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第1章の第15話 治療マシーン(セラピアマシーン)

イジェン火山が青い炎とともにガラガラと音を立てて崩壊していく、
それはもう原型すら留めていなかった。
吹き荒ぶ大爆風の嵐。
イジェン火山は大噴火を起こし、空を黒煙で覆い隠し、音を立てて幾多もの雷が落ち、竜巻が大いに荒れる。
その影響で、離れた距離にあった豪華客船にも大津波が押し寄せ、ゴゥンゴゥンと大きく揺れたのだった。
そして、空から4つの光が分かれて、地上に落ちていくのだった――……

――遅れて現場にやってきたわらわが見たものは。
激戦区の後じゃった。
「Lッッ!!! Lッッ!!! どこじゃぁあああ!!! L~~!!! クックソッ!! なぜわらわは強く止めなかったのじゃ!! Lッッ!!」

その時、輝く青い炎の海の中で、銀色の光をみた。
もしやと思い、わらわはすぐに降り立った。
それは燃え滾る炎にでもやられたのか醜い人型であった。
その者が握っているのは、身の丈に合わない大太刀。
「……ッッ、こやつはLを唆(そそのか)した!!」
その者は、黒い人型に変わり果てていた。
当然じゃ、あの大爆発に巻き込まれたのだから。
わらわはその者を見て、怒りが込み上げてきた。
気がつくとこやつの首根っこを持ち上げていた。
このまま首の骨を折ってやろうと手に力がグッと入る。
じゃがその時、誰かの呻き声が聞こえたのじゃ。
わらわはまさかと思い、そやつをぞんざいに放り投げて。
Lと思しきものの元へ向かう――

「L、どこじゃあ―――ッ!! Lッ!!
そして、発見した。
それはまさに満身創痍であった。
「LッLッ!! L――ッ!! ああっ!! L~~」
わらわはボロボロになったLを抱き上げた。
よくぞ無事で。無事とは言えぬが五体満足でホント良かった。
おそらく大爆発の瞬間。
防衛本能が働き、バリア(エンセルト)を張って身を護ったのじゃろう。
「ぅ……あうぅぅ……僕よりもあの子を。ゲホッ、はぁっはぁっ。何度もあの子にテレパシー(チレパーティア)で語りかけているんだけど、反応が返ってこないんだぁ……ッッ」
「あぁ、あやつは……」
わらわはあの時気づいていたのやもしれん。
その者から感じられたのは、もう脈がなかったことじゃ。死か、それとも死の一歩手前の状態か……。もう、どちらにしろ手遅れじゃ。
「……ッッ」
わらわは、きっぱりとあの者と関わるのは止めにした。それよりも大事なのはLじゃ。
「Lお前だけでも無事でよかった! 本当じゃぞ! さあ急いで宇宙船に戻ろう。さあ」
「ッッ、あの子は今も、死の淵で死と戦ってるんだよ!! お願い姫姉、あの子を助けて!!」
「……なぜ生きてると言い切れる!? わらわははっきり見たぞ。 あれはもう焼死体も同然じゃ!」
「まだ、あの子の声が聞こえるんだ!!『帰るまで死にきれない』って!! だから……ッッ!! ゲホッゲホッ」
「チッ!!」
(どうするここらで息の根を止めるか!? あの者の存在は、益となるか害となるか、どっちじゃ!?)

――とその時。
イジェン火山に再び噴火の前兆が訪れる。
――ドドドドドッ
輝く青い炎が高ぶり、振動が大きくなっていく。
「まずい噴火の前兆かッ!!」

――とその時。
「姫様――ッ!!」
とわらわを呼ぶ声が。
「兵士達じゃ!」
空を仰いでその存在を確かめるわらわ。
そして、それに倣うように、Lも顔を上げて確認した。
兵士達は、すぐにアンドロメダ王女の元に降り立って、片足を折って跪いた。
「よくぞ来てくれた、礼を言う。さっそくで悪いがLを宇宙船に連れて行ってくれ!」
「はっ!」
わらわはこの者達の顔見て、デネボラがいないことに気づいた。
「むっ、デネボラは?」
「デネボラ様は船内に残って、一機しかない『セラピアマシーン』の準備に取り掛かっています」
「フッ、さすがに仕事が早いな。ではそちにLを任す」
「御意!」
わらわは兵士の1人にLを任せた。

――その様子を、アンドロメダの宇宙でデネボラも確認していた。

「……残りはわらわと一緒に、レグルスの安否を確かめるのじゃ!」
「はっ!」
「!」
(レグルスだけ……じゃああの子は……!?)
ここで僕は難色を示した。
「……ッッ、僕と一緒に戦ったあの子も連れて行って!!」
僕はこの兵士さんの腕の中で嫌々した。
「聞こえなかったのかL! セラピアマシーンはたった1機だけ。状態を判別してお前かレグルスのどちらかに使う!」
僕はハッとした。
姫姉はこの時、あの子を切り捨てたと。
せっかく、あの厳しい戦いを潜り抜け勝ったのに。そんなのないよぉ、姫姉ッッ。

――そして、その時が訪れた。
なんとイジェン火山が地表から大噴火したのじゃ。
――ドォオオオオオンン
「総員退避――ッ!!!」
わらわたちは地上から空中へと逃れた。


☆彡
空中で浮かんでいるわらわ達はその光景を見た。
イジェン火山が大噴火し、溶岩が流れ出したのじゃ。
「……」
あの黒い人型がいるのは、だいたいあそこらへんか。
これにはLも。
「ぁーぁー……うぅ……」
首を振って現実を受け止められなかった。
「姫様」
「……あぁわかってる。レグルスの事は後で考えよう。引き返すぞ」
――とその時だった。
まばゆい青い輝きがわらわの後ろから襲ったのは。
わらわはすぐに後ろに振り返った。
地表が地割れで割れ、ガスが噴き出し、火に引火し発火する。
その時、金色の何かが現れたのじゃ。
「あれは……ッッ」
わらわは、わらわ達は一言も発さず、まるで金縛りにあったみたいにその場から動けなかった。
金色の何かはそこからゆっくりと歩んでいく。
その者の行きつく先は、あの黒い人型じゃった。
歩み寄っていく金色の何か。
それは溶岩の上を歩いているようであった。
噴き出すガス。輝く青い炎。そして溶岩流。
その溶岩流がスバルに迫る。
危ない。呑まれて死んじゃう。
だが、その者が向かう先には失礼とばかりに溶岩流が二股に分かれた。分岐点には遮蔽物もくぼみも何もないのにだ。
わらわはその様を見て。
「まさか……この地球に住む、神か何かか……!!」
と呟いた。
これには周りの兵士達も驚き、見入っていた
僕もその様子を終始見守る。
そして、ようやくその者がスバルの元へきて。
自身の中から光る球体を、スバルの体内へと入れて、組成を図るのだった。
蘇生ではなく組成。


★彡
――死の淵に瀕したスバルが見た夢の中。
僕は1人、折れた大太刀を携え。1人の死神の攻撃を避けていた。
空を切る死神の鎌。
「死ねない、死ねるもんか!!」
みっともなく転がる僕。だけど急いで立ち上がり、降りかかるあいつの攻撃をかわそうとする。
すれ違いざま、折れた大太刀を当ててみるが、こちらも攻撃は空を切るばかりで、まるで手応えがない。
そこで、またみっともなく転ぶ。
(ま、まずい!)
死神が「カラカラ」と笑い立てて、その大きな鎌を振り上げたその瞬間。
金色の光が僕の背後から襲った。
その光に悶え苦しむ死神。
死神は分が悪いとばかりに一目散に退散した。
僕はその黄金の光を見た。


☆彡
黄金の光は消え失せて、黒い人型はボロボロとなったスバルとなりて、一命を取り留めていた。
場は静寂していた。一番初めに口を開いたのは。
「ス……スバル……」
僕だった。その小さな手を伸ばす。
その様を見たわらわは胸をいたれ、ズキッとした。
「浅はかだな……」
「「「「「?」」」」」

【――その言葉の真意は、子供みたいなLを感情論と捉えるか。
何も知らないアンドロメダ星や他の惑星の方々はどう捉えるか。
それは定かではない。
だが、危うい道のりであることは確かだろう。
周りの兵士達は、わらわの真意は計り知れない】

「これからどうなるかか……うむ」
(見定めよう、お主の物語を!)
「……お前達は、レグルスと他のガキを探し保護するのじゃ!」
「「「「「!」」」」」

【――わらわは動いた。
いや、賭けてみることにした。
わらわは少年の元に降り立ち、ゆっくりと抱きかかえた。
ほんのり温かい、これが命の可能性か。
その様子を兵士に抱きかかえられ、空から見守っているのはL(僕)だ】
「姫姉」
「……」
ここでわらわとLの視線はがっちりあった。
「……」
「……」
心の中でそれぞれの思惑を飛ばすわらわとL。
(……)
(信じていいんだね……わかった……)

――その時だった、長い夜明けが明けたのは。
地平線の向こうから陽が上がり、この一瞬だけその上部が緑色に光った。それはグリーンフラッシュであった。
その緑の陽光が、あたたかくスバルを抱いたアンドロメダ王女に差し込んだったのだった。
わらわはその暖かな陽光を受けて、その陽に振り向いた。
こう呟いたのじゃ。
「おおっ……夜明けじゃ」
わらわはこの少年を見て、こう呟いた。

「……この賭け、お主の勝ちじゃ……!」

わらわに抱かれた少年は、まるで笑っているようじゃった。
じゃが、時は待ってくれなかった。再び――
――ドドドドド
と地割れが起き、ガスと青い輝きの炎が噴き出して、未だ大噴火の勢いが続いていたのじゃ。
溶岩流がブクブクと泡立つ。
これはいかん。すぐにこの場から退避せねば。
わらわは少年を抱きかかえたまま、危険地帯から飛び、Lを抱いた兵士の元へ移動した。
「姫姉……」
「口約束だが約束じゃからな。……わらわもこの者と語りたいと思うた。先に帰還する! お主はレグルスと件のガキを発見次第、わらわのところに連れてまいれ」
「は、ははっ!!」
「姫姉……」
「フフッ」

【――わらわはこの先が楽しみになってきた】


☆彡
――わらわはスバルという名の少年を抱き、空を駆ける。
その道の途中、豪華客船が目に入り。
スバルが片時も離さなかった折れた大太刀を掴み取り、そこへ投げ捨てた。
その折れた大太刀は、ホッキョクグマ達がいる看板の上に落ち、ガシャンと砕け散った。

――そして、先に宇宙船に帰還したわらわがした事は、セラピアマシーンにスバルを入れることだった。
さしものデネボラ達も、あの神なるものを見て、難色を示すことなく快諾してくれおったわ。
セラピアマシーンの容器に回復液が満たされていく。
「スバルよ、お前が目覚めるのを楽しみに待っておるぞ」
そうしてセラピアマシーンの容器に回復液が満たされ、スバルの治療が長い時間をかけてなされていくのだった。


☆彡
【――それから長い時が流れ、ついに、その時が来た】
回復液に浸かるスバルは、その口から気泡をコポッコポッと上げていた。
その回復液に全身が浸かり、口には呼吸器など付けられていない。
どうやって呼吸しているのか不思議だ。これはどうみても随分進んだ科学文明がなせる業だ。
――コポッコポッ
と気泡が立ち昇る。
だが突然、その変化が変わった。コポッコポッからブクブクと気泡が激しくなったのだ。
その時、スバルが目を覚ました。
ブクッと一際大きな気泡が上がり、スバルは水中から見える室内を見回した。
(どこだここは!? 僕はどこにいるんだ!!? ここはどこなんだ……)
ブクッと気泡が上がる。
(ここはまさか水中なのか、まずい呼吸ができないッ!!)
ブクブクと気泡が激しく立ち昇る
僕は自らの首を絞めて、苦しそうにした。
(まずい、誰か助けに来て!! 死んじゃうよッ!!)
僕はこの水中の中で激しく暴れた。
早くここから脱出しないと本気で溺死しちゃう。
ガボッガボッと口から呼気が漏れる。
(まずい貴重な酸素が逃げちゃう)
僕はその酸素で手掴みにかかるものの指の隙間から抜けていく。
(貴重な酸素がぁ、し、死ぬ~~!!)
「死ぬ死ぬ死ぬっ本気で死んじゃう!! 死ぬ~~!!!」
その時、ビーーッビーーッと警報音が発せられ、水位がサァ――ッと下がっていく。
しめた。水位が下がっていくぞ。
後は呼吸が持ちこたえられるかどうかだ。
下がっていく下がっていく、水位が下がっていく。
だけどそれよりも先に、僕の呼吸が限界だった。
(もうダメだぁ……)
ガボッと僕の口から最後の呼気が漏れた。
ダメだ死ぬ……。
(…………あれ……呼吸ができる)
不思議と水の中で呼吸ができた。何なんだこの液体は。
水位が下がっていく。頭から肩、肩から胸、胸から腹、そして足元へと。
先程までの警報音が嘘のように静かになり、この機械のドアが開いた。
しめた。脱出できる。
僕は転がり込むように、この機械から抜け出した。
そして、口内にたまっていた変な水をゲホッゲホッと吐き出して、大いにむせた。
「はぁ……はぁ……」
呼吸を整えていく。
「はぁ……はぁ……」
僕はその場で立ち上がり、この部屋を見回した。
「……ここはいったい……」
周りにあるのは、見た事もないものばかりだった。
あれは何なんだ。
僕はそれに近づく。
それは金属質の作りで、床も壁も天井も、同じものだった。
何かの機械があって。見慣れない文字群や星座めいた点印などがある
「どこなんだここ……」
僕は身に覚えないのところにいるということだけは確信できた。
【――こうしてスバルは、アンドロメダ星人の治療を受け、何とか生還したのだった】


【――第1章、アンドロメダ星人襲来、完――】

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