戦国ROCK

　ガガガガガァッ！！！　猛烈(もうれつ)な攻撃を仕掛ける八尾(はちお)に対し、ウンケイが薙刀(なぎなた)で懸命(けんめい)にそれを受けていく。しかしあまりの速さと勢いに、ウンケイは受けるのがやっとで、完全に防戦一方である。
　「ギャハハハ！　さっきの威勢(いせい)はどうしたぁ！？」
　「・・・くっ！」
　ガシッ！！　すると、八尾がウンケイの薙刀の刃を掴む。ウンケイは咄嗟(とっさ)に振り払おうとするが、八尾に掴まれた薙刀はびくとも動かない。刹那(せつな)、バシィィン！！　八尾の巨大な八又(はちまた)の尻尾が、ウンケイの脇腹を叩く。ウンケイは薙刀ごと、物凄(ものすご)い勢いで吹き飛ぶ。
　「・・・うっ！！」
　吹き飛ばされたウンケイは、怯(ひる)んで立ち上がれずにいる。
　「所詮(しょせん)は人間。人間如(ごと)きが首を挟(はさ)むなよ」
　ウンケイが咄嗟に顔を上げると、向こうにいた筈(はず)の八尾がいつの間にか、目の前に立っている。
　（・・・こいつ、いつの間に！？）
　ウンケイの額(ひたい)を汗がたらりと流れる。
　「あばよ人間」
　八尾が足を振り上げ、ウンケイを踏(ふ)みつけようとする。ウンケイは咄嗟に腕で防ごうとする。
　「“竹伐鋏(たけきりばさみ)”ぃ！！」
　ズバァァ！！　八尾の背後から、竹伐(たけき)り兄弟の竹蔵(たけぞう)が刀を振る。
　「・・・この野郎」
　ガン！　しかし竹蔵の刀は、八又の尻尾で止められる。ブオォォン！！　そして八尾が勢いよく尻尾を振るが、竹蔵は後方に反り返りそれを躱(かわ)す。
　「ケッ！　何て筋肉だよ。俺が今斬ったのぁ、尻尾だぜ？」
　竹蔵が斬った八尾の尻尾は、血こそ滴(したた)っているものの斬り落とされてはおらず、それどころか、今切った筈の尻尾で攻撃された事に、竹蔵は驚いている。
　「まだ動けたのか。どうやら先に殺して欲しいみてぇだな」
　八尾が竹蔵を睨(にら)み、ペロリと舌舐(な)めずりをする。
　「・・・悪いが、二対一だ」
　八尾の背後で、ウンケイも立ち上がり薙刀を構えている。
　「ハハハ！　二人で足りるか？」
　八尾がニヤリと笑う。
　「ケッ！　舐めんなよなぁ！」
　竹蔵が二対の刀を振り上げる。すかさずウンケイも薙刀を振り上げる。ガンッ！！！　振り下ろされた竹蔵の刀とウンケイの薙刀を、八尾が生身の両腕で防ぐ。そしてニヤリと笑う。


　一方、山の様に巨大な九尾(きゅうび)の白狐(びゃっこ)に変化した白尚坊(はくしょうぼう)を前に、八百八狸(やおやだぬき)達が武器を構えている。
　「何と禍々(まがまが)しい姿」
　先頭に立つ太一郎が目を顰(ひそ)める。
　「フフフ。美しいだろう？」
　巨大化した白尚坊が口を開く。
　「いや、化け物じゃ」
　太一郎が仕込み杖(づえ)を抜く。太一郎の隣のしゃらくも腕を捲(まく)る。
　「フフフ。まとめて掛かって来い」
　白尚坊が目まで届きそうな程口角を上げて笑う。
　「行くぜみんなァ！！」
　「おぉぉぉぉ！！！」
　しゃらくが八百八狸達を煽(あお)り、狸達はそれに呼応(こおう)する。しゃらくを先頭に、狸達が巨大な白尚坊に突っ込んで行く。
　「ほっほ。頼もしいのう」
　太一郎がしゃらくの背中を見つめ、微笑(ほほえ)む。
　「おらァァァ！！！」
　先頭を走るしゃらくが宙高く跳び上がり、白尚坊の眼前(がんぜん)に迫る。
　「“虎猫鼓(どらねこ)”ォォ！！！」
　しゃらくが腕を振りかぶる。しかし白尚坊はニヤリと笑う。
　「フフフ。活きが良くて結構」
　すると白尚坊が、しゃらくに向かって息を吹きかける。白尚坊からすればただの吐息(といき)だが、しゃらくからすれば突風。しゃらくはたちまち吹き飛ばされる。吹き飛ばされたしゃらくは、地面に勢いよく落下する。
　「しゃらく大丈夫か！？」
　心配した狸達がしゃらくに駆け寄る。
　「大丈夫だ！　おれはいいから、てめェの心配しろ！」
　鼻血をだらりと垂らしたしゃらくが立ち上がり、自分の頬(ほほ)を両手でバシバシ叩く。狸達も白尚坊に向き直り武器を構えるが、しゃらくを吐息一つで吹き飛ばした巨大な白尚坊を前に、何人かは震えている。
　「・・・どうすっかなァ。あんなでけェの」
　しゃらくが、白尚坊の山のように巨大な全身を見回す。すると、白尚坊の肩を物凄い速さで駆け抜ける太一郎の姿を見る。
　「うおォォ！　速(はえ)ェ！　やっぱあのジイさん、只(ただ)もンじゃねェなァ！」
　己が肩を駆け抜ける太一郎に気付いた白尚坊が、太一郎を払おうと逆の腕を振り上げる。
　「来たか。太一郎」
　「白尚坊様。胸をお借りしますぞ」
　太一郎が仕込み杖を構え、跳び上がる。
　「“一歩閃狸(いちほせんり)”」
　ズバズバズバァァァ！！！　太一郎がまるで稲妻(いなづま)のような速さで、白尚坊が振り下ろした手を斬り裂(さ)く。斬られた箇所からは血が噴(ふ)き出し、太一郎の体にも血が浴(あ)びせられていく。
　「・・・」
　白尚坊が目を顰(ひそ)める。一方で、先ほど白尚坊に畏怖(いふ)して逃げ出した狐狸達は、既(すで)に戻って来ており再び刀を手に戦っている。特に千尾狐(せんびぎつね)達は息を吹き返し、劣勢(れっせい)になっていた戦況をひっくり返しつつある。
　「太一郎様に続けぇ！！」
　しかし、ど根性(こんじょう)が持ち味の八百八狸達も負けず劣らず、槍(やり)や刀を手に白尚坊に突っ込んで行く。
　「これはまさに痛手(いたで)だな。フフフフ」
　白尚坊が肩に乗る太一郎を見つめ、目まで届きそうな程口角を上げて笑う。
　「・・・ハァハァ。・・・やはり効かぬか」
　太一郎が肩で息をしている。
　「フフフ。老いたな太一郎よ。その様な攻撃では、ただ儂(わし)の肌を撫(な)ぜるだけだ。見ておれ」
　すると白尚坊が大きく息を吸い込み、まるで鳩(はと)の様に胸が膨(ふく)れていく。太一郎が目を見開く。
　「逃げろぉ！！」
　太一郎が下の狸達に絶叫する。
　「ギャオォォォォォォ！！！！！！」
　白尚坊が途轍(とてつ)もない声量の咆哮(ほうこう)を繰り出す。すると、白尚坊の足元にいた狸達が、その勢いに吹き飛んで行く。吹き飛ばされた狸達は鼓膜(こまく)が破れ、耳から血を流し、気を失って倒れている。その声量は、向こうで戦っている狐狸達も、耳を塞(ふさ)ぐ程である。肩にいた太一郎は、耳を塞ぎながら地面に落下する。咆哮を間一髪(かんいっぱつ)で避けたしゃらくも、耳を塞いで地面に跪(ひざまず)いている。
　「・・・何だこりゃあ！」
　離れた所で戦っていたウンケイも、思わず耳を塞いでいる。隣では竹蔵も同様に耳を塞いでいる。
　「・・・ハハハ！　咆哮だけでここまでの威力」
　二人と相対(あいたい)していた八尾も耳を塞ぎながら、ニヤリと笑う。
　「・・・や、やはり無理だ・・・。こいつら倒せても、あんなのに勝てっこねぇ！」
　向こう側で戦っていた狸達の半数以上が、巨大な白尚坊に再び戦意喪失(せんいそうしつ)している。
　「・・・ジ、ジイさん！　大丈夫か！？」
　しゃらくが膝を着きながら、太一郎の元へ近寄る。
　「・・・しゃらく君、皆はどうなった・・・？」
　しゃらくに抱えられた太一郎が、震えながらしゃらくの顔を見上げる。
　「皆はやられちまった」
　「・・・そうか。・・・わしももう動けそうにない。・・・わしなんぞに付いて来てくれたばかりに、守ってやれず面目(めんぼく)ないのう・・・」
　太一郎が様々な思いに目を潤(うる)ませる。すると、しゃらくが太一郎を地面にそっと下ろして立ち上がる。
　「フフフ。人間の小僧よ。お前に何が出来ると云うのだ？」
　白尚坊が、一人立ち上がるしゃらくを見てニヤリと笑う。すると、しゃらくがフッと姿を消す。白尚坊が殺気を感じて横を振り向こうとする。刹那、バゴォォォン！！！　しゃらくが白尚坊の頬を凄まじい勢いで殴る。その勢いに、殴られた白尚坊の巨体が浮き、凄まじい地響きと共に地面に倒れる。
　「八百八狸はまだ負けてねェェ！！　こっからだぜ狐ジジイ！」

　完