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第134話 情報収集する管理部部長

「それにしても現場の状況が気になりますね。司法局本局に連絡を取ってみます。司法局本局ならあそこから近いですから、あの三人の法術師の正確なデータが取れそうですから。それと買い手の方も裏を取って見ましょう。アーリア人民党だと決めてかかると痛い目を見ますよ。恐らくこの光景をじかに見える場所に買い手は居るはずです。この光景が見える施設に居る人物が特定できるかどうか、これは本局の明石中佐に頼んでおきましょう。ルドルフ・カーンなら手配書が司法局にもありますから。まあ、簡単に捕まるような男ならこの20年間、地球圏の追跡を逃れ続けることなどできなかったでしょうがね」 

 高梨は同盟本部の司法局に直通の通信を入れた。

「司法局の本部ビルからはそう遠くないからな。何人か野次馬してるんじゃないのか?いっそのこと誰かそいつ等を呼び出して直接話したら?明石の野郎は好奇心が強いから意外とこういう時は一番に野次馬してたりして」 

 そう言う嵯峨が見ている画面に周りのビルから現場を覗き込んでいる人々の顔が写った。

「でも良いいんですか?この事件、後々問題になりますよ」 

「何が?どうして?」 

 高梨の困ったような声に嵯峨はタバコを灰皿に押し付けながら答えた。

「一応今回の件は嵯峨茜警部やクバルカ中佐が動いていたんでしょ?それでもこのような事件が防げなかった。上の連中にはおそらくこれが二つの勢力が技術を売り込むコンペの為に実施されたテロを模したデモンストレーションだったなんてことを理解する人間は居ませんよ。ただのテロと有志の法術師の協力によるそれの阻止の方が司法局の顔が立ちますからね。もしかしたら兄さんの責任問題にまで発展するかもしれない」

 高梨が心配していたのはそこだった。厚生局がここまで派手な動きを取ることは嵯峨も高梨も予想していなかった。あくまで、極秘裏に研究を進めるものだと二人は決めてかかっていた。それが今、都心部でその研究成果を売却目的と思われるコンペに参加させている。しかもその結果は敗北に終わった。

 資金ならバックボーンである遼北人民共和国から潤沢に供給されているはずの厚生局が何につられてこのコンペに参加したのかは分からなかったが、役に立たない実験を追った結果が正体不明のテロリストのデモンストレーションに花を添えただけとなれば司法局の法術特捜とそれを後見する嵯峨への評価が下がるのは必至だった。 

「俺の責任問題になるって言うのか?それならアイツ等に協力しなかった所轄の警察署長の首も全部飛ぶな。あいつ等の行動とそれに対応した警察の幹部とのやり取りのデータは探せば出てくると思うからね。それに今はこの事件の捜査の権限は遼帝国山岳レンジャーにある。今、俺達が見ている出来事は俺達には何の関係もない出来事だ。責任の所在はライラにあるってこと。それに今回、厚生局の作った化け物は正体不明の正義の味方に退治されちゃったんだから何の問題にもならないんじゃないの?東都警察は正義の味方に感謝状を渡すべきだな」 

 あっさりとそう言ってのけた嵯峨を困ったような表情で高梨が見つめていた。

「そんなだから兄さんは嫌われるんですよ。東都警察はともかくとして、ライラさんにまた嫌われますよ。これ以上嫌われてどうするつもりですか?肉親で憎しみあうのは弟としてあまり見たい光景ではありません」 

 高梨の言葉に嵯峨は思わず舌を出す。

「さて、これを見て本局はどう動くかな……それと厚生局の実際に研究を指揮していた連中も……たぶん山岳レンジャーは遼帝国がライラ可愛さにこの事件からは手を引いてくれるから、今回の事件の結末も俺達で幕を引くことになりそうだ。とりあえずあの三人の正義の味方の件は今は忘れよう。二兎を追う者は一兎をも得ずって言うじゃん。厚生局を追い詰めて、内部のこの事件の関係者を捕まえた後にそのことは考えよう。恐らくあの正義の味方の買い手もしばらくは正義の味方の(しつけ)で手いっぱいで動くことはできないだろうから。厚生局の大掃除が済んでからそっちは調べ直そう。厚生局は本当に遼北本国の指示でこの実験を始めたのか、それとも厚生局の独自の判断なのか。場合によっては政治問題になるな。これは難しい事件だぞ、茜」 

 まるで他人事のように嵯峨は伸びをして混乱が収まろうとしている画面を消した。

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