第7話 さらば生徒会室。
「強制参加ではないからな? 決してパワハラではないからな?」
指示された通りに、備品の詰まったダンボール箱を抱える俺に、
そして、とりわけ事情を説明されることはなく、市島先輩は労働者に
「先輩たちが、生徒会の役員だったとは知りませんでした」
ひとの言葉に、市島先輩と八木先輩、日吉先輩が顔を見合わせる。
「一図ちゃん、あなたは大きな勘違いをしているみたいね」
八木先輩の言葉に、ひとが首を
「もしわたしたちが生徒会のメンバーなら、こんな夜逃げまがいの引っ越しをするわけないでしょ」
八木先輩は楽しげに笑いながら言った。
え、夜逃げって楽しいの? 困惑していると、日吉先輩が会話に割り込んだ。
「そのぉ、ねえ。勝手に使わせてもらってたんだよね。ほら、この学校ってまだ生徒会ないじゃん」
「先輩すみません、意味がわかりません!」
ひとが活力に満ちた声で叫んだ。その元気さは、間違いなく好印象だ。良かったな。
「つまり、生徒会はこれから誕生する予定なんだよ。この世界が段階的に具現化されてきたってこと」
市島先輩は紙束を片付けつつ、やや面倒臭そうに答えた。
先輩の説明が今ひとつ要領を得ないせいで、ひとは相変わらず首を左右に揺らしている。なんなんこいつ。
「じゃあ、これから生徒会選挙が行われるんですか?」
俺はたいして興味はなかったが、一応確認のため聞いてみた。
「そうよ。公式発表はまだだけど、学校の年間行事に生徒会選挙が追加されているのを確認したの」
八木先輩が説明した。
「じゃあ、市島先輩が立候補して新会長の座を狙う……とか?」
俺は半ば真剣に、半ばからかうように言ってみた。
「
「ああ……ムリっす。すみません」
俺は正直に答えた。
「なんだよなんだよ! バカにして!」
市島先輩がぷくっと
うん、やっぱりムリっす。
「そもそも、どうしてこの世界はまだ完成していないんですか?」
ひとが素朴な疑問をそのまま口にした。
「その辺りの詳しい話は、新しいアジトに移動してからな」
「新しいアジト」
俺とひとが思わず口を
しかし、先ほどから童子山は一切
童子山の様子が気になったが、あえて声をかけることはしない。俺はそういう性格の男だからだ。たぶん。
「終わったか?」
不意に大人の女性の声が耳に入った。振り向くと、扉の前に白衣を
「
市島先輩が少し不満そうに言った。
「こう見えても、私は忙しいんだ」
曽我井
「童子山、調子が悪そうに見えるけど、大丈夫か?」
曽我井先生が、うつろな表情の童子山を心配そうに見ながら問いかけた。
「大丈夫です。また相談に行っていいですか?」
童子山の言葉に、曽我井先生が優しく
「君たちも、新しい世界に適応するまでは大変だと思う。何か悩みがあれば、いつでも保健室に来て話をしてくれていいからな」と穏やかに声をかけた。
どうやら、俺たちこそがその避難所を利用すべき存在だったらしい。なんとなく大人には話せないと思い込んでいたが、曽我井先生はこの世界の特殊事情を理解しているらしい。
「じゃあみんな、そろそろ荷物を運ぼう。先生、鍵は持ってきてくれた?」
市島先輩が尋ねると、曽我井先生は白衣のポケットから鍵を取り出し、軽く揺らして見せた。
「なくすなよ」
子ども扱いされたことに反発したのか、市島先輩は曽我井先生の手から素早く鍵をひったくった。