月流し.3
涼風が
シダ植物のような葉をつける
髪の毛先に弧状の癖がある金茶色のショートヘア。
十二、三歳くらいの
その複数の
直径三〇メートルあまり。高さが、その半径ほどもありそうな緑の小山の前に立ち、ひときわ小さく見える、ひとりの少年を。
そしていま。
淡紅色の建物の側から、すらりとした
男の方は
その足は、人待ち顔でいる、
🌐🌐🌐
「いい天気だなぁ…。
小高い丘の
日焼けした若い講師に紹介された女性は、セレグレーシュへ、ちらっとだけ目を向けた。
両サイドにひとつかみほどの軟らかな流れをのこしながら、癖のないまっすぐな頭髪を留め飾りで段階的に固定し、背後におろしている――明るい色調をそなえたその金色の流れは、持ち主の腰のあたりまであった。
色白な成人まぎわの女性で、その瞳の虹彩は藍……いや、水色をしている。
繊細そうな顔かたちもさることながら、印象のきれいな人で、セレグレーシュの鼻先ほどの
(闇人だ……)
そう示されたわけではなかったが、セレグレーシュは直感的に
比して、闇人……
その類似性、表面的な共通点の多さは、先祖が同じなのではないかと思えるほどだ。
闇人、亜人のなかには、存在感をそれと見せかける者もいるので、ふつうは慣れがあっても
だが、その女性には、ただ立っているだけでも異質なものを
人間のようにありながら、ありきたりの人の感覚ではつかみきれない向こうの霊調を濃厚に備え、それを隠そうともしていない。
虹彩は水色におちつきがちだが、一瞬、藍の
半数とも、限られた小数とも云われ、割合が不明確ななかにも、その
虹彩の発色が複数存在する瞳。
初顔合わせの場面なのに名乗りが…――仮の呼称すら紹介がなかったのも、彼女が闇人……
その種が名を告げるパターンは、かなり限られてくる。
相手を好いているか、信頼し、気を
そのいずれかだ。
そんな事実から考え合わせてみれば、省略したり
(あいつ以外の闇人を近くに見たのは、久しぶりかも)
さほど遠いとも言えないあたりに、こちらの経過をうかがう
「……さて、もう承知していると思うが、おさらいしておくぞ」
淡褐色の額にシンプルな白金のサークレットをはめた男が、《月流し》こと、適性考査の説明を始めた。
講師陣の例にもれず、三〇になろうとしている
《
その
妙なとり巻きがいて、やんごとない身の上という噂も聞こえてくるが、その人がどんな素性にあるのかは
当然のことながら、いっかいの門下生でしかないセレグレーシュは知るべくもないことだ。
「試験には、この
講師の青い目が
「現地課題を
緊急の事態にさいして、審査官が中止を宣告することもある。
経過にもよるが、自分からドロップアウトを宣言した場合、それにストップを言いわたされた時は不合格と思ってくれていい。
そこそこ真面目にやっていれば、三年後、五年後……試験を受けるチャンスはある。その分、裁定は
いずれにせよ、これを通過しなければ不適切と判断して
試験開始は現地到着後。通常、予定期日からになるが、今から審査は始まっていると思ったほうがいいぞ――以上だ。
質問はあるか?」
「ほかに審査官は?」
「なんだ? この人だと不満なのか?」
「いえ。そう
「せいぜい売りこんでおけよ?
どうにも煮えきらない顔をしているセレグレーシュの視界で、カフルレイリ講師が審査に入る女性に頭をさげた。
〔では、よろしく〕
左手の指先を自身の左耳の上のあたりに
いっぽう。
おとなしそうに見えて、炎のような気性も感じさせる
「ぁあ、忘れるところだった」
たち去るかに見えた講師が、ふたりの方へ足を返した。
「馬を宿にあずける時も、馬具は外すなよ?」
「どうして?」
「この
着けたままでも、こいつらの負担になる仕様じゃないから、そっちの心配は無用だ。
まわりにとやかく言われることもあるだろうが、そのへんは、どうにかして、うまく切り抜けろ。
こいつらを守ってやるだけの実力があるなら外してもいいが……。予備的な知識だからな。おまえは、こいつらに着けられた法具のあつかいを
「ん」
「なら外すな。そこそこの心力と
にやりと挑発的な笑みをみせた講師は、さらに言葉を補足した。
「できない人間が試すなよ? それをやってケガした例もある。
今回の審査官は同業者じゃないから、その方面のサポートは難しいだろう。
考査中に、(そ)んな
「やらないよ」
「なんだ、はりあいのない奴だな」
あっさり応じると、残念そうに返された。
からかわれているのはわかったが、セレグレーシュは、そのままにうけ流して正直に真意を告げた。
「オレ、合格したいから」
そうと聞いて青い双眸を細くしたカフルレイリ講師が、ぽんとセレグレーシュの肩に手をのせる。
「そうか…。がんばれよ」
「うん」