8
「ちょっ・・・離して!」力は、わたしのほうが強い。抵抗する未来ちゃんを、力尽くで引っ張っていく。「やだ・・・雪音ちゃん!」
未来ちゃんを掴む手が、少し緩んだ。名前を呼ばれたのはいつぶりだろう。こんな状況でも、嬉しいと思う自分がいた。
そのまま女子トイレへと連れて行く。誰もいないのを確認して、手を離した。
「なんで無視するの?」逃げられる前に先手を打った。
「・・・してないよ」未来ちゃんは下を向いたまま目を合わせない。
「してるよ。ずっと」
「っ・・・してない!」
「してる。じゃあ、なんで雪音のこと見ない の」
未来ちゃんは目を泳がせ、言葉を詰まらせた。「・・・雪音ちゃんが・・・」やっと聞き取れる、小さな声だった。
「雪音がなに?」
「雪音ちゃんが、未来のこと引っ張ったから!」
「・・・え?」言葉の意味を、理解できなかった。「未来ちゃんを引っ張った?」
「引っ張ったじゃん!あの時・・・公園で」
"あの時"の場面が、頭に浮かぶ。あの子が未来ちゃんの首にぶら下がり、一緒に落ちていく姿を──。
「違うよ・・・雪音はそんなことしてない!」
「じゃあ誰がやったの!?」ここで未来ちゃんがわたしを見る。「あの時、誰もいなかったじゃん。未来、引っ張られたもん!」
言葉が、出なかった。
──そういうことか。未来ちゃんはあの時、わたしのせいで落ちたと思ってるんだ。わたしがやったと。
「違う・・・雪音じゃない・・・」
「うそつき!」
「うそじゃないよ!だって、だって雪音、上に 居たんだよ!未来ちゃん助けようとしたんだよ!」
思い当たる節があるのか、未来ちゃんは少し考え込んだ。「でも、引っ張られたもん」
「あれは・・・」なんて言えばいい?未来ちゃんには見えない子がそこには居て、その子がやったと?それを口に出せるほど、わたしは"バカ"じゃない。「ほんとに、違うの・・・雪音じゃないんだよ・・・」
未来ちゃんは、キッとわたしを睨んだ。涙目になりながら。「もう知らない!雪音ちゃんなんかきらい!」ドアが勢いよく開き、気づけばわたしは1人、トイレに佇んでいた。
シーンとする中、徐々に絶望感が襲ってくる。
わたしは、どうすればいいんだろう。どうすれば、未来ちゃんと仲直り出来る?
誰か、教えて──。