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第九話 「城門破り」

 門は閉まっている為、門の上の方を向いて、しゃらくが声を上げている。
 「出てこい! 水も食いもんも金も、全部取り返してやる!」
 しゃらくの声を聞きつけ、門の後ろに武装した侍が十数人集まって来ている。槍や刀を構え、門向こうの得体の知れない敵を警戒する。
 「そんじゃア、おれから行くぜ!」
 ドオォン!! ドオォン!! 威勢の良い声の後、物凄い轟音が響いて来る。侍達は驚き、門から距離を取る。離れてみると、音と共に門自体が動いているのが分かる。
 「嘘だろ? 門が動いてる・・・」
 「あれは錠を開けない限り、びくともしないはず。・・・この奥に何がいるってんだ?」
 ドオォン!! ドオォン!! 鳴りやまない轟音に怯える侍達。
 「おりゃァァ!!」
 ドゴオオォォン!!! 大きく強固な門が、開くだけでなく、門自体が破壊される。奥には片足を上げたしゃらくがいる。
 「うわぁぁぁ!!!」
 侍達が声を上げ、城内部の方へ逃げる。門の破片が飛び散る。
 「大将はどこだァァ!?」
 しゃらくが袖を(まく)り上げ、唾を飛ばす。たった今、人間業とは思えない怪力を見せつけられた侍達は、完全に怯んでしまっている。
 「ここだ」
 すると城の上の方から、低く鋭い声が響く。見上げると、最上階にでっぷりと太った大男が、こちらに顔を覗かせている。
 「お前が、ここの大将か?」
 大男改めビルサは、ただならぬ雰囲気を放っているが、しゃらくは全く臆しておらず、両腰に手を置いて仁王(におう)()ちで見上げている。
 「如何(いか)にも。威勢がいいのは結構だがな小僧。門扉を破壊しやがって、一体どうしてくれんだ?」
 「えェ!? だって開けてくんなかったじゃねェかよ! おれ悪くねェよ!」
 しゃらくが慌てる。ビルサはそれを見て笑う。
 「この期に及んで何言ってやがる。どの道、俺の首を取りに来たんだろう?」
 すると、城内部の方へ逃げていった侍達が武装し、しゃらくの周囲を取り囲んでいる。ビルサは依然、頬杖をついて顔を覗かせている。
 「あァ、そうだった。おれはお前をぶっ飛ばしに来たんだ!」
 しゃらくはニッと笑い、指をパキパキ鳴らす。
 「グフフ。生意気な小僧だ。やってみろ」
 ビルサもニヤリと笑い、広間の奥へ入っていく。
「おいおい! 誰をぶっ飛ばすだと? あのお方は十二支(えと)将軍の幹部だぞ? それに、あのお方の元へ辿り着けると思ってんじゃねぇよ。恐らく門は老朽化していたのだろう。この人数を相手に、無事で済むと思うなよ?」
 侍達が武器を持ち、しゃらくにじわじわと近づいて来る。
 「わはは! おもしれェ! どっからでもかかって来い!」
 しゃらくの顔や体に、赤い模様が浮かび上がる。侍達が一斉に四方から襲ってくる。
 「“虎枯(こが)らし”ィ!!」
 しゃらくが両手の鋭い爪を振り回し、侍達の刀や槍が砕け散っていく。侍達は驚愕の表情をする。破片がキラキラと宙を舞っている。
 「もういっちょ! “馬蹄(うま)(こく)”!!」
 しゃらくが、右手を地面に着いて逆立ちになり、蹴りを連打しながら回転する。侍達がどんどん吹っ飛んでいく。
 「うわぁぁぁ!!!」
 しゃらくが、まさに獣の如く暴れ回り、次々に侍達が吹っ飛ばされていく。
 「こ、こいつ神通力(じんつうりき)の使い手だ!」
 「ひぃぃ! 勝てるわけねぇよ!」
 侍達は怯え、完全に戦意喪失している者までいる。
 「おいおいおいおい。小僧一人にやられてんじゃねぇよ」
 すると、城内部から男の声がする。見ると、一人の男が立っている。男は頭を()り上げた丸坊主で、胴の甲冑(かっちゅう)を身に着け、手には(さや)に納まった刀を握っている。
 「コルゾ様!」
「ほう。獣の神通力を使うってのは、てめぇか小僧。キンバはこんな小僧にやられたってのか? みっともねぇなぁ」
 コルゾと呼ばれる男は、鞘から刀を抜き、刀と鞘の両方をしゃらくに向ける。周囲にいた侍達が道を開ける。
 「誰だお前?」
 「ハハハ! コルゾ様が来てくれれば百人力だ! お前はもう終いだぜ!」
 侍達が、一斉に活気づく。
 「へェ。少しは噛み応えあんだろうな? ガルルル」
 しゃらくが構える。
 「つくづく生意気だぜ。ビルサ様への無礼含め、容赦しねぇぞ」
 コルゾが物凄い速さで突っ込んでくる。ガキィィン!! コルゾの刀を、しゃらくが爪で受ける。すると、すかさずもう一方の鞘で、しゃらくを殴る。しゃらくはそれを顔面に受け、吹っ飛ぶ。
 「ハハハ! さすがコルゾ様! 相変わらず強ぇぜ!」
 侍達が、より活気づいている。


 一方、城とは反対の方向を一人歩くウンケイ。その風貌(ふうぼう)に加え、更に険しい顔をしている為、道行く町人たちは怯えて顔を逸らしている。
 「・・・俺が馬鹿だった。考えてみれば暇だったとはいえ、よく知りもしねぇ野郎に何故ついて行こうと思ったのか・・・。どうかしてたぜ」
 すると、正面からウンケイの前に、(まり)が転がってくる。見ると小さな女の子が、トコトコと鞠を追いかけて来ている。ウンケイはしゃがみ、大きな手で鞠を拾う。
 「ほらよ。一人で遊んでんのか?」
 ウンケイが女の子に鞠を差し出す。女の子は鞠を受け取りながら、大口を開けてウンケイの足元から頭までをゆっくり見上げる。
 「うえぇ~ん!!」
 ウンケイを見て、女の子が泣き出してしまう。
 「え!?」
 ウンケイが、並べば人形に見えてしまうほど、小さな女の子を前に慌てている。すると、女の子の母親らしき女が駆けて来る。
 「すみません! うちの子が、何かご迷惑お掛けしましたでしょうか!?」
 母親は慌てて女の子を抱き、怯えた表情でウンケイを見上げる。抱きかかえる腕に力が入っている。
 「・・・いや。驚かせてすまなかった」
 ウンケイは立ち上がり、泣いている子とそれをなだめる母親の脇を通り過ぎる。
 「・・・」
 ウンケイは、黙って町を歩いていく。


 城の最上階の大広間。ビルサが煙管(きせる)(くわ)えて鎮座(ちんざ)している。ビルサの前には、家老と二本牙(にほんきば)の二人が並び正座している。
 「・・・ビルサ様。・・・我々も行かせて下さい」
 キンバが恐る恐る口を開く。隣のバンキも汗だくになっている。
 「・・・小僧一匹。コルゾでは心許ないか?」
 ビルサが煙草(たばこ)の煙をふうと吹く。ゆらりゆらりと広がっていく煙が、硬直した二本牙にかかる。
 「・・・い、いえ。コルゾさんなら・・・しかし・・・」
 キンバは、ばつが悪そうに顔を下げる。
 「しかし、バンキを倒したもう一人が見当たりませんな」
 家老の話を聞き、ビルサがバンキをキッと睨む。バンキは今にも飛び上がりそうになっている。
 「・・・放っておけ。仲間ではないのだろう。来たところで俺の敵では無い」
 「あなた様が、直接手を下さねばらん状況が問題なのです。奴らの関係性の確認も踏まえ、もう一人の行方を探しましょう」
 家老が、淡々とビルサを(まく)し立てる。
 「うるせぇなじじい。分かったよ。何人か捜索に向かわせろ」
 ビルサが面倒くさそうに煙管を咥える。


 「いってェな。そうか二刀流か、油断したぜ」
 しゃらくが、鞘で殴られた自分の頬を撫でる。しゃらくが睨む先では、コルゾが刀と鞘をしゃらくに向けている。
 「何だ、大した事ねぇじゃねぇか」
 コルゾがニヤニヤと笑っている。後ろで侍達も笑っている。
 「ハハハ。さすがは、ビルサ軍軍隊長 “百人斬りのコルゾ ”! お前ごときが勝てる相手じゃねぇんだよ!」
 ドォォォン!! 刹那、大きな音と共にコルゾが吹っ飛ぶ。コルゾの頬は赤く腫れ、口から血が垂れている。周りの侍はもちろん、吹っ飛ばされたコルゾ自身も、何が起きたか分からず目を丸くしている。
 「百人斬り? わはは。どっかの誰かと似てんなァ」
 しゃらくがニッと笑う。

 完

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