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第五十話 「八百八狸 対 千尾狐 伍」

 「うりゃぁぁ!!」
 ガンッ! ガンッ! ガンッ! 竹伐(たけき)り兄弟の竹蔵(たけぞう)猛攻(もうこう)を、千尾狐(せんびぎつね)軍幹部の八尾(はちお)が表情を変えず、一本の刀で()なしている。
 「“竹馬(たけうま)”ぁ!!」
 ズバァァァ!!! 竹蔵が地を()二対(につい)斬撃(ざんげき)を放つ。ガガガァァッ!!! 八尾は相変わらずの無表情で力任せに刀を振り、斬撃を相殺(そうさい)する。
 「・・・」
 八尾が(おもむろ)に持っていた刀を見ると、ボロボロに刃こぼれをしている。すると八尾は、その刀をヒョイと投げ捨て、側で倒れている狸達の刀を拾い上げ、それを竹蔵に向ける。
 「・・・てめぇ!」
 竹蔵が顔を真っ赤にして、怒りで腕を震わせている。どうやら八尾は、自分が()ぎ倒した狸達の武器を勝手に使い、使えなくなればまた新しい物を使っているのだ。竹蔵はその事に、怒り心頭(しんとう)なのである。
 「・・・」
 しかし、そんな事はお(かま)い無しの八尾は、相変わらず表情を変えず、新しい刀を手に竹蔵の元へツカツカと近づいて来る。
 「“竹馬群生(たけうまぐんせい)”!!」
 ズバズバズバァァ!!! 竹蔵が両の刀を次々に振り下ろし、(いく)つもの斬撃が八尾に向かう。ガンガンガンガン!! 八尾は刀で、(みずか)らを()ろうとする斬撃を次々に(はじ)いていく。その(すき)に竹蔵はすかさず跳び上がり、斬撃で手一杯の八尾に狙いを定め、両の刀を振り上げる。
 「“竹狩(たけがり)”ぃ!!」
 竹蔵の二対の刀が八尾に向かう。殺気(さっき)を感じ取った八尾は、表情を変えず、持っていた刀を猛然(もうぜん)と振る。すると巨大な斬撃が発生し、竹蔵が放った斬撃は相殺され、その斬撃はそのまま竹蔵に向かう。
 「何っ!!?」
 ガンッ!!! 竹蔵は、咄嗟(とっさ)に両の刀で斬撃を弾くが、その勢いに押されて後方へ吹き飛ぶ。ドカァン! 地面に勢いよく叩きつけられた竹蔵は、痛みで顔を(ゆが)ませる。
 「・・・い、いでぇ」
 竹蔵がすぐに視線を八尾に向けると、そこに八尾の姿は無い。(あわ)てて辺りを見渡していると、頭上を巨大な影が(おお)う。見上げると、宙高く飛び上がった八尾が、刀を振り上げている。竹蔵が目を見開く。
 「・・・まずい!」
 逃げようとするが、竹蔵の体は(ひる)んで動かない。(そば)に転がった刀に手を伸ばすが、八尾の剣は眼前(がんぜん)まで迫っている。竹蔵が思わず目を(つぶ)る。刹那(せつな)、ガキィィン!! 突如(とつじょ)鳴り響いた鋭い金属音に、竹蔵が目を開けると、目の前に大薙刀(おおなぎなた)の剣先が見える。
 「間に合って良かった」
 竹蔵が顔を上げると、そこには薙刀を振り下ろしたウンケイの姿がある。
 「・・・ウンケイか!」
 「何を(なさ)けねぇ顔してんだ」
 ウンケイがニッと笑い、竹蔵に手を差し出す。それを見た竹蔵も照れ臭そうに笑い、ウンケイの手を取って立ち上がる。
 「・・・」
 一方の八尾は、持っている刀に目を向けている。刀はウンケイの一撃で折れている。
 「・・・確かにこいつは強そうだな」
 ウンケイが八尾を(にら)み、薙刀を構える。竹蔵も二対の刀を拾い、それを構える。
 「・・・」
 八尾が目の前の二人をギロリと睨む。


 一方、同じ戦場の中、強力な砲弾(ほうだん)()り出す絡繰(からくり)に乗った千尾狐幹部のキンモクが、八百八狸達を()()めている。
 「クククク! 馬鹿め! 兵力が違うのは一目瞭然(いちもくりょうぜん)! 何度向かって来ても同じ事! この狐魂砲(こんこんほう)の前では()(すべ)も無いだろう! クククク!」
 ドオォン! ドオォン! 次々と砲弾は放たれるが、狸達はそれから逃げつつも、キンモクを()ち取ろうと向かって行く。
 「おい! 大丈夫か!? しっかりしろ!」
 そんな中、一人の狸が砲撃によって体を火傷(やけど)しており、もう一人が肩を抱いて声を()けている。
 「・・・俺の事はいいから、・・・早く逃げろ」
 「そんな事出来る訳ねぇだろ! なんとか、ハァハァ、なんとか、陰になる所まで移動するから、頑張ってくれ!」
 涙目になった狸が、負傷した狸の腕を自分の肩に回させ、立ち上がって逃げようとする。すると、その様子がキンモクに見つかってしまう。
 「クククク。そこにも居たか」
 絡繰(からくり)の砲弾が、逃げようとする狸達に向けられる。逃げる狸はそれに気が付き、更に急いで逃げようとする。
 「くらえ! 狐魂砲(こんこんほう)!」
 ドオォォン!! 砲弾が放たれ、狸は咄嗟(とっさ)に、負傷した狸を(かば)うよう背中を向け目を瞑る。刹那、ギィィィン!!! バゴォォン!! 何故か自分達の後ろで轟いた爆発音に、狸が思わず振り返ると、目の前には竹伐り兄弟の竹次(たけじ)が、二対の刀を両手に立っている。
 「・・・た、竹次さん!!」
 救世主の登場に、狸はボロボロと涙を流している。
 「・・・無事か?」
 竹次が首だけを横に向けて(たず)ねる。
 「グスッ・・・はい!」
 狸が涙を(ぬぐ)うと、再び負傷した狸を抱えてその場を離れる。
 「クッ! 小癪(こしゃく)な! 貴様は八尾にやられたんじゃなかったのか? 負け犬が今更(いまさら)何をしに来た?」
 キンモクがニヤリと笑いながら、砲弾を竹次に向ける。
 「・・・」
 竹次は黙ったまま刀を構える。
 「死ねぇ! 狐魂砲(こんこんほう)!」
 ドオォォン!! 再び放たれた砲弾に、竹次は逃げないどころか逆に向かって行き、刀を振り上げる。ギィィィン!!! 竹次の刀は砲弾を斬り、斬られた砲弾がキンモクの方へ吹き飛んで行く。キンモクが慌てふためく。
 「何だとぉ!?」
 バゴォォォン!!! 爆炎が燃え広がる中、竹次は後方へ下がって距離を取る。
 「・・・」
 煙が晴れると、キンモクの絡繰から巨大な盾が出ており、周囲のものが吹き飛んでいる中、キンモクと絡繰の乗り物は無事なようである。
 「・・・貴様よくも! 許さんぞ!」
 激昂したキンモクが、絡繰を何やら操作すると、絡繰の乗り物から腕のような物が二本出現し、その先端は巨大な刃物になっている。
 「・・・」
 竹次も静かに刀を構える。


 「うおぉぉ!!」
 狸達が刀を(かか)げ、一斉(いっせい)に駆けて行く。しかしその反対側で迎えているのも狸達で、(はた)から見れば味方同士で争っている。そんな様子を崖上(がけうえ)から眺めているのは、千尾狐幹部のタマモである。どうやらタマモの幻術(げんじゅつ)により、狸達は相手が狐に見えているようである。
 「フフ。ごめんね。可哀想(かわいそう)だけど、そちらで数を減らしてちょうだい」
 タマモが(あや)しく微笑(ほほえ)む。
 「“(かい)”」
 すると、味方同士で戦っていた狸達が突然(われ)に返り、呆然(ぼうぜん)としている。
 「・・・さあ、敵はあっちじゃぞ」
 声に狸達が振り返ると、そこには太一郎が優しく微笑んでいる。その後ろではポン太とブンブクが立っている。
 「あれ? ・・・は、はい!」
 狸達が一斉に戦場へ戻って行く。その様子を見送った太一郎が、崖上にいるタマモに目をやる。
 「・・・ゴクリ。・・・こんな所で大将に会うとはね」
 「ほっほっほ。ただの散歩じゃよ」
 タマモの(ひたい)から汗がタラリと()れる。太一郎は、穏やかながら鋭い眼差(まなざ)しでタマモを睨む。
 
 完

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