! 必ず成功する、頑張れクリスティ!」
あたしは自分に言い聞かせる。
【自分に言い聞かせる! それはまじないだ! 確固たる意志だ!! 彼女は揺るぎない信念の炎をあげた――】
(必ず助ける!!!)
クリスティは一歩も引かなかった。女医の生命をかけて、今、目の前にある命を救おうとした。
その様を見ていたLは。
「……」
僕はその技術を見て、正直凄いなと思った。
だから、この人の邪魔をしない。しちゃいけない。
だから、この人の周りにバリアを張り。
舞う粉塵から護っていた。精確な術野を確保する。衛生上護りきる。
(おかしい……今日のあたし、おかしい。いつもより速いくらい……ッ!)
あたしはこの日一番集中していた。
周りの音が遠ざかっていく、今診えるのは術野だけだ。
その時だった。
レグルスが目を覚ましたのは――
「――……」
俺は寝返りを打ち、穴の開いた天井から見える景色を見た。
黒雲が空を覆いつくし、吹雪が吹雪いて、時折迅雷が駆け巡る。
「あぁ……俺は負けたのか……」
俺は大一番で負けた事を悟った。だが、その敗北は自分が望んだ結末通りだった。
だが、今だけは、1人の漢として。
「クソッ、やっぱり悔しいな……ァ」
その時、歩み寄ってきた者がいた。
「!」
それはデネボラだった。
デネボラはにこぉと笑みを浮かべる。
「このすっとこどっこい! あたしの仕事を増やすなよ!」
これにはLも気づいた。
「デネボラ!」
僕はこの場から動けないので、声だけ出した。
絶対にこの手術を成功させる。だから、この場から動けない。
「ったく! こんな大怪我をしやがって!! あーっうざっうざっ!!」
この日、デネボラは荒れていた。
「負けるなら勝負を挑むなってっつーの! ったく!」
あたしは自分の頭をかいた。
(あ~そーじゃないでしょデネボラ! この負けには意味があるんだから!!)
私はあたしに言い聞かせる。でも、やっぱり悔しくて。
「このすっとこどっこい!!」
「……すまん」
レグルスはデネボラに謝った。
「随分しおらしいじゃないの。レグルス隊長!」
「……俺がいない間に何があった!?」
「色々だよったくよお! 各ファミリアと連絡を取り次ぐあたし達の身にもなってくれ! こんな大事な時に、どーでもいいバトルをドンパチやってんじゃねーぞったく!」
「で、デネボラ……なんか口調が変っ!?」
そんなデネボラの口調は聞くのは、初めてだった。
「あ~ん」
「んっ?」
とデネボラがレグルスがLに振り向いた。
「ああ、デネボラの口調は昔からこうだ。姫様達の前では猫を被ってるんだ、こいつは」
「えっそうなの!?」
「二シシシシ! 実はそうなんだよL!」
とここでデネボラは口調と気分を変えるために「コホン」と咳をした。
その時、態度と口調が一変した。
あたしから私口調にする。それは礼儀作法だ。でもかとなく、つい本音が漏れ出てしまう。
「私達に迷惑をかけてはダメではありませんか! ねぇレグルス隊長~!」
「……な?」
「……うん……」
物凄い変わり身の早さだった……。
「でも困ったな~! セラピアマシーンは1機しかありませんし、誰に使うべきか」
「そ、それなら……」
俺はグググッと無理をおして立ち上がった。
「あいつに使ってやってくれ!」
「あらいいんですかー!?」
「ああ、レンタルした宇宙船を返さないといけないからな。そうだ! シシドは俺がこのまま連れていく!」
「……何か考えがおありで?」
「ああ……」
俺は空を見た。
「大事な俺のパートナーだ! 見る聞こえないを克服するために、この『エナジーア変換携帯端末』の力がどうしてもいる!」
「なるほどぉ……確かに何度も使って慣れさせれば、いつかは必ずその弱点を克服しますからね! ……でも、どちらへ!?」
「決まっている! まずは静止軌道ステーションからだ! 俺とシシドはそこからスタートだ!」
俺は伸びているシシドの元へ向かう。
(――そうだ! あそこ意外に俺達の始まりはない……!)
【それは新たなスタートだった】
「ったくずっと寝てやがるなこいつ!」
シシドはまた気絶していたのだった……。
「おい、起きろ」
ガスッガスッと蹴りを入れる。だがその蹴りは全てすり抜ける。
「フフッ、前途多難な組み合わせですね!」
「……」
快活のいい笑みを浮かべるデネボラさん、それに引き換えLは何とも言えない顔だった。
☆彡
――そして、クリスティがスバルを緊急手術中。
スバルの首元に、死神の鎌が添えられていたが……。
「……!」
死神のその身がいきなり燃え出した。
それは命の炎だった。
地球の神がスバルに与えた命の源であり、またレグルスがスバルの胸に仕込んだ炎しかり。
「……」
少年はやらせないと。
その意味が、重要さがわかった死神は、衣を黒から赤に替え、その死神の鎌をソッ……と遠ざける。この少年は、必要だと。
その様子を、遠方の高いビルから見下ろすものがいた。
黄金色の粒子の集合体で、商業施設に空いた大穴から、その様子を覗き込んでいた。
死んだように、眠ったままのスバルの顔。
懸命にその少年の命を繋ごうと、その持っている技術のすべてを継ぎ込むクリスティ。
♪小さき者、それは私です
♪炎の森の中、君と並んで走った
♪あなたの声を、後ろで感づき、見えません、聞こえませんといい、彼女の手を引いて逃げ出しました
♪小さな臆病者です
♪ですが、あなたは護ってくれました
♪この命があるのは、あなたのおかげです
♪私が倒れてきた木に下敷きされた時、あなたに罵声を上げたのに
♪あなたは、そんな私を助けるために、命の水を、その小さな手で何度も掬い、
♪私の口に流してくれました
♪命は流る、この星空のようにさらさらと
♪燃える、燃える、焼ける木の音がパチパチと奏でる
♪命のありがたみを知った私とあなたは、立ち上がりました
♪世界の声が、聞こえる、進むべき道が指し示している
♪声が、聞こえる、戦い、救えと、みんなと手を取り合って、先に進めと
♪時が、流るる
♪まるで昨日の夕方のようです
♪命は、燃える
♪あの日を思い出すように
♪あなたと戦えと
♪そこに、あるはずの道を信じて
♪私は、この地球の大地で、あなたたたちの帰りを、待ちます
♪私は、みんなの手を借りて、きっと、あなたを助けに行きます
♪だから、それまで、待っていてください
♪命は流る、この星空のようにさらさらと
♪待ち続けます、あなた達の帰りを
♪流(ル)~ルル~~
主題歌:あの日の出会いと地球復興を夢見て
作詞・作曲:スバル
「――!」
――だが、黄金色の粒子の集合体は、上からの接近の気配に感づき、一足先にその場から消え去っていくのだった……。
その顔は、わからなくても、ほくそ笑んでいるかのようだった。
そして。
「――できた!」
無事、手術が終わり、あたしはホッと一安心した。
「ハァッ……ハァッ……」
あたしは座ったまま一番楽な姿勢を取った。両手を後ろに回して床をついて、自慢の胸を突き上げていた。
あたしが息する度に、超乳も息しているようだった。
お陰で汗がびっしょりだ。
「あっ……手術代、どこに請求しようか? あたしの手術代高いんだけどな~」
あたしは乱れる呼気を整えていた。
「なんてね」
さすがに子供に払えなんて無理な相談だった。
その時だった。
ヴゥン、ヴゥンと機械的な唸り音が聞こえてきたのは。それは真上からだった。
あたしはそれを見て。
「へ」
と阿呆みたいな声が出た。
その宇宙船の下部から光線が出てきて、そこから人間2人がゆっくり降りてくるのだった――
それはヒースとシャルロットであった。
2人は地上に降り立ち。
ゆっくりとした歩幅でまっすぐにスバルとクリスティの元へ。
そして、あたし達は邂逅した。
「……」
【――あたしは多分、人生で大一番の展開を迎えていた。下手な返答は許されない気がした】
そして、その2人はあたしの眼前で膝を折り、一礼を取った。
(非礼を許して頂きたい)
「え……」
(戦火に巻き込んだことを)
「もしかしてテレパシー!? 頭の中に直に響いてくる」
ヒース、クリスティ、シャルロット、クリスティの順に話をした。
なんとヒースとシャルロットの2人は、テレパシー(チレパーティア)が使えたのだ。
(私はヒースと言います。でこちらが)
(シャルロットと言います! アンドロメダ王女様があなたにお会いしたいと)
「え……」
これにはクリスティも驚く。まさかあのアンドロメダ王女にお会いできるというのだから。
(粗相のないようにと仰せつかりました)
(強いては、そちらにいるスバル君を救ったことに対して、食談を開きたいと)
(どうぞ、我々に付いていただきたい)
(悪いようにはしませんよ)
シャルロット、ヒースの順にクリスティを招こうとしていた。
「……」
あたしは、この人達やスバル君から視線を切り、もう1人いる子供の方を見た、ら。
「い、いない……! さっきまであそこに!?」
もう既にいなかった……。
乾いた空気がヒュ――と流れる。
(あぁ、シシド君ですね)
「知ってるの!?」
(ええ。かの子はレグルス隊長という方が連れていかれましたよ。何か考えがおありで……まぁひとまずご安心ください)
(そ、そうなの……)
ダメだ、状況についていけない。
(レグルス隊長って、誰なんだろう!?)
(――!)
ここでヒースは、彼女の心を読み取った。
(レグルス隊長というのは、先程まであなた方が見ていた人の分離した姿ですよ。
そう、スバル君とLが融合した姿が彩雲の騎士エルスというなら。
シシド君とレグルス隊長が融合した姿が災禍の獣士レグドといいます!
さらに言えば、あなた方地球人が首を長く伸ばして見ていた映像がありましたよね? それが彼等のバトルだった訳です!)
「はあ、通りで……! んっ……あなた今、あたしの心を……」
(ええ、読ませていただきました)
にこやかに笑みを浮かべるヒース。それはしてやったりだ。
(…………)
あたしはそれに面食らってしまった。
(まさか今、あたしの心を……)
(はい、まさか今、あたしの心を、――と読ませていただきました)
「……わかったわ。あなた達に付いていく。だから、心の中まで読まないで頂戴」
(フフッ、それは確かにレディに失礼ですからね。……ではこちらへ)
(一緒に参りましょう)
あたしは疲れていたのかもしれない。
超時間の手術に堪え、その上宇宙人達との意思疎通だ。疲れないはずがない。
その上、心を読まれるのだ。この強制イベントを逃れる術もない。
そうして、宇宙船の下部から光線が降りてきて、あたし達の体が競り上がっていくのだった。
ヴォンと光玉の台座が光り、宇宙船内部にすり抜けてきた。それは競り上がってきて、すり抜けてきたという印象に近い。
今ここにいるメンバーは、スバルを抱いたヒースさん、シャルロット、このあたしクリスティ。
そして目には見えないが、Lとデネボラがいた。
「……こ、ここが宇宙船の中……」
【――それはクリスティが生まれて初めて見る、宇宙船内部の風景だった。そうして、もう間もなくスバル達を乗せた宇宙船は、空高く飛び立っていったのだった――】
【――第2章、アクアリウス星の協力と愚者の真理、完――】