第3話。甘〜い話にゃ危険がいっぱい!
前回、初のプロトメイトを巡っての戦いで心環空行とシャルロット・ファリエールに嵌められ惨敗を喫したベガトロン達カプリコンズは、沖ノ鳥島に設置した日本基地へと帰還していた。身体はボロボロ、心はヤケクソであった。
「ほらほら! ベガトロン様、お帰りなさーいってほらあ〜っ?」
出迎えたのはベガトロンにサブリーダーに指名され、今回基地の守りを任されていたプロキオスだったが、登場するや否や作戦失敗で苛立っているベガトロンの八つ当りを受け、片手で基地の壁へと叩き付けられてしまった。初登場のキャラにするとは思えないこの仕打ち、なんて奴だ(作者がな)!
しかしプロキオスはMの気でもあるのか、「愛のムチ……」などと半ば恍惚とした表情でクラクラしてやがるこの有り様。女性陣は呆れ返ったように蔑視するのであった。
ベガトロンはリーダー席に座り身体を癒しながら次の策を考えていた。戦力的にはまだまだ自分達の方が有利。しかし相手は心環一乃の養子という直系家族を含んでいる。そう、ハットワンズがここまで戦えていたのも心環一乃の「遺産」を相続し有効活用していたからだ。ベガトロンやアンダレアはそのことを知っている。「キャラ」に成り果てた元人類は言うに及ばずだ。故に東京の心環家屋敷には誰も手が出せない状況。このままでは戦局も奴等に傾いてしまう。何か策を考えねば……と思案しているのであった。
そんな顎をさすりながら考え事しているベガトロンにタメ口ときどきギャグ口調でアンダレアとスピーディアが話しかけてきた。「話聞いて坊っちゃん!」なんて呼びかけ、上下関係あるのかよ?
「なんだ女共? おじさんは今次の策を考え中だったんだぞ」
「そんなこと知ってるわ。ねーアンダレア」
「そうだねスピーディア。次の作戦を考えていたのは私達も同じだよ」
「脳みそ1トン当たり1ポンドが相場のお前らのおつむで一体何が思いつく!」
「ひっどい言われようだけど、例えが面白すぎて不思議と怒る気もしないから笑って流してあげる。ねえ、ハットワンズってほとんど男がメンバーよね?」
「んなこと当たり前だろほら! ベガトロン様をバカにしてんのか!」
「あんたに話してんじゃいのよプロキオス! 忠犬ハチ公は黙って聞いてりゃいいの!」
女性のスピーディアに「あんた」呼ばわりされ怒鳴りつけられたプロキオスはその剣幕に圧され子犬のように縮こまる。お前ホントにヒドい扱いだな。
で、スピーディアの話はさらに続く。
「古今東西男を堕落させるのは女と定義されてるものよ。ハットワンズの男を女の色香で裏切らせるの。そして心環家屋敷の機密情報も頂いちゃいましょう」
「ほう、ハニートラップか。そいつは悪くない作戦だ。しかし空行の奴には通じまい。奴には既にナミコちゃんという嫁がいるし、奴に想いを寄せるシャルロットもいる。ハニートラップを仕掛けようものなら最後、空行より先に二人に感知されて怒りと嫉妬で指数級数的な報復を受けるのがオチだぞ」
「誰も空行から根こそぎ情報を得ようなんて言ってないわ。過ぎたるは及ばざるが如し。他のメンバーから得られるだけ情報を得ればそれでいいのよ」
スピーディアの語りにカプリコンズ全員がいつしか惹き込まれていった。エルとプレセラ、アウスリーなんて眼をキラキラ輝かせている。ベガトロンも「ターゲットは? そこまで言うなら心当たりあるんだろうな」と作戦の詳細を求めてきた。
「ええ、カプリコンズ一の年長者、ウィリアム・デイドリームよ」
「ほーう」ベガトロン、再び顎をさすって「悪くないな。心環家屋敷の防御関連コードを盗み見るだけでもかなり価値がある」と納得顔。アンダレアも「だろ?」と自分達の立てた作戦が的を得ていることを頷かせる。
「しかし果たしてウィリアムにトラップが通じるのか? 奴が女に飢えている証拠でも?」
ベガトロン尤もな指摘。するとスピーディアは「ふふふふふ……」と気味悪い肩揺らし含み笑い(1点満点)を魅せつけながら自分の眼を指差した。
「私の眼が『盗視』できるってことは前回説明した通り。で、ウィリアムはアンダレア達の捕虜だったでしょ。その時――」
「あいつの脳みそを盗み見したってわけだね!」話を聞いていたエルが皆を代表して答える。スピーディアも可愛いエルの出した正解発言に「そういうことよ」と優しく答えるのであった。ベガトロンに向き直ったスピーディア、得意気な顔して説明を始める。
「あいつ、ワネットのファンタジー化が怒る前からエルフの美少女が好きだったみたいでね。最近になってとうとうスラヴ系エルフ美女との出会い系サイトに給料注ぎ込んでいるみたいなのよ。そのなかでも沢山メール送って口説いてる女の子の名前はマリナちゃん。この子を私達が先に保護して嗾ければ……」
「いーじゃないっ!」ベガトロンが身を乗り出して賞賛の言葉をスピーディアに贈る。そしてカプリコンズ全員にスピーディアとアンダレアに全面協力するよう命令を出した。
そもそもカプリコンズの女性陣は全員仲が良いので異論は出ない。この命令は単独行動をとりまくるベナトールと凶暴なアルドックスなどカプリコンズ男性陣へと撃ち込んだ楔であった。バカで忠犬なプロキオスでさえ男尊女卑の指向があるからタチが悪い。この男女間の不和というか一致団結できない所もカプリコンズがハットワンズに拮抗されている理由であり、首魁のベガトロンは重々それを承知していたのでこういう苦労を負うのである。
ともあれ今回の作戦は「敵を嵌めて裏切らせる」という点がカプリコンズの面々をキュンとさせたらしく、凶暴なアルドックスですら「ははははは! ほならワシャ援護と護衛に回るとすっかのう!」と滅茶苦茶乗り気になっていた。そしてベナトールとプロキオスには早速件のマリナちゃん籠絡の命が下ったのであった。
三日後、東京にあるハットワンズの基地こと心環家屋敷では空行とナミコちゃんがシャルロットを交えて仲睦まじく久方ぶりの平穏を満喫していた。
ナミコちゃんの本体はぬいぐるみである。このぬいぐるみは養子縁組の際に養父である心環一乃から空行に名前と共に贈られたもので、ナミコちゃんという名前も心環一乃が付けたもの。孤児院でいろいろ苦労し極度の人間不信に陥っていた空行に、「ぬいぐるみなら不信もないだろう?」と言って笑顔を見せてくれた父の表情を空行は今でも鮮明に覚えている。以来ナミコちゃんをどこにでも連れ回し溺愛する中で、空行の中の不信感の根は自然と殺菌されていった。勿論それはナミコちゃんだけの手柄ではなく、養父心環一乃や同じ養子で兄弟となった虚探&論実の存在と活躍も欠かせない。ファンタジー化の際にそんなナミコちゃんが自我を持ち、心を持って本人の意思で空行の嫁になってくれた時の空行の喜び様は虚探と論実が心配するほどだったが、同時に融合同化する魔法のチカラも得たことで、正に二心同体の完璧夫婦となったのだった。そんなナミコちゃんを今は取り出して膝の上に寄りかからせている空行は超リラックスモード。その隣にシャルロットがいる。
孤児院出身ではないとは言え、家族に期待されず疎外感を抱いていたシャルロットは心環一乃と出会いその過程で空行を知り、似たような境遇、そして人間らしさを取り戻していたことから行為と恋心を抱いていた。しかし空行の心はナミコちゃんに独占供給。当初は嫉妬もしたものだが、ファンタジー化で彼女と直に話せるようになってその関係は深化した。家族を全員ネコ耳可動ドールにされてしまい、ヒトのカタチを求めてハットワンズ入りしたシャルロットは心を得たナミコちゃんと直接話し合えるようになった。その中でナミコちゃんがシャルロットの空行への恋心と愛を理解していること、女性としてのアドバイスをくれたことなどを通して、シャルロットの女子力は大幅にアップした。今では同じ人に想いを寄せるもの同士で秘密公然の強い友情・仲間意識を持っている関係である。女性の先輩としてナミコちゃんに個人的に教えを請うことも多い。というかハットワンズのナビゲータであるナミコちゃんを空行の次に使っているのは他でもないシャルロットなのだ。
空行はシャルロットの気持ちが恋愛感情とは気付いていないが、ナチュラルに「一緒にいてくれると心地好い」なんて台詞を言ったことや、ナミコちゃんの許しがあることもあって三人一緒でいることに全く疑問を抱いてない。今日もいつもの流れで三人、いちゃつくのではなく平穏を満喫しているのであった。それが心環家平和の象徴であった。
そんな様子をかなり遠くの背後から見守るのが兄弟である虚探と論実、そしてハットワンズ新加入のアトランティスであった。ハットワンズの人間関係を教わるために、虚探と論実に教えを請うた所、説明付きで見守り勢に加わっている新人君である。事情を知ったアトランティス、情に厚い性格なのかほろり涙を流しながら空行達の平静を見守っていた。
そして事情を教えた虚探と論実もまた万感の思いで空行達の様子を眺めていた。空行とは違い人間不信にはならなかったこの二名、孤立しがちな空行とは養子縁組当初衝突ばかりしていたが、いつの間にか打ち解けて、大切な兄弟と認め合っていた。
その空行を巡ってナミコちゃんとシャルロットの間で戦争が起こるのではと心配したこともあったがそれも杞憂、二人の仲良しぶりに心から安堵しそして背中を魅せたまま消えた父心環一乃の後継者としてハットワンズを旗揚げした。カプリコンズなんて敵対勢力もできてワネットウォーズの真っ最中だが、こんな平和があってもいい――まるで親が子を見守るような気持ちで虚探、論実、アトランティスの三人は空行達を「物陰から」見守るのであった。それで満たされるんだから、ホント平和だわ。
「ようお前さん達。空行達のお守りかい?」
と、そこに背後から投げつけられる声。振り向くとそこには上機嫌な表情を隠そうともしないウィリアムの姿が。ホクホク顔が気持ち悪いと感じてしまうのは罪なのか?
「なんかいいことでもあったのかウィル?」思ったことはストレートに、論実が直球で尋ねるとウィリアムは「おう、あったんだよ! 超ハッピーになれるチョー善いことがな!」とダメな日本語の見本市みたいな台詞でもって返してきた。余りにも「聞いてくれ」オーラが出まくっているので逆に萎えるレベル。気持ち悪くなってきたのは気のせいではない。
なので「NO!」と手を出しSTOP首を振る。でもウィリアムは気を悪くした風にはならず、「そうだよな〜オレの幸せはオレだけのものってね〜」と上機嫌のまま部屋に戻って行った。
「なんなんだ……」虚探、論実、アトランティスの三人はその不気味な幸せぶりを訝しむが、その時点では答えは出なかったし別に興味も抱かなかった。
しかし、それが仇となったことを、翌日思い知ることになるのである。
というわけで、翌日!
『起きなさい皆の者!』心環家屋敷に騒音クラスのナミコちゃん目覚ましがコールする。
ビックリドッキリ慌てて飛び起き、寝間着のままリビングに集まる空行達に、ぬいぐるみ状態のナミコちゃんがとんでもない物を見せてきた。それを渡された空行達、読んで身体を震わせる。
「カプリコンズ入りしたエルフの娘とデートするからハットワンズ辞めます Byウィリアム」
「あの生真面目タンパク質不飽和非必須アミノ酸野郎! こともあろうに女に釣られて寝返りやがったなあ!」
空行が置き手紙をくしゃくしゃに丸めて床に叩き付け怒りを露にする。しかしその感情は空行だけではない。虚探も、論実も、シャルロットもアトランティスもナミコちゃんも、皆一律一様に怒り心頭臨界突破、「バカ」「愚者」「虫以下か」などと、ことごとくウィリアムのことを酷評する。そんな中一番に貶した司令塔の空行はすぐにナミコちゃんに尋ねる。
「ナミコちゃん! ウィリアムの奴あとどれくらいで沖ノ鳥島に辿り着く?」
『んーとねー、あと1時間ってところかなー』
「空行、どうすんの。飛べるワタシ達でもとてもじゃないけど間に合わない!」
「となると……こちらも覚悟を決める必要がありそうだな」
シャルロットの心配に続いたのは虚探の重い言葉。「覚悟……」皆一瞬にして静まり返るが背に腹はかえられない。リーダー心環空行は決断した。
「EコードType.C発動。身支度を整えた後防御システムを発動させ全員で沖ノ鳥島のカプリコンズ基地に総攻撃をかける。ナミコちゃん、秘密プログラムCode:Blackを時限式でセットしてちょ」
『了解!』「合点!」
ナミコちゃんとハットワンズのメンバーは司令の命令を受けてすぐに行動を開始した。結果起きてから10分後には全員屋敷から沖ノ鳥島へと出動しているこの機敏ぶり。全国のサラリーマンにも見習ってほしいものである。
果たしてウィリアムは寝返っちゃうのか?
カプリコンズが作戦成功させちゃうのか?
それともハットワンズが阻止できるのか?
というわけで今回はここまで。刮目して次回を待てぇ〜い!
やっぱ続くんだ。コレ。すいませ〜んm(_ _)m。