バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第177話 足元にあった脅威

 画面の地図には東都の官庁街を示していた。そしてその×印をつけられた地点は間違いなくこの同盟司法局ビルから見える範囲の新しいビルを指していた。

「遼州同盟政治機構第三合同庁舎……」 

 カウラも目を見開いてその×印を見つめていた。

「やってくれるよなあ、租界の仮研究施設はあくまでも仮、本丸は厚生局の手元にあったのかよ。いくら探しても見つからねえわけだ。アタシ達だっていきなり何の証拠もなく厚生局の本丸に土足で踏み込むわけにはいかないものな。厚生局の局員全員が犯人なんだから。自分の手元に一番大事なものを置いておく。当然の話か」 

 そう言ってかなめはタバコを取り出た。いつもなら隣のタバコを吸わないラーナは逃げるはずだが彼女は呆然と画面に見入って隣のかなめの行動など見ていなかった。

「これがカウラ達が身柄を押さえに行った片桐博士のディスクの中身だ」 

「コイツは……御大将。この連中だけじゃ無理なんとちゃいますか?恐らく厚生局の麻薬対策部隊が待ち構えていると考えんと」 

 思わず明石がタバコの煙を吐き出す嵯峨に声をかけた。嵯峨は灰が伸びているタバコに気づいてそれを灰皿でもみ消すとニヤリと笑って明石を上目がちに見上げる。

「ああ、秀美さんの公安がすでに動いてるよ。事が始まればすぐに主要道路の閉鎖と部外者の避難誘導のシミュレーションも済んでる」 

 そう答えると嵯峨は誠を振り返った。

「でもなあ。これだけじゃ不安なんだよな。もし例の三体の法術師や廃帝ハドのシンバの手のものが動けば被害範囲は確実にでかくなる。それに例の生体プラントが自己防衛の為に動き出したりしたら……」 

 嵯峨は頭を掻きながら相変わらず誠を見つめていた。

「僕が……何か?」 

「お前さあ、パイロットだよな」 

「は?」 

 誠は嵯峨の言葉の意味が分からなかった。しかし薄ら笑いを浮かべながら誠を見てくる嵯峨の目が真剣でもう一度誠はまじまじとその顔を見つめた。

「こんな市街地で05式を起動させるんですか?そんな無茶なことできませんよ!」 

 ありえないだろうと言う微笑を浮かべてそう答えた誠に、大きく頭を縦に振る嵯峨の姿があった。

「無茶と言ってもあの都心で暴れた化け物がさらに化けたようなのが出て来るのに生身でどうにかしようと考えてるの?無茶なこと言うね、神前は。島田には無断でもうブツは裏の駐車場に用意してあって、技術部の連中が待ちくたびれているところだ。俺等の仕事は最悪の事態に備えることだからな。出動命令はさっき同盟本部の幹部会議にねじ込んで通したところだ」 

 そう言って嵯峨はタバコをもみ消した。誠が周りを見るとすでにランは携帯端末の画面を開いてカウラとかなめを両脇にすえて小声で打ち合わせを始めているところだった。

「当たり前だが指揮官はつけるよ。カウラが指揮を担当でバックアップはかなめだ。文句は無いよな?」 

 嵯峨の言葉にまだ誠は納得できずに呆然と立ち尽くしていた。

「確かに第一小隊の編成ならそうでしょうけど……」 

 ためらう誠の肩に嵯峨が手を置いた。

「一応、これも隊長命令だ。よろしく頼むぞ」 

 嵯峨はそのままソファーに身体を沈める。

「じゃあ行くぞ」 

 打ち合わせが終わったかなめに引きずられるようにして誠はそのまま明石の執務室を後にした。

しおり