バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

俺の連れです、仲間です2

魔法はすぐに解けた。
百木は他部署である商品部へも盛んに挨拶へ出かけて顔を出して居る。
3月入社の新入社員なのに、既存のルールを破り、思うように動けているのは商材を扱う商品部のお陰。
どこかの取引先へ出向けば、茶菓子を差し入れするし、何かと声がけをして自分を覚えてもらっている。
誰でも、笑顔で朝一番に挨拶されたら好印象だろう。
彼から学ぶものは多そうだ、でも、僕も僕なりに。
そう思えば空回り。
部長に付き添っての営業活動、なかなか波に乗れない。何故だろう?
百木と僕で違うのは、背とか容姿だけじゃない、でもライバル視してはいけない。
同士と言ってくれたから。しかし迷う、きみの背中を追いかけて答えにたどり着きたい。
きみを意識して居るから。


距離感が縮まらない。
社員の慰安旅行でキャンプファイヤーをしたのを覚えている。
標高850Mの山で夏でも夜は長袖でなければ寒い。
焚火よりも大きな炎に近づきすぎると火傷しそうだが、離れると凍える。
……人との距離も加減が必要か、ふと思う。この会社を背負って立つ人間になろうと夢を熱く語りあった同僚の百木。時に身近、そして果てしなく距離を感じてしまう。
業績で水をあけられたからだ。
奮起しないと置いていかれる、僕は我武者羅になっていった。


部長から引き継いだ大手取引先。全社で1億の取引額を誇る、これは何としてもモノにして、僕が業績を拡大させたい。チャンスだ、息巻いて挑んだ商談。
部長から百木と同行するよう指示されて同席しているが、僕の腕の見せ所。
「黄色い包装紙かね」
取引先の担当者が首をひねる、まずいのか。
ランドセル用包装紙の提案、男子にも女子にも使える『曖昧』かもしれないが、黄色が無難だと思うのだが。これ1枚で対応ができるから、お店にはコストがかからぬはず。
「その包装紙に銀色のリボンを合わせて提示します。ランドセルは7.8万円するとききましたっ。決して安価なお買い物では無いので、豪華に演出すべくっ!」

「これで、女の子は受け取って嬉しいかなぁ? ねえ、福織くん。相手はおこさんだよ? 大人の女性が買うのだが、贈り先を有耶無耶にしないでくれないかね」
ああ、そうか。女の子なら赤とかピンクが嬉しいかもしれない。曖昧すぎた。悪手だ。
「ほかの包材は?」
持ち合わせて居ない、しくじった。
そういえば部長は必ず2種類の包装紙を準備して商談に挑んでいた。
失態だ、僕は部長に同行した経験があるのに亡失した。

「自分から宜しいでしょうか」
ん? 百木は何か持って居るのか。
「水色とピンクの包装紙、ならびにリボンを提示します」
水色は星とダイヤ柄で、ピンクはガーベラかな。この大きさの花はそれしか知らない。
「へえ、初見だが百木くんは敏腕だな。感心するよ、包装紙はいくらで卸す?」
「1束50枚入りで2050円で如何でしょう」
「切りのいいところで落とせるかい」
「では、2010円」
切りがよくないじゃないか?
「2種類とも購入でしたら2007円で提示します」
刻むなあ、底値なのか? 卸価格は提示価格の7垳だが、もしかして際か。
これ以上落とせと言われたら、粗利が回収できない。危ない綱渡り?
「アハハハ、面白い。包材をいただこう。120束づつな。宜しく。それと、GW商戦前に、ジューンブライド用の贈答用包装紙をお願いしたい。どうかな?」
百木が取引を攫った。
「承ります、福織と熟慮してまいります」
僕を立ててくれるんだ。
「おう? 失礼だが、福織くんは部長に同行しながら、この内容だ。あてにならんと言いたいが」
恥の上塗りだ、まずい。
「名誉挽回のチャンスを頂戴したく存じます。必ずや、善きものを提案します。お任せください」
「覇気がある、よし。百木くんの気概に掛けよう。だがね」

名刺に顔写真が無いと、きみの顔を覚えられないと言われた。そういうものだろうか。

「中国の伝説上、こんとん・という悪い神様がおられる。顔が無くて翼はあるんだ。きみのようだね、いつも羽ばたこうとして提示案件を持ち込んで息巻くけれども、どうもよい印象が残らないんだ」
そうなのか。
「そうだ。いっそ、スーツより私服で来ないかい? きみならどんな服を着るのかな。うちで扱う衣料を着て欲しいね、一押しはシフォンのワンピース。ひざ丈も良いが今年は踝が隠れる丈がお勧め」
はあ?
「冗談だよ。その表情からも察す、きみは余裕が無いからこういう雑談にも乗れないからつまんないんだ。靴にはこだわりがある様子。知ってるかい、靴に拘るものは色気が潜在的にあり、それを曝け出す対象が靴なんだ」
隣に座って居る百木が頷く、そうなのか。
百木も靴には拘って居る、僕に対しての話じゃない、彼なんだ。
僕はどうしたら取引先の視界に入れるのだろう。全否定された気がする、迷宮入りだ。

美しい図柄を追い求めて、熟慮を重ね、結果は他者に奪われる。
何がいけないのだろう、コストだろうか。
社用車で帰社する、この混沌とした思いのまま社内に帰れない。部長への報告に二の足を踏む。どう話していいものかさえ曖昧で。

「覇気がないなあ、福織。あのな、十人十色、色々な人が居て当たり前だから、相手に沿うことが大事だ。特に、俺達は営業職」
百木が運転をしてくれるようだ。
僕を助手席側へ行くよう、目で合図する。
あ、アイコンタクト? そうでもないか、期待しすぎだなあ。
「包装紙の図柄やコストではないと思う。きみは、少し押しが強いかもしれない。いくらきみが良いと思う包装紙でも、相手が同意するとは限らない」
それはそうだろうけど、僕なりに。
「ふざけていないのは分かるけど、普段から想いを全部、話しているんだろ。どうやって探したとか、これしかないって決めつける言い方。あまり押すと引かれるぞ?」
そうなのか。
「恋愛と一緒、相手を好きでも、急に『好き』とは言わないだろ。言ってたらそれ、押しつけであり、暴言だからね」
暴言だって?
「言葉の横暴は大きな恨みを買うんだぞ。分かりやすく言うと、SNSで炎上している場に出くわした経験あるだろ」
ああ、何回も見かけたな。
「攻撃されたものが悪いのか、するものが悪いのか、判断がつかないくらい盛り上がる。人間は祭りが好きだ、ハロウィーンもそう、次のお祭りがくるまで神輿の担ぎ手は卸さない。そうならないよう留意しないとな」
僕が攻撃されるのか、まずい。混沌とさせた罪がある。覇気だけでは営業が勤まらないのだな。
「少し厳しい言い方をしたな、ごめん。きみは小柄だから目立つんだ、だからその利点を生かしてうまく立ち回れるように考えて行こう。同士だからね」
「百木、きみこそ背が高いから目立つはずです」

「背が高いのは見上げないと。しかし、自分より目線が低いものへは愛着がわくよ。子猫とかさ。例えが悪いかな。……どうもおかしい、リズムが狂う。経験が生きないぞ。俺の声が響かないか。ふーん」
あれ、ご機嫌斜め。どうかしたの。

しおり