努力
悪夢から目覚めたわしは、もう一度悪夢を見るのが怖くなった。
今日はもう寝ないでおこう。
時計を見ると、日が昇るまでにはまだまだ時間があることが分かった。
わしはこの時間を使って、わしが今までにどのような努力をしてきたのかを思い出して、自分を褒めることにした。
そうでもしないと自己嫌悪によるストレスで加齢臭が濃くなる気がした。
わしは初孫、つまりはる君が誕生した時から孫と楽しく過ごすために習得した技術がある。
読唇術だ。
なぜこのようなものを身につけたのかといえば、わしがジジイだからだ。
ジジイというものは、段々と耳が聞こえなくなっていくものだ。
孫の言っていることを聞き取れずに何度も聞き返すようなことになるのを避けるために、わしは必死で読唇術を習得したのだ。
これは自分で自分を褒めてもいいだろう。
わし頑張った。
わし偉い。
あとは、若者の気持ちを知るために色々な本を読んだ。
特に「若者のキモチまるわかり!」というタイトルの本を読み込んだ。
その本は今でも枕元に置いてある。
大変参考にした本だ。
わしはせっかくだし久しぶりに読んでみようと、部屋の電気をつけ、その本を手に取った。
うむ。
何度も何度も読み返したせいで、受験生の参考書のように少しボロくなっている。
これを暗記しようと必死になっていた頃が懐かしい。
あの頃のわし、若かったなぁ。
アオいのぉ。
感傷に浸りながらページをめくる。
ふと、何気なく表紙を見てみた。
何度も見た馴染み深い表紙だ。
うむ。
やはり懐か……。
は?
よくタイトルを見てみると「若者のキモチまるわかり!」はゴシック体の文字で書かれていて、その前に明朝体で小さく「平安時代」と書かれていた。
わしはそっと本を閉じ、枕元に置いた。
涙がとめどなく溢れ出てくる。
もう駄目だ。