第178話 初めての市街戦
「お待たせしました!」
先頭切って小走りでカウラを先頭に誠達第一小隊の三人はトレーラーの隣に展開された仮設テントに入った。
誠は初めての市街戦に緊張していた。市街戦自体はシミュレータでは何度か経験していたが、そのシミュレータでも至近距離でのいきなりの遭遇戦には格闘だけが取り柄の誠でも苦戦するところがあった。立ちはだかる障害物。どこから出て来るか分からない市民の存在。どれも戦闘をする環境としては不向きだった。
「遅いわね。待ちくたびれたわよ。誠ちゃん。自信はあるんでしょうね?」
テーブルで部下の技師達から報告を受けていたアメリアが視線も上げずに誠達を迎え入れた。
「僕に自信を期待するんですか?それは間違ってますよ。僕は自信が無いのが取り柄の人間ですから」
誠はどこまでも気弱な青年だった。
「マジで市街地で起動かよ?大丈夫なのか。ここら辺は電線を地下に埋設しているから電線が邪魔で戦闘が出来ねえってことはねえだろうけど、こいつはこれまで宇宙戦と砂漠戦の経験しかねえぞ。できるのか……ってやるしかねえのか」
かなめはそう言いながら手前の端末を操作していた技術下士官をどかせてその端末を乗っ取った。そしてすぐに首筋のジャックにコードを差し込むと情報分析を開始した。
「一応、丙種出動許可は出てるわよ。治安維持活動と言うことだから使用できる機能に制限があるけどね。ただ、ダンビラは丙種出動なら使い放題。最初に遼帝国の秘剣を使って例の最初の犠牲者を弔った時の要領で倒せばいい。ただそれだけなんだから簡単でしょ?」
そう言って笑いながらアメリアは隣で作業をしていたパーラに声をかけた。彼女は敬礼をするとそのままテントを出て行った。
「重力制御装置の使用禁止。パルス動力系統システムの封印。レールガンをはじめとする重火器の使用禁止……まあ当然といえば当然ですが……神前の得意の『光の剣』も封印だな。あのような威力の物をこんな場所で使ったら建物にどんな被害が出るか分からない。ダンビラで敵の急所を突いてそこで干渉空間を展開して止めを刺す。その戦法で行こう」
カウラはポニーテールの後ろ髪を右手で撫でる癖を見せた。この癖を見せる時は彼女はかなり悩んでいることを誠も知るようになっていた。カウラは簡単には作戦を説明して見せるものの、それを上手く指揮する自信が無いように見えた。
「ここで僕が暴れて二次被害を出すわけには行きませんからね。でも本当に市民の避難の誘導とかは済んでるんでしょうね。僕、人殺しになるのは嫌ですよ。特にここは戦闘区域じゃ無いんですから」
誠はそう言いながらテントの周りを見回した。関係者らしい人影以外は見ることが出来なかった。こういう時には特ダネを取ろうと侵入してくるマスコミ達も公安機動隊がシャットアウトしていると聞いていたのでその点は少し安心していた。
「馬鹿ねえ、誠ちゃんはそんな気を回す必要は無いのよ。それは安城隊長とライラさんのお仕事なんだから。それよりそこ!例の化け物が干渉空間で05式に損傷を与えた場合の予備パーツの準備!さっさとかかる!」
アメリアの視線の先には端末をかなめに奪われておたおたしている整備員の姿が見える。仕方が無いと敬礼して見せた彼はかなめを指差した。
「いいわよ、かなめちゃんにはそこで管制を担当してもらうわ。でもまあ、あの化け物のどこが急所なのか……ちょっと調べるのに時間がかかりそうね。誠ちゃんが最初に斬った不死人はまだ人の形をしていたから良いけど、今度はどう見てもナマコの化け物だもの。中枢神経が何処にあるかなんてわからないし、それ以外の弱点が何処かなんてわかりはしないわ。また、今回も出たとこ勝負の戦いって訳ね」
アメリアはそのままテントの入り口に歩き出した。そこにタイミングよくパイロット用ヘルメットと作業服を持ってきた西が立っていた。
「一応こちらに着替えてね。どうせこの状況では対Gスーツなんて要らないでしょ?どうせ05式を地上で歩かせるだけなんだから」
「はあ。確かにそうなんですけど……一応心の準備としてパイロットスーツを着ていた方が緊張感が高まるので」
「そんな個人的な感情は要りません!そのままでやりなさい!」
まくし立てるアメリアに圧倒されるようにして誠はそのままテントから出ようとした。