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第4話。バカのせいで痛み負う

 前回の、ワネットウォーズは――。
「ハニートラップか」
「ターゲットはウィリアム・デイドリーム」
「カプリコンズ入りしたエルフの娘とデートするからハットワンズ辞めます Byウィリアム」
「あの生真面目タンパク質不飽和非必須アミノ酸野郎! こともあろうに女に釣られて寝返りやがったなあ!」
 
 ――と言うわけで、カプリコンズのスピーディアとアンダレアを始めとする女性陣の仕掛けたハニートラップにハットワンズの一員、ウィリアムは見事引っかかり、ハットワンズを抜けてしまったのである。新戦力アトランティスが加わったのもつかの間。情報漏洩と戦力低下の危機に晒されたハットワンズはリーダー心環空行の指示の元、沖ノ鳥島にあるカプリコンズ日本基地へと総攻撃を開始した。
 空行は魔法のチカラエアロムーブで、シャルロットは花の魔法のチカラFFFで鳥型の乗り物を作り出しそれに乗って空を行く。サーフェイスドライブで地球の表面を滑走できる虚探は海上を快速スケーティング。どこでも潜れる論実は海の中を高速潜行していた。そんな移動手段を持たないアトランティスは、シャルロットのFFFに同乗させてもらう形となっている。全員5名一丸となって陣形を作り、太平洋を南下中。そこに!
『空ちゃん、敵を発見! 反応は海中……このエネルギーパターンはアルドックスだわ!』
 空行と融合同化してハットワンズのナビゲーションを担当しているナミコちゃんが敵の存在を報告。空行は潜行中の兄弟論実に対し「ぶちのめしてやれ!」とわかりやす過ぎるオーダーを下した。受け取った論実も「合点でい!」となぜか江戸っ子口調で応じて終わった。
 
 太平洋海中。空行の命令を受け海の中を無制限潜行する心環三兄弟の一人心環論実は、アクアスキャンを発動し海中で待ち伏せしているアルドックスの位置を探る……までもなく、アルドックスは目と鼻の先とも言える間合いを向こうから勝手に詰めてきていた。
「また会ったのう論実、こないだはベナトールにやられたようじゃが、今日はワシに――」
「黙ってろ障害物が!」
「えっ? なに? ってなんじゃぁ〜?」
 攻撃する暇与えない。怒りに燃える論実の心環流“全身パンチ”を食らったアルドックスはその巨体諸共海の上に殴り飛ばされ、お星様になりました(チャンチャン♪)。
「こちら論実。障害物は除去したぜー」
「確認した。お疲れ様」
 え? 本気で終わり? アルドックスの出番こんだけ?
 こんだけである。嗚呼無情。
 手強いはずの障害物をいとも簡単に吹っ飛ばして五人は沖ノ鳥島へ進む。
 すると今度はプロキオスが艦これの艦娘よろしく魔法ホバリングで海上に立ち、こっちに魔導ミサイルの照準を合わせているのが目に見えた。
「ベガトロン様のご命令で、お前らこれ以上は通さないもんねー。ほらミサイルだ食らえほらあ!」
 発射されたミサイルは魔法で核ミサイル並みにでっかく膨張拡大し、向かっている空行達に見事命中。とんでもない高さの火柱水柱が天を貫き宇宙へ届いた。が!
 その火柱水柱そして爆煙の中を空行達ハットワンズは構わず突き進んできた。ダメージはあるけど、まるで気にしてない。痛くないの?
 しかも進行速度を上げてプロキオスに突撃してくるというなんとも強引な展開。プロキオスは慌てて第二射の準備をするが、既に自分も撃てば巻き添えを食らうほどの間合いに入られていた。
「ほら……俺、どうしたら……」テンパリパニックになると途端に動けなくなるプロキオス、そんなことを悩んでいる間に、海上を疾走していた虚探が、これまた心環流、「全身キックシュート」をお見舞いした。横薙ぎの蹴りを腹からもろに食らったプロキオス。運動エネルギーを与えられ吹っ飛んだ。
「ほらあーっ?(キラーン☆)」
 ふたつめのお星様を打ち上げた空行達はさらに進路を突き進み、沖ノ鳥島へと到着した。
 非常に小さな地上部分。その地下にカプリコンズは広大な海中基地を構えている。クローズドダイバーで潜行し先に内部に侵入した論実の手引きで出入口は中から開いた。手を上げ「行くよ、こっち来い」と合図する空行に従い、ハットワンズのメンバーはカプリコンズ基地に侵入した。
 そしたらそれを待ち構えていたかのように基地の内部が迷路へと変貌した! カプリコンズの魔法技術担当の一人、ベナトールの魔法迷路が作動したようなのである。
 沈黙を通して怒りをぐつぐつ煮沸させるハットワンズの面々5名。そこにベナトールの高笑いがどこからか響いてくる。
「ケーラケラケラケラケラケラ! やっとあたぴの出番ダス。よいこのみんな見てるダスか〜これからみんなのヒーローベナちゃんが悪い奴らを迷路に閉じ込めてお仕置きしてやるッスよ〜。インターネットラジオやニコ生へのメールやコメントも大歓迎ダッス!」
 ハットワンズを完全無視し、世界のよいこたちに自分をアピールするベナトールの独演会。ふざけやがって――ハットワンズ一同の沸点が一気に低下した。
「ナミコちゃん! 奴の居場所は?」怒気も露に空行が訊く。
『ん〜あっちかな〜』ナミコちゃんも質問に大まかに答える。
 あっちか――空行、虚探、論実、シャルロット、アトランティスの五人が見据える先には確かにベナトールの気配がした。怒りと熱で燃える空行はゴリラよろしくドラミングすると、「行くぞっ!」と拳を振り上げ宣言する。皆も「おうっ!」と謎のポーズを決め、「うりゃああああああっ!」と声を張り上げ、迷路をベナトール目掛けて突進を開始した。

「いや〜よいこのみんなのあったかいコメントは嬉しいダスね〜。この迷路で時間を使わせておけばあとはアウスリー達がカプリコンズ入りしたウィリアムからできる限りの機密情報を盗み出す手筈ッス。迷路に閉じ込めた以上あたびの役目はもうニコ生の運営に他ならないダスよ。ヘッドフォン越しにMacBookでモニターする――最高の楽しみダスね〜」
 ベナトールはヘッドフォンを耳に装着してハットワンズのことは完全無視、Macのモニター越しにニコ生を中継していた。タイトルは『脱出できるか? ベナちゃんの迷路に迷い込んだハットワンズのバカ共!』と銘打っている。ヒトのカタチの代表格であるハットワンズをネタにした番組ということで、閲覧数は2億を突破していた。コメも1億越えと大台突破。ベナトール大満足の結果であった。
 ところが……。
 コメントの様子が次第におかしくなってきた。「ベナちゃん危ない」だの「うしろ! 後ろ!」との弾幕が表示され始めたのだ。
「えっ、なに? 後ろ……ってひゃあ〜っ!」
 ヘッドフォンを着けたままベナトール隊員が後ろを振り向いたその時!
 迷路の壁をブチ破って空行がベナトールに襲いかかったのである。Macに夢中だったというか座っていたベナトール隊員、抵抗する暇も無く首を掴まれ持ち上げられてしまったという体たらく。よいこのみんなには見せられない姿――その羞恥と壁をブチ破って迷路突破という反則技がベナトールを憤慨させた。手持ちのランチャーを構えて自分を持ち上げている空行の腹に零距離で射撃する。バンバンバン! 鈍い射撃音が空行の下腹部から聞こえた。
「番組を台無しにした天罰ダッス! このまま腹から出血でもしてくたばり……ってありゃ?」
 そう、普通なら下腹部を撃たれればそれはダメージ。自分を締め上げている空行の腕の力も弱まってベナちゃん着地10.0となるはずなのに――。
 ベナちゃんは締め上げ続けられていた。それだけじゃない。逆に力は増していた。
「な、なんで……ってありゃ! 弾が服と腹筋で受け止められちゃってるダス!」
「その通り。今のあたしらにこんなもん効かねえ!」
「あーっ!」
 空行はベナトールを残っていた壁に向かって想いっきり投げつけた。普通ならずり落ちるとところだがめり込んでそうならないのが空行の怒りゲージの凄まじさを物語っている。
 それだけにとどまらず、空行はハーミットワンズを構えて、ベナトールにじわりじわりと近付きだした。まるで槍を刺しにくるかのように。
 ベナトールもそれを察したのか、「や、や、や止めるダス! よいこのみんなにヒーローが負けるとこや残酷シーンなんか中継しちゃったらあたぴ……」と喚くが空行は聞く耳持たないし聞いてない。一時停止して溜めの動作に入ると、一気にエネルギーを突進力に変えて突撃した。鈍いブシュッと音がして、壁から赤いものがドロドロ垂れる。
 そんな状況下で、空行は今の突進技の名を名乗る。
「これぞ父さん直伝、心環流全身ダッシュアタックだ! フン、よいこのヒーローはおまえじゃないのが真理だベナちゃん。人気取りたきゃ0から出直すんだね」
 そう告げて空行は踵を返し、仲間達と合流してカプリコンズ基地の奥へと進む。一人壁に磔にされたベナトールは最後の力を振り絞り、「よいこのみんなは、あんなのになっちゃダメだよ……」と言ってダウンした。可哀相な奴――。
 
 アルドックス、プロキオス、ベナトールとカプリコンズの男衆を三連続で撃破したハットワンズは、遂にカプリコンズ基地の中枢の一角、「するするスキャニング装置」のあるググルームへと辿り着いた。そこには今回の騒動を企てた元凶、アンダレアとスピーディアが待ち構えていた。浮遊する椅子に座って、悠々自適にババ抜きしながら。
「ウィリアムのバカはどこだ! 出てこい!」その光景を見て腹が立った完全武装を召喚し絶叫する! さすがのアンダレアとスピーディアもこれはババ抜きどころではないと理解しビビり慄きながらもどこか達観した風に一枚の紙切れを投げ捨て渡した。
 その紙切れには、こう書かれていた――。
 
「カプリコンズもクビになったので駆け落ち新婚旅行子作りのため旅に出るでヤンス。ほとぼりが冷めたら戻るから。 Byウィリアム」
 
「あのバカップル! 太宰治にでもなっちまえ!」
 遠回しなのか直球なのか一度死ねと吠えたハットワンズの心環三兄弟。シャルロットは「すぐに転校したり転職したりする今時の諦め世代の代表例ね」と酷評し、温厚なアトランティスでさえ「うおぉぉ!」と最早意味もない怒りの雄叫びを上げるほどなのだからハットワンズの怒りは相当だ。それを嗾けたカプリコンズのアンダレアとスピーディア、絶好調という名の調子に乗ってハットワンズに衝撃のニュースを伝える。
「残念かつ一足遅かったわね、心環三兄弟にその同志諸君。もうこっちの作戦成功だから教えてあげるわ。もうこのググルームにてウィル君から心環家屋敷のセキュリティコードを盗み取っちゃいました。で、ベガちゃんと残りの女性陣が君達と入れ違いでもうじき無人の心環家屋敷に侵入している頃合いよ。防御プログラムも書き換えてあそこは新しいカプリコンズ基地になるわ」
「そしてこの基地は用無しになるので20秒で自爆しちゃうんだな。じゃあね」
「ウソ?」アンダレアが放った自爆というキーワードにハットワンズの面子は顔を合わせてボケ反応。その隙に魔法のチカラで召喚転移でもしたのかその場からすっかりあっさり消えてしまった。取り残されたハットワンズ、逃げる間もなくカウントダウン画面が出現した。00:00:01からカウントダウンって酷過ぎじゃありません?
 
 カッ! チュドーン!
 
 その日、日本国は貴重な領海と島をひとつ、失った。
 沖ノ鳥島崩壊。カプリコンズ基地も崩壊。でもカプリコンズ気にしなーい。だって新しい基地を手に入れたから。そう、あの心環一乃が造り上げた心環家屋敷に!
 ちなみに侵入に成功したメンバーはリーダーのベガトロンにエル、プレセラ、レグリル、アウスリーに、召喚転移の魔法のチカラで非難させたアンダレア、スピーディア、ベナトール(ダウン中。寝転んでます、ハハ……)の8名。お星様になったアルドックスとプロキオスも傷が治り次第こっちに来る予定。地の利といい地価といい、沖ノ鳥島に創らざるを得なかった基地とは比べ物にならない最高物件。機嫌が良いのかベガトロンは作戦発案者であるアンダレアとスピーディアを褒めようとした、その矢先。
 
 自分達が出したのと全く同じ自爆カウントダウン画面が現れました(笑)。
 
「……え?」固まるカプリコンズのメンバー達。
 するとそこに魔法通信で沖ノ鳥島基地の自爆に巻き込んだハットワンズがボロボロの風体ながらも現れた。カプリコンズの面々も「そりゃあれくらいじゃ死なないだろう」とは思っていたが、このタイミングで電話をかけてきたことには素直にビックリ胸がキュン♡
 そんなこんなでドギマギしてると、心環空行が嫁のぬいぐるみことハットワンズナビゲータのナミコちゃんと一緒にあくどさ全開の口調で語りかけてくる。
「残念だったねーベガトロンにカプリコンズの諸君。皮肉だなあ、敵対する双方が要らない基地の処分方法に全く同じ自爆を選ぶとは。君達は僕達の出動を『裏切ったウィリアムの制裁もしくは奪還』と捉えていたようだけど、そこまでウチは楽観的じゃないんでね。あいつがトラップに引っかかってトラブった以上、捨てる覚悟は決めていたのさ」
「捨てる覚悟って、この基地をか? 貴様ら、あの一乃様が遺した遺産である心環家屋敷を自爆させる気なのか!」
 ベガトロンが絶叫するが画面の向こうは穏やかなもの。心環三兄弟にナミコちゃん、シャルロットにアトランティスも涼しい顔して「そうさ」と応じる。
「あんたなんかに利用されるくらいならそれが本望だよ。ウィリアムから盗んだコードで防御システムを乗っ取り敷地内に入ったみたいだけどね、今ナミコちゃんがさらにコードを書き換えてくれたの。これにより自爆しつつもシールド展開、周囲の住宅地に被害を及ぼすことなくあんた達を閉じ込めて自爆の巻き添えにできるって寸法さ。ざまあかんかん河童のお皿! 精々見苦しく足掻くんだね。今回も、引き分けだよ」
 フハハハハハ――空行につられてハットワンズの一同はそう笑って通信を切った。そのタイミングで、カウントダウンは「00:00:00」を表示。やば〜と言う暇さえなく、心環家屋敷は大爆発で自爆した。
「ぬおおおおおおっ!」「いやあああああ!」「ああ、ビリビリ〜っ!」
 世にもマヌケな悲鳴を上げて、ベガトロン達は大爆発の爆風に巻き込まれて吹っ飛ばされて、脱出不可能に改竄されたシールドにぶつかってビリビリショックを受ける有り様。
 はっきり言おう、ちょとかわいそうと!
 心環家屋敷を覆うシールドの中が真っ赤に染まり、東京都民の注目を集めつつある中、倒れ込んだベガトロン達から被っていたキャップが消えた。返信が解除され、魔法のチカラを一時失ってしまったのだ。
「くうう、変身もダウンか。残念だが今回はここまでだ。全員、退場しろ!」
「次回はわたしが主役〜♪」
「みなさまグッナイ〜♪」
「メール募集中ダス♪」
「さーて家電量販店でおじゃる丸立ち見しよーっと♪」
 バカ極まりない捨て台詞を残しながら、ベガトロン達は心環家屋敷の敷地から脱出した。シールドは魔法のチカラ――即ち帽子を被って変身している者にのみ通じるので、魔法の帽子を被れず一般人となってしまったベガトロン達は通すのである。なら最初からそうして逃げればとツッコむのが普通だが、それをさせなかったのがあの通信、そして爆発規模である。会話に夢中で逃げられない状況下に追い込まれた中変身解除してしまえば、肉体強度はがた落ち、爆発で確実に死んでいたので帽子は被り続けなくっちゃいけなかったってわけ。
 そんな感じで双方基地は崩壊。痛み分けに終わった今回のワネットウォーズ。次回は一体どうなってしまうのかな?
 そんな疑問を解決する次回もお楽しみに〜♪

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