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第163話 定番の買い出し

「私は暖かいものなら何でもいい」 

 そう言われて押し出されるように誠は車の助手席のドアを開けていた。人通りの少ない路地。誠は端末を開いて近くの店を探した。

 幸い片桐博士のマンションと反対側を走っている国道沿いにコンビニがあった。誠はそのまま急な坂を上ってその先に走る国道を目指した。走る大型車の振動。ムッとするディーゼルエンジン車の黒煙を含んだ熱気が誠の頬を撫でた。地球人類の植民する惑星で唯一化石燃料を自動車の主燃料としている遼州ならではの光景だった。だが惑星遼州の東和からほとんど出たことの無い誠にはそれが当たり前の光景だった。

 凍える手をこすりながらコンビニの明かりを目指して誠は歩き続けた。目の前には寒さの中でも平気で談笑を続けている高校生の群れがあった。それを避けるようにして誠が店内に入った。

 レジに二人の東都警察の制服の警官がおでんの代金を払っていた。

 誠はカウラの言葉を思い出しておでんを眺めた。卵とはんぺんが目に付いた。しかし、かなめに菓子パンを頼まれていたことを思い出し、そのまま店の奥の菓子パン売り場を漁ってからにしようと思い直してそのまま誠は店の奥へと向かった。

 『焼きたて!』と書かれたメロンパン。誠はそのクリーム色の姿を見ると、それがカウラの好物だったことを思い出した。

『カウラさんはメロンが好きだよな。でもメロンパンにはメロンが入っていないわけで……』 

 黙り込んで誠はつんつんとメロンパンを突くとかなめが食べそうな焼きそばパンを手に取った。

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