第1章の第14話 一握りの勇気
【カナダ】
山からは溶岩が流れ、空には噴煙が覆い、太陽の光を阻み、まるで黒雲のようだった。
その都市はまるで台風一過の如く、荒れ果てた街並みだった。
彩雲の騎士は、そんなカナダの大地に降り立ち、エネルギー変換を解いた。
――パァ
とスバルとLとに分離した。
僕達は周りを見渡した。
そびえ立っていた高層ビル群は崩落し、エアカーによる崩落事故を起こした現場があちこちで見受けられた。
また少なくない火の手が上がり、周囲に異臭が漂う。
焼けた人の腐敗臭が辺りに漂う。
さすがにこの臭いにやられた僕は、すぐさま口と鼻を腕で塞ぐ。
「すごい臭いだな……」
「山火事じゃなく、都市部だからね。尋常じゃない被害だよ」
「……うん……」
僕はそう思った。
その時だった。
ピピピッとそれは彼が左腕に付けている『エナジーア変換携帯端末』からの着信音だった。
彼はそれに気づき操作すると、宙に立体映像(ホログラム)が現れた。
そこに映っていたのは、先ほどきたデネボラさんだった。
『L、聞こえる?』
「うん、聞こえるよデネボラ」
『今、この星は大変な事になってるわ!』
これにはLもスバルも心当たりがあった。
『……』
「……」
顔を見合わせる2人。とりあえずLはデネボラに尋ねてみる。
「大変な事って……?」
『大きく分けて2つ! 1つはレグルス隊長の事なんだけど……。あなた達が戦った後、進化が止まらなくて、完全に暴走してる。あれに自我はないわ』
「……」
『……あれはもう『火雷の巨獣』でも『核融合炉の巨獣』でもないわ。だから私と姫様とで新しく命名した、『厄災の混濁獣』と』
「『厄災の混濁獣』……」
『進化のなれの果てよ! もう討伐するしかないわ!』
それはかとなく酷く思う。同じ仲間だったはずなのに……。
「……もう1つはデネボラ?」
『……『氷結への脈動』トゥフリーズ・ポーセィション(ナ・パゴシィ・パイモース)って知ってる?』
「「……!!」」
これには僕達も頷く。
『『全球凍結』スノーボールアース(クライオジェニアン)が起こる前の前兆なんだけど……』
「……デネボラ」
これにはデネボラも頭を痛めているようで、この先の言葉を言うのをためらっているようだった。
『はっきり言うわ。この星は死ぬ』
「この星が……死ぬ!?」
「!」
それは信じ難い言葉だったからだ。
(死ぬって……え、何……!?)
『……『厄災の混濁獣』が次に向かう先は、おおよその見当がついてるのよ。いいえ、前例があって、それを参照するとこの星も死んでしまうと出たのよ』
「それはいったい……」
『与力の最終進化系……それは星の内核とつなぎ、自身の与力とした結果、この星とともに死んでしまう悲しき運命(さだめ)……』
「つまり、この子の帰る場所がなくなるって事!?」
「!!!」
信じ難い話だった。
「そんなの信じられるか――ッ!!!」
僕は耐えきれず、大声を張り上げて逃げ出した。
「あっ、待っ……」
その小さな手を伸ばすL。その時、偶然にもここの水道管が破裂して、ブシャ――と水が勢いよく噴出して、僕達の間を遮った。
「……地球の子……」
いわれのない寂しさが込み上げてきた。
スバルは「ウグッヒクッ」泣きながら、荒れた都市部を歩いていた。
「僕はいったい、何なんだよ……ッ!! あれだけ戦ったのに……勝てるわけがない……!!」
僕は首を振った。
歩き出し、両足に痛みが走った。
そのまま倒れこむ。
「痛っつ!!」
倒れた僕は自分の足を見た。
「そう言えば……足が折れててたんだった……」
だが、その足が修復されていて、歩けるまでに回復していた。
これはエナジーア変換の影響だろうか、それとも彼の……。
僕は「フッ」と笑ってしまう。
「何でもいいや」
と僕は思った。スクッと立ち上がる。
「だけどこれから僕……」
僕は顔を上げて。
「どうしたらいいんだよぅ」
と乾いた声を上げた。
――その時だった。
何かの声を拾ったのは。
「――」
「……今のは……」
僕の足は自然とそっちの方に向かう。
荒れた都市部をかき分けて進むスバル。
瓦礫を避けながら進んでいくと、この先の道を塞ぐように一際大きな瓦礫が塞がっていた。
これは押しても引いてもビクともせず、もう諦めようかと思ったその時。
「そうだ! 魔法が使えたんだった!
「『我、大地の女神ガイアと契約を結びし者なり。古き大地の精霊達よ、天を地に返し、地を統べよ』!! 『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタ)!!!」
――ズドォン
と一際大きな瓦礫に重力場が重くのしかかる。
瓦礫が見る見るうちに小さくなっていき、人が通れるほどの空間が開けた。
これを見たスバルは。
「……」
開いた口が塞がらなかった。
「……すごい……人間の体で、こんな力が……! これが僕の力なんだ!」
僕は改めて、魔法の凄さを痛感した。
「でも、こんな力があるのに勝てないだなんて……」
僕は力のもどかしさを痛感した。同時に自分の力のなさを。
「――」
その時だった。また何かの声を拾ったのは。
「……さっきの声だ」
僕は声がした方へ歩みを進める。と。
――半壊したホテルに辿り着いた。
「……ここはホテルだったところか……」
「だ……か……」
「今のは……!」
それは人の声だった。僕は声がした方向へ向かう。
その道の途中、裸のおっさんを発見したんだ。
「!」
僕はそれを見て、ビクッと反応した。
でも、よくよく見ると……。
「……ダメだ、もう死んでる。死因は圧死か……。」
原因は半壊したホテルの半壊に伴う、瓦礫に押しつぶされての圧死だった。
惨めな死に様だった……。
「……」
「誰か……」
「ハッ! どこにいるんですか!」
「ここよここ!!」
「待ってて! すぐに行きます!」
そして、僕は救難者を発見したんだ。
その人は20代半ばの外国人の女性だった。って当たり前か外国なんだから。
『金髪よりのローズゴールドブロンドカラーの長い髪』に珍しい青い瞳『アースアイ』をもつ特徴的な美人さんだった。
潰れているのはお化けおっぱいだろうか。
その人はまだ意識がはっきりあるようで、僕を見るなりガッカリした。
「何だ子供か~~……」
「うわぁ……」
僕が見たその人の第一印象は裸の女性だった。
しかも、倒壊した瓦礫の下に挟まっているという印象だ。うまい具合に挟まったものだ。
「と大丈夫ですか?」
「ええ、なんとかね……。ねぇ僕ー1人? お父さんやお母さんは近くにいないのかしら? いるんなら呼んでもらえると助かるんだけど~」
「えと……参ったな……」
「……?」
(どうしよう何言ってるのかさっぱりわからないぞ……。とにかくわかってるのは……)
この人を助けることだった。
「今すぐにこの瓦礫を退かします。少し頭を下げてもらえませんか?」
「……なに?」
「我、大地の女神……とそうだった……!!」
僕は詠唱を途中で中断した。何か嫌な予感がしたもので。
「普通にやったんじゃ、この人も裸のおっさんみたいに圧死するんだった。危ない危ない……。ふぅ……」
僕はここで一息をついた。一度頭の中を整理する。ゴチャゴチャしてたんだ、色々あって。
「パワーを上手くコントロールして、円の中心部に向かって、圧壊するようなイメージだな……うん」
「?」
「『我、大地の女神ガイアと契約を結びし者なり。古き大地の精霊達よ、天を地に返し、地を統べよ』!! 『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタ)!!!」
――ヴヴヴヴヴ
僕は上手い具合に瓦礫の中心部にガイアグラビティ発生させて、その中心部に向かって瓦礫が吸い寄せられて圧壊していく様はまさに、驚嘆ものだ。
1つ間違えれば、このお姉さんも危うく瓦礫と一緒に巻き込まれて肉塊に変えているところだ。非常に際どい作業だ。
「なっ、ななななな!!!?」
「動かないでジッとしてて!!」
「ひだいひだいひだい!!!」
なになになに!?
あたしの可憐な髪が吸い寄せられて、ってちょっと何かに引っかかってない!?
それは吸い込まれて圧壊していく瓦礫だった。
そのままミチミチと髪が力づくで引き抜かれていく様は、まさに激痛ものだ。
しかも、しかもよ、事もあろうにあたしの頭の上でバキバキと物凄く不気味な音がするのよ。
怖いったらありゃしないわ。
もう涙目よ。後で覚えてらっしゃい。
(よしっいいぞ! うまい具合にピンポイントで発生できた! このままこのまま)
そして、『ガイアグラビディ』(ガイアヴァリィティタ)の効果が終わり。
上から下に落ちるように、なんとお姉さんの目の前に落ちたのだった。
「ひゃぴぃ!!!」
――ズドォン
こんなに小さいサイズなのにものすごく重い質量だった。
小さく圧縮された瓦礫の塊が落ちて、この階のコンクリートを突き破って、下の階に落ちていった。パラッパラッ……と。
その後、あたしは「こ……腰が抜けて……」立てなかった。
(この子、魔法使いか何かだわ……)
☆彡
――その後。
目のやり場に困った僕は、お姉さんと一時分かれた。
残ったあたしは、ここがホテルだったこともあり、シーツを衣類代わりとして間借りした。
「うん、まぁまぁね」
抜群のプロポーション、何着ても似合うわね、さすがあたしね。
が、第三者視点では、誠に残念なことに妙に太って見えた。
顔は小顔なのに、胸部から妙に太って見えるのだ。小太りという表現が正しいのか……。もしくは変わった相撲取りか。
「……とあの子何者かしら?」
「お姉さーん!」
「あっ帰ってきたわね」
「はい」
「あらありがと、気がきくわね」
僕はお姉さんに飲み物を上げた。
この飲み物はどうしたかというと、自販機が半壊のはずみで壊れていたので、その中にあったものだ。
俗にいう、盗みに当たるがこの際、仕方ない。目を瞑ってもらおう。
「んっ……ププッ」
僕は必至で笑いをこらえた。
お姉さんの頭髪が抜けて、変な髪形になってるからだ。奇麗な髪なのに残念だ。
が、あの状況下だ。仕方がないといえば仕方がないのだ……うん。
「……」
あたしは心なしか少し怒っていた。
(助けるにしても、もう少しデリケートに助けてほしいわね……)
とヤジを飛ばしたいくらいだ。
が、助けてもらった手前、さらに子供であるため、大人として我慢することにしたの。
「ねえ、僕~どこから来たの!?」
「……え~と……日本語でお願いできますか? まるっきり何て言ってるのかわかんなくて」
「「……」」
両者の間で、乾いた空気がヒュ~~と流れた。早い話が言葉が通じないのだ。
さ、寂しいぃ。
と僕がそう思ったその時。
「あぁソーリー。あなた日本人だったのね。つたないけど、あたしの日本語わかる?」
「えっ……」
これには僕も驚かされた。美人なお姉さんは日本語ができたんだ。
「フフッ」
(学生時代、日本語の勉強もしといてよかったわ。社会人になった後も訳ありで、いくつかの国の言葉も覚えたんだけどね!)
それはあたしのちょっとした自慢だった。
「少し移動しましょうか。あなたのパパとママを探しに行かないと」
「あっいえ、父と母は日本にいて、僕1人、外国の地にいるんですけど……」
「……え」
再び、両者の間で乾いた空気がヒュ~~と流れたのだった。
(どうやってきたのよこの子……まさか空でも飛んで)
(うっ、変な目で見られてるぅ……)
あたしはこの子が乗ってきたであろう魔法の箒でも探した。
が、もちろんそんなものはない。
僕は話題を変えることにした。
「少し移動しましょうか?」
(怪しい……)
僕が先に動いて、その後お姉さんが付いてくる。
道なき道をいく2人。
その道の途中、裸のおっさんのところを通りかかったとき。
お姉さんが反応を示したんだ。
「キャッ!! ううっ……あっこいつ死んだんだ!」
「知り合い?」
「えぇまぁ」
僕はこのおっさんとお姉さんの間に何かあったのかと勘ぐった。
ここはホテルで、2人とも裸だったことからだ。
「……あたし、こいつに弱み握られてたのよ」
「え」
「これは大人の事情なんだけど、あたし海外を転々としている女医なのよ。この人は大学病院の院長先生」
「院長先生!? 何でまた裸に」
「TVでよくあるでしょ? 病院の関係者が夜ホテルで裸同士になる話」
(うん、どこかで聞いたことがある話だぞ、これ)
「抜きんでた腕を持つと妬まれるのよ、周りからね。
ある時、腕がよくない部長クラスと組んだことがあって、医療ミスを起こしたのよ。
その責任は誰にあるのかというと、普通は部長が取るものだけど、海外を転々としているあたしに白羽の矢がたったわけね。
で、その隠蔽工作をしてやるから、部長から院長に伝わり。
昨日の夜から体を預けてたってわけ。後は多額のお金が動いてわね」
「え~と……」
「はぁ……つまり医療関係の隠蔽工作よ」
「……マジ」
僕はこの年で、とんでもないところにきてしまったようだ。
僕は、目の前がクラァとした。
僕の頭の中には、多額のお金が見えた。
「ヤバい、目まいが……」
その後ろで、あたしはほくそ笑んでいた。
(なーんてね嘘。真実はもっと黒いものよ。ホホ、真実を知ってるのはあたしだけでいいのよ)
「あっそうだわ。君、名前はなんていうの?」
「……え、あっそうだった。裸にシーツのお姉……さん」
僕の目は、そのお化けおっぱいに釘付けになった。シーツの上からでもわかるその柔らかなそうな超乳。
いったいどれぐらい大きいんだ。普通乳、豊乳、巨乳、爆乳、超乳といわれる極レアじゃないのか。
(何よずいぶんとませたガキね。フフン、ちょろそう)
この子の視線もやっぱり超乳(これ)だった。これなら簡単に騙せそうね。
「あっそういえばまだお礼がまだだったわね!」
「えっ」
あたしはこの子の目の前に立って、この子の頭の後ろに手を回して、グイッと手繰り寄せた。
もにゅんと自慢の超乳に埋めたげた。顔からダイブだ。
これでどんな男の子もイチコロよ。
「ホホ、クリスティよ、よろしくね」
「ンンッ。スバルといいます」
で、でけえ……それでいて気持ちいい。柔らかけぇ。な、何だこれ。も、揉みたい……。
僕はお姉さんに気づかれないところで、こう手をニギニギ動かした。。
☆彡
――その後、僕達はお互いの自己紹介をし、事の経緯を話した。
「アンドロメダ星人!!? じゃあこの荒れ模様は自然災害とかじゃなくて、そのアンドロメダ星人のせいってわけ!?」
「う~ん……先に手を出したのは、僕達地球人側の方ですから、その報復なんです!」
「どっちも同じよ!! とんでもない話だわ!!」
これにはあたしもプンプン怒った。
「とすると軍も動いているはず。なのに動いていないのはやっぱり……。電子機器が全て逝ってるからだわ……!! じゃあどこの国も、国の中枢が全てマヒしてる……!!)
あたしは最悪の予想を立てた。
うん、これでは国が動いてくれないわ。これからあたしはどうしようか。
「……と、君はこれからどうするの!?」
「……」
そう言われて僕は悩んだ。
「……悩んでるみたいね。お姉さんで良かったら相談に乗るわよ」
僕は頷き返した。
「ここに来た場所に戻って、もう一度戦うべきかどうか、正直迷ってます」
「……それは……なぜ?」
「……こ……怖いからです」
僕は震え出した。
僕はあの戦いを通じて、恐怖というものを肌で感じたんだ。
(あの戦いを通じて、あれの怖さを身に染みてわかりました。今、生きているのも奇跡なぐらいなんです」
「……」
僕の手は震えていた。
あたしもそれを認めた。
「でも、ある約束を投げかけました。その誓いを成就できれば、アンドロメダ王女と話し合うことができる。まぁ、今にしてみれば奇跡みたいな話です」
僕は、「ははっ……」と空笑いした。
あたしはそれを見て(嘘ついてる感じじゃないわね……)と判断した。
「……」
「……」
あたしは俯いたスバル君を見て、こうなんていうかもどかしさを感じたんだ。
「わかったわ。じゃあ勇気が出るおまじないをしたげる」
「?」
「目ぇ閉じて」
「? ……」
僕は言われた通り目を閉じた。
そして、バサァとシーツがはだける音が聞こえて、何か温かいものに包まれて、頬に柔らかいものがチュッと触れた。
それはお姉さんに抱き着かれて、頬にチューされたからだ。
そのシーツの中ではお姉さんの超乳がもにゅ~~と潰れていた。
潰れているのは僕の胸部に圧迫されているからだ。
これには僕も驚いた。
「なっ」
「フフッ、これが勇気が出るおまじない。勇気出たー!?」
「は、はああ……ッッ」
僕はすごく焦った。ダメだ、上手く感情が回らない。
(ホントは唇でもよかったんだけど……日本の子は初心(ウブ)だからね)
これぐらいが丁度いい。
(この上、ボインタッチでも許そうものなら、この子は使い物にならなくなる。だからこれで留めるのが正解!)
「ウフフ」
その時、『ハワワワ』と誰かが慌てているような声が聞こえた。
「ん?」
それはあのアンドロメダ星人だった。
「あれ君は!?」
「……どうしたの?」
僕は小さな宇宙人に振り向く。お姉さんにはそれが見えない。
『Hぃよお地球人!!』
「そんな関係じゃないから!!」
「そこに誰かいるの……? ……誰もいないみたいだけど……」
「いや……そこにいるんだけど」
「え……」
あたしは目を凝らしてみたけど、そこには誰もいない。
僕にはあの子の姿は見えるけど、どうやらクリスティさんには見えないようだ。
珍しい青い瞳『アースアイ』を持つクリスティさんでも、エナジーア生命体を捉えることはできないようだ。
ということは、日本でも外国人でも関係がなく、見ることができる事態が際立って珍しいのだ。
『僕達の姿や声を聴けるのはどうやら君だけみたいだよ。君を迎えにきたんだ。……さあ、行こうか」
「……うん。これで最後の戦いだ」
「えっ? えっ?」
僕はお姉さんから勇気をもらった。
僕はお姉さんから離れて、彼の元へ歩み寄る。そして――
「――君の名前は?」
「僕の名前はLってゆーんだよ。君の名は?」
「スバル」
「『……』」
見つめ合う2人。
僕達は互いの名前を、この時初めて自己紹介し合った。
クリスティさんはその初めての目撃者だった。
そして、光に包まれる両者。
光の球体が発生し、天高く伸びて何かが飛び去って行った。それが最後の戦いに向けての旅路だ。
1人、残されたクリスティは……。
「え……」
むなしく1人残された。
その時、ヒュ~と乾いた風が流れた。
「まさかまさかの魔法使い~~!」
へなへなとあたしは腰が抜けた。
☆彡
彩雲の騎士は空を駆ける。
(あのお姉さんはそのままにして良かったの?)
(あれでいいんだよ)
(薄情だな~~地球人って。もしかしたら君に気があるのかもしれないよ~)
(冗談! 僕が心に決めた子は1人だけだよ)
(フフ)
そうなんだね。
(フフ)
待っててくれよアユミ。必ず奴を倒すから。
「「……ん」」
その道の途中、前方に雷雲、積乱雲が見えた。
(ショットカートするよ! 目的地までナビゲートよろしく!)
(了解だよ!)
僕は精神世界にて、この少年の横顔を見た。
(君は気づいていないみたいだけど、君には優れた危機感知能力がある。きっと他にもまだ……!! それがこの戦いで開花すれば或いは……!!)
僕は希望的観測に期待していた。
そのまま僕達は、雲の中を突っ切る。
――中は乱気流の嵐だった。
四方八方から霰を含んだ暴風雨が襲い掛かってくる、稲光もすごい。
だけど僕達は迷うことなく、突き進む。周囲にバリアを張って
すると正面から雷が襲い掛かってきた。このままバリア(エンセルト)でガードするか。いや。
「「バトルカード『脇差』! はぁあああああ」」
ズバンッと彩雲の騎士は脇差を振るい、雷を切った。
「「やぁあああああ」」
そのまま2度3度と雷を切りながら、突き進んでいく。
(雷を切った!! すごいッ!!)
僕は彼にニコッと笑みを返した。
(さあ、そろそろ出口だ!!)
と目の前に、霰を含んだ竜巻が塞がった。それに対し僕達が取った行動は。
「「バトルカード『フラワーキャノン』!!」」
(ケイちゃん力を貸して)
「「いけぇえええええ!!!」」
――ドォオオオオオン
僕達は最大の障害を突破して、積乱雲を攻略した。
その様子をホログラム映像で見ていたアンドロメダ星人達は。
「おおっ!!」
「なんと奇怪な!!」
これを認めていたアンドロメダ星人の作業員も驚いた。
「これが『バトルカード』……Lの持ち込んだ情報通りですね」
「うむ。さしずめLの能力は、情報を読み込み、生成する能力といったところか。多様性の1つの可能性じゃな」
「光る尾。まさしく……」
「うむ。彩雲の尾じゃ!!」
その姿はまさしく、光る彩雲の尾じゃった。
☆彡
【インドネシア】
ジャワ島の火山イジェン山。
闇夜に輝く青い炎を発する神の山。
僕達は積乱雲を突き破り、上空からゆっくりと降りていく。その下には奴がいる。
――オオオオオ
「「……これが最後の戦いだ!!!」」
最後の戦いにして見せる。
――『厄災の混濁獣』との最後の決戦が始まろうとしていた。
上空からゆっくり降りていく彩雲の騎士。
その手にはバトルカード『脇差』と『フラワーキャノン』。どちらもケイちゃんの願いだ。
この戦い、負けるわけにはいかない。
対するは火口付近で口を開けて待ち受けている『厄災の混濁獣』だった。
ヤバい、これはもう融合化が始まっているのか?
「……」
一筋のエナジーアの粒子が頬に流れる。
そのエナジーアの粒子が下から上に昇っていく
その時だった。
『ウォオオオオオオオオオオ』
奴がこちらに気づいた。
気づくや否や溶岩弾を撃ってきた。
(火の玉じゃない!)
その溶岩弾の色も輝くような青色で、その全長は彩雲の騎士の背丈の倍ほどもあった。
彩雲の騎士はそれを、スパンと切った。
(これじゃなかったら対処できなかった……!)
切り裂いてみせたのは『脇差』だ。
「んっ!」
それは1発じゃ終わらないよな。
『厄災の混濁獣』は2度3度と続けざまに溶岩弾を撃ってきた。
僕はそれを躱して躱して。
「「『我、大地の女神ガイアと契約を結びし者なり。古き大地の精霊達よ、天を地に返し、地を統べよ』!!」」
詠唱に入っていた。
その間にも溶岩弾が迫りくるが、こちらは2人で1人の人物だ。
敵の攻撃を躱して、時にはバリア(エンセルト)で身を護るL。
そして、その間に詠唱を行うのはスバルの役目だ。
2人はこの時、動きが?み合っていた。
まるで旧友の仲のように。
できた、行くぞ。
「「『ガイアグラビティ』(ガイアヴァリィティタ)!!!」」
――ズドォオオオオオン
『厄災の混濁獣』に凶悪な重力場が重くのしかかる。
もちろん、最大パワーだこのクソ野郎。
「グォオオオオオ」
苦しむ『厄災の混濁獣』。
そこをチャンスを捉えた彩雲の騎士は。
(チャンスだ!!)
(いけぇえええええ!!!)
僕が放った凶悪な重力下に墜ちる。
僕のスピードと落下速度と重力加速度が上乗せされた一撃をお見舞いしてやる。
「「『フラワーキャノン!!』」」
その間にフラワーキャノンを2発立て続けに撃ち。『脇差』を構えて、精神集中してからの――
「「――切る」」
叩きこむは師から譲り受けたこの技。
「怨魔流――」
その瞬間、厄災の混濁獣が自身の周囲にどんな攻撃も寄せ付けない障壁を張った。
その様を見たLは(マズイ!!)どんな攻撃も届かないと思った。
だが、もう行動に移っている。もう誰にも止められない。
待ち受けるは最悪のカウンター業だ。
★彡
僕の記憶は夢の世界に飛んだ。
「うわぁ」
と僕は飛ばされて尻もちをついた。
「いててて」
「いいかスバル! この『怨魔轟臨(おんまごうりん)』の使いどころは強敵と対峙した際、そのガードを崩す際に使うんだ」
「ガードを崩す……」
そこへ師ではなく先生が話しかけてきた。
「バリアを壊す際やカウンターを崩す際に有効な技よ。特に強大な敵なんかは、こちらの攻撃が届かない障壁なんかを張ってくるもの。その際に有効となる大技よ」
そうか。この技はこの時の為にあったんだ。
☆彡
今の僕なら、いや、この彩雲の騎士なら『それ』ができる。いくぞ。
「「『怨魔轟臨(おんまごうりん)』!!!」」
――ズバンッ
僕達はその届かない障壁ごとその胴体をたた切った。
(嘘――ッ!!)
これにはLも驚かされた。だが――。
「「――手応えがないッッ!!!」」
そうなのだ。僕達が切ったのはあくまで炎で形作られた胴体部だった。
炎だから空を切ったにすぎないのだ。
精神世界にてLの注意が飛ぶ。
(しまったやっぱり核を狙わないと!!)
(核!!?)
(核とは、その原点に当たる場所だよ!! 僕達で言うところのエナジーア変換装置そのものだ!!)
(そんな小さいのを狙うの!?)
――ハッ
僕は奴の攻撃の気配に気づいた。
それは尻尾で叩く攻撃だった。
ドーンと巨大な尻尾が赤々とした大地を穿ち、溶岩が噴き出した。
彩雲の騎士はテレポート(チルエメテフォート)で上手く躱してのけた。
(どうやって狙うんだよ!! そんな小さいの!!)
(頼れるのは君の危機感知能力!! それを僕のサイコエナジーアで増幅する!!)
(クッ、やってみるしかないか……!!)
僕は『脇差』をチャキと構え直した。
再び、尻尾で叩く攻撃で迫る。
彩雲の騎士はそれをテレポート(チルエメテフォート)で再び躱し。
空を切った尻尾で叩く先は、噴火口の壁だった。
それを破壊し、溶岩を噴出させた。
――幾分か離れた位置にテレポート(チルエメテフォート)で移動した彩雲の騎士は、精神を集中させて、増幅された危機感知能力で奴のコアを探り出す。
そして、それがわかった。
おぼろげだが人型の獣が大の字になって、苦しんでいる様が――
「――まさかこれがコアの正体!」
「僕にもはっきり見えたよ!」
厄災の混濁獣はその口内から溶岩弾を撃ち出す。
彩雲の騎士は再びテレポート(チルエメテフォート)でそれを躱した。
僕達は瞬間移動したところから走る。走って考える。
(問題はどうやって、コアに攻撃を正確に当てるかだ!!)
(それは……ッッ)
体躯を一度切られた『厄災の混濁獣』は、彩雲の騎士を警戒対象として定めた。
それは身を護る防衛本能からくるものだった。
己に体に暴風と雷と炎を身にまとったのだ。
これでは迂闊に近寄れず、どんな攻撃も寄せ付けない。生半可な技では。
その様を見た彩雲の騎士は。
「「ちょっと待って!! そんなのズルい!!」」
ズザァアアアアアとその場で急ブレーキをかける。
――カッ
と厄災の混濁獣は『破壊光線』を撃ってきた。
それは溜めなしの速射射撃だった。
「「うわぁあああああ」」
すんでのところで彩雲の騎士はバリア(エンセルト)を張ったが。それすらも『破壊光線』に飲み込まれ、大爆発が起ったのだった。
そのまま何処かに飛ばされたのだった――
(負けない)
(負けられない!)
彩雲の騎士は負けまいと『脇差』の柄を強く握りしめる。
(勝って帰るまでは)
吹き飛ばされた彩雲の騎士。
その手に握られていた『脇差』と『フラワーキャノン』がエナジーアの粒子となり立ち昇り消えていった……。
だが、その強靭な意志だけは折れない。
その行きつく先は――航海中の船の上だった。
☆彡
――ドォンッ
と航海中の船の看板に叩きつけられ、土煙と鉄片が舞い上がる。
これには看板周辺にいた人達も、荒れ狂う動物達も驚いた。
「うわっ!!」
「きゃ!!」
「何だ!!」
「グマッ!!」
注目すべきは、大太刀持った男性がホッキョクグマと格闘していたことだろうが、こちらの事情を考えれば些細なことだ。
一時、その男性はホッキョクグマと距離を取って、大太刀を構える。
「何だ!! 何が起きた!!」
「総帥!! その暴走した絶滅動物達を何とかする方法はありませんか!?」
「消火器で驚かすのはどうでしょう!!」
「何でもいい!! 思いつく限りのことを、君達でやるんだ!!」
「「はいっ!!」
土煙が舞い上がる中、彩雲の騎士はムクッと起き上がり、男性の元へ歩いていき。
半ば強引にその男性から大太刀を奪いとった。
奪われた男性の反応は。
「ッッ!!」
いきなり目の前で大太刀が独りでに離れ、なんと宙に浮いているではないか。
何だ、何が起きた。
「グマァ!!!」
チャンスと見るや否やホッキョクグマが襲い掛かる。
丸腰になったその男性の総帥さんは、「クッ」と覚悟を決める。
(南無阿弥陀仏……!)
だが。
「邪魔!!!」
彩雲の騎士がひと睨みするとビクンと体が痙攣し、意識を失い倒れた。
ホッキョクグマだけではない。
周りの人達と動物達が全て、バタバタと倒れだしていったのだ。
そんな中、なんとか最後の意思を保とうとしていたのは、総帥さんだった。
「何が……」
私の目に映るのは、独りでに浮いている名刀だけだった。まるで意思があるかのように。
私は消えゆく意識の中、その名刀の名を呼んだ。
「『末乃青江』……」
名刀『末乃青江』。
その巨大さは日本全国でも群を抜く真柄家伝来の大太刀。
刃は白く、峰は朱色で、驚くべきはその刃の長さ、刃渡り221.5CMもあった。
いい武器を拾った彩雲の騎士は、戦いの場へと飛んだ。
そんな中、消えゆく意識の中総帥が見たのは、名刀が独りでに飛び、イジェン火山の方へ飛ぶ様だった。
青い輝きを放つ火山、噴火口からは火山弾が飛び、噴煙を噴き、空を黒く染め上げていく。
私は、変な夢を見た。
名刀が火山に住む悪霊を切り裂く夢を。
さしずめ、その柄を握りしめるのはその山に住むという神様なのか。私は夢の中で笑った。
☆彡
最後の大勝負を仕掛けるために彩雲の騎士が選んだのは、突き出た岩場だった。
なるほどここからなら、イジェン火山に巣くう『厄災の混濁獣』が良く見える。
彩雲の騎士はその手に持っていた名刀『末乃青江』を岩場に突き刺した。
「こうなったらイチかバチかだ!! あの技にかける!!」
彩雲の騎士は、手を高く上げ組んだ。
精神世界でスバルはLにこう尋ねる。
(何をする気なのL)
(前に君に言っていた、あの時この技を使っていれば、勝てたかもしれない技だよ!! 僕も、いいや僕達も、命を懸けるんだ!! この技に!!)
そう言われて僕は驚きはしたが「うん」と頷き返した。
その様を見た彼は笑った。
(この技は大量のエナジーアを消費して、一点に高圧縮させた、最大級の一撃を放つ必殺技だ!!!)
「「受けてみろ!!!」」
手を高く上げ組んだ両手に、大量のエナジーアが集束、畜力させつつ、高圧縮させる。これで決める。
この異様な気配に感づいた厄災の混濁獣は、こちら側に振り向き、口内に必殺のエナジーアを集束、畜力させる。
両者、ここで決める気だ。
――その様子をアンドロメダの宇宙船で観察していたアンドロメダ王女達は。
「馬鹿な!! 馬鹿げてる!!」
「両者の戦闘力の比較は!!!」
「ダメです!!! 厄災の混濁獣の戦闘力が高過ぎて、絶対に勝てません!!!」
「軽く100倍以上も離れています!!!」
「Lッッッ!!!」
この時、両者の戦闘力差は、彩雲の騎士1000、厄災の混濁獣10万だった。
――手を高く上げ組んだ両手を厄災混濁獣の目線に下げ、その組んだ手を開いて、必殺の一撃を放つ。
「「『魔闘砲』(エナジーアカノニ)!!!」」
厄災の混濁獣は、『破壊光線』をカッと撃ってきた。
両者の最高の必殺技が中間部でドォオオオオオンとぶつかり、大きくドンッと爆ぜる。
――ドドドドドッ
と『魔闘砲』(エナジーアカノニ)と破壊光線の優劣の押し合いが始まった。
その膨大なエナジーアに屈した、岩肌がボロボロと欠け、周辺に幾多もの竜巻が吹き荒れ、天は大きく荒れ狂い幾多もの雷がゴロゴロ、ピシャンと落ちる。
――そして、この現場から離れていた豪華客船にも、その影響が押し寄せた。
大波が荒れ狂い、船体が大きく揺れ出したのだ。ゴゥンゴゥンと。
光の大爆流が轟音で鳴く。
「「二ギギギ!!!」」
(もっとエナジーアを振り絞って!!!)
「「クァアアアアア!!!」」
(こっ、これでも全身全霊だぁあああ!!!)
だが、無情にも厄災の混濁獣にはまだまだ余裕があり。パワーを上乗せしてきた――ドォン。
「「ヒギギギギギ!!!」」
――その様子を観察していたアンドロメダ王女は。
「ッッ、見てはおれん!!!」
とわらわは飛び出さんしていた。
「姫様」
とわらわを呼び止める声が聞こえた。だが、構うものか。ここで動かなければわらわは一生後悔する。
「姫様~~~!!!」
わらわは宇宙船を飛び出していった。
――この勝負は完全に優劣は決していた。
どんどんエナジーアの圧が屈し、追いやられていくのだ。
光の大爆流が迫る。
「「そ、そんな……二ギギギ」」
最後のトドメと言わんばかりに厄災の混濁獣はさらにパワーを上乗せしてきた。
『破壊光線』の圧がさらに増して、追いやられていく。
「「うわぁあああああ!!!」」
組んだ両手にドォオオオオオと迫りくる破滅の『破壊光線』。
ブルブルと両手の照準が合わず揺れる。
(だっダメだ!! 体がちぎれる!! し、死ぬ!!)
(がんばれ!! でないと本気で消滅しちゃう!!)
(……ッ……ッッ)
突き出したエナジーア体の両手が今にも千切れそうだ。エナジーア体の粒子が霧散化していく。指が飛んじゃう。
「「くわぁあああああ!!!」」
本気で死んじゃう。
その瞬間、彩雲の騎士の意識はブラックアウトした。
★彡
暗い、黒い、何も感じない、真っ暗闇な世界。
あぁ、そうか。ここが死後の世界なのか。
足元は暗く、水面のように波打っていた。
スバル(僕)はそこを歩いていく。
それは僕の意識じゃない、僕の体が勝手に歩いていくのだ。
歩いていく、歩いていく。
そして独りでに、僕の足がどこかで止まったんだ。
「ここは……」
僕は声が周りによく響いた。そんな不思議な場所。
そこには何かの木がある場所だった。
そこでポワァと何かが光り、僕の手元にゆっくりと落ちてきた。
僕はそれを優しく受け止めた。落ちてくる場所がわかりやすかったから、自然と手が伸びたんだ。
手に取ったそれを、僕は一口噛んだ。
光るものの正体それは、命そのものだった。
☆彡
彩雲の騎士の目前まで迫りくる破滅の『破壊光線』。
破滅間近――だが、彩雲の騎士はそれを最後の力を振り絞り、無理やり押し込むことによって。
ドンッと彩雲の騎士付近で、互いのエナジーアが大きく爆ぜ飛んだ。
爆炎が舞い上がる。
厄災の混濁獣は呼気を整える。
アンドロメダの宇宙船内にいた者達は固唾をのんで見守る。
アンドロメダ王女は空を駆ける。
そして、その爆炎の中動きがあった。
物影が起き上がり、突き刺してあったものを引き抜き、天に掲げたとたん。
ブワァと爆煙が晴れたのだ。
その者は彩雲の騎士。
突き刺してあったのは名刀は『末乃青江』。
天に掲げた大太刀に光が集まる、光の正体はエナジーアの集束、畜力だ。
(負けない……負けられない……まだ……まだ……倒れるわけにはいかない!!!)
(これが最後のチャンスだよ。この技の名は――)
Lの昔日に飛んだ――
★彡
この技は、昔僕が好きだった絵本に記されていた。
その絵本は僕が好きな物語で、1人の少年と1匹の妖精が主役の物語だ。
タイトル名は『二代目の創世神話』。
タイトル名こそ仰々しいが、その人の話を最後まで読めば、なるほど、うん、納得だ。
今僕が見ているのはその一ページ。若者が妖精に指示を出し、妖精が光る大きな大剣を掲げ、火山に向かって振り下ろす場面だ。
僕はその話を見入っていた。
そこへ姫姉が話しかけてきたんだ。
「Lはその話が好きなのか」
「うん。だってこの少年を育ててくれた人のご先祖様を護る為に、山一つ消したんでしょ。
なんかすごい偶然だよね! 現代から過去に飛ばされて、そこで育ての親の祖先を助けるだなんてさ!」
「その話は最後はどうなるんだ?」
「その子の生贄の話はなくなって、少年と妖精さんは現代に帰った後。その子は無事に旅に出たそうだよ」
「フフ、そうか! では、なぜ少年は自ら戦わず、その妖精に指示を出しているのか知っているか」
「……」
「……そーゆう世界観があり。まだその頃少年はか弱く。それを補うために仲間を作る必要があったからだ」
「世界観……仲間……」
僕は再び、その話に見入った。
「うむ。今ではその仲間と暮らし、家族となったそうじゃ!」
僕はページをめくり。
妖精さんが光る大剣を振り下ろした様を見た。
僕の口からそれが独りでに呟いた。
☆彡
「「『魔闘念大剣』(サイコ・オブ・ブレード!!!」」
もしかしたら場面はかとなく似ているのかもしれない。
だけど、こう名付けると決めていたから。僕に迷いはなかった。
巨大な光る斬撃波が決まり――厄災の混濁獣を一刀両断。
僕達は、この瞬間を狙っていた。
「「これで決める!!! 怨魔流――『剣歯虎閃伏(けんしこせんふ)』!!!」」
彩雲の騎士は駆ける。
用いるのはトドメの業だ。
問題は奴のコアがどこにあるかだ。
時間をかけたらむざむざ復活してしまう。
もう次はない。
だが、スバルにはそれを探り出せる危機感知能力があった。
それをサイコエネルギーで増幅し、ありどころを的確にあぶり出し、奴のコアに一直線に辿り着いた。
もう逃がさないぞ。これで決める。
そして、最後に――
「――許せとは言わない」
吹き荒れる炎の嵐の中――コア(炎によって形作られた人型)に謝った。
それはレグルスでもシシドでもある融合体のコアだ。
シシド君、君は哀れな被害者だ。
だけど、君の腕を絶つことを許してくれ。
いや、許さなくてもいい。
これは僕の、僕達の罪だ。
そうして、彩雲の騎士(僕達)は、その腕を断った。
それで正解だった。
エナジーア変換している以上、起点であるエナジーア変換装置を避けて、腕を断つことでその効力の維持を失わせたのだ。
炎の嵐の中、カッと1つの光が2つに分かれ、続くようにもう1つの光も分かれた。そうして4つの光は炎の嵐の中落ちていった。
その荒れ狂う炎の嵐の中、エナジーア変換が解けたスバルは、静かに目を閉じたのだった……。
焙られる地獄の業火の舌。
そして、炎の嵐が大きく爆ぜた――……
TO BE CONTIUND…