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魔王の戦場

どうも俺は魔王らしく見えないようなので、魔法で呼び出した邪神様の鎧をまとい、彼らに近づいた。
白一色で統一された光の神殿所属の軍のようだ。
こちらに気づき、一応、歩兵が盾を並べて壁を作る。
その盾の後ろからヒュンと唸る矢が雨のように降ってきたが、矢じりが鎧に当たって弾かれた瞬間、その弾かれた矢の数だけ、盾の向こうから「ぐぇっ」という苦悶の声が聞こえた。邪神様の呪詛のおかげで射手に痛みが返っているようだ。
俺は外れて地面に刺さった矢を蹴散らしながら前にゆっくりと進んだ。そして、矢の攻撃が射手に返ってくると気付いたのか矢の攻撃はすぐに止んだ。
そして、次は火球が飛んできた。激しく熱く燃える球だった。それも邪神様の鎧に当たったが、敵の方から火傷する苦痛の声は聞こえなかった。邪神様の呪詛をあの大賢者辺りが防ぎ、大魔導師が盾の後ろで攻撃魔法を唱えているのだろう。なかなか苛烈な火球で、鎧に当たって四散した火が飛び散り、周囲の地面をドロリとしたマグマに変えていた。
邪神様の鎧を貫けないから周りの地面を熱で溶解させてマグマの中に沈めるつもりかもしれない。それほど苛烈で激しい火球が連続して飛んできた。
邪神様の鎧は強固で、俺に火傷はないが、足元が歩きにくいほどマグマ化していた。
「仕方ない、ちょいとこちらも本気を出すか」
それは勇者を一瞬で凍らせた冷気よりも数倍強いものだった。マグマ状態だった地面が一瞬で冷され、それは盾を持つ歩兵の足元にも広がり、俺に近かった者から足元の冷気で凍り付いていった。
「う、うわぁぁ・・・」
俺を中心に地面を白くしていく冷気におびえた兵士が我先に逃走を始めた。
「逃げるな、愚か者め、光の神が見ておられるぞ」
白馬に乗っていた騎士らしき男が、遁走する兵士らを罵倒していた。
俺は進み続けた。行く手を塞いでいた盾の壁は、支えていた人間が凍りついて砕けて壁ではなくなっていた。
「お、おのれ!」
白馬に乗っていた騎士が、ランスを手に馬の鼻先を向けて突撃してきた。
「おいおい、今俺に近づいたら」
俺が忠告するよりも早く俺に近づいた馬の脚が凍り付いて砕けた。さらに、足を失った馬から投げ出されて地面に落ちた騎士も氷の彫像になる。
「もう少しマシな敵はいないのか」
氷の彫像たちを抜けて突き進むと、俺の冷気を魔法で防いだらしい大賢者と大魔導師がいた。だが、俺の冷気を防ぐので神経を使っているのか攻撃はしてこない。
「残るは、あんたらふたりだけのようだな」
光の使徒の兵士たちは逃げ散って。その戦場には、逃げられない氷の彫像たちと大賢者と大魔導師だけが俺の前に残っていた。
「まさか、これほどとは」
大賢者が悔しそうに歯ぎしりする。
「覚悟はできてるよな?」
一緒に飯を食った仲だが、魔王としてけじめというものがある。
俺が二人に近づこうとしたとき、背後から火球が飛んできた。
振り返ると、慌てて駆け寄ってきたらしい賢者と魔導師がいた。
「悪いけど、そんなスケベはげでも、わたしの先生なのでね」
「ええ、そうです、師匠様ですから」
賢者も身構えている。
「やれやれ、しょうがない、じいさんたち、もう降参だよな」
「ん?」
「ああ、儂らの負けじゃ。さすが魔王、バケモノじゃな」
大魔導師が苦笑していた。
「なら、これで、終わりだ」
俺は大賢者と大魔導師を無視するように背を向けた。
「いいのか?」
大賢者が俺に声をかける。
「戦争しに来たわけじゃないって言っただろ、こちらの強さを知り恐怖して降伏した相手の命を取るなんて無益なこと、邪神様の教えにもない」
勝つためには手段を択ばないのが、邪神様の教えであり、勝ったら必ず負けた相手の命を取れという教えはない。
とにかく、俺は時間を無駄にせず王都へ早く向かいたいだけだった。

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