第98話 餌に食いついた男の目
「どうせガセでしょ?」
男はそう言って笑いながらかなめの手にあるディスクを手にした。そして何度かじっくりと見つめた後、部下にそれを渡した。その表情には突然のおいしい話を持って来た来襲者の気前の良さへの驚きがあった。そこから誠もそれが技術部の将校達が何処からか非合法な手段で盗み出したデータで、明らかに法外な価値を持つものであることを察した。
「じゃあ、こちらも後ほど情報を送りますよ。まあ、この情報が本物だった時に限りますがね」
笑顔が隠しきれないという男の表情にかなめが満足げに頷いて見せる。
「まああれの中身をしっかり見てからで良いぜ。時間はこちらもたっぷりあるんだ。待ってやるよ……ただその情報の中身の鮮度の方は保証できねえからな。早めに見といた方が良い。その方が金になる」
そう言うとかなめは立ち上がった。チンピラ達は殺気を隠さずに誠達をにらみつけていた。
「それと三下の教育はしっかりしておくべきだな。これじゃあ危なくてしょうがねえや。まあ生身の兵隊さんとやりあうにはこのくらい元気が良くないと駄目ってことか?それなら話は分かるが、アタシはこの身体だ。相手が悪かったな」
かなめの言葉に男は苦笑いを浮かべた。
「行くぞ、神前。もうここには用はねえ」
そう言って重いドアを開けて出て行くかなめのあとを誠は生まれたばかりのひよこのようにくっついて歩いた。かなめは颯爽と肩で風を切るようにして事務所の目の前に止めた銀色のスポーツカーに向かって歩いた。
「何ですか?あのディスク。情報って……それに鮮度がどうとかって言ってましたよね。不味い情報じゃないでしょうね……司法局の内部情報とかは流出させたら今度は始末書どころじゃ済みませんよ」
狭い運転席に体をねじ込むようにして座った誠を相変わらずの殺気を感じるような視線でかなめは見つめた。