第137話 ホームグラウンドの情報
「見てな」
どんぶりを抱えて近寄るカウラに一言言うと画面が高速で切り替わっていく。
「監視カメラですわね。……それにしては位置がおかしくありません?」
茜の不審そうな顔にかなめは不敵な笑みで答える。同盟本部ビルの前に小夏くらいの年の少女が目つきの悪い男に連れられて画面の中に入って来た。
「こんなの良く見つけたな」
カウラがそう言った瞬間、少女から発せられた衝撃波で次々と周りの人物や車、そのほかの障害物が撥ね飛ばされて行った。
「勘だよ勘。そこだけはアタシも自信があるからな。あんな都心で暴走させるんだ。周りに監視カメラの一つや二つあると考えるのが普通だろ?」
一言そう言ってかなめは微笑んだ。しかし誠達には彼女を見るような余裕は無かった。画面の中で少女は自分のしたことに戸惑ったように頭を抱えたまましゃがみこんでいた。
「これがあの肉の塊に……」
そんな低くつぶやくような誠の言葉に、一同からそれまでの歓喜の表情が消えた。そして不安定な位置に取り付けられていたらしく画面は転倒し空だけを映し出すようになっていた。
「西園寺、あの少女の写真は?」
「もうすでに所轄に送った。連中もさすがにここまで話がでかくなれば面倒だろうが動かないわけには行かないでしょ?それと本局経由でライラの山岳レンジャーにも転送済み。後は彼等の運にかけるしかないけどね。まあこの情報は証拠性で何度か検察が裁判で証拠にしようとして認められなかった系統のネットから拾った映像ですからねえ。物的証拠が出てこないと意味無いんだけどさ」
そう言うとかなめは首筋のジャックからコードを抜いてそのまま呆然としている島田からチャーハンを取り上げて食べ始めた。
「かなめちゃん!」
「サラ。良いじゃねえか。島田もようやく食欲が出たみたいだし」
かなめの言うようにすでに島田はチャーシュー麺のどんぶりに手をやっていた。
「ええ、食欲は出てますよ。当然デザートに西園寺さんのおごりがあるんでしょうからその分も空けておきますから」
「そうですわね。こんな情報を知っておきながら独り占めなんて……厳罰が必要ですわ」
「つーわけだ。それ食い終わったら……工場の生協は24時間営業だからな。ケーキ買って来いよ」
茜とランの言葉にかなめは渋い顔をする。だが、誰もが煮詰まってぴりぴりしていた空気が変わって晴れやかな表情を浮かべていた。
「わかったよ……ちょっと待った!」
かなめはそう言うとすぐに開いていた一番奥の端末に飛びついた。すぐさまうなじのジャックにケーブルを挿して端末を起動させる。
「おい、どうした?」
驚いたランの言葉などに耳を貸すことも無くすばやく切り替わっていく画面をかなめはただにらみつけた。