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第3章の第50話 難民達に手配してくれたホテルにて



【シーサイドホテル(タラッタ ディプラ クセノドヒオ)】
そこは海の側に立つ大きなシーサイドホテルだった。それは立派な外観。
タラッタ ディプラでシーサイド。
クセノドヒオでホテルと読み解く。
そこには、レグルスを初め、デネボラ、L、アンドロメダ王女、クコン、クリスティ、スバルと続々と入っていく。
そして、その玄関前にいるのはアユミちゃんとヒースさんだ。
それは何か話がある様だった。
「ねえ、ヒースさん」
「何だい?」
「あの……アイって子、人の手と腕を切り離していたよね? ……酷過ぎない?」
「……アイちゃんなりに、『アイ……沈めろ』という命に従ったまでだよ」
「……」
「意見するなら、星王アンドロメダ様にだよ」
「……う~ん……」
なんだか納得いかない感じのアユミちゃん。
「まぁ進言は控えた方がいいだろうね。あの人の星王の覇気で、たったそれだけで、今のアユミちゃん程度なら簡単にこの世から……さよなら……だからね」
「……だよねぇ……」
あれを味わった経験があるあたしとしては、確かにそう思う。
あたし程度なら、いつでも殺せるからだ。
「はぁ……アユミちゃんが気にしているのは、切り離された手が、全員に戻らない点……だよね?」
「う~ん……」
なんだか不承不承のアユミちゃん。
「10いたとしたら、戻ってくるのは8ぐらいだね」
「8か……。んっ? 意外と多いような……?」
「……」
「……」
2人一緒に並んで、ホテルの玄関をくぐる。
それは豪華な造りが広がっていた。
贅の限りが見て取れる。
金色の装飾に、赤の絨毯、鏡面反射する高品質な床石に、頭上には豪奢なシャンデリアが飾られていた。
少し歩くと、目に見える人達がいた。
エルフにドワーフ、亜人に宝石の種族、グレイに宇宙人と種族が実に多種多様だ。
ホテルロビーの受付嬢は、主に宝石の種族とエルフさんが勤めていて、いくつかの空白が見て取れた。
それを見たあたしは。
「やっぱり……眼に見えないアンドロメダ星人もいるんだね……」
「う~ん……」
と投げかけた。
とこれにはヒースさんも困り顔だ。
アンドロメダ星人がアンドロメダ星にいること事態普通で、なんら不思議ではないのだから。どう、認識の視点を持ってくればいいのやら。
「――あっ見て! あの銃撃シーンが放送されてる!!」
「!」
「!」
それはクコンちゃんの声だった。
アユミちゃんが、ヒースさんが、それに振り向いて、歩を詰めて歩み寄る。


――それは『3英傑VS地球人の代表』として題して放送されていた。
軍人が銃撃を打ち、
遅れてから少年が少女を助ける、感動的な場面だ。
それはスバルがアユミちゃんを押し倒して、助けようとする場面に等しい。
すかさず、その発砲した軍人が激しく燃え盛り、炎上しながらズルリと胸の上と、胸の下あたりで切断されて、この世からお別れをする。
やった人物は映っていない……。
向こうで、調整されて取り消されたか……。
「……」
「……」
ちょっとここでアユミちゃんが、小さく頷いて少年に歩み寄って、
垂れていた少年の手を掴み、愛おしそうに持ち上げる。
「!」
「……スバル君、ありがとね」
「……」
「……」
「ぅん……」
握られた手は、骨折していた腕だった……。
この時僕は、痛みを我慢していた……ッッ。
(ひ……痛……ぃ)
「……」
何も知らずに、気づかずに顔を赤らめるアユミちゃん。
――その時だった。
「あっ!! 酷いッ!!」
「「!」」
クコンちゃんの叫び声に、あたし達2人は、そのTV画面に振り向いた。
それに映っていたのは、アイちゃんが、切り離した手を掴んでいる場面で、非情なまでに握り潰した様だ。
「――んっ!?」
「……」
――違和感を覚えるスバル君に、目線を細めるヒースさん。
「信じられないわ!! この子!! 人の手を握り潰した!!」
「なんの躊躇もなく冷血ね……。あまりいい気がしないわ」
「「「「……」」」」
クコン、クリスティ、アンドロメダ王女、デネボラ、L、レグルスと述べて。
アンドロメダ組は、目を細めていた……。
「今のは……」
「? どうしたのスバル君……?」
「いや、僕はあの時、中空を駆けていたんだけど……。氷柱を打つ前に、あの子の手元を見てたんだよ」
「?」
「氷の冷気の塊だった……見間違いかもしれないけど、何か光ってて……。
……人の手は握り潰していない! ……と思うけど?」
「は?」
「え?」
「何言ってんの?」
アユミちゃんが、クリスティさんが、クコンさんが述べあう。
そして、アンドロメダ王女様が、僕にこう問いかける。
「やはり見えたのかスバル?」
「――はい」
――振り返った僕は、そう答えた。
「左様じゃ! あの氷の手は、見せかけじゃ!」
「やっぱり……」
小さく頷き得るスバル。
「? どうしたのスバル君?」
「何独り言言ってんのよ?」
「あっもしかして……」
アユミ、クコン、クリスティさんと呟いて、話し相手がアンドロメダ星人であることを察する。
「ああ、実はね……」
僕は、あの当時の状況を、みんなに考察しながら話すのだった――


「「「――はあ!? 見せかけの氷の手――っ!?」」」
「うん、おそらく、そうとしか思えない。中空にいた僕だからこそ、その正体が見えたのかも……!」
「じゃあ、この映像はどう説明するのよ!!」
「……あの凍りの手はそれで説明できるけど、この血しぶきの説明は?」
「冷気じゃろう」
「冷気だって。アンドロメダ王女様が」
「「「冷気――っ!?」」」
「多分、冷気と一緒に噴き出しているのは、小さな氷の破片だ。細かい氷……細氷ってやつかな? それが冷気に乗って噴き出している様から、そう、目に錯覚されているんじゃ?」
「じゃ、じゃあ、この色の説明は?」
「えーと……」
「光の屈折率ですよスバル君」
「えーと光の屈折率だって、デネボラさんが」
「「「……ッ」」」
「すごいな……」
「!」
その呟きはヒースさんのものだった。
「あの一瞬で、それだけの情報を拾ったスバル君も凄いが、それを詳細に伝える王女達もまたスゴイ……!」
「!」
「「……」」
反応を示すスバル君に。
腕を組んで胸を張る王女様に、笑みを深めて頷き得るデネボラさん。
「光の屈折率だったか……。だとすると、あのアイちゃんの得意属性は、氷、風、光の3つか……!
確かに、この3種類を修めれば、人の手の偽造なんて、いくらでもできる……!
――妙だと思ってたんだよ……!」
「妙……?」
「うん……」
「あの……妙とは……?」
「アイちゃんに下されたミッションに、『ある要人の暗殺依頼』が含まれていた」
「暗殺……」
「ああ。もちろん、その要人はすでに死んでいて、その現場にはまだ幼い子供の遺体があったそうだ」
「遺体……」
「……」
アユミちゃんは、クコンちゃんと見つめ合う。
「だけど後日、一定の期間を経て、その殺されていた子供が生きていた」
「「「「!!」」」」」
「道理で……。(偽者)フェイクだったか……あの子供の死体だけは……」
「……」

【――この時、僕は魔法の奥深さを知った】
【そして、開拓者(プロトニア)を続ければ、いつの日か、要人の暗殺依頼もある事を知り得た】
【同時に、アイちゃんなりに、それに対する対処法として、氷、風、光の3つを修めれば、偽物(フェイク)として現場に遺せる手段を知り得た】
【あの戦いは、無駄じゃなかったんだと、そう、思い知らされた……】
【さらに――】

(――あっそう言えば……? あのソニックブレイク凄かったな……あれも、真似できないんだろうか……?)
僕はそんな事をつい考えてしまう。
あれは凄かったなぁ……おそらくは魔法の影響だろうけど……。
あのアイさんのソニックブレイクは見せかけだった。
あの衝撃的な光景と威圧感で、初めて目の当たりにする僕を委縮させたんだ。
けど、そうはならなかった、引けなかったから……。
それは、少年の立ち向かおうとする精神を、叩き折ろうとしたものだった。
だが、少年の精神は、あの短い戦闘シーンの中、ギリギリのところで耐えきった。
(アユミ・L(君)には情けない姿を見せられないからね……)
少年をギリギリのところで支えたもの、それは、アユミちゃんやLの存在だった。
もちろん、試合も勝負も、アイちゃんの勝ちなのだが……。
あの圧倒的な力量差の中、それでも、何とか耐えきろうとしていた、スバルの強靭な精神力も褒めるべきポイントである。
良くも悪くも、あのバトルで、少年の見方が変わった。
同じタイプだからだ。
少年の中のアイちゃんの評価が改められて、遠い目標になった。
その技や技量を真似できないんだろうか、と考えさせられるほどに――
(――あれを真似できないだろうか……フムゥ……)


☆彡
そのホテルは、星王アンドロメダ様とあの時ガノスさんが手配を促したものだ。
キッカケはあの時、ある少年がスバルの魔法を見たいといったものが契機だ。
ナイス、少年である。
見た目は豪華で、部屋数も多く、何よりバイキング形式の料理が凄然並べられていた。
ズラリ
と色とりどり料理が並ぶ。
アンドロメダ星の料理を初め、各惑星から取り寄せた幸の料理が所狭しと並ぶ。
見た事ない豪華な料理ばかりで、こうどうにも心が浮き立ち、踊る思いだ。
なんかスゴイディナーと評したい。
「「「「「ひ、ひひひ、久しぶりの飯だぁ――っ!!!」」」」」
もう難民達(子供達)がかぶりつく。
その組み合わせは、修学旅行生組と長崎学院からの生徒達である。
保護者は、恵パパとママ、多くの従業員達とそのご家族から構成されている。
「私達まで食べていいのですか?」
「ええ、もちろんですよ! 星王様とガノスさんからの手配ですからね!」
「星王様……」
「ガノスさん……」
感謝の気持ちでいっぱいだ。
その頃子供達は、我先にと、皿を手に取って、調理された料理の数々を皿の上に盛り付ける。
色や形、味や見た目が、初めて見るものばかりだ。
「何だこれ!?」
「色、形、香り、味、見た目……触感の手触り……すげっ、こんなの初めてだ!!」
「何だこれ!? ホントにドリンクか!?」
「うえっ!? 二色のドリンク!? 何で混ざり合ってないんだ!?」
「おいっ、喰ってみようぜ!!」
「ああっ!!」
「うん!!」
「ええ!!」
子供達は急いで、テーブルについて、手を合わせて「頂きます」と題して胃に次々と流し込んでいく。
「このスープ……中央と外周とで……」
スプーンでついてみると……その硬さが違う。
「密度が違う……。何でできているの?」
少女がそれを一口すすると、目が大きく見開くほどの衝撃を受ける。
「! 違う!! スープじゃない!! シチューとスープの高次元よこれ!?」
「こんなの初めてだわ!!」
もう驚きの連続だ。


☆彡
ザッ
とその場に足を運んだのは、スバル達グループだった。
その目の前には、シルバートレイを片手に、ホテルの従業員として従事するホテリエの姿があった。
ホテルマンともホテリエとも呼称されている。
「そこのホテリエさん!」
「!」
そのホテリエさんを呼び止めるのは、デネボラさんだ。
「これはこれはデネボラさんではないですか! ……とそちらにいるのが」
「うむ」
「王女様……!」
礼儀作法をとるホテリエさん。
(ここはデネボラさん達が利用している、ホテルみたいだな……)
スバル(僕)は勝手ながら、そう解釈した。
「! そちらにいるのが、例の少年ですね……。TVで拝見しました。名をえーと……」
「地球から来ました、スバルと言います!」
「ああっもちろん聞き及んでいますよ! 若干33歳ぐらいでありながら、まだ小学生ぐらいの地球人の代表を務めてらっしゃる、将来有望株の方なんですよね?」
「!? ちょっとどんな風に伝えたの!? ……僕、11の小6なんだけど……!!」
これは初耳だ。驚きだ。
「その方が活動しやすいじゃろ?」
「そんなもんなの……!?」
「見栄をきった方が、今後の活動において注目が集まり、向こうから得るリターンも大きい」
「……」
その話は、ホテリエの方も耳にしていた。
それはとてつもなく、今後に大きく関わる話だ。ビックな少年の登場を示唆していた。
「お前は今後、各惑星との代表たちと面識を持つようになるのじゃ……! それ如何で、地球復興や今後の研究、各惑星との繋がりに政務、プロトニアの仕事等に大きく作用する!」
「……そーゆう事……ッッ!? んんっ!? なんか大げさになってない!?」
これには僕も驚くばかりだ。
「仕方なかろう。もう諦めよ」
「ハァ……マジかよ……」
これには額に手を当てて落ち込む僕。もう頭を悩ませるばかりだ。
「スバル君も大変ね……」
「ねぇ……」
クコンさん、アユミちゃんと言いあう。
「できるものなら、変わって……!?」
「イヤよ!!」
「ガンバだよ!! スバル君ッ!!」
「そんなぁ……ガックシ……」
「…………」
とその光景とやり取りを見ていたホテリエさんは脂汗を流しながら、少年に同情してしまいつつ、ある言葉を投げかける。
ホントに災難な子だ……。
私は思わず。
「諦念(けいねん)ですね……」
「? 諦念(けいねん)……?」
それはホテリエさんの一言だった。
「私もこの仕事を始めて長いのですが、自分が思っていた、夢に描いていた職種とは違います」
「……」
「きっとどの職種を務めている方も、同じように言いますよ。だから私達は諦念して、この仕事に従事しています」
「……」
「……君の歩く道は、きっととてつもない、大きな偉業となるでしょう。……ぜひ、君の歩いた物語の本が出たら、一度、周りの皆さんと読んでみたいものです」
「そんな大げさだよ……。僕みたいな小さな人が……」
「いえ、小さな人こそ、見栄を張らず、大きな人のように決しておごらず、よく、周りを、場を見ているものです」
「……」
「……木を見て森を見ずですよ……。……ですが、小さき者!」
「!」
「君は、そうはならないでしょう。
こーゆう言葉もあります。
これは私の人生経験なんですが、昔、バスケットボールを通じて、チームメイトを大切にしていた時期がありました」
「……」
「……私は見ての通り、身長は、平均身長の人達と比べて背が低い……。ですが……!」
「!」
「バスケットボールを通じて、背の低い人達は、その低身長差を活かし、ボールさばきがとても上手いものです。それが私達の武器です! その人達をポイントガードと周りは呼んでいます」
「ポイントガード……」
「はい、点取り屋と勘違いしている人達が大勢いますが、真の見方は、場、全体を見通し、司令塔となって、チーム全体に支える大きな存在なのです」
「……」
「スリーポイントでもレイアップシュートでもオフェンスやディフェンス、リバウンドが上手い人でもない。
ホントに大事なのは、次に『繋ぐ』ことです!」
「『繋ぐ』こと……!」
「はい! それはたった1勝でも、チーム全体の協力で得た貴重な1勝です!」
「……」
「小さき人……あなたにピッタリでしょう?」
「うん……」
ニコッ
と笑みを浮かべるホテリエさん。
フッ
つられて、アンドロメダ王女も笑みを浮かべる。
「フム……お主の名は?」
「私ですか?」
「ああ、後でホテルの総支配人にいいように話を通そう」
「そんな恐縮です……! あっ、そう言えば……! 私を引き留めた理由は……!?」
「えーと……、こちらのお姉さんを、あるご家族の方と引き合わせたいと思って……。……お願いできますか?」
「……かしこまりました」
僕が会わせたいと思ったのは、クリスティお姉さんとあのご家族の方との顔合わせだった。
「……で、名は?」
「リョータです」
ホテリエの人の名前は、リョータさんというらしい。


☆彡
スバル達がバイキング形式の式場に入ったところで、
子供達の目に止まり、注目を集めていく。
「おっおい、あれ……」
「ああ」
「ウソォ……魔法使い君だ!」
その少女がその一言を呟くと。
その声はとても小さなもので、距離も離れていたが、僕の耳に届いたのだった。
これには僕も「ウッ……」と気まずくなる。
で、クコンさんが一言。
「人気者も大変ねぇ……」
「僕、そんなキャラじゃないのに~ぃ……」
「フッ……」
他所を向いて、人気者になれなかったクコンちゃんは、哀愁を覚える……。
「……」
(何ならあたしが、人気者になりたかったのに……。神様も不公平よね……)
「フゥ……」
と溜息をつくクコンちゃん。
「えーと……」
スバル君の首が左右に動き、誰かを探しているようだった。
アユミ(あたし)は思わずこう尋ねる。
「……誰を探してるの?」
「いや、クリスティさんのご家族の方が来る前に、恵さんのご両親や、あの少年(こ)にも一目会っておかないと……!」
「ああ!」
納得するアユミ(あたし)。
「どこにいるんだ……?」
スバルは目を瞑った……。精神を集中する。
その眼を開けると。
「……ってここにいないじゃん!!」
スバルの危機感知能力が、ここに恵のご両親がいないことを報せるのだった。
「……便利ねそれ……」
「うん……アユミも欲しい……」
それは危機感知能力だった。
「いやこれ! フツーに身につく能力だから!!」
「どうやって覚えたのよ?」
「いや……虐めで……」
「あっ……そう……」
その一言で、危機感知能力を得た経緯を悟るクコンさんだった。
「と、少年の方は……あっちか……!」
スバルの足は、危機感知能力で見つけた少年の元へ、歩を歩ませるのだった。
この様子を見ていた2人は。
「やっぱり便利ね……」
「あーあ、アユミも身につけようかな……! 危機感知能力……!」
クコン、アユミちゃんと述べて。
アユミちゃんもやっぱり欲しいようで、両手を頭の上に回し、顔を上向き加減にして、スバル君の後についていくのだった。
そして、そのクコンちゃんも嘆息しつつ、その後をついていくのだった。


☆彡
その少年は、皿いっぱいの御馳走を食べながら、ゴクゴクと喉を潤していた時。
「――!」
偶然、スバル達がこっちに歩み寄ってくるのを目にする。
その横から友達の手が伸びてきて。
「おい!」
「ちょっと!」
「――んぐっ!?」
少年は食べ物を頬張りながら、ドリンクを飲んでいた時った。
その為か、偶然にも、不幸にも、その友達たちの手が、肩と背中に触り、飲みかけのドリンクが気道に詰まってしまい。
「~~!?」
見る見るうちに顔が赤くなっていく少年。そして遂に。
「ゲホッゲホッ」
と思い切りむせてしまうのだった。
これには、周りの友達たちも。
「うわっ汚ねぇ!!」
「ちょっと勘弁してよ!!」
「おっお前らなぁ~!!」
ちょっとお怒り気味の少年。友人等に食って掛かる。
「お前等がやったんだぞ!!」
と。
とそこへスバル達がやってきて……。
「……」
「……」
辺りに気まずい空気が流れる。
「……」
「……」
き、気まずい……。
うわぁ……。
その対応に困る少年等と、
どう接していいのかわからないスバル達。
「………………」
「………………」
ややあって、見る見るうちに少年の顔が赤くなっていき。
これには困ったように脂汗を垂らしながら、困った顔になってしまうスバル達。
その時、チラッ、と僕は空席を見たんだ。
「……」

【――この時、少年は、このテーブルに座れる人数と椅子の数を見た】
【6だ】
【6人の席があり、その中に5人が座っている】
【欠けているのは1人分……】
【少年の顔が動き、そのテーブルの前には、トレーが置かれている】
【皿の上には、豪華な幸の料理が盛られており、誰かが欠席していることを、如実に現わしていた】
【少年は思わず――】

(――トイレ……か?)

【勝手に勘ぐるのだった……――】
で。
「コホンッ! んーっんーっ! ……来てくれたんですね!」
「ええ。ここを手配をしてくれたのは、星王様とガノスさんなので、そして、そのキッカケを作ってくれたのは……、……他でもない君だから」
「――!」
スッ
と手を差し出すスバル。それは握手しましょうという意思表示だ。
「…………」
少年が差し出したその手を見て、その本人の顔を伺うと。
「……」
その目上の方に当たる少年は、小さく頷いたんだ。
「……」
少年は意を決し、目上の方に当たる少年と握手を交わし合う。
「【水崎アツシ】です!」
「【スバル】です」
「……?」
「?」
「えーと……それは名前ですよね? 性はないのですか?」
「あぁ……」
「……!」
僕は、思わずアユミちゃんに目線を移して。
アユミちゃんは、その視線の意図に気づいた。
「……あたしとスバル君は、もう両親ともいなくなっていて、その家名を継げないから……」
「えっ……!? そうなんですか!?」
アユミちゃんの話に、驚き得るアツシ君。
驚きの事実だ。
これには席に座っていた他の子供達も驚くばかりだ。
「うん……王女様たちが言うには、これからは地球の代表になるから、家名は捨てて、ただのスバルと、ただのアユミになるって……」
「そんなもんなんですか……!?」
これには驚き得るアツシ君。よくわからない世界観だ……。
「と、お隣の人達はお友達ですか?」
「ああ、付き合いの長い、昔からのクラスメイトです。紹介しますよ! 男の方が【赤崎タイキ】と【吉川イツキ】!」
「よろしく!」
「……」
手を挙げるふとちょのタイキさんと。
やせ型のイツキさん。無口な人だな……。
「で女の方が」
「【宮本レイナ】よ!」
「レイナさんですね」
「うん」
頷き得るレイナさん。
「で、こっちの先に紹介したタイキとそっちの女の子が、クラス委員長なんだ!」
「クラス委員長!?」
「ハロー!」
「は、ハロー!」
「【松尾アキコ】よ! この中で副委員長を務めてるわ!」
「副委員長?」
「おや? 副委員長をご存じない?」
「ええ……」
僕は目線を映して、アユミちゃんを見た。
僕の意図の気づいたアユミちゃんは頷き得て、その説明を行う。
「あたし達の通っていた学校は、在籍している生徒達がそもそも少なくて、そのクラスをまとめる副委員長がいないのよ!」
「へぇ……」
「そんなもんなんだぁ……」
「……あれ? でもちょっと待って!!」
「!」
「!」
「――確かあの時、生徒宣誓の名乗りで、ホテルでクラスの副委員長を誰かが務めていたわよね!?」
「あっ!」
「確かに……それだと矛盾が生じるな……」
「なぜだ……!?」
「ああ、あの時は臨時でジャンケンで負けた子が、副委員長になってたからよ!」
「「「「「ジャンケン~~!?」」」」」
「そうよ!」
驚きの事実発覚。
なんとあの時、臨時のクラス委員長を決めるため、ジャンケンで負けた子が務めていたのだった。
その女の子は「ヘックシ!」と食事中にクシャミをしたのだった。


――これには一同驚いていた。
座っていた椅子に背もたれをかけるほどのショックだ。
だが、気持ちを切り替えて、体の向きを変えて、語り出す。
「……」
「!」
その顔を向けたのは、イツキ君で、
その目線の先にいるのは、クコンちゃんだった。
「にしてもえらく差がついたなクコン」
「なに妬み?」
「いや……相変わらず胸板だなってー」
「なっ……」
赤い顔で、自分の胸を隠すクコンちゃん。
「こっこいつ……!!」
「……」
「……」
なんて事言うんだイツキ君。
これには僕も、そして周りにいたみんなも、如何ともしがたい顔になった。
「ちょっと男子ッ!! 食事中にやめてよ!! はしたない!!」
「もう、周りの注目の的じゃない……ッ」
ジト~~ッ
と周り中から、痛い視線が殺到していた。これには事の原因を起こしたイツキ君も。
「なっ何だよ!!」
ジ~~ッ
「な……何だよ~~ぉ……」
と呟きながら、段々と小さくなっていくのだった……。
とこれを見ていたクコンちゃんは。
「フンッ、いい気味よ!! 変態!!」
と罵る。
「……」
もう何も言えなくなったイツキ君……。
これは可哀そうだが、当人たちの問題なので仕方がない……。
これにはスバル君も「あちゃ~……」と困ったちゃんの顔をしていた。
「謝りなさいよ!!」
と胸を張るクコンちゃん。
「……そうだな、俺が悪かったし……」
負けを認めるイツキ君。
「……ごめんなさい」
「……」
とその謝る相手は、なぜかクリスティさんの超乳で、明らかに拝んでいた。女神パイだ。
だが、これにはクコンちゃんも。
「……ワザとやってるでしょ……?」
「いやぁやっぱ、見事だなぁ……って思って。眼福眼福!」
「……」
これには拝まずにはいられない。おっぱいに崇拝するイツキ君。
これにはクリスティさんも、思わず嘆息する思いだ。
おっぱい視点になる。
手を合わせて拝み、謝る少年君のご様子。
それに応えるように、クリパイもプリリンとまるで生きているように弾んだ。
これにはクコン(あたし)も、かとなく、そんなんあり……って思うところだ。
(小学生も大変ね……)
そんな事をついつい考えてしまうクリスティさん。
とそこへ疑問の声を上げるのは。
「あの~」
「「んっ?」」
スバル君だった。
「2人は知り合い?」
「ああ」
「知り合いも知り合いね!」
「え?」
「う~ん……なんていうべきか……。この5人とは学生時代の時、何度か顔合わせした事があるから……!」
「今も学生なんじゃ?」
ちょっと無理があるが……。まぁだいたいそんなもんだ。
「クラスは違うけど。この子とは年代が一緒でね
そうね……うん。
昼休みの時間の時、クラス対抗でドッチボールをした事があって、
この子から、ワザと当てられるなどして、負けっぱなしなのよあたし!」
「え……」
「あたしもやり返そうと思って、ボールを投げたんだけど……こいつときたら、逃げるわ逃げるわ。逃げ足の速さと運動神経だけは、いいからね!」
「V!」
Vサインを上げるイツキ君に。
思わず嘆息してしまうクコンちゃん。
で、アユミちゃんが。
「他には……?」
「ソフトボールでも同じで、クラス対抗で勝負するんだけど、ピッチャーは2人とも同じで、張り合うように勝負するんだけど……。
いっつも負けるのよ!!」
「V!」
Vサインを上げるイツキ君に。
思わず嘆息してしまうクコンちゃん。
「……戦績は?」
「あたしの今までの勝率は、クラス対抗で……」
「……」
「……」
「40%! イツキ君たちが60%ぐらいの勝率を誇るわね……悔しいけど……」
「イエイ!!」
3度、嘆息してしまうクコンちゃん。
――とそこへ、アンドロメダ王女様が。
「――少し時間がかかりそうじゃなスバル……」
「……はい」
もう呆れ気味のアンドロメダ王女様。
これには僕も同じように察する思いだ。
「……仕方ない。わらわ達は席を少し外しておるから。ここは少し、同年代の子供達と接しておるがよい」
「ご厚意に感謝します、王女様」
そう言うとアンドロメダ王女様たちが、離れていくのだった――
「「「「「…………」」」」」
その子供達の目に見えるのは、ヒースさんが1人だけ離れていく姿だけ。
王女様達は見えない……。
「……!」
とそのヒースさんが立ち止まり、振り返ってこう呼びかける。
「クリスティさん、行きますよ!」
「……ええ」
(ここは同世代の子供達だけで、語り合う場よね……? ……ちょっとお姉さん、悔しいけど……)
「……クリスティさん!」
「はーい! 今行きまーす! ……じゃね!」
ポンッ
とクリスティさんは、僕の肩を軽く叩いて、ヒースさん達の後についていくのだった――
そして、この場に残ったのは、スバル君を初め、アユミちゃん、クコンちゃんの3人だけ。
だが、これが目に見えない聞こえない子供達にとっては。
「何だ独り言か?」
「……」
と呟くばかりだ。
これにはスバルも、如何ともしがたい顔つきになっていた……。
「う~ん……?」
どうやら見える聞こえる問題は、僕1人で解決しなければならない案件だった……。
これがずっと続くのか、いつまで続くのか……。


☆彡
――スバルはこれまでの経緯を、簡略的にアツシ、タイキ、イツキ、レイナ、アキコさんに話す。
その話を聞いた後のみんなの反応は……。
「あーだからあんた達!! 磔のあの場で下着姿同然だったのね!」
「寒そう……!
「寒いなんてものじゃないよ!!!」
「ええ、凍傷やアカギレ、肌に切れ目が入ったぐらいだものね!!! まったくあいつ!! よくもあんな寒空にこーんないたいけな美少女2人を置き去りにできたものね!!!」
「……」
これにはスバルも、困った顔で脂汗をかいていたのだった……。
「……スバルさんは?」
「ああ、ただのスバルでいいよ」
「そーゆうわけにもいかないでしょ? 目上に立たれるんですから!」
「う~ん……」
アツシさんの言っていることは正論だった……。
これには僕も困る思いだ。実際僕は、そんな大したことは何もやっていない。
周りに強力なほどできた人達がいたおかげだ。
だから実際問題、ぼくはそんな大層な事はやっていない……のに……。
「………………」
これにはかとなく、僕も気弱に落ち込むばかりだ。
「………………」
アツシさんは、そんな僕の様子を見ていた。
とここで、まるでアツシさんが、気を利かしたように。
「しかし驚いたな~~!」
「!?」
「でよー! 今までの戦いの中で、一番強かったのは誰なんですか!?」
「え……!?」

【――さっきまでとは打って変わって、言葉や態度の豹変ぶり】
【それはアツシさんなりの、気の利かせ方だった】
【少年同士の、壁を取り払った、気の利かせ方だった】

ニィ
といい笑みを浮かべて。
「勝ちを修めてるんだろ!?」
「! フッ……」
僕も思わず、頬を緩ませる。緊張のこわばりが和らいだ。
そんな気がした。
「う~ん……勝ってる……のかなぁ?」
「「「「「え?」」」」」」
「僕とLが協力して勝ちを納めたのは、実は少ないんだよ」
「……そ、そうなんか!?」
「うん……。今までに勝ったといえるのは、厄災の混濁獣とレグド……実はこの2人だけなんだ……! といっても、同一人物の異形の姿なんだけどね……」
「そうなんだ……」
「へぇ~……」
「うん……」
周りも驚くばかりだ。
僕が頷き得たことで合意を得る。
とアツシさんが。
「……で、魔法を覚えたのは、そのレグドの時なんだよな~?」
「う~ん……一戦は負けて、死にかけた時……」
「……」
「……」
アツシ君達の視線。
アユミちゃん達の視線が注がられる中、僕は。
「………………」
その開いた口が閉じたり、開いたりを繰り返して、疑問の間を覚える。
絶妙な間。

【――真実を明かすばかりが何も正しい事ではない】
【それは時に、おかしな話題を呼び、周りから変な目で見られるからだ】
【今スバル達が置かれた現状は、とても危うい一本の綱渡りのようなものだ】

「………………」

【だから少年は考える、危うくも察した】
【自分が落ちれば……それは未曽有の被害を招くことを、心のどこかで感じていた】

「………………」

【スバルのこの長い沈黙は、そこら辺を多分に含んでいた】
【聡い少年である】
【だから、その真実を織り交ぜながら、虚偽を行う事を考える】

「う~ん……こう言った方がいいかな――?」
「……」
「……」
「その時、僕の命を繋いでくれたのは……、他でもない、恵ケイちゃんなんだ。
彼女がいなければ……僕はこの場にこうして生きていないだろう。
……。
彼女が生きていれば、仲間に加えたかった……」
僕はあっちを向く。その目と口に感謝を、その背中に哀愁を滲ませて。
「………………」
「………………」
感謝の間。
そして――振り返りつつこう言葉を零す。
「――そうそう、魔法を覚えた経緯だったね?
L……、彼はアンドロメダ星人なんだ。
彼と、初めてエナジーア変換をしたことで、僕の中に何かが生まれた……! それがキッカケで眠っていた力が呼び起こされたんだ……!
だから、彼女がいなければ、そうした奇跡は起こらなかった……」
「……」
「……」
これにはアツシ君達も、アユミちゃん達も、何も言えなくなる……。
みんなの脳裏に過ったのは、この奇跡を起こした、儚い少女、笑みを浮かべた少女、恵ケイちゃんの存在の大きさだ。
「一番の功労者は、彼女かもしれない……」
「……」
「……」
【これには一同、黙って頷き得る】
【1人の少女が、その命が燃え尽きる間際までに、少年の命を紡いだのだ。奇跡と言っても過言ではない……】
【僕はこの時、精神世界にいる師匠と先生の存在を黙秘する事にしたんだ】
【そんな変な話題を出してはいけないから――……】


☆彡
――クリスティさんは、少年スバル君がどうやって魔法を覚えたのか知らない。
その重力魔法ガイアヴァリィティタァを覚えた経緯さえ、そのチャンスをこの時、逸脱していたのだから――
「……」
今、あたしの隣にいるのは、ヒースさん1人。
「……」
いえ、違うわね。あたしには目に見えず聞こえないだけで、アンドロメダ星人達がいるのかもしれないわね……。
あたし達は、玄関に向かって歩いていた。
プルルンプルルン
「! ……」
スゴイな、この人は……。ただ歩くだけで、その超乳が衣類の中で弾んでいる様は……。
それには、周りにいた人達の振り返りながらの視線を集めるほどだ。周りの人達の視線を買っていた。
「すげっ……揺れてる……」
「ああ」
「デケェ……なぁ」
「チッ」
「ただの贅肉でしょうが」
「ただの肥満豚が」
「隣の男は彼氏か」
「チッ、絵にかいたような美男美女カップルじゃねーか」
「チッ、あんな上物を抱くだなんて、なんて妬ましいやつなんだ」
「敵だ敵!!」
等々……。ヒースさんと一緒に歩くだけで、あたし達は周りからのヒンシュクを買っていた。
(……きっといい感じをしていないでしょうね?)
思わず、嘆息しちゃうあたし。
(う~ん……クリスティさんはこんな視線を毎日浴びているのか……信じられないぐらいの超乳美女も考えものだね……)
これには僕も同情する思いだ。

――僕達はみんなの視線を集めながらも、玄関ロビーの前にあるソファーに腰かける。
「はい」
「どうも」
ソファーに座っているクリスティさん。
僕は気苦労を負っているだろう彼女に、飲み物を渡してあげた。
そんな彼女が一言。
「……迷惑ですよね?」
「いえ」
「?」
「アクアリウス星にも、巨乳や爆乳の類の容姿のいい美女はいますからね」
「ああ……」
あたしは何となく察した。
(きっとシャルロットさん以外の女性ね)
あたしはそう勘ぐった。
そして、あたしはその受け取ったその飲み物に口をつける。
「……」
「……」
んっ? 値踏みをするような視線……あぁこの人もか。
ヒースさんのその視線は、明らかにあたしの超乳に注がられていた。
わかるのよ、男の人の視線は。あぁ、やっぱりこの人もか……。
あたしはやれやれ加減で、とりあえず、ゴクゴクと飲み物を飲み干していく。
まずは、何かを言う前に喉を潤さないとね。
そして、落ち着いたあたしは「フゥ……」と呼気を吐きつつ。
「……」
「!」
振り返るあたし。
たったそれだけで、ヒースさんはマズいと思い、あたしから視線を切り、他所を向いてしまう。
「……」
「……」
間。
あぁ、やっぱりね……。
「………………」
もう一度、飲みかけのコップに口元を使づけたところで、こう口元から遠ざけつつ、こう投げかける。
僕はマズいと思い、彼女から視線をきり、他所を向いた。
「……ああ、やっぱりアクアリウス星人も同じなんですね――」
「……」
と。
段々と顔が赤くなってくるヒースさん。
「……お恥ずかしい」
「フゥ……」
嘆息しちゃうあたし。
ホントに、男の人ってわかりやすい。
こんなのは、ただの脂肪の塊なのに……何でそう騙さられるんだか……。
でも、そんなのは貴重な時間を浪費するばかりだ。
だから、こう尋ねる。
「……1つ訪ねていいですか?」
「何でしょう?」
「ズバリ聞きますけど、ヒースさん……あなたは、シャルロットさんと付き合ってるんですか?」
「………………」
「………………」
あたし達の間で、沈黙の間が流れる。
これにはあたしも。
(聞いちゃマズかったかな……?)
と思いつつ、飲みかけの飲み物を飲んで、気を紛らわせる思いだ。
でも、仕方ないよね、気になってたんだから……。
と。
「どう……なんでしょうね?」
「えっ?」
「僕が言うのもなんですが、彼女の出自も特殊でね。付き合っているかどうかと問われれば、ノーとしか形容できません……」
「……それは仕事仲間……という事ですか?」
「はい」
コクン
とヒースさんは強く頷いて、身を低くして、考え込んでいた。
「……呆れた」
「?」
「ホントは好きなんでしょう?」
「…………僕には、人を好きになる資格はありませんから……」
「……それは、過去に何かあった……! という事ですよね?」
「おっさしの通りです」
「……」
これにはあたしも嘆息する思いだ。
「……あたしと同じか……」
「……ですね」
「……」
「……むしろ、それ以上です」
「……あの」
「はい」
「また……あたしの心の中を……」
「はい、読ませていただきました」
「……」
これには、もう嘆息する思いだ。
(アクアリウス星人とは反りが合わなさそうね……こうも覗かれたんじゃ、プライバシー侵害だわ」
「プライバシー侵害ですみません……」
「またかよ……ッ」
項垂れるクリスティお姉さん。
なんかホントに済みません……。
「はぁ……。これじゃあアクアリウス星人同士、心を読み合って、中々くっつかなそう……ハァ……」
「……」
現物の声も心の声も同じ、クリスティさんは嘘をついていない。
あたしはそう思うばかりで、アクアリウス星人同士の性事情はわからない……。
「……」
「……」
沈黙の間。
僕は話題を変えようとして、あっちに視線を向けつつ、こう言葉を零す。
「距離にして、約5.1㎞……」
「?」
「シャルロット到着まで、残り10分くらいです。この移動速度は、タクシーを拾って移動しているかな?」
「そんな事までわかるんですか!?」
「ええ」
事実、ヒースさんの読み通り、シャルロットさんはタクシーを拾って移動していた。
「……それも魔法ですか?」
「いいえ、スバル君と同じ危機感知能力の応用です」
「応用……?」
「はい、僕はあの子より強いですから」
「……」
それだけは断言する。僕も負けず嫌いだから。
でもあたしは、そんな子供と比べるこの人を見て、嘆息しちゃう。
「……なるほどねぇ」
と勝手に納得する思いだ。それは呆れ顔だった……。
「次は、僕からの質問で……いいでしょうか?」
「心は読めるくせに……」
「全部は読めません」
「!?」
「僕が質問を投げかけて、それを聞いたあなたの心に波紋が生じる……。心とは水のようなもので、それを掬い取り、心を読んでいるに過ぎないのです」
「……全部は読めないと?」
「はい」
(……)
あたしは試しに心の中であれこれ考えてみた。
「星王ガニュメデス様にそんな大それた真似はできません」
「ああ、やっぱりね! 表面上のものだったか!」
「いいえ、あなたが他に考えていた、3つか4つのものまで、拾ってますよ!」
「ゲッ!!」
ガックリ
と首を折るクリスティお姉さん……。
(どうなってんのよこの人達……心を読むのが卓越していない……?)
「いったい何のために……ですか?」
(また……。……何で……?)
「暗殺を恐れているからですよ」
(……)
「アクアリウス星人は、力が弱い……それはこの宇宙の常識です」
「!」
心で考えるのを止め、俯いていたあたしは顔を上げ、こう問い返す。
「力が……弱い……?」
「ええ、だから私達は生き残る術として、異星人との混血児(ハーフ)を作る道を選んだ……。……そーゆう歴史があるのです」
(……歴史……背景……?)
「はい……もっとわかりやすく言えば。
この宇宙の経済流通網の築かれた高度経済成長期時代に対応するために、まず力が求められた……!
力とは、生き残るための術です!
この裕福な暮らしを存続するために、異種交配を繰り返していった歴史があるんです!
力の弱い、私達の種族の祖先たちには、その道しか残されていなかった……。
それは、星王ガニュメデス様を初め、多くの著名人たちは、生き残る術として、異星人とのハーフを作っていた1つの結果なのです」
「なるほどねぇ……。じゃああたし達も……!?」
「そうならざるを得ないでしょうね……」
(……)
「『地球人ってそんなに力が弱いのかしら?』……ですか?
……実際、魔法が使えるのはスバル君だけです。
そのスバル君も、最近まではまるで使えませんでした……。ただの一般庶民です」
「……」
嘆息してしまうクリスティお姉さん。
言ってることは概ね正しい。
明らかに、これは明らかに心が読まれているわね。
(……)
「『……それはなぜかですか?』 ……それは、プレアデス星人も初め、各宇宙、各惑星単位で、まず力が求められた。
生き残るために……。
そうした状況下において、富・名声・力を存続するために……。
いや、より裕福な暮らしを求め、欲し、誰もがそれに手を出した。……あさましい種族なんです」
「あたし達と同じね……」
「ええ、速いか遅いかだけの違いです」
「それは人間誰もが同じじゃない?」
「仰る通りです。……だから、そうした欲望、存続のために異種交配を繰り返していった歴史があるからなんですよ」
「なるほどね……」
「あなたは……『環境適応能力』……という言葉を知っていますか?」
「ええ……」
「あなた達地球人は、この星にきて、頭がズキズキしませんか?」
「するわね。心臓の音もやけにうるさいくらい。カラダも火照って熱いくらいで、代謝がいい状態……。これは汗が……発汗しているわね」
「それが環境適応能力です」
「……」
「ただし! その状態が長引けば、命に関わります」
「……知ってたけど……、……何か手はあるのよね?」
「はい。今、星王アンドロメダ様たちが、難民達のために薬を用意しています。それを打てば、症状は沈静化して、安定するでしょう」
「……」
息を吐くクリスティさん。
もう手は打たれていたんだ。さすがに手回しが早い。
「ただし! 一番の問題は、細菌と空気中のウィルス被害です!」
「それはあたし達が地球にいて、その星の環境に適応進化していった結果だけれど……。まだこの星には、適応進化していない……そーゆう事で合ってる?」
「はい、正解です!」
「……」
あたしはやっぱりと思った。
「今、優先順位を決めていて、スバル君を第一にして、アユミちゃん、クコンちゃん、そしてあなたと決まっています」
「ウィルスの発生まで、あと残りどれくらい?」
「ウィルスに感染しているのは、シシド君で間違いありません、
それは検査で判明しました。
……彼は一番早く、この星にきて、治療を受けていたと……後に報告に上がりましたから。
次にスバル君にアユミちゃん、クコンちゃんの3人で間違いありません。
あなたは5番目です」
「……」
「ウィルス発生まで残り……」
「……」
その言葉を固唾を飲んで聞くクリスティさん。
「……」
「……」
「……」
そのヒースさんの口元がアップされて、こう呟く。
「……2週間を切って、残り1週間と少しです」
「残り1週間くらいか……」
「逃げようだなんて思わない事です」
「……」
「はい、『またかよ』です……」
「……」
「『それは打たないと死ぬから……』……もういいわです」
「……」
もう嘆息するしかないクリスティさん。
(頭が痛いわ)
思い切り溜息をついちゃう。
「ハァ……」
と。
「……かなり厳しい状況です。お願いしたいのは、サンプルの確保です!」
「……あたしの血が、欧米人に使えるからよね?」
「はい! スバル君とアユミちゃん達の血は、日本人にしか強く働きません!! 欧米人には、あなたの血しか救えないのです!! その日が来たら――」
「あ――っわかったわ!! 何本でも採血して取っていって!!」
「……ありがとうございます、クリスティさん!!」
「……」
(なるほどね……! ウィルスはもう空気感染していたか……! つまり、これはあたし達が先に病気で苦しむことになるわね……。いったい何人生き残れるか……)
「概算で4500人として、ウィルスと季節的な病気と外的要因を考えて……」
「……」
「概ね、2000人を下回ります!」
「そこまで!!!?」
これにはあたしもショックを受ける。どうして、そこまで酷いのよッ。
「……」
「……」
冷たい空気が流れ。
そして、ヒースさんの口から語られる言葉は――
「――1番マズいのは、スバル君を失う事です……!」
「……」
「あの子を失えば、それはもう将棋倒しの要領で、続々と死に絶えていくでしょう……」
「……何てこと……」
ショックを受けたあたしは、もう頭を悩ませる。
その時、ヒースさんが。
「1つだけ手立てがあります!」
「!?」
「クリスティさん! アユミちゃんかクコンちゃんに頼んで、スバル君との間に、子供を設けるよう、あなたの口からも促してください!」
「………………」
「……できますか?」
「……ッッ、まだガキじゃないのよ!!! ふざけるのも大概にしてッッ!!!」
「ふざけてないッッ!!!」
ビクッ
それは稀に見るヒースさんからの怒声だった。
「あんたは知らないだけだ!!! あの子を失えば、すべての繋がりが立たれる!!! すべてだ!!!」
「何を言って……」
「ハッキリ言って、そーゆう風に仕組まれてる!!!
そうしなければ、あの時、時間切れで、地球人たちは全員すべて氷漬けだった……!!!」
「ッ!?」
「総合理解を経て、あの子が地球人の代表として認知されていく今ッッ!!!
つまり、あの子を失えば寄る辺が失われ、すべての契約が無効になり、あなた達全員に暮らすところと食料配給などがすべて…………援助支援がすべて凍結するんだ!!!」
「――!!!」」
最大級の衝撃を受ける。
「待ち受けるのは絶望です……!! その最悪の事態を考えて、スバル君の血筋を残す……これに最終的に行きつく」
「……」
「そーゆう風にできてるんですよッッ!!!」
「………………」
「………………」

【――それは大きな運命の分岐点(ターニングポイント)だ】
【希望か絶望か……】
【思わず、あたしの口をついて出た言葉は――】

「――ッ、もし……! もしもよ……! スバル君を殺すような人たちが出てきたら……?」

【あたしはすがるように、この人に問いかける】

「……終わりでしょうね……。もう、奇跡は起こらない……永遠にです………………」


☆彡
ポッ、ポポッ、ザァアアアアア
――その時、雨が降ってきた。
タクシーから降りたつシャルロットさんは、
奥に見える、【シーサイドホテル(タラッタ ディプラ クセノドヒオ)】という名の立派なホテルの外観を見ていた。
そこは海の側に立つ立派なシーサイドホテルだ。
「……」
雨が降り注ぐ中、髪の毛、顔、衣類に当たり、割と早い段階で濡れていく。
「……」

【――空は暗く、赤黒く淀んでいて……】
【まるで、今のあたしの心情を表しているようだ】
「……」
「……」
【外の雨の量が少ないのに対して、割と強い勢いで雨が降り注ぐ音が聞こえていた……――】

「…………」
ここまで運んでくれたタクシーが離れて行った後。
シャルロット(あたし)は歩みを進める。
(結構予定より遅れちゃった……。きっとみんなは、あたしの帰りを待っていてくれてるのだろう。……急がなきゃ!)

――なぜこんなに強い雨が降るのか? 見た目に反して?
それはここが地球ではなく、アンドロメダ星だからだ。
地球の重力が1Gとした場合、ここでは3G以上なので、その降り注ぐ雨の勢いと降水量がそれに比例して増しているのだ。

気象庁ホームページからの引用。
降水量の目安。
降水量 気象庁表現    民間人のイメージ
1㎜   微かな雨     傘がなくても我慢できる
2㎜   小雨       傘が必要
3㎜   雨
4㎜
5㎜            短時間でも傘が必要
10㎜  やや強い雨    ザーザーと音を立てて雨が降る。地面からの跳ね返りで足元が濡れる
20㎜  強い雨      どしゃ降り。傘をさしていても濡れる
30㎜  激しい雨     バケツをひっくり返したように降る
50㎜  非情に激しい雨  滝のようにゴーゴーと音を立てて振り注ぐ。傘はまったく役に立たなくなる
80㎜  猛烈な雨     息苦しいような圧迫感がある。恐怖を感じる。
――降水量の目安は、どこにあるのか?
例えば、ここに水槽があり、そこに1時間当たり50㎜の降水量の雨が降ってきたとして、その水深が50㎜まで達するというものだ。
50㎜は5㎝だ。
では、地球での重さは?
50mmの雨が降ってきた場合、水の量は50リットル、重さにして50㎏にもなります。
50kgは、だいたい日本の成人女性と同じくらいの重さです。
では、アンドロメダ星での重さは?
単純にこれを、×3.8Gとした場合、190㎜の雨が降り注ぐことになり、その水の量は190リットル、重さにして190㎏にもなります。
190㎏は、だいたい相撲の横綱とホッキョクグマやライオンなどと同じぐらいの重さです。
――ただし、今、現在降り注いでいる雨の降水量は、せいぜい3~5㎜程度であるため。
3.8G下の影響下では、せいぜい11.4~19㎜程度の範囲のやや強い雨程度です。
平均で15㎏。
重さにして、柴犬以上、大型犬並み、ビール瓶1ケース未満といったところだろうか。
それは、雨が当たる度に、その着ている衣類や道端から強い跳ね返り現象が起きていた。
単純な重さだけではない。重力加速度も加わり、速度が増した雨足が強く振ろ注いでいく。
それは如何にも痛そうな音を奏でて――

ザァアアアアア

――この音をホテル内にいるクリスティたちが聞いた感想は。
「――結構強いわね……」
「地球と比べて、ここは強いですから……」
「あの程度の雨でこれって……もし、猛烈な雨が降ってきたら……?」
「痛いでしょうね……。まるで砂粒が入ったような雨が降り注ぐような、イメージかと……むしろ、雹?」
「プロトニアって、そんな中でも……?」
「ええ、活動範囲です」
「……とんでもない世界ね……」
「……」
そんなやり取りがあったのだった……。


TO BE CONTINUD……

しおり