第3章の第36話 LUCA
アンドロメダ王女様の宇宙船は、雲海上空を飛行していた。
雲の切れ目が入り、眼下の地上が見渡せる。
アメリカに詳しいクリスティさんが、ナビゲートを行う。
「――もう少し右です。2時の方角です」
クリスティさんの指示は的確だった。
これを不審に思ったシャルロットさんが彼女に語りかける。
「詳しいですね。あなたはカナダ人じゃ?」
「いいえ、確かにあたしが医者として働いていたのは、カナダの地ですけど……! 生まれはアメリカ人なんです!」
「そっ、そうだったんですか……!? あたしはてっきりカナダ人かと」
要はそーゆう事らしい。
アメリカ人生まれの女性であれば、一通りの地理に明るく、目的地のイエローストーン国立公園にも案内できるはずだ。
この時、クリスティさんは、冷や汗を流す。
(まさか、知り合いがいるだなんて事は……ないわよねぇ……)
願うなら、バッタリ顔を合わせしないことを祈るばかりだ。
「――見えてきました」
「!」
当船はアメリカのイエローストーン国立公園に接近していくのだった――
【――世界で初めて国立公園として認定された『イエローストーン国立公園』】
【アメリカ合衆国のモンタナ州・ワイオミング州・アイダホ州にまたがる総面積8980㎞にもの広大な敷地面積に、地球上の約半分の温泉(入浴は不可)】
【約3分の2もの間欠泉があり、七色(レインボー)に輝く巨大な温泉など】
【熱水現象による極めて特異な自然環境と景観を織りなしています】
【特に絶景地は、中心は深い青色で、外に広がっていく度に緑、黄、橙色と色彩が奇麗に分かれており、観光スポットとなっている】
【ただし、人が入れない温泉などで、くれぐれもご入浴はお避け下さい】
【年間、400万人以上が訪れる世界屈指の観光スポットである】
【が――今は人っ子1人いない、寒空の下であった――……】
宇宙線は静かに速度を落として、その観光地を飛行していく、目指す先は、ここのどこかだ。
案内の指示を飛ばすのは、引き続きクリスティさんであった。
「近いです。もう少しスピードを落としてください」
クリスティさん指示を受け、機械操作を行う兵士さん達は、当船の速度を落としながら、ゆっくりと目的地に進む。
その先に見えたのは――
温泉から立ち昇る湯気と色彩豊かな絶景地の温泉であった。
「――あれですあれ!」
指差すクリスティ。目的のものはあれで間違いない。
「すぐに近くに不時着しろ!」
「ハッ!」
「化学班! 試験管と機材を持って、そのLUCAを採取してくるのじゃ!」
「ラジャー!」
その絶景地付近に不時着していく宇宙船。
それは宇宙船の下部から、反重力を発しながら、船体の浮き沈みを利用し、ゆっくりと降下していった――……
それは静かに降り立ち、周りへの被害を最小限に抑える高度な最新技術であった。
「……え? もう着陸したの? 振動とか静かなのね」
「うん。だいたいこんなだよ」
「こんなに大きい船体でも降りる際の風圧とか余り起こしていないところ見ると、高度な最新技術が使われている証拠ね。どーゆう化学技術理論の上に、造られているのかしらねぇ……」
「……」
これにはクリスティさんも、ただただ言葉を失うほど、自分たち地球人の文明水準よりも、先に行かれていることを痛く痛感したのだった。
(ダメだわ……戦争したら、すぐに負ける……。あっ、既に負けてる感が……)
あたしはそんな事を考えてしまう。
実際のところ、以前、ギャラクティアコールで速攻で大敗に喫している。勝負すらならなかった……。
いや、それ以前にアンドロメダ王女様たったお1人に、地球の文明は、一瞬して水泡に喫していたのだった……。
☆彡
そんなこんなで、この絶景地に降り立ったのは、
Lとデネボラさんと化学班の兵士の皆さんと、興味本位で出てきたアユミちゃん、クコンちゃん、クリスティさんだった。
アンドロメダ王女様は、全権の指揮を担っているため、宇宙船に残られた。
隣にはヒースさんも控えている。
「む?」
何かに反応するアンドロメダ王女様。
「どうしました?」
「……抜け駆けされたか……」
「え……?」
ヒースさんが不審に思い、辺りを見回してみると、なんとシャルロットさんがいなかったのだ。
これにはヒースさんも。
「い、いない!! どこへ……まっまさか、あいつ……!!」
――そう、ヒースさんの睨んだ通り、こんな機会は滅多にないとばかりにシャルロットさんも抜け駆けしていた。
「先を越されたな」
抜け駆けする気でいた王女様も、この時ばかりは嘆息す。
「みーんな! 待って~~!」
「「「!」」」
「「「「「!」」」」」
一同振り返ると、宇宙船の下部から光線が出ており、そこから降りてきたシャルロットさんが慌てて、皆さんと合流するところだった。
しかも、その足が速い――ビュン――
「――ッ!!」
ズザザザッ……
人1人が起こした突風が、みんなを襲う。
風を切るとかの次元とはまるで違う。これが開拓者(プロトニア)だ。
それはクリスティさんの顔立ちが変顔になるくらいの風圧であった。
少女達はスカートを「キャアアアアア」と抑え。
砂埃を起こすほどだ。
と全力疾走してきたシャルロットさんは大地の上を擦過していって――ズザザザザザッ……とようやく止まるのだった。
「追いついた!!」
「は」
「は」
「速い――っ!!」
「ムフフフ、時速340㎞に迫るぐらい、個人レコードを持ってますからね! ブイッ!!」
「「「340㎞~~!!!?」」」
最早人間じゃない……。
テレパシー、人が考えていることを読む能力、悪夢を見せる力、透視の4つの力に加え。
新たに圧倒的な速力。
アクアリウス星人っていったい何者なの。
寒空の下に、アユミ、クコン、クリスティさんの驚愕の声が高々と上がったのだった――
☆彡
【『Grand・Prismatic Spring』グランド・プリズマスティックスプリング】
【グランド・プリズマスティックスプリングは、アメリカで最大の熱水泉である】
【その規模は直径90m、深さは50mほど】
【世界では、ニュージーランドのフライング・パンレイク、ドミニカのボイリング・レイクに次いで、3番目に大きい間欠泉である】
【その色合いは、中央部から青、緑、黄、オレンジ、金、赤、茶からなる水の色合いは、プリズムで光りを分散したような色をイメージさせています】
【この観点から、グランド・プリズマスティックスプリングと命名されました】
【この幻想的な七色の色合いも、水中に生息する微生物細菌バクテリアによるもので】
【その日の気温によって色合いも異なり、私達を楽しませてくれます】
【夏には赤やオレンジ、冬は濃い緑色になります】
【中央はバクテリアが生息できないほど、温度が極めて高く、水そのものの色合いである濃い青色になっているのが特徴です】
【――ただし、今現在は、度重なる頻発な火山活動の影響により、水面が大きく荒れ果て、あの美しかった景観の面影がない……】
【考えられる理由としては、土中の成分と混ざり合い、巻き上げられて、混色していることだ。赤茶度色である】
【さらに温泉であることから、ブクブクとした混色色の赤茶土色の泡も吹き出していた】
【猛吹雪が音を立てて吹き荒び、温泉水の中に溶け込みながら、周りの大地をゆっくりと浸食しながら、凍結範囲が広がっていく――】
あたしはその景観を見て。
「……美しかったところなのに……」
と口を零す。
「……」
その時だった。
ドドドドドッ
大地が揺れた。
「キャッ、地震!!」
「みんな、下手に動いちゃダメよ!!」
ブクブクと激しくその温泉水が泡立つ。
それが周りの大地を侵食し、凍結範囲をゆっくりと溶かしながら、押し返そうとしていた。
だが、この猛吹雪の中それは火を見るよりも明らかだ。
ここもいずれは、氷の大地に閉ざされる宿命が決まっていた。
「……クッ、ホントに氷に閉ざされる……キャッ!!」
前のめりに転んでしまうクリスティさん。その時、抱きかかえていたポンタヌの頭が転がる。
それを見たあたしは。
「!」
それが使えるかもしれないと思った。
――先に降りた化学班の兵士さん達が調査を行う。
こちらをA班として扱う。
A班は、その絶景地の温泉付近で、細菌を採取していた。
どれも赤やオレンジ、黄色などの硫黄成分からなる化合物を掬い取っていく。
それを目線の高さまで持ち上げて、試験官の中身を覗き見るA班の皆さん
「……」
「……」
その様子を伺うのは、デネボラさんとLだった。
「ねえ、あれでほんとにLUCAってやつが採取できるのかな?」
「う~ん……なんか見落としがあるような気がするわね……。細菌は細菌でも、これだと空気にさらされて酸化した細菌しか手に入らない。原初の細菌となるともっと難しいはず……」
「……だよねぇ」
「……」
これではいけないとばかりに嘆息してしまうデネボラさん。
(何かが違う……!!)
「!」
とその時、宇宙船の下部から光線が出てきて、別の化学班が機材を降ろしてきた。
こちらをB班として扱う。
その機材を現場近くまで運んでくる。
現場で、実地で試験的に検査するつもりだ。
そこへ足を伸ばしていくのは、この現場のリーダーを務めるデネボラさんの役目だった。
「あなた達、サンプルは多いに越した事はないから、保存管理を徹底するのよ! 今後、一体何がどう役立つかわからないからね!」
「「「「「はいっ!」」」」」
「……」
注意事項を告げた私は、呼気を吐いた。
(そう、いったい何がどう役立つかわからない……! シアノバクテリアとLUCA。この2つをベースに科学的に試験を行いつつ、全球凍結を氷解して、酸素をもたらせる……!!)
腕組をして考えるデネボラ。
(でも! それだけじゃ足りない気がする……あくまでキーパーツの1つでしかない……!! ……じゃあ、あと足りないのは何……っ!?)
私は現場を預かるものとして、徹底的に俯瞰し、現場を捉えていた。
【デネボラはなんとなくわかっていた】
【シアノバクテリアとLUCAだけでは足りない……】
【到底、全球凍結した地球を解凍して、以前の地球の光景を取り戻せない事を――……】
【だからこれは、必要なものを揃えていく、その前段階に過ぎない】
【とその頃、Lは――】
スゥ――……
と空中に上がっていき浮遊する。
「――……」
その目を閉じて、サイコキネシス(プシキキニシス)で探し物を探してみる。
その身に纏うのは念動力だ。
球体の念動力を纏い、1つ2つ3つと環を作って交信させる。
空中にいる僕を中心点として定め、この一帯地域のすべての生物たちに語りかける。
「!」
「「「「「!」」」」」
「「「「「!」」」」」
デネボラが、A班が、B班が反応を返す。
さらに。
「!」
「!」
アリが、ミミズが反応を返す。
(僕はルカを知らない……。だから、地道に君を探し続けるしかない……。……どこにいるんだい? ……教えてくれ! ルカ!)
僕の目に見えたのは、熱水泉の深く――色彩の違う土中を下っていき――噴き出している熱水噴出孔だった。
泡をブクブクと噴き出しており、そこに硫黄の化合物が付着していた。
それにズームアップしていくと――小さな虫みたいなものが活動していた。
もしかしてこれが?
――その時だった。
ドドドドドッ。
と大地が揺れたのは。
これにはLも、探す行為が中断させられるほど、あちらからの念波が荒れた。
「クッ……!」
「総員! 速やかに退避――ッ!! 身の安全を第一とし、持ち込んできた研究機材を護って!!」
「「「「「はっはい!!」」」」」
現場に指示を飛ばすデネボラさん。
それに従う現場の皆さん。
とこれにはLも。
「……これは作業が難航しそうだね……」
ボコボコ
と熱水泉の中心部から大きな泡立ちが起きていたのだった
――クリスティ(あたし)は、ポンタヌの頭を被り、ポンタヌの着ぐるみの機能が起動した。
『オートモードに入ります。使用者の身の安全を守るため、保護モードに入ります!』
「!」
グルンとその場で反転し、アユミちゃん、クコンちゃん、シャルロットさんの3人を視認。
『左から戦闘力3、3、100オーバー! 少女を2人を連れて、レスキュー機能に移ります!』
「ハッ!? ちょっと!?」
『反重力滑走モード起動!!』
ダンッとレスキュー機能が働き、ガッガッと少女達を脇に抱え、宙に浮きながら滑走する。
これには少女達2人も。
「キャ!?」
「ちょっと!?」
『身の安全を確保します! 約100mほど緊急離脱に移ります!』
「「は……!?」」
そのままシャルロットさんの横を通り過ぎていくポンタヌさん。
これにはシャルロットさんも。
「へ……? ……まさかあのポンタヌって……」
100mほど離れたところで。
滑走モードを止めて、その場で止まる。その抱きかかえられた脇の下で、2人は暴れていた。
「コラッ、放してよ!!」
「ん~~っ苦しい~!!」
一番強く暴れていたのはクコンちゃん。足を激しくばたつかせ、あたしの胸部に拳を激しく打ち立てて音を鳴らすが、あたしには一切衝撃がこない。
アユミちゃんなんかはまだ可愛いもので、もがついてぐらいだ。
で、中に入っていたあたしは。
ダンッ、ダンッ、ダンッ
と音がする中。
「すごいわね……。全然傷みがこないわ……」
『2人を安全に降ろします』
とアナウンスが告げ。
脇の下に抱きかかえていた2人を、安全に降ろすポンタヌさん。
で。
「このっ! いきなり何するの!?」
キンゴ~~ン
と球蹴りを喰らわせるクコンちゃん。
中に入っていたクリスティさんは。
「あははは! 何やってるのこの子! 全然痛くないわ!」
『外との安全な会話を試みます』
「OK!」
首が動き、会話を試みるポンタヌさん。
「!」
『お怪我はありませんか?』
「は?」
「え? クリスティさん……じゃない?」
『あたしはプログラムナンバーPS-2382です!』
「PS……」
「3181……」
『お二方の身の安全を図るため、あの場は危険と判断し、ここまで運びました』
「……ロボット……?」
『いいえ、私はロボットではなく、この着ぐるみに搭載された人工知能です。人の安全を第一優先にしています』
「……」
「……」
『お怪我はありませんか?』
「いえ……」
「ないけど……」
『そうですか、それは良かったです』
後ろを振り返るポンタヌさん。
後ろにはシャルロットさんが、こちらの反応に気づき、手を挙げて返事を返していた。
ポンタヌさんも、手を挙げて反応を返す。
その時だった。
グキッとあたしはいきなりの事だったので、肩を痛めた。
「痛~~い!!」
『すみません、仕様上の問題なので……』
「気をつけてよ!!」
『以後気をつけます……』
アナウンスさんが謝ったのだった。
で外では。
「……悪かったわね。いきなり蹴ったりして」
『……私はプログラムです。人命を第一優先にしています』
「……」
嘆息しちゃうクコンちゃん。
「さっき蹴ったのはあたしが悪いわ」
『……』
「……助けてくれてありがとうね。プログラムナンバー……えーと」
「PS-2382です」
とここでようやくシャルロットさんが合流した。
「……どうやら、ポンタヌの人工知能だったようね」
『はい』
「あなたがいれば安全だわ。このままこの地域の見学がしたいんだけど……頼める?」
『……私の一存では決められません。今から中の人と話します』
で中では。
『――いかがいたしますか?』
「見学ねぇ……。あなたが護ってくれるのよね?」
『はい』
「う~ん……わかったわ。OKよーポンタヌ!」
『承認しました。……なお左上(こちら)に残りのハートゲージを表示させていただきます』
と画面の左上にライフゲージが表示された。その下には魔力ゲージも。まるでゲームのようだ。
『ライフポイントが0になったら、すべての機能がOFFになります。なお、ライフポイントが3になったら省エネモードに移行します。……お気をつけください』
「OK!」
とあたしは軽返事を返した。
で外では。
「お客様が承認しました。もちろん、私めもOKです」
「そう、じゃあお願いするわね。えーと……」
「プログラムナンバー。PS-2382です」
その後、あたしたち4人(5人?)は、この地域一帯を見学するのだった。
☆彡
【『Old Faithful』オールドフェイスフル】
【世界最大の間欠泉ポイントだ】
クコンちゃんを先頭に、アユミ、クリスティ、人工知能のシグノーミ、シャルロットの4人(5人?)は、ここに足を運んでいた。
「うわぁ、すごいわね~ぇ!」
「日本じゃ見られないよこんな光景!」
「フフッ、良かった、誰もいなくて!」
『……』
「フツー、こんなに吹雪が吹雪いてる中で、一般人は誰もきませんよ……! あたし達の頭が間の抜けているだけです」
ビュオオオオオ
と吹雪が吹雪いていた。
【イエローストーン国立公園のシンボルとなっている有名な間欠泉である】
【96度の熱水が4万リットルもの量が、30mから50mまでの高さまで噴き出すさまは、圧巻の一言】
【だが、それもあくまで前日までの話、今の温度はせいぜい60度から70度程度までガタ落ちして、噴きあがる高さも20mから40m水準と落ち込んでいた……】
【明日にもなればもっと落ち込み……】
【全球凍結後は、厚い氷の下に覆われて、見る影もないだろう……――】
「――と、クリスティさん、ここはなんてゆー場所なんですか?」
「ここはオールドフェイスよ! 世界最大の間欠泉スポットね!」
「「へぇ~」」
「お詳しいんですね!?」
「まぁね。有名なデートスポットの1つとして知られてるからね」
胸を張るクリスティさん。もう自慢気だ。
「いったい何人ほど誘惑したんですか?」
「う~ん……200……いや300かな? いやもっと?」
「「「え……?」」」
「男なんてちょろいも~んよ!」
「うわぁ、モテすぎ……」
「今や着ぐるみのお姉さん……狸みたいな生き物なのに?」
「任せなさい~! ポンタヌ~♪」
あたしは意外とこの衣装が気に入っていた。なぜなら――
「――加速装置ON!」
反重力機能で足元が宙から浮いていて、空中浮遊が如く、ビュゴォオオオオオと高速移動していくのだった。
「お先に~~♪」
「あっズル~イ!!?」
「あの着ぐるみ何よ!? あんな機能搭載していいの!?」
「「レスキューしなさい!! こら――ッ!!」」
と声を揃えて叫ぶ少女2人。
その隣でシャルロットさんは。
「う~ん……多分、特撮映画向けで制作された着ぐるみなんでしょうね。キッズアニメ番組で、ポンタヌはマスコットキャラで有名だからー……」
もはや苦笑いのシャルロットさん、後を追いかけて走る。
「こら~~!! 待ちなさい~~!!」
「あなただけそれズル~~イ!!」
と後ろから声を張り上げて追いかけてくるのは、アユミちゃんとクコンちゃんの2人である。
「~~♪」
空中浮遊の如く滑走中のクリスティさんは、ご満悦だった。
「ポンタヌ~♪」
『……前方に障害物を発見しました!』
立ち止まるポンタヌさん。
その前方には、道を塞ぐように落石の姿が。
ポンタヌの身長はせいぜい170㎝前後、だがその落石現場の高さは500㎝。横一列分起伏の激しい落石の跡が続いていた。
完全に、ここで行き止まりをくらう。
と後ろから追いかけてきたのは、
シャルロットさんを初め、アユミちゃんとクコンちゃんだ。
これにはあたし達も、ここで足止めを喰らってしまうのだった。
「けっこう崩れてますね……」
「どうする?」
「迂回しちゃう?」
「……いえ、ここから迂回すると遠回りになるわ。……ここさえ通れればいいんだけど……」
「「「「………………」」」」」
立ち止まらざるを得ない。
その時だった。
『通れればよろしいでしょうか?』
「! シグノーミ!」
『私が通れるようにします』
とアナウンスのシグノーミがそう答え、ポンタヌが前に出るのだった。
「なっ何をやる気なの?」
「無理だって……人間の力じゃ、重機を持ってこないと」
「……」
クコンちゃん、アユミちゃん、シャルロットさんと言いあって。
『魔法を使います!』
「えっ!?」
これにはクリスティ(あたし)も驚く。
『『我が力強き腕に宿れ、花の精、風の精よ! 桜と新緑纏いて、吹き荒べ!』』
「ちょっ!?」
これにはシャルロットさんも驚く。
『『春の嵐!!!』』
突き出されたその手から、解き放たられるは、桜と新緑を纏った嵐だった。
春の嵐が一直線に進み、道を塞いでいた落石に当たり、
激しい音を立てながら、吹き飛ばしていく、それは力づくで大穴を空けるのだった。
春の嵐を行使中のポンタヌ。
大穴が空いた落石現場。亀裂がドンドン激しく入っていく。
そして、耐え切れなくなり、その落石現場が爆発四散するのだった。
砂塵が吹き、その煙を洗っていくと……、そこには道が開通した通りが広がっていた。
これには3人ともポカーーンと。
中に入っていたクリスティさんも口を開けて、あんぐりしていた。
「何あれ……」
「着ぐるみに、なんて機能を持たせてるのよ……」
その時だった。
このイエローストーン国立公園の岩壁の頂上に降り積もった雪が、地肌を侵食させ、崖崩れを起こしやすくしていた。
小さな石片が、カラン、カラーン、カツーン……と音を立てて転がってきる。
それに気づいたのはクコンちゃんだ。
「なに……?」
ドドドドド
それは岩肌の内部で聞こえた。
一体何が。
そして、その時がやってくる。ブシャ――ッと臨界点を迎えた岩肌の中から、ほぼ横方向の間欠泉が噴き出して、大岩を飛ばすのだった。
その大岩は、なんとクコンちゃんの真上に。
「きっきゃあああああ!!」
それに颯爽と動いたのは、ポンタヌとシャルロットさんだった。
大ジャンプのポンタヌ。魔力を集中するシャルロットさん。
まず先にポンタヌが、その大岩を空中でキャッチして、
3回転ほど前方に向かってグルングルングルンと後転しながら、炸裂させる場所を降下させつつ移動し、
そのまま思い切り突き放すようにして、飛ばす。
その大岩は、ガシャ――ンと音を立てて粉砕されるのだった。
次にシャルロットさんだ。
「『100条の光の球』ボール・オブ・ライト(バラ・フォトス)!!」
シャルロットさんがその手を突き出すと、周囲に浮かんでいた合計100個の光の球がものすごい勢いで飛んでいき、剥き出しの間欠泉の岩肌を崩し、それを止めるのだった。
これを見ていた2人は。
「「……」」
ポカ――ンと口を開けていた。
「あたし、あの2人についていけば、安全な気がしてきた……」
「うん……」
と大岩を粉砕したポンタヌさんが歩み寄ってきて。
『……お怪我はありませんか?』
「「はい……」」
『それは良かったタヌ』
「「ははは……」」
だが、中では。
「~~痛っ!!」
クリスティさんがシンギンの声を上げていた」
「ちょっといきなり大ジャンプしないでよ!! 膝痛めたちゃったじゃない!!」
『すっすみません……!! 緊急対応だったもので……ッ!!」
「……」
『……』
「……まぁいいわ。……ありがと」
『ポンタヌ……」
この時、クリスティさんは気づきもしなかった。
ライフポイントと魔力ゲージが減っていた事に。
さらに。
「……あれ……? 立ち眩みが?」
『……』
「……なんで?」
『それは……』
「?」
『お客様の生命エネルギーと魔力を変換して、当機を動かしているからです。なにもバッテリーだけで動いているわけではありませんので』
「マジ……?」
『はい、黙ってて済みませんでした……』
「……ちなみに、それが尽きたらどうなるの?」
『基本的に、人命を第一優先にしてるので、瀕死状態まで落ち込みます……』
「……」
『よって、ライフが3つに減ったら……省エネモードに入らせていただきます。安全上の注意のため』
「……わかったわ……」
あたしは納得の理解を示すのだった。
☆彡
B班の皆さんが用意してくれた研究機材に、A班の人達が集めてくれた試験官を随時セットしていき、まとめて成分分析と組成成分を検査していく。
それは硫黄成分からなる化合物であるが、その中にはしっかり、微生物バクテリアが住みついていた。
一般人がみれば、忌避感を覚えるほどの気持ち悪さだが……。
研究者視点から見れば、なんとも可愛らしい生き物たちだ。
だが、ここでデネボラさんが。
「……違うわね。『全生物最終共通祖先』というからには、もっとこうシンプルな組成成分であるはずよ。これは分岐進化したもの……原初生物菌とは、とてもいいがたいわ」
「ハズレですね」
「ええ……」
――とそこへ、Lが降りてきて。
「デネボラ!」
「!」
「あっちのあの青い絶景ポイントの中に、湧き出している熱水噴出孔があるよ!」
そう、ここは温泉地帯だ。
温泉の脇水の出所があり、その熱いポイントがあれば、そこが熱水噴出孔なのだ。
「――そうか! そういえば! 原初生物のLUCAは、海底火山近くの熱水噴出孔スポットにいるかもしれないと、あの信書に書かれていたわね!」
「という事は……」
「ああ」
「ダイビング調査だ!」
エナジーア生命体の兵士さん達の体が光り出し、放物線を描くように飛んでいき、絶景地の青いところにその身を投じていくのだった。
乗り出していったのは、A班の皆さんだ。
エナジーア生命体である為、人の体ように息継ぎの心配はなく、温泉水の中でもスイスイとその身が進み。
その深さまで到達するのだった。
「――!」
「あった! 熱水噴出孔だ!」
「早速、採取するぞ」
その湧き出している熱水噴出孔ポイントまで辿り着き、その周辺の化合物を、1つ1つ念入りに採取していく。
「「……」」
とこの様子を観察していたLとデネボラの2人は。
「よくわかったわねL、偉いわよ」
「ううん、実を言うと僕、前にも実際に熱水噴出孔ポイントを、海底深くの海流に乗って、見た事があるんだよ!」
「へぇ~」
それは初耳だ。
「で、そのポイントにいくほど熱くなっていった……!」
「ああ、なるほど! 海底火山ね! 熱水噴出孔ポイントは海底火山のポイントに多く分布してるからね!」
「で、その先にあったのが……」
「……」
「姫姉が打ち下ろした、『青白い光熱の矢』ブルーフレイア(キュアノエイデスプロクスア)で穿たれた跡だった……」
「あ……!」
マヌケな顔をするデネボラ。
☆彡
とこれにはアンドロメダ王女様の宇宙船内にいた2人は。
「……」
「……」
何とも言えない表情の主犯格(王女様)と、
モニター画面から視線をそらし、王女の横顔を見詰めるヒースさんがいたのだった。
「……以後、力加減には気をつけよう」
「王女」
「んっ?」
「絶対にその星の内核を打ち抜かないでくださいね……もう手に負えない……」
「……善処する」
その場に何とも言えない、乾いた空気が流れたのだった――……
☆彡
「あと」
「まだあるの!?」
「うん。これは、まだスバルが気絶していた時なんだけど」
「……」
「クリスタルピラミッドだった」
「は? クリスタル……?」
「場所は忘れたけど、それもあの時、激しい海流の流れに乗って、偶然目に入ったものだった」
「……見間違いじゃない?」
「いや……確かにこの手に、クリスタルの球を手に取った事がある……! それもいくつも散乱していた」
「……まさか……」
「でも、持ち出せない仕様のものだった。……あそこには、何か重大な秘密がある……!!」
「……」
☆彡
その会話を、アンドロメダ王女様の宇宙船内にいる2人も、聞いていたのだった。
「……」
「……」
【地球には何かある……! それはいつの日か、明かされる時が訪れるのだろうか――……】
☆彡
【『Black Sand Basin』ブラック・サンド・ベイズン】
【その見た目は、中心部がエメラルドグリーン色で、外に広がっていくほど、黄緑、薄い黄色、黄土色になっていく】
【この温泉地域にあるエメラルドプールは、神秘的な色合いで有名です】
【水中に繁殖した黄色い藻が、空のスカイブルーと反応して、美しいエメラルドグリーンを作り出しています】
【まさに、自然が生み出している、色のマジックショーです】
【ただし、ここも、頻発する地震のせいで、熱水泉の水面が大荒れており、混色した赤茶土色の泡がブクブクと噴き出していた】
【あの美しかった景観の面影もない……――】
「……」
あたしはその様子を、なんか哀しい顔で見ていたのだった。
そこへ遅れてやってくるのは、
「!」
アユミちゃん、クコンちゃん、シャルロットさんの3人だ。
「……あら? 遅かったわね」
「「「……」」」
ジト目の3人。
そのポンタヌの着ぐるみ衣装の機能は、明らかに反則だ。
「どうしたの?」
とあたしが声を投げかけると。
「遅くないです~~ぅ」
「ええ、そっちが明らかに反則なのよ」
「クリスティさん、それ脱いだら?」
アユミちゃん、クコンちゃん、シャルロットさんの3人が猛抗議したの。
これにはあたしも。
「イヤよ!! この場で脱げってゆーの!? この寒空の下っあり!? まさか女同士でそんな趣味がっ!? いや~ン!」
乙女らしい仕草を取ったの。腰を捻ってくねくね。
だけど、そのポンタヌの着ぐるみ着ていて、それは色気がなくて……。
「「全然エロくないわ!!! 狸――っ!!!」」
「ハァ……あの着ぐるみの衣装の名は、ポンタヌってゆーのよ……」
アユミちゃんとクコンちゃんは怒声を上げて。
シャルロットさんは呆れながら、その衣装の名を呟くのだった……。
☆彡
現場のLとデネボラとA班とB班の皆さんは、その機材の上に試験官を置いて、その化合物を試験していた。
「……惜しい。違うわね」
これには兵士さん達から、アァ……と呟きが漏れる。
「う~ん……」
と考え込むL。
――その時、日光が顔を照らした。
「――!」
【――それは大自然の絶景だった】
【『San Pillar』太陽柱と『Diamond Dusut』ダイヤモンドダストが偶然にも重なった自然現象の美だった】
【先ず太陽柱から】
【太陽が地平線近くにある日の出や日の入りの頃、太陽の上や下に光の柱が見える現象である】
【上空で雪が降っているとき、六角形の板状の氷の粒に、太陽の光が反射して光る事で起きます】
【また、太陽の光だけではなく、街の明かりや、海上の船の漁火など、人工的な明かりが上の方に伸びて見えることもあります】
【次にダイヤモンドダスト】
【空気中の氷の粒『細氷』に、太陽光の光が反射して、キラキラと輝く現象がダイヤモンドダストです】
【このダストとは、チリのようなものを指します】
【太陽光の光が、屈折加減で曲がって、色々な光となって輝くさまは、まさに優秀の自然の美】
【ダイヤモンドのチリのように降るさまは美しく、太陽柱も一緒に見えるから、寒い地方では親しまれています】
【――だが、今回のケースは日の出や日の入りではなく、偶然にも、寒空の厚い雲に切れ目が入り、そこに日光が差し込んだ姿だった】
【雪結晶にキラキラと光ながら、光の柱が一点の大地を指し示していた】
【この光を見たL(僕)は――】
「……日光……そうか! 光だよ!」
「光……光源……あっ!」
この事に感づき始める、デネボラを初め、化学班の兵士さん達。
「そう言えば聞いたことがある!! 光があれば、どんな原初生物たちも、その光源を素に、エネルギーを新陳代謝して、自己進化を促すぞ!!!」
「そう言われれば、そうだ!!」
「じゃあ、光が差さないところか!! 相当深い縦穴構造じゃないと、LUCAがいないんじゃない!?」
「一から、ポイントを探し回る必要があるぞ!!」
「じゃあいったい、どこを探せばいいのよ!!」
ワイワイ、ガヤガヤ
とこれには化学班の兵士さん達も議論を交わし合うのだった。
だが、これは大きな進展だ。一歩一歩、LUCAに近づいてる証拠だ。
とここでLが考える。
「う~ん……もしかして、太陽光の日光が、ここにある細菌を進化させたんじゃ……!?」
「あり得るわね」
「もし仮にいても、絶対数が極めて少ないと思うし……」
「……」
「う~ん……」
「じゃあ、どこを探せば……」
「……」
この時、L(僕)は目を瞑り、サイコキネシス(プシキキニシス)を高め、LUCAを探っていく。
目を瞑り暗闇の中、Lのその身に纏うのは念動力だ。
球体の念動力を纏い、1つ2つ3つと環を作って交信させる。
僕を中心点として定め、この一帯地域のすべての生物たちに語りかける。
暗闇の中、問いかけの返しが返ってきた。
初めにデネボラ、次にA班とB班のみんな。
次に先ほど調査を行った熱水噴出孔の微生物バクテリアたち。
(違う……もっと範囲を広げるんだ……。広く、深く、どこまでも……)
暗闇の中、念動力の球体が限界まで広がっていき――3つの環から細かい粒子を放出させて――あちらからの返答を待つ。
(この広い大地のどこかに君はいるはずだ……どこにいるんだい? LUCA……)
それはまったくの偶然だった
「――!」
『――』
それは命の呟きだった。声を発する器官はない。微生物のバクテリアそのもの。だが、その原初生物菌は、Lの問いかけに語りかけてきたのだった。
「――見つけた!! あっちだ!!」
そこはまったくの偶然だった、その太陽柱が指し示すポイントだ。
Lは、その身から光を発し、光の放物線を描きながら飛んでいく。
その様を見た私達は。
「行きましょう!」
「「「「「はいっ!」」」」」
ドンッと飛んでいったのだった――
☆彡
太陽柱(サン・ピラー)が出ているところに近づくほど、その光量が消えていき――光の柱が見えなくなる……。
それはなぜだろうか。
速さで、そのポイントに辿り着く過程でも同じことが言えるのだろうか。
疑問を覚える。
その答えは、光源、降り注いでいる対象物、人の目の3要素で簡略的に説明できる。
それは光の屈折率の加減だ。
エナジーア生命体であるLたちが、そのポイントに光の速度で近づくほど、人の目で捉える光の入射角度が変わり、まるで消えていくように見えるのだ。
まるで光のマジックだ。
それは、私達人間とまったく同じである。
雲の切れ目から、虹色の光環現象がでていた。
【『Corona』光環(光冠)】
【太陽が薄い雲に覆われた時に、太陽の周りにぼんやりとした環が見える事がある】
【この環をことを『光環(光冠)』といいます】
【太陽光の光が、雲の粒を乱反射する事で起き、色がついて虹色に見える事があるからです】
【今回のケースは極稀で、厚い寒空の雲の切れ目に、吹雪が吹き荒び、衝突し合いながら、氷の粒が『細氷』になったものだと推察される】
【そして、僕達は、地球の運命を左右する大地に降り立ったのだった――……】
そこは山のような谷壁で、衝撃に脆そうな亀裂が入っていた。
そこに行きついたのは、Lだった。
続いてデネボラが、化学班のみんなが着地していく。
「――こんなところがあったのね……!」
「……」
僕は、谷壁の壁にその小さな手をつけた。
この壁は衝撃に脆そうだった。
「――」
『――』
命の問いかけの反応が返ってくる。
「――いる! 待ってて!」
Lの掌にエナジーアが集束、畜力していき、そのエナジーア弾がドンドンと大きくなっていく。
それはやがて、エナジーアの増大した球体へと
「クァアアアアア、ハ――ッ!!!」
ドォオオオオオンッ
とエナジーアが増大した光球が爆ぜて、その衝撃に脆い壁が爆発四散し、飛び散るのだった。
Lの新しい必殺技だ。
ポッカリと開いた空間が開かれた。それは洞穴への入り口だ。
「フフッ」
(強くなってるわねL、今の技は紛れもなく、『エナジーア爆(エクリシィ)』だった……!)
あたしはLがかの戦いを経て、純粋に強くなっていることを喜ぶ。
あの戦いは、無駄じゃなかったようね。
「――行こう! 君はこの先にいる!」
『――』
命の問いかけが返ってくる。
☆彡
――洞窟の中を進むLたち一行。
ピチョンピチョンと鍾乳洞からの雫が落ちてくる。
それは地球が生きていることを物語る、不思議な息吹が感じられた。
「こんなに細菌が多いなんて」
「ちょっとここらで、ここの細菌も採取していこう」
「ええ」
「デネボラさん」
「もちろん、お願いするわ」
――オオッ
と周りから感嘆の声が上がる。
とここで、A班とB班に分かれて、洞窟内を探索する組と、そこで留まり細菌を採取する組とに分かれたのだった。
一方こちらは、当然ながらL、デネボラ、A班の化学班の兵士さん達グループだ。
「まるで秘境だよ。この鍾乳洞と、細菌でできた傘なんかは、君の子孫なんだね……。必ず、君を見つけるよ。だから待ってて」
胞子菌の光が舞い上がり。
鍾乳洞の雫が落ちてくる、ピチョーン、ピチョーン、ピチョーンと。
近くの子川には、鉄分と藻類と硫黄分を含んだ赤と黄色が織りなす子川がサラサラと流れていた。
「コケか」
「ああ」
「細菌バクテリアの宝庫だな」
「これも後で採取だな」
「ああ」
と零すA班の化学班。
「……なんとも未知の洞穴ね……」
「……」
Lとデネボラ達は、その秘境の洞穴の中を進んでいくのだった――ピチョーン……
☆彡
洞窟の奥地に進む度に、暗く、深く、何も見えなくなってくる……。
辺りには、白い霧のようなものが立ち込めてくる。
それは硫黄分を含んだガス雲だった。
その臭いは硫黄臭く、硫黄ガスであることが伺える。
人間であれば、気持ち悪くて近寄りがたい……。ガスマスクや装備品が必要だ。
それは温泉地が近い証拠だ。
――そして、その目的地の最深部に辿り着く。
それは絶景地のように、七色に輝く温泉だった。
だが、ここは光源が差さない闇の世界。
そう見えるのは偏(ひとえ)に、自分達がエナジーア生命体であるが故だ。
(スバル君なら、ここまではこれないわね……。生身ではだけど……)
「……」
Lは視線は、その温泉に向けられていた。
(これはL、あなたの偉業ね……!)
クスッと笑みを深めるデネボラさん。可愛い子供の成長は、お姉さんとして嬉しいものだ。
「――」
『――』
反応が返ってくる。
「ここの温泉の真下だ。……かなり深いよ」
ボコッ、ボコッ
とその温泉から、煮沸の音が出ていた。
「確実にこの真下に、熱水噴出孔ポイントがある証拠ね」
ドンッと迷わずLは、一番手にその温泉の中に身を投じていくのだった。
これにはあたし達も。
「行きましょう」
続いてデネボラ、A班の皆さんとその温泉に身を投じていく――……
☆彡
――そこは光源の差さない、暗闇の世界。
感じるのは、硫黄と鉄分を含んだ熱い地球の息吹が感じられる、温泉の中だった。
真下に下っていく度に、熱水噴出孔からの泡が増してくる。
次第に温度が上昇してくる、100度、200度、300度、400度と。
(近いぞ)
下る、下る、下る。
目的地へ向かっていく、そして――
『――』
命の問いかけが、最も強く感じられるポイントに辿り着いた。
あった、熱水噴出孔だ。
そこの温度は、464度。
人間がこの温度に耐えられるわけがない。
さらにこの深度の深さ、相当の水圧がかかっている。
少なくとも、スバルが来る事ができない。
エルスぐらいしか手がないだろう。
それは硫黄と鉄分が化合してできた有機化合物だった。
「いた、君なんだね……! ……初めまして、僕はL! 君を探してたんだよ、『LUCA(ルカ)』――」
僕はソッとその小さな手を差し伸べるのだった――
【――地球が誕生してから46億年】
【『全生物最終共通祖先』『LUCA』の誕生は36億年前だとされている】
【ここから、魚やトカゲ、猿や人、数多の魚類に動物、昆虫に鳥類と幅広く分岐進化していった歴史があるのだ。もちろん、細菌やウイルス、微生物のシアノバクテリア等もそうだ】
【すべての起源が、ルーツが『LUCA』なのだ】
【地球復興を第一に考える以上、LUCAの存在は、決して甘く見積もっても外せない】
【例えばの話をしよう!】
【他の惑星からの微生物を下に、地球を復興できたと仮定しよう】
【地球の皆様はこれを、素直に喜べるだろうか!?】
【私はこう思う。私達地球人は素直に喜べない……】
【必ず、歴史のどこかで後悔と疑念が生まれる……】
【だからルーツを用いて、高度な魔導科学技術を経て、まったく新しい微生物が誕生して、全球凍結を時間をかけてゆっくり解凍していくことによって、万人が素直に納得できるのだ】
【地球由来の起源を経て、全球凍結からの復興】
【これが宇宙史に残る大偉業なのだ】
「……」
『――』
ほくそ笑むL。
その手の中で、喜びを得るLUCA。
【それは偉業の連続だった!!!】
【スバルは恵ケイのホテル、その温泉地で、チアキの案内の下、『シアノバクテリア』を人知れず採取していた】
【Lはチアキからの親書を下に、ここアメリカの地、イエローストーン国立公園にある鍾乳洞の奥地で、『全生物共通普遍祖先』『LUCA』と巡り合い、採取に成功するのだった】
【この日2人は、この地球の大地で、全球凍結した地球を復興するために必要な、『鍵』を入手したのだ】
【陰の立役者は、もちろん……】
【その頃――】
☆彡
どこかの森の奥地で、チアキは寝息を立てていた。その膝枕の上に寝ているのは、幻獣ユニコーンの姿であった。
だが、その体は肉体ではなく、なぜかLたちと同じ、エナジーア生命体だ。
これは一体全体どーゆう事だ。
「………………」
チアキのその顔は、まるで微笑んでいるかのようだった。
とここで、ユニコーンのその目が開けられて、膝枕の上から顔を上げていく。
そこへ、足を伸ばす人物がいたからだ。
「……」
チアキも、ゆっくりとその目を開ける。
「……神様……」
寒空の下、チアキとユニコーンの下に、神様が接近を図るのだった。
☆彡
【『Grand Canyon Of The Yellowstone』グランドキャニオン・オブ・ザ・イエローストーン、通称イエロー大仙谷】
【そこはイエローストーン国立公園の集大成だった】
【イエローストーン国立公園は、この辺り一帯の岩の色合いから名づけられました】
【高低差93mの絶壁の渓谷の深さは、約360mにものぼります】
【活発な火山がもたらした硫黄と熱によって、脆くなった岩肌が長い年月の雨風にさらされて削り取られていったのです】
【その年月はわかっているだけで1万年】
【1万年の長い年月をかけて、浸食活動によって、この見渡す限りの雄大な渓谷が形成されていったのです】
【そして今、アユミちゃんとクコンちゃん、シャルロットさんと、ポンタヌの着ぐるみを着たまんまクリスティさんは、その雄大な渓谷を眺め、絶景気分に浸っていたのだった……」
――ビュオオオオオ
だが、この寒空の下では、やっぱり寒い……。
「ううっ……冷え込んできたわね」
「へっ……へっ……へっくしゅん!!」
これには長い間、寒空にさらされていたクコンちゃんもクシャミをする程だ。
「ううっ」
ガタガタ、ブルブルと震えるアユミちゃんとクコンちゃん。人間の少女2人には、この寒さは正直応える。長居はできそうにない……ッ。
「なんか段々冷え込んできていない?」
「もう帰ろうか……!」
帰ろう帰ろうとする少女2人。
とここで大人のシャルロットさんがクリスティさんに呼びかける。
「……そうですね。そろそろ帰りますよクリスティさん」
「――フッ、今のあたしは、ハリウッド映画大女優だぜッ!!」←着ぐるみ美女のアホ
キラーン☆
と決めポーズを決めるクリスティさん。
だが、そのポンタヌの着ぐるみを着たままでは、阿呆狸のようだ。
と、もう結構距離が離れたところで、再び。
「何やってるんですか!? もう帰りますよッ!! 置いていきますからね!!」
と呼びかけるシャルロットさん。
「はいはい、行けばいいんでしょ!? でもね、今のあたしにはこの着ぐるみのナイス機能が……」
フフンッ
と笑みを深めるクリスティさん。
「さあ出番よ! ポンタヌ! 加速装置ON! …………」
何とも言えない空白の時間が流れた……。
「……あら? 失敗かしら? 加速装置ON! …………おかしいわね……ON! ON! ON!」
何度も着ぐるみの中で、加速装置をONにしてみるが、まるで無反応だった……。これには段々と青ざめてくるクリスティさん……。
「……まさか……えっ……マジ……!?」
ライフポイントの残量は3、魔力も切れていた……。
これにはクリスティさんも遅まきながら気づく――ガ――ン……。
「――ねえ、プログラムナンバーPS-2382さん」
『はい?』
「他にはどんな事ができるの? 色々やって見て欲しいなぁ~」
あたしは目をキラキラさせていた。もう好奇心が抑えられない。
(あの時だ――ッ!!!)
遅きに失したあたしは、メチャクチャ後悔した。
とそこへ、シャルロットさんの呼びかける声が。
――何やってるんですか!? 本気で置いていきますよ~~!!
「えっ!? ちょっと待って!?」
慌ててあたしは走り出すが、慣れない着ぐるみ姿でもあって。
「――わっ!!」
ベシャン……と思い切り前に転がるのだった……。
「ううっ……まさかそんなぁ……」
ワナワナとあたしは震え上がり。
「まさかの電池切れ――!!!? ピエ~~ン」
厚い寒空の下で、そんな着ぐるみ美女の悲鳴が木霊したのだった――ピエ~~ン、ピエ~~ン、ピエ~~ン
ビュオオオオオ
と吹雪が吹き荒んでいた。
☆彡
B班の皆さんが持ち込んできた機材の上に、先ほど回収したばかりの試験官を置き、成分検査を行うと……。
「この単純な成分組成分析……間違いない!! 地球の原初の生物菌! 『LUCA』『全人類共通普遍祖先』で間違いないわ!!」
これには一同、わぁ、と大喜びするのだった。
☆彡
【『Minerva terrace』ミネルバ・テラス】
【そこの特徴は、なんと言っても白い段々畑のような、石灰岩の何段もの階段だった】
【ミネルバ・テラスは、地中深くから噴き上げられた温泉水に含まれる白い石灰岩の堆積物が、長い年月をかけて織り重なり、温泉段丘となったものです】
【頂上から温泉が流れ出て、このような造形美を今も作り続けています】
【毎日、2トンもの石灰が流れている為、毎日、違った造形美の変化が見られる為、観光客としても見てて面白いものです】
【また、温泉が噴き出しているときは、奇麗な白なのですが……】
【湯量が少ない時期もあり、黒ずんでなぜかもの悲しくなってしまいます……】
【でも、それは、地球が生きていることを物語っている証拠であり、数少ない場所の1つなのです】
【流れ出てくる湯量次第で、形成されるテラスの形、温泉段丘が毎日違って見えるため、訪れる度に、デッサンを楽しむ絵画を描く人も稀にいます】
【一方、その帰り道のクリスティさんはというと……】
「ヒィ……ヒィ……」
何度も転げ回ったのか、そのポンタヌの着ぐるみの前面が汚れていた。
その顔が、黄色い土と石灰水で黒ずんでいた。
どうやら今日はやはり、温泉水の湯量が少ない時期らしい……。
ってか、これでは狸のポンタヌではなく、むしろパンダだった。
「あちゃ~あれは助けた方が……」
同情を禁じ得ないアユミちゃん。
だが、厳しく一括するのがクコンちゃんの仕事だ。
「フンッ!! 自業自得よ!! 何よっあのモンスターおっぱい女!!! 今まで楽して生きてきたせいだわ!!! 自分の足で歩けってゆーの!!」
「う~ん……どう考えても、これはまだ子供の方がしっかりしてるわ……」
言ってて、大人のあたしもなぜだか子供達に味方してしまう。
(何でだろう……? おっぱいに違和感が……!?)
「ヒィ……ヒィ……」
そのポンタヌの着ぐるみの胴体と頭部は、ほとんど外れかかっていた。
おそらく、その首の隙間から砂粒などが侵入してきたのだろう。
(おっぱいと谷間に間に砂が入って、ジャリジャリして気持ち悪い~~!! 帰ったらまずシャワーを浴びたいっ!! でもその前に――ッ)
「誰かホントに引っ張ってよ~~!! ねえ、お願い――っ!!!」
その願いは切実だった。
「う~ん無理そう」
「ガ~~ン……」
アユミちゃんもこの時ばかりは、やんわりと突き放す。
「だってクリスティさん大人でしょ?」
大人でしょー、大人でしょー、大人でしょ、と木霊したのだった。
これには、「……うん……」と頷き得るクリスティさん。
なんか哀れだ。
「見た目的にも重そうだし、モンスターおっぱいだし、それに――着ぐるみ着てるし……。下手したら、アユミちゃん達が転げ落ちちゃうよ」
「ガ~~ン」
「汚したくもないしー」
「……」
これには隣で、頷き得るシャルロットさん。
(正論だわ!!)
「フンッ、甘い蜜をすすってきた女には、いい報いだわ!!! そうやってダイエットしてれば~~」
「そんな~~」
これにはクコンちゃん、この女には関わるかとばかりに手を振って、先に進むのだった。
「いつかはおっぱいも縮んで、しぼむかもね……」
「ううっ……」
冷たく突き放すのだった。
「う~ん……時々、クコンちゃんキツイなぁ~~」
とその少女に、さりげなくついていくアユミちゃん。
君も案外冷たいと思う……。
だけど。
「……」
チラッと見るアユミちゃん。
その行動を顧みるに、友人のクコンちゃんとは違い、心に迷いがある証拠だった。突き放しきれていない。が、やはりついていくところを見る限り、やはり冷たいと思う。
「ハァ……」
と嘆息したシャルロットさんは、その場で座るのだった。
こうなったら、あたしだけでも待ちだ。
「!」
突然視界から、みんなが消えたことで……。
これにはクリスティさんも。
「………………」
ウルウルともう涙目になってくる。そ……そんなんでみんな……ッ。
「そっそんなみんなヒドイ~~!!! え~ん!! あたしが何したってゆーのよ!!!」
これにはさすがに、本気で泣き出してしまうクリスティさん。
ピエ~~ン
とその泣き声を、背中で感じ取ったクコンちゃんは。
「あんなのムシムシ」
と冷たくあしらうのだった。
これにはアユミちゃんも
「う~ん……」
と迷うばかりだ。
「ねえ、クコンちゃん?」
「んっ?」
「なんか冷たすぎない?」
「ん~~? なぜかしらね? アメリカのクリスティと聞いて、なんだか突き放した方がいいような……気がしちゃってね」
「え……?」
「う~ん……ホント何でなんだろう……?」
「……」
これにはクコンちゃん自身もわかんないらしく、なぜか知らないうちに、突き放していたのだった。
あたしは訳がわからず、とりあえずクコンちゃんについていくのだった……。
とその場で居座ったシャリロットさんは、「フゥ……」と嘆息した後、自身の腕時計型携帯端末に着信履歴がある事に気づく。
「あら? メールがきてるわね!?」
そのメール内容に視線を向ける。
「……」
クコンちゃんとアユミちゃんは先に帰り。
シャルロットさんはメール内容を眺めながら、その場で待つ構え。
着ぐるみを着たクリスティさんは、ヒィヒィと涙目で、不慣れな動作で、温泉段丘を登るしかないのだった……。
「ううっ、不憫な薄幸少女に愛の手を……!」
そう呟くクリスティさん。ってもう少女じゃなく、大人の体だけど……。
「ハァ――……」
とこれには思い切り嘆息してしまうシャルロットさん。
(どこが薄幸少女なんだか……得難いものをあなたは2つも持ってるでしょう)
「……」
あたしは自分の胸に視線を落とすと……。
「神様って不公平じゃない……?」
とそんな事を考えているうちに。良心が呵責(かしゃく)されてつい。
「だ――ッ!!」
「!?」
いきなり上の方で声が上がった事に感づくクリスティさん。
「――えっ!?」
黒い影が、天辺の方で飛び上がったのだった。
それは放物線を描きながら、ゆうゆうとあたしの背後に回り、下段の方で着地を決める。
その人は、アクアリウスファミリアのシャルロットさんだった。
「えええええっ!?」
「あんたしゃん遅いッ!!」
ビュン
と風を切り、温泉段丘を凄まじい勢いで駆けあがっていくシャルロットさん。
「捕まり!!」
「はっはい!!」
もう無我夢中で、走ってきたこの女性にしがみつき、颯爽と素早く温泉段丘を素早く駆け上がっていくのだった。
「わっわっわっ!!」
「舌を噛まないよう、注意しててねっ!!」
「あひ――っ!!?」
「思い切り飛ばしますよ――ッ!!!」
グングン
とその速度が上がっていく。やがて、ビュンと風を切り、爆速の勢いに乗り、駆ける、駆ける、駆ける。
「――!」
「――えっ!?」
バビュン
「今、何が……」
「ウソ……フェラリーよりも速いんじゃ……」
☆彡
爆速の勢いで駆けてくるシャルロットさんは、宇宙船前で、立ち止まろうとして擦過していく――ズザザザッ
「ゴール!!」
その時、ポロッ、ドシャン……
ともう我慢の限界を迎えたように、クリスティさんはその手を離し、ぶっ倒れたのだった……。
「あぁ、目が回る~~お星さまがいっぱい~」
もう、それは着ぐるみの中でも、ヘアスタイルがメチャクチャ荒れていて、目がグルグル渦巻いて、顔面蒼白で、鼻水を流し、口からブクブクと泡を吐いていたのだった。
これにはシャルロットさんも。
「あら……テヘッ」
ペロッと可愛らしく舌を出して、またやっちゃった感を醸し出すのだった。
これを宇宙船内で見ていたアンドロメダ王女とヒースさんのお二方は。
「フフッ、あの娘子元気いっぱいじゃな……! 良きこと良きこと!」
これにはわらわの関心も買う。
アンドロメダ王女様は、地球人の感性とは違い、シャルロットさんの元気の良さを褒めてつかわしていたのだった。
「褒めてつかわすぞ、フフフフ」
「……またやらかして」
「んっ?」
「……」
「どーゆう事じゃな? ヒース?」
「……」
隠し切れないと思ったヒースさんは、
アンドロメダ王女様に視線を映して、当時のシャルロットの背景を語り出す。
「シャルロットは、明るく振舞ってますが、あれは虚勢なんです」
「ほぅ……」
「あなた様の目には、元気のいい少女のように見えなくもありませんが、彼女の事をよく知る、アクアリウスファミリアの人間としては、虚勢だとすぐにわかるんです」
「……過去に、何かあったのじゃな?」
「……」
コクリと頷き得るヒース。
――あちらではシャルロットさんがクリスティさんに手を伸ばし、立ち上げらせていた。
「彼女の背景なので、詳しくは控えさせていただきますが……。
彼女はとあるハーフなんです」
「ほぅ、ハーフか……」
「ええ……。だから偽の元気を出して、周りに心配をさせないとする、明るく元気な子を振舞うんです」
「…………。!」
モニター画面を見ていたヒースさんは、アンドロメダ王女様に振り向いて。
「……彼女は、いつの日か僕を超えていく逸材ですよ」
「……フフッ」
笑みを深めるアンドロメダ王女。
「……そうか」
とその時、この指令室のドアが開いて、兵士の誰かが入室してくるのだった。
「王女様、あのご婦人の方に見合う衣装が縫い終わりました。……いつでもお渡しできます」
「……」
間。
どうやって渡そう?
わらわも女性兵士のセシアも、目が見えぬし……。あっ……。
「! ……何か?」
「済まぬがヒース」
「はい」
「……」
わらわはセシアにこちらに来るように、アイコンタクトを送り、これにセシアも頷き得て、こちらに歩み寄ってくる。
「?」
「……お主の手から渡してはもらえぬか?」
「………………は?」
「いや――良かった良かった! ここにちょうど良く目に見えて会話もできるアクアリウス星人がいてくれて、お主ならそう言ってくれると思っておったぞ! ……さあ、セシア!」
「はい。……どうぞ」
ヒースさんは、クリスティさんの新しい衣装を手に入れたのだった。
「………………え? マジ?」
「頼んだぞ」
「お願いしますね。目に見えて会話もできる人」
「………………」
悲運だった……。
☆彡
そして今、試験管から移された『空き瓶』の中に全人類共通普遍祖先LUCAが、アンドロメダ王女様の手に委ねられるのだった。
「ご苦労!」
「「「「「はっ!」」」」」
「これで、『シアノバクテリア』と『LUCA』の双方が揃った! この2つをベースに、地球復興の為の前準備を進めていく! 諸君! 今回の働き真に大儀じゃった!」
「「「「「ハハ――ッ!!!」」」」」
うんうんと頷き得るわらわ。
視線を映して、アユミ、クコン、クリスティ、ヒース、シャルロットの方に向く。
クリスティはあの後すぐ、シャワーを浴びて、元々着ていた着衣に袖を通したのだった。
「……準備が整った! 当船は地上を離れ、宇宙空間に移動する!」
「「「!?」」」
訳を知らないアユミ、クコン、クリスティと驚く。
「えっ何で!?」
とこれには、先ほどメールを受け取ったシャルロットさんが名乗り出るのだった。
「今から、地球に向けて、アクアリウスファミリア、アンドロメダファミリア、そしてソーテリア星から、地球人類の難民たちを救うために宇宙船を派遣するからですよ!」
そう、それが受け取ったメールの内容だった。
「「「……ッ」」」
いよいよ、その時が来た。
「よく聞いてくれ!!」
「「「!」」」
その声はヒースさんのものだった。
「先ほど彼女が話した通り、これは人類の選別に値する重大事項だ!! これから君達にも責任を負ってもらう!!」
「え?」
「ウソ」
「本気!?」
「ああ、本気も本気だ!!!」
腕組をして、頑として告げるヒースさん。
「君達も、言われなき人殺しと言われてしまう!! それが人類の選別――『苦渋の選択』だ!!!」
「「「――ッ」」」
「宇宙船の数は限られている! その乗組員の総数の上限にも限りがある!! とても地球人類全員を救うだなんてできない相談だ!!!
だから君達にも、覚悟を持って、人類の選別を行ってほしい!!!」
「それはふるいにかける……という事ですか?」
そう意義を唱えたのは、大人のクリスティさんだった。
「ああ、そうだよッ!!!」
「……ッ」
キツク宣言するヒースさん。それは開拓者(プロトニア)として仕事に対する向き方だった。
これにはいったい幾度、キツイ経験を重ねてきたのだろうか。
これには一同、苦虫を嚙み潰したような面持ちだった。
「………………」
その頃、スバルはセラピアマシーンの回復液の中で浸かっているのだった――
「………………」
☆彡
おまけ
【試着室】
その後、クリスティさんはポンタヌの着ぐるみを脱ぎ、シャワーを浴び、新しい衣装に袖を通していた。
「……」
だが、その顔は。……えっ、マジ、あの人にこんな趣味が……という感じの面持ちだった。とても信じられない……ッ。
アユミちゃんが一言
「……ヒースさんにこんな趣味があるだなんて……」
「見せパイに紐って……いい趣味してるわあの人……」
「ヒース……」
クリスティさんの周りに集まっていた彼女達が呟き。
一方で、僕、デネボラさん、それを縫ったセシアさんが。
「……うっ……ッ……クッ……なんで僕が……ッ」
僕は心の中でシクシク泣いていた。
「ヒースさん、あなたにこんな趣味が……」
「なんか済みません……」
TO BE CONTINUD……
「あれ? ここは?」
「スバル、ここどこ?」
「おかしい、僕は精神世界で修行していたはず……」
「僕も宇宙船で、仮眠を取っていたはず……」
「「なぜ……?」」
「原作者です」
「「!?」」
「初めまして、原作者夢泉です!」
「ど、どうも」
「初めまして」
「……今日、この場に招待したのは……」
「「……」」
「LUCAを作品に出したからです」
「……」
「……」
肩の力を抜く僕達。
「L、君は元々、LUCAをベースに考案したのだよ」
「えっマジ!?」
「大真面目な話さ!」
「へぇ~……。……!?」
僕は思い切りショックを受けた――ガ~~ン……
思い切り落ち込むLの姿……。
(僕ってバクテリアベースだったの……?)
これにはスバルも何とも言えない顔になる。
「君に、LUCAを取らせるのは、元々決まってたんだよ」
と告げる原作者。さらに言葉を続ける。
「だけど! それはあくまでベースであって、根底でしかない」
「?」
「作品とは骨組みのプロット、肉付け、皮付けのような工程を経てる。過去の回想のようなものは流れる血管だし、伏線回収なんかは神経伝達みたいなものだ……私は生き物で捉えてる」
「……つまりLは……?」
「ああ、それはあくまで根底であって、名づけは別にある。君は特別だからね」
「だってさ、L」
「シクシク……」
「あらら、まだ立ち直れてないや……」
「……で、私が小説の作品を書く時、物語の終わりを考えていたんだ」
「終わりですか?」
「うん」
「……」
「……」
「初めに断っておくと、全球凍結した地球を復興させるのが第一部!」
「第一部……!」
「第一部のテーマは『再生』Reproduction(リプロダクション)」
「再生……ですよね?」
「うん……でも、物語はここで、打ち切ろうかどうか迷ってる……」
「……と言われますと?」
「実は、物語には続きがあってね……」
「続き!?」
回復したLが話しかけてきた。
「第二部は『涙』Tear(ティア)と考えている!」
「てぃ、ティア?」
「「……」」
僕とLは顔を見合わせる。
「第三部が終幕。『消失』Disappear(ディサピア―)、新たな希望を紡いで……」
「なんか……」
「バッドエンドの予感が……」
((ヒシヒシ……と!))
「その頃には、君達も大人になっている。……最後に……」
「はっはい」
「ここでの会話は、君たちの記憶に残らない……」
「あなたはいったい……」
「ただの原作者だよ。売れ残りのね……。……暇を見つけては、こうして私が生涯に遺せる作品を書いているだけさ」
「……」
「……」
「最後の作品の大枠はできていて、それは、あるものに遺している。それはほぼすべての作家がそうしている。
もちろん、作品というのは生き物だから、私の想像を超えて、裏切っていくものだ」
「……」
「……」
「だから、可変できるようにしている。いわゆるIFストーリーだ」
「IF……」
「ストーリー」
「宇宙を舞台にしているんだ、当然だろ? アナザーワールド、平衡世界、パラレルワールド。……この言葉覚えておきなさい。では、次回までお休み……。記憶よ眠れ――」