レン君
僕は祖父からのSOSを受け、悪霊が宿ったお手玉を処分する方法を考えていた。
何も考えずに処分するわけにはいかない。
下手なことをすれば、悪霊がお手玉から世に解き放たれてしまうかもしれないからだ。
色々考えてみたが、一人ではいいアイデアが出なかったので、僕は友達に相談することにした。
友達の名前は、レン君。
レン君は頭がいい。
きっとナイスなアイデアを授けてくれるはずだ。
学校の昼休みに自分の席で静かに本を読んでいたレン君に、今悩んでいることとそうなった経緯を説明した。
レン君は七歳とは思えないほど難しい顔をして言った。
「それは慎重に事を運ぶ必要があるな。悪霊、か」
「そうなんだよ。みんなに白い目で見られるのが嫌だったから今日学校に持ってきてはいないけど、実物は家に厳重に保管してるよ」
「そうか。じゃあ今日遊びに行ってもいいか? 実際に見てみたい」
「もちろん」
そういうわけで放課後。
僕とレン君は僕の部屋で悪霊お手玉を見ていた。
「これに悪霊が宿っているのか」
レン君がお手玉を睨みながら言った。
「そうだよ」
僕は重々しく頷いた。
「んー。確かにずっと見ているとなんだか気分が悪くなってきた気がする」
レン君は頭を動かしてあらゆる角度からお手玉を観察している。
「なにかいいアイデアはないかな?」
僕が訊くとレン君は顎に手を当てて何やら考えながら答えた。
「そうだな……。お手玉自体をどうにかするよりも先に、これに宿っている悪霊に取り憑かれたという、はるの祖母と実際に会ってみたいな。そうすれば何か分かることがあるかもしれない。正直に言えば、現時点ではこのお手玉を安全に処分する方法がオレには思いつかないんだ」
「そっか。じゃあ、今度じいじたちに友達を連れて遊びに行ってもいいか訊いてみるよ」
「よろしく頼む。では許可が下りたと仮定して、実際にオレがはるの祖母宅に行った際の作戦を考えておこう」
「作戦?」
「はるの祖母から必要な情報を聞き出すためには、それも悪霊に勘づかれないように聞き出すためには、オレたちの連携が重要になってくるだろう」
「確かにそうかも」
「まずはオレたちが必要としている情報は何かということを改めて考えようか」
「んー。……難しいな。どういう情報が参考になるのか分からないや」
「そうだな……じゃあ参考になるかどうかは考えないで、とにかく情報をかき集めてそれを後で精査することにしようか」
「そうだね。その方がいいかも」
「じゃあ次は、悪霊に気付かれないようにオレたちが意思疎通を図る方法を考えよう」
「んー。それまた難しいね」
「ああ。しかしオレたちが悪霊について探っていることが悪霊自身にバレたらマズいことになるかもしれないだろう」
「それは確かに。……パッと思いつく限りじゃ、携帯端末を使った通信とかが考えられるけど」
「オレたちは二人とも持っていないな」
「そうなんだよね。んー。あ! そうだ!」
僕は手のひらをポンと叩いた。
「何か思いついたのか?」
「うん。モスキート音で会話するんだよ」
「……ん?」
レン君は首を傾げた。
僕は得意げに説明する。
「レン君は頭がいいから知ってると思うけど、お年寄りっていうのは高い音が聞き取りにくいんだよ」
「なるほどな。それでオレたちが会話すれば、はるの祖父母には内容を聞かれずに意思疎通が取れるというわけか」
「そう! どうかな?」
「確かに面白い考えだ。幸いオレたちは変声期を迎えていない。高い声は出せる。……いいかもしれないな。ナイスアイデアだ」
「やったね」
僕は右手でピースサインを作った。
そんな感じで僕たちは作戦会議を続けた。