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着替えを終えたわたし達は、同時に店の外へ出た。店長が店の鍵を施錠するのを見届け、さあ解散というところで──「雪音ちゃん」
一瞬、聞き間違いかと思った。声がする方を向くと、黒いSUV車が路肩に停まっている。運転席から降りて来たのは、"あの"オネエだった。
わたしは心の中で悲鳴を上げた。よりによって、このタイミングで──。
横目で春香達を見ると、目が点になっている。そしてすかさず、「ちょっと!アレ誰よ!アンタの名前呼んでなかった!?」小声だが、服をグイグイと引っ張られる。
「あー・・・」なんと説明していいものか。
オネエがこちらへ向かってくる。わたしはもう覚悟を決めた。
「雪音ちゃん、お疲れ様」
わたしが口を開く前に、春香にガッチリと腕をホールドされた。「お疲れ様ですぅ。初めまして、わたし雪音の同僚の春香っていいます」やっぱりな、そう来ると思った。
「・・・あら、そうなの。どうも初めまして。あたしは雪音ちゃんのお友達・・・でいいかしら?遊里です」
笑顔のオネエに対して、春香は言葉を失っていた。店長も、固まっている。
無理もない、一見モデル並の身長でスポーツマンのようなガタイの男が、オネエ言葉なんだから。
「あ・・・店長の木下です。どうぞよろしく」空気を察した店長が自ら名乗り出た。さすが年の功。
「あら、雪音ちゃんの店長さん。どうぞよろしく」オネエの笑顔に店長が見惚れているように見えたが、気のせいと思うことにする。
「・・・車だったんですね」
「そうなの、歩きではちょっと遠くてね。行けるかしら?」
「あ、はい。じゃあ、わたしはここで」
春香はわたしを掴む腕に力を込めた。「明日、詳しく聞かせてもらうわよ」
──詳しく話せたら、なんぼほど楽か。
視線で人を殺せるなら、わたしは車に乗り込む前に死んでいたと思う。それはサイドミラー越しにも感じ、車が次の信号を曲がるまで続いた。
明日が、恐ろしい。