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第135話 会議室と悪夢の光景

 東都都心部に突如起きた法術暴走は三人の正体不明の法術師により制圧された。そんな中、誠達は司法局実働部隊の第一会議室に誠達が篭ってから6時間が経過していた。

「とりあえずラーメンを取ったんですけど……いかが?」 

 席を外していた茜がオカモチを抱えて中央のテーブルに置いた。ラーナの手には盆と湯呑。サラはポットを二つテーブルの上の雑誌の山をどけて置いた。

「アメリア。いい加減この部屋の私物を持ち帰れ。この窓際に並べたフィギュアの列はなんとかならんのか。フィギュアを集めるのが趣味の神前だって職場には持ってきていないぞ。そもそも職場に食玩を並べて喜ぶなど上級将校のする事では無い」 

 カウラがそう言いながら端末から離れて箸などの準備にかかった。島田が難しい表情で画面を覗き込んでいた。誠もそれを見ながら再び自分の端末の画面を覗きこんでいた。

「あの化け物のDNAは遼州系の人類と一致。まあ予想通りの結果だよなー。典型的な法術暴走だ。厚生局の連中は何がしたいんだ?暴走させることだけが目的なら東モスレムのテロリストとやってることが変わらないじゃねーか。東モスレムのテロリスト連中は研究所なんて大それたものは持っちゃいねーぞ。ただ、バラックがあって、その中にパイロキネシストを囲ってるだけだ。あの化け物を生み出すと何が出来るんだ?何か得なことでもあるのか?」 

 昼間の怪物から採取された細胞のデータを見つめていた首をねじったりした後、ランは彼女には高すぎる椅子から飛び降りた。篭ってからは昼間の化け物のかけらを東都警察が分析した鑑識の資料を整理する作業を始めたが、その途方も無い作業に誰もが疲れを感じていた。

「コイツを倒した正体不明の『正義の味方』がやった干渉空間内の時間軸をずらすって……簡単に出来ること……なのか?」 

 かなめはものすごい勢いでラーメンをすすった後、茜にそう尋ねた。その様子は甲武一の姫君であると言うその出自からは考えられない速度だと誠は思っていた。

「かなめさん!食べ始めるのが早すぎましてよ!いついかなる時でも食事は味わって食べるようになさってくださいな」 

 茜はどんぶりをを取りながらかなめに愚痴をこぼした。かなめは舌を出してそのままテーブルの隣のパイプ椅子に腰掛けた。

「干渉空間の維持にものすごい法力を取られますから。さらに時間軸をずらして攻撃を仕掛けるとなると……僕も何度か連続干渉の実験はやってみましたけど五回目で精神の負荷が大きすぎると言われてひよこさんに止められてからはやってませんよ。少なくとも今の僕ではあの三人には勝てません」

 誠は何度も正義の法術師の戦う姿を見ながら自分の無力さを実感していた。 

「でも不可能じゃないんでしょ?それに誠ちゃんも練習すれば出来るようになるかもしれないし」 

 ラーナから湯呑を受け取ったアメリアはそう言いながらすでに箸を手に自分の前に置かれたパーコー麺を眺めていた。

「五回でアウトなのか?お前の鍛え方がなってないからだな。実を言うとこいつはお袋の得意技でさあ。『官派の乱』で屋敷が官派軍に包囲されたときにこれを使って官派の正規軍相手に暴れまわったからな。あれを使えば薙刀一本でシュツルム・パンツァーとでもやりあえる。要は気合いの問題だ、気合いの。まあ、それが出来るくらいになったらアタシに教えろ。オメエを連れて行ってお袋には躾と称して散々叱られたからその仕返しに行ってやる」 

 かなめはそう言いながら坦々麺スープを飲み始めた。

「気合いですか……確かにこの法術師達。たぶん隠し玉は持ってると思うんですけど、動きは限界性能で動いてますね。クバルカ中佐の言うように法術師は手持ちの札を晒したら終わりなんです。それを運動性能に関してだけは晒して見せた。もしかしたらこの法術師達は誰かに売られるんじゃないですか?そのために限界性能で動いてるとか……」

 誠はあてずっぽうでそう言ってみた。その言葉に茜の表情が変わった。

「いいえ、誠さんには失礼ですけど、私が見た限りまだまだ余裕は感じますわ。これが限界性能では無いと思いますわよ。でも、可能性としては誠さんの言うことは合っていてこれくらいが動きの限界かもしれませんわね。限界性能に近い力を見せなければ買い手に値切られる。だから限界性能に近い力を出すように売り手に指示を受けている。そう考えるとつじつまが合いますわ」

 茜はそう言いながら一同の中で最後に箸を取った。

「となると、この化け物を作った組織とは別の組織の存在が考えられるような……そこまで我々には捜査能力も人的資源も無いですよ。負けちゃった法術暴走を引き起こす研究をしていた組織を追うことすらまともにできないのに、それにこんな化け物じみた力を持った完成された法術師を三人も開発する組織を追うなんて……物理的に無理ですよ」

 メンマを食べ終えたカウラはそう言って茜に目を向けた。

「仕方ないですわ。私達が追っているのはあくまでこの化け物。敗者の法術師の方ですもの。権限移譲中に山岳レンジャーの方々が集めた資料もすべてそれ関係の資料ばかり。この完成された法術師に関することは一切載っていませんわ。とりあえず厚生局の生み出したこの敗者の法術師の研究施設の捜査に集中しましょう。今は三人の法術師については忘れる。そう言うことにしましょうよ」

 茜は残念そうにそう言うとレンゲでスープを一口掬って口に運んだ。

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