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第5話。バイト探すなオファー待て

 これまでのワネットウォーズを振り返ってみよう!
 まず1話2話! ワネットが送り込んだ新たなヒト戦力「プロトメイト」を巡って心環三兄弟を中心とするハットワンズにベガトロン率いるカプリコンズ。ふたつの魔法のチカラを使える集団が東京で激突。新しいヒトことプロトメイトアトランティスはハットワンズに加入した。
 次に3話4話! アトランティスの勧誘に失敗したカプリコンズは優良物件であるハットワンズの基地を手に入れるため、女に弱いウィリアムにハニートラップを仕掛け成功。ウィリアムの裏切りに憤ったハットワンズは沖ノ鳥島のカプリコンズ基地を襲撃するも、それ自体が実は罠で本隊はハットワンズ基地である心環家屋敷に侵入し沖ノ鳥島の基地を自爆させた。しかしそうなることはハットワンズも予想済みで、義父の遺した屋敷を躊躇なく自爆し返すという暴挙反撃をもって引き分けに持ち込んだ。結局誰も得してない――それがこれまでの顛末だった。
 そしてここからがこれからの話。第5話の主題である――。
 
「こまったこまったこまったこらった!」
 東京郊外のキャンプ地で寝泊まりしているハットワンズの中、なぜか戻ってきて許されたウィリアムが手をジタバタ振り回しながらこまったダンスを踊りそこらかしこを走り回っている。まるでゴキブリのように。戦力上の理由で許した心環三兄弟やシャルロットにアトランティスも冷めた目死んだ目蔑んだ目でその姿を見ていた。そしてその中には、部外協力者としてハットワンズに加入したウィリアムの妻、マリナも含まれていた。
 どうしてハットワンズの面々が駆け落ち逃亡したウィリアムを許したかって? ここだけの話、別に彼等はウィリアム自体を許した訳ではないのだ。ただ。ワネットによるファンタジー化の影響で絶世の美少女エルフとなった彼女は幾度も貞操の危機に瀕していた。元々治安の悪いウクライナに住んでいたのである。状況は推してしかるべしだろう。なので強い者に縋りたくなるのは必然の結末。その結果出会い系サイトに手を出し、目に留めたのが魔法を扱えるヒトであるウィリアムだったというわけだ。ぶっちゃけ強くて操れそうなら誰でも良かったとはマリナの談。ウィリアムは正にドンピシャの人物だったわけである。
 しかしそんな経緯はともかく、条件が合致すればうまくいくのもこれまた事実。駆け落ち生活から正式に籍を入れ夫婦となった二人はこの度めでたく子供を授かったわけだ。そうなるとさすがに流浪人難民旅行者生活では世間体がよろしくない。なので平屋とは言え一軒家に住まうべく戻るべく、何食わぬ顔をして平然と、自分勝手にハットワンズへの再加入を一方的に宣言し戻ってきたわけである。身重の妻マリナを連れて。
 それを心環三兄弟、シャルロット、アトランティスはこともあろうに歓迎した。戦力の少なさに悩んでいたハットワンズ、そこに元メンバーであるウィリアムが帰ってきたのである。この際遺恨は水に流そう――非常に大人な(戦略的)判断でウィリアムの帰還を迎え入れたわけである。まあ、出会い頭にボコって鬱憤は晴らしたが。それはウィリアムも想定内。恋のためとは言え一度は裏切った身分、殴られても仕方ない。
 でも帰ってきた最大の目的である心環家屋敷が更地になっているのには衝撃だった。理由を尋ねるとカプリコンズに乗っ取られそうになったから自爆させたとのこと。これは完全にウィリアムの計算外。元々家に住まうべく――もっと言えば住民票を再申請するべく心環家屋敷に身を寄せようと思っていたのにそこが更地? 皆が今どうしているのかと尋ねるとキャンプ地で寝泊まりしていると白を切ったように返され大ショック。それじゃ今までと大差ない。なので、「こまったこらった」ダンスを踊ってトチ狂っていたわけである。
 そんなこまったダンスも見慣れてくると見飽きてくるもの、心環三兄弟が一人、心環論実が直球「ウザい」と釘を刺す。すると……。
「だってキャンプ場暮らしオレもう飽きた! 心環家屋敷に帰りたい! なのに心環家屋敷の再建に一乃様の遺産は使わないなんて横暴だぞってあたぁ〜っ!」
 勢いに任せて暴言を吐いている途中、ウィリアムの身体は吹っ飛んだ。論実だけでなく虚探、空行の三兄弟全員がトリオを組んで発動した心環流全身ダッシュアタック(ちょっと手加減Ver.)を食らってすっ飛ばされたからである。手加減Ver.とあってすぐに立ち上がり文句を続けようとするウィリアムだったが、後の先を取る形で空行が堰を切ったように捲し立てる。
「あたしたちの父さんが一生懸命稼いで溜めて遺してくれたお金をそんなことに使えるっかっつーの! 大体屋敷を爆破しなくちゃいけなくなったのもお前のせいだろバカウィル! お前が一度でもカプリコンズに寝返ったりしなきゃな、カプリコンズに屋敷の中入られて乗っ取られる寸前、つまり自爆させる必要もなかったんだよ! そんな奴の自業自得的な損失の穴埋めに父さんの遺産をポンと使って『ハイなかったことにしましょ』なんてあたしたちのプライドが許さんわ! 自分の落とし前は自分達で着ける――それが我が家のモットーよ!」
「そうだそうだ!」「その通りなのだ!」
「異議なし。賛成!」「それがあるべき姿よな!」
 空行の道理説法に虚探と論実の兄弟二名が真っ先に賛同し、続けてシャルロットとアトランティスも唱和する。こうなるとウィリアムに勝ち目はない。大人しく頭を垂れ、項垂れて「すいませんでしたあ〜っ!」と降参するのみである。
 でもタダでは転ばないのがウィリアムの良いとこ愛いとこ悪いとこ。「じゃあ俺達ハットワンズは一生このままキャンプ地暮らしなのかよ?」と現在の状況弱みを的確に突いて空行達に意見を具申する。すると空行達四人は大きく仰け反り鼻の穴を見せるほどの大笑いをした後答える。
「んなわけあるかい。ちゃーんと心環家屋敷は再建しますよーだ」
「資金は?」
「バイトして稼ぐんだよ。今ナミコちゃんがネット探偵モードになって探してくれてる」
「なんと!」
 ウィリアムは寝耳に水な情報にビックリポックリ目を丸くして驚いた。ちゃんと働く気有ったんだこいつら――と、多少心環三兄弟を舐めた評価をしていただけにその驚きも内心相当なものだった。
 でも、すぐにその評価は覆ることになる。「ちなみに時給いくらくらいの条件で探してんの?」と聞いた途端、こんな答えが帰ってきたから。
「え? 一人当たり時給10,000,000$以上で一週間以内の短期アルバイト。それなら日中いっぱいの勤務だって耐えられるよね〜」
「そうそう」「そのとーり」
「不労所得でもねえわそんなの!」ウィリアムは盛大にズッコケたあと絶叫した。やはりこいつらズレてやがる。社会ってものを舐めてやがるという認識を新たに確かにする。
 でも……空行に代わって虚探が話しだす。
「なんか勘違いしてないウィリアム? 僕らは帽子を被る魔法使いだぜ? 普通のバイトなんてしないよ。魔法を必要とするような、自治体 or 国家レベルの案件を請け負うのさ」
「……え? 路上警備員とか、建築現場とかじゃでなくて?」
「もっと大規模な仕事だよ。都市再生とか、傭兵とかスパイミッションとかのね。僕らはボランティアじゃない。コンサルタント魔法使いだ」
「ほぁ〜」ウィリアムは嘆息溜息を静かに漏らし、感嘆する。なるほどそういう意味でのあの条件か。確かにとそれならありだと心の中で思う。ファンタジーかした世界の中で唯一ヒトとしての形を保ち、かつ帽子を被って科学を超えた魔法を行使できる自分達。その能力を最大限生かす労働ならば対価もそれなりであっていいと、心環三兄弟の言葉を聞いていると思えてくる。なぜかはわからないがそう思えるのだ。ウィリアムと心環三兄弟はそこそこ長い付き合いだが、未だにその理由はわからないままだ。
 ともあれ納得したのも事実。が、やはりウィリアムはそんな都合のいい仕事が見つかるとは思っていなかった。が!
『空ちゃんみんなー、オーストラリア王国から依頼が来たよー。資源護衛の仕事だってー』
「ホントに来たのかよ!」
 ナミコちゃんからの依頼受信の報告を聞いてウィリアムは盛大に股を開き滑りヘタった。あんな法外な条件でも魔法使ってくれるなら依頼する国があるんかいと、突っ込まずにはいられなかった。ハットワンズの中では一番年長で社会経験豊富なはずのウィリアムだが、こうも予想を裏切られる事態が続くと自分に自信が無くなっていく。その心中を見透かしたのか、論実とアトランティスが言葉をかけてきた。
「案ずることはないよウィリアム。キミはちゃーんとハットワンズ一のお兄さんさ。ただちょーっと長生きしていたのが問題ってだけで」
「なんだよ論実慰めのつもりか? 全然慰めになってねえっての! 褒めてんのか貶してんのかわかんねえーぞ。長生きのどこが問題なんだ?」
「ふむ……わかってないようであるな。長生き――つまり、このファンタジー化してなかった昔の現実に長く染まっていたということであるよウィリアム。お主はハットワンズ一の年長者だが付け加えるならハットワンズの中で一番このファンタジー化した現実に適応できてないのであるよ。某達より長い元現実での経験やらが足を引っ張っておるのだ。なぜ気付かない?」
「あっ……」アトランティスの指摘を受けてウィリアムはカチンコチンに固まる。それと同時に自分に道を見せてくれた今は亡き心環一乃の言葉を思い出す。
「適者生存」
 たった四文字の熟語だが、自分がそれに適っているかどうか考えると、なるほど確かに自分はハットワンズの中ではこの異常化した現実に一番適応できてないのかもしれないと思い当たる節もあるのだ。今まで年長者ということで偉そうに勝手をしていたが、思い返せばその勝手気ままな行動の数々はファンタジー化する以前、いわゆる「昔」の価値観でやってきたことばかりである。ただでさえ「バイト探すならフロムエー(雑誌)」という固定観念がずっとあった。そういうしがらみを捨ててこのファンタジー化した社会にもっと適応できなければ、ヒトとしてのカタチを保っている自分もいずれは消えて死んで世界から退場、となりかねないことを賢く素早く察知した。なるほど、今やバイトもコンサルタントとして受ける世の中になったということか――ウィリアムは深く潔く納得した。
 こうしてファンタジー化する前の現実に引きずられていたウィリアムの納得も得て、ハットワンズは心環家屋敷再建及び拠点確保の資金を得るべくファンタジー化で「王国」となったオーストラリアへの出張を決めた。
 決めたら行動が早いのがハットワンズの機動力特徴。すぐに心環三兄弟が養父心環一乃より受け継ぎし杖ハーミットワンズを手に取り、三人掛かりでのテレポート魔法を発動。飛ぶこともせずにメンバー全員を日本からオーストラリアへと転送した。
 これが今回登場しなかったカプリコンズとの新たな戦いの火蓋を切る出来事になるとは一切知らずに能天気に。
 そう、オーストラリアは新たな戦場。
 そこで闘うは最早必定の確定方程式。
 ハットワンズとカプリコンズの戦い。
 それは日本を飛び越え世界に広がる。
 ワネットウォーズは世界大戦になる。
 その前哨戦が、始まろうとしていた。

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