第136話 上には上がいると言うこと
かなめの母の西園寺康子は司法局実働部隊隊長嵯峨惟基の剣の師匠であり、『甲武の鬼姫』の異名で知られる剣豪と呼ばれていた。彼女が法術師であることが分かった今、それまでは何度と無く西園寺家を襲ったテロリストの数が急に激減したという話は誠も耳にしていた。
「しかし、こんなに時間軸のずれた空間を制御し続けて無事で済むわけもねーだろ?こいつ等自爆覚悟で攻撃してるってことは本当に限界性能はこれくらいってことかもしれねーぞ。そーであってくれると助かるんだがな……これ以上の手を持ってるとなるとうちじゃあ相手が出来るのは日野くらいしかいなくなる。実戦経験の無い日野に一度に三人の同レベルの法術師の相手をしろなんて無理な話だ。まあ、アタシはこの程度の相手なら瞬殺できるけどな」
ランはそう言いながら餃子の皿を並べた。誠も部屋に漂うラーメンのスープの香りに作業を中断してテーブルの席に着いた。
「神前。とりあえずこれ」
ランはテーブルの横に積まれて倒れそうになっている雑誌を指差す。しかたなくそれを抱えて部屋の隅においてみたが、そこで一人島田が端末の前を動こうとしないことに気づいた。
「正人。そんなに根をつめても……」
一通り配膳が終わったサラが島田の肩に手をかける。それまで激しくキーボードを叩いていた島田の手が止まった。
「そうだぜ、これからが正念場だ。とりあえず力をつけろよ!」
そう言ってかなめが再び麺を勢い良く啜りこんでいる。
「別に焦っているわけじゃあ無いんですけどね」
「焦っていない奴はそんな言葉は吐かないな」
シュウマイにしょうゆをかけるカウラの声が響く。ようやく島田は心配そうに見つめるサラに目をやるとそのまま立ち上がって誠達が囲んでいる休憩用のテーブルに常備されている安物のパイプ椅子に腰掛けた。
「しかしまあ、あの化け物の方の法術師に集中するとして、アイツの衣類の破片とか見つからないもんかねえ。身元が分かればそこから何とか切り込むって手もあるんだろうけど……そこからなんとか厚生局とのつながりを証明できないと連中絶対に口を割らねえからな」
景気良く麺を啜りこみながらかなめがつぶやいた。誠もその意見には同意して頷くと真似をして麺を啜りこむが思い切り気管に吸い込んでむせ返った。
「なにやってんのよ!誠ちゃんは。全く子供じゃあるまいし」
アメリアが咳き込む誠の背中をさすった。そして不意に見上げた先に青い表情でチャーシュー麺とチャーハンセットを見下ろして黙り込んでいる島田を見つけた。
「おい、食えよ。力つかねーぞ」
心配したようにランが声をかける。島田を気にして箸をつけられないサラが不安げに島田を見つめている。
「今回も手がかりは……」
「仕方ねえなあ」
そう言うともう食べ終わっているかなめは首筋にあるジャックにコードを刺してそのまま一番近かったランの使っていた端末のスロットに差し込んだ。