第162話 自分が力に目覚めた時
「なら話は変わるが……神前。オメエが法術を使えると分かったときどう思った?オメエにはそれに答える義務がある。『近藤事件』ですべてを始めたのはオメエだ。どう答える。聞こうじゃねえか」
ガムを噛みながらかなめがつぶやいた。誠はしばらく沈黙した。
「正直驚きました。僕にはそんな特別なことなんて……」
「驚いたのは分かるってんだよ。その後は?」
かなめの声に苛立ちが混じる。こういう時はすぐに答えを返さないとへそを曲げるかなめを知っている誠は、静かに記憶をたどった。
「何かが出来るような……あえて言えば希望を感じました。世界が変わるとかそう言うことじゃなくて僕個人が何かできるような……そんな希望です」
「希望ねえ。良いねえ……若さを感じるよ。アタシもそんな年じゃねえが、アタシには出てこない答えだ」
かなめの口元に皮肉を言いそうな笑みが浮かんだ。そんななめをカウラがにらみつけた。
「人類に可能性が生まれる瞬間だ。希望があって当然だろ?神前、貴様は正しい。そしてそれまでの世界が間違っていたんだ。貴様は世界を正したんだ」
「小隊長殿は新人の肩をもつのがお好きなようで!へへ!」
ぼそりとカウラの言葉に切り返すと、再びかなめは難しい顔をして片桐女史のマンションに目をやった。
「その可能性を探求することを断念させられた研究者。その屈辱と絶望が何を生むのか……」
自分に言い聞かせるようにかなめはつぶやいた。狭いカウラの『スカイラインGTR』の中によどんだ空気が流れた。
「絶望したら違法研究に加担をしていいと言うものじゃないだろ。そんなことしてたら世の中犯罪者ばかりになるぞ。まあ、西園寺は絶望したらすぐに犯罪に手を染めそうだがな」
カウラはかなめに向けて明らかに注意するような調子でそう言った。
「実に一般論。ありがとうございます。でも人間それで犯罪に加担することが多いのも分かれよな、小隊長殿。犯罪者の大半はそうして製造されていくものなんだぜ。八年しか生きていない小隊長殿にはまだ分かりませんか」
カウラの言葉をかなめはまた一言で切り返した。
「あの、西園寺さん。食べるものとか買ってきましょうか?僕、お腹空いてきたんで」
いたたまれなくなって誠が二人の間に割って入った。二人はとりあえず黙り込んだ。
「パンの類がいいな。監視しながらつまめる奴、それで頼むわ」
かなめはそう言うとポケットを漁った。だが、カウラが素早く自分のフライトジャケットから財布を取り出して札を数枚誠に手渡した。