第3章の第53話 恵ケイの位牌! 恵ミノルとアヤネ
【――現場は錯綜していた】
【シーサイドホテル(タラッタ ディプラ クセノドヒオ)】
そこは海の側に立つ大きなシーサイドホテルだった。それは立派な外観。
タラッタ ディプラでシーサイド。
クセノドヒオでホテルと読み解く。
【お食事処バイキング(エスティアトリオバイキング)】
エスティアトリオでお食事処、レストランと読み解く。
バイキングはそのままバイキングだ。
そのバイキング形式の式場では――
イライラ
しながら、ホテルでクリスティたちの帰りを待つご家族の方々。
その様は、不機嫌極まりない。
それに対して。
闇夜の中、都市の灯に照らされて、その者達は今、人助けのために働いていた。
今、スバル達は学校にいて、医師団の方々は患者さんの対応に当たっていた。
それは学校にあった体育館を間借りして、患者さん達の寝床代わりにしていたものだ。
「……」
スバルたちはその様子を伺う。
それはアンドロメダ星人の医師団の方が、ヘルメットに備わっているボタンを押して、口元がマスクが開かれて、息継ぎしている様子だった。
その人はうっすらと汗ばんでいた。
これを見かねて僕は。
「……王女様」
「!」
「ドリンクの手配をお願いできますか? あと塩のついたおにぎりなんかがいいと思います」
「おにぎり?」
その名前を知らない。
そこでシャルロットさんが対応に当たる。
「スバル君のいうおにぎりとはライスボールの事ですよね!? でもここでは、バラリズオウと言うのですよ!」
「えっそうなの!?」
「はいー♪」
「……なるほど。地球ではそう例えておるのか……! おにぎりと」
「……」
頷き得るスバル君にシャルロットさん。
「わかった。すぐに手配しよう。デネボラ!」
「はい!」
アンドロメダ王女様からの指示が飛び、頷き得るデネボラさん。
その隣で僕達は。
「……そうそう、スバル君」
「!」
「ナイスアシスト! でもね、宇宙ではもっと物知りになりなさい」
「物知り……」
「多言語を操る事! おにぎり1つとっても、各惑星によって、呼び名がそれぞれ違うからね」
「……なるほど」
ニコッ
とシャルロットさんはいい笑みを浮かべていた。
☆彡
【――その後、少年が少女達が、アンドロメダ星人の医師団の方々に、冷えた飲み物やバラリズオウを振舞うのだった】
「お疲れ様です」
少年は箱を持って移動していた。
弁当売りの少年と扮していた。
当然、箱の中にあるのはバラリズオウだ。
だが、ここにあるのは白米を握って作られたバラリズオウではなく、どちらかとは言えば、ピンク色に色気づいた麦色のお米だった。
海苔も巻いており、中身の具材はわからないが、きっと精がつくものだ。
「おぅ、TVの奴じゃないか!」
その宇宙人さんは、押し売り姿となった少年の元から、バラリズオウを手に取る。
「偉いわね坊や」
続々とスバルの元に集まってくる宇宙人さん達。
「いえ、僕が偉いわけじゃなく、王女様や手配してくれるデネボラさんたちの協力があってこそだと……僕は思います。僕1人じゃここまでできませんから……。
あっ、もちろん皆さんのご協力にも、感謝してますよ!」
「フッ……」
「謙虚なのはいいことよ! まだまだ伸びしろがあるからね!」
「伸びしろ……?」
その人は、一口手に持ったバラリズオウを食べて、「美味しい」と口を零し、笑顔を咲かせる。
心温まる光景だった。
とそこへデネボラさんが空中浮遊してきて、他所を向いて、彼女達を見やる。
「ドリンクが欲しい方は、彼女達が持ってます! 皆さん、気を張り詰めているようなので、ドリンクでも飲んで、喉でも潤してください。あともう一息です」
「ああ」
「ええ」
「わかってるって!」
「任せろ!」
笑みを浮かべるスバル君。
とそこへデネボラさんが。
「スバル君、切れたら次の箱があるから、それを皆さんに配るんですよ」
「あっはい!」
【少年たちは人知れず人助け、救助活動を続けていた】
【こうした地道な活動を続け、1人また1人とスバル達が頑張っている姿を目撃していく】
【それは少しでも、地球人に対する偏見と見方を変えるために必要な事だった――】
☆彡
ホテルに戻り、急いで待っている人達の所へ向かういくつもの足。
僕達は急ぎ足だった。
走らないのは、ここがホテルだからだ。
【――だから知る由もない】
【今ホテルで待つ、クリスティさんのご家族達が、今少年たちが取り組んでいる事を、そのど理解を……】
【だから、あんな事件が起きるんだった――】
「すみません、遅れました!!」
バイキング形式の式場に顔を出す少年少女達。
この時が来るまでおじさん達はムスッとしていて、こちらを向こうとせず、だんまりと怒りを内包していた。
相当、お怒りである。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、済みません! ちょっと遅刻しました!」
「……」
歩み寄っていく少年。
腕組を組んで、だんまりを決め込むおじさん。
そこへ声が投げかけられる。
「やあ、スバル君きたね!」
「! ――恵さん!」
【スバル達に声を投げかけてきたのは、このホテル内で病床人の看護にあたっていた恵夫妻だった】
「済みません! ちょっと色々あって……! ハァッ、ハァッ」
「構わないよ、ところで大丈夫かい?」
「ハァッ、ハァッ、多分、お腹が空いているんだけなんで」
「は……?」
(バラリズオウ、1個しか食えなかった……!)
グクゥ~~
その時、クコンちゃんの方からお腹の虫が鳴ったのだった。
「あっ……」
「食ってないもんねあたし達……」
「うん……」
これにはクコンちゃんも恥ずかしく思う。
これによって、スバルくん、アユミちゃん、クコンちゃんとお腹の虫が鳴った事になる。
何とも言えない顔になる少女達。
「「……」」
これに対し僕は、後ろのいる彼女達に目線を向ける。
「……」
「「……」」
(やっぱりお腹空いてるよね……?)
僕は後ろから前を向いて。
(早く、何か口にしたい……)
と。
それに対して、察する恵パパ。
「……」
次に声を投げかけてきたのは、恵ママだ。
「そうだったの……結構苦労してるのね……」
「ええ……」
答えた僕は、今、やらないといけない事があったから、謝るためにも歩み寄る。
「――少しお時間を、いただけますか?」
「……」
少年の問いかけに。
腕組をして、いかにも恐いおじさんは、顎を動かして対面の席へ促す。
少年はそこに移動し、椅子を引いてから腰掛ける。
「……失礼します」
それを見かねた恵ママさんが、場の空気が怪しいと思い。
「あなた……」
「ああ、少し心配だな……!
……私達がこの子達の保護者代わりとして、相席しても?」
「……」
目線だけ飛ばす厳ついおじさん。
少し考えてから、席へ促すように顎で誘導する。
「……失礼するよ」
「!」
「失礼するわね」
「……」
恵さん達も、席に腰かけるくれる。緩衝材の役割だ。
テーブル1つにつき、6人まで座れる。
クリスティさんのご家族の方は、2つに分けて腰かけていた。
左側のテーブルと右側のテーブルとして分かれている。
少し位置関係や距離に語弊があって離れているが、そこは察して欲しい……。
それは恐いおじさんの怒声を考慮して、娘たちの判断だ。
ここには、まだ幼い長女の子供達がいる。
だから、ここから遠ざける案も、ありはしたが……。
万が一もある。ここは見知らぬ宇宙だ、アンドロメダ星だ。
しかも、自分達は難民だ、しかも初日ときている。
「……」
「……」
恐いおじさんに、お母さんが睨みつける。
安全策を考え、目の届く範囲に孫たちを置きたいのは、ご家族としての総意だ。
テーブルの話に戻ろう。
左のテーブルに座っているのは、おじさんと長女、スバルと恵パパとママ。残り1つは空席。
その席に座るのは、もちろんクリスティさん。
右のテーブルへ移る。
クリスティさんのご家族の方は、他にもいて、それぞれ、3女、4女、そして長女の幼い子供達2人だ。
よって空いている席は、残り2席となる。
その席に座るのは――
「――ちょっとよろしいでしょうか?」
「好きにしたら?」
声を投げかけてきたのは、シャルロットさん。
その人がその席に座り、残り1つ。
あたしは、アユミちゃんを呼び。
「アユミちゃん」
「!」
その最後の席にアユミちゃんが腰かける。
これで、右のテーブルは完成したことになる。
もちろん、左のテーブルも仮認定で。
左のテーブル 右のテーブル
おじさん 3女
恵パパ 長女 孫A シャルロット
スバル 恵ママ 孫B アユミちゃん
空席 4女
そして、別のテーブルに腰かけているのは、王女様、デネボラ、L。レグルス以下は立ち番である。
でクコンちゃんは、1人寂しく座り、「あっ!」と料理に目が行くことになる。取ろうかな~~どうしようかな~~と。
その一部始終を見守ることになる――
☆彡
――忘れられた人。
その頃現場の方には、ヒースさんがただ1人残っていて、その緊急対応に当たっていた。
(誰か1人は残らないといけないからなぁ……ハァ……)
ヒースさんはあえて、貧乏くじを引いたのだった……。
他のメンバーは必要不可欠なので、外しようがなく。
クコンちゃんを残らせる話もあったが、子供1人を残すわけにもいかず……。
現状、たった1人だけ任せられる人で、ヒースさんだけになり、白羽の矢が立ったのだった。
☆彡
「――いつまで突っ立っているつもりだクリスティ!?」
「!!」
ビクッとするクリスティさん。
「俺はお前をそんな娘に育てた覚えはないぞ……! どこぞのガキを使って、緩衝材にでもする気か!?」
「……」
そう言われたあたしはその場から動いて。
「そんなつもりはないわ」
その残り1つの席に腰かける。
これにより、左のテーブルも完成したことになる。
【――緊迫の父娘会談が始まる……】
「……」
「……」
不機嫌極まりない顔を浮かべるおじさんと長女の2人。
【クリスティのパパ、ダイアン】
【長女のルビーアラ】
「……」
「……」
「……」
「……」
それはこちらでも同じで、落ち着きのない顔を浮かべる3女と4女。
そして、その場にいるのは、長女の幼い子供達だ。
【3女のサファイアリー】
【同じく、4女のエメラルティ】
【ルビーアラの娘 姉のインカローズ】
【同じくその弟のスピネル】
「……」
「……」
【恵パパ 恵ミノル】
【恵ママ 恵アヤネ】
「……」
「……」
【スバル】
【クリスティ】
「……」
「……」
【アクアリウス星人 シャルロット】
【アユミ】
【誰もが一言目を発さず、緊迫化していた――】
「「「「「……」」」」」
「「「「「……」」」」」
【一同、そのテーブルについたはいいが、この圧迫した緊張感の中、その出がかりを探っていた】
【だが、その緊張感を壊そうとするのは、やはり、まだ幼い子供達だった】
「……うっ、うっ……」
「……! ……ッ」
【子供達にしてみれば、何でこんな状況下に陥っているのかわからず、その顔を右往左往していた】
【心に過り、充満するのは不安だ……】
【子供は敏感な生き物だ。だから――】
「……?」
「……???」
「うっ……」
【その不安を伝えようとした】
泣きだしそうになる弟くん。
「!」
それに気づくお姉さんたち。
スプネル君も、インカローズちゃんも、お腹いっぱい食べて、眠ってくれていれば、ベストだった。
だが、その時間は過ぎ去っていた。
他ならない、救助活動の裏で――
幼い子供達は、不安にかられていた。
周りのこんな空気は恐くて、緊迫化していた。
「!? んっ、どうしたのかなぁ~? スピネル君?」
「……何でこんなに恐いの?」
「「――!」」
やはり子供は敏感だった。
「! ……」
孫にあたる幼い子供達が不安にかられている。
やはり……ダメだったか……仕方ない。
「……お前達! もう少し、離れた席に移動してろ!」
「「!」」
それは父ダイアンからの提案だった。
これから場が荒れるという事だ。
わかってるわ。姉さん。
うん、と。
ガタガタ
と4女が、3女が動いていく。
「少し待ってもらうぞ」
「……」
父ダイアンさんのその目は厳つく、娘さんのクリスティさんを射貫いていた。
僕は、それを見て。
(恐い人もいたんだなぁ……僕のお父さんとどっちが恐いんだろう……?)
と僕はそんな疑問を抱いてた。
3女が、4女が、中心となって動いていく。
これにはアユミちゃんもシャルロットさんも、従うばかりだ。
「席を変えさせてもらうわよ」
「ええ」
「もちろん……」
あたしは、向こうの様子が気がかりだった……。……大丈夫かな、スバル君……。
「ほらっ! スピネル君にインカローズちゃん! あっちの席に移動しようね!」
「うん……」
「グスッ……」
不安にかられるインカローズちゃんに。
泣き出しているスピネル君。
まだまだ幼い子供達だ、子供はとても敏感な生き物だった。
――とスバル達の元へLがやってきて。
「――スバル!」
「んっ?」
「そっちの席にいるのが、あの子の両親だよね? あの人なんか顔立ちが似てる……」
「……」
Lが言いたいのは、恵ケイちゃんの事だろう。
確かに似てる……。当然だ、恵アヤネさんは、恵ケイちゃんの母親なのだから。
(でも……何でこんな時に……?)
僕がそんな事を思っていると。
「……レグルス!」
「?」
「……この機会に謝ったら?」
「……」
だんまりのレグルス。
この緊迫化した状況下でそれは、とても危険だ。デンジャーだよL。
Lは意識してこそなかったが、それは火に油を注ぐようなものだ。
混合油だ。混ぜるな危険だッッ。
「ゲッ!?」
「!」
「!」
「!」
「!」
「!」
スバルのいい反応ぶりに、隣にいたクリスティさんを初め、恵アヤネさん、恵ミノルさん、ルビーアラさん、ダイアンさんと反応を示した。
何事だ。
これには「ハァ……」と頭を痛める思いの少年君。
「……フンッ、いいだろう!!」
「……」
名乗り出るレグルスに、汗々のスバル君。
空中浮遊してくる。
【――現場は混沌と化す】
「……」
これには僕も頭を痛める思いだ。
「あぁ……」
「!?」
あたしはスバル君の様子に、不可思議に思う。
(何をそんなに悩んでいるんだろう……? どっちかと言えば、あたしなんだけど……)
(マジィ……ッ!? ……L、これでどうしろと……!?)
【これからいったい何が起こるのか】
疑問に思っていたクリスティお姉さんが、ヒソヒソと僕に話しかけてきた。
(どうしたの? ひょっとして王女様が?)
これには、恵パパに恵ママ、ダイアンさんにルビーアラさんが反応を示した。
だがそんな事はお構いなく、2人のヒソヒソ話が飛ぶ。
(いや……Lのやつが、ここにレグルスを呼んでて……)
(!?)
(ケイちゃんについて……)
(あぁ……)
なんとなしに察するクリスティさん。
で、やらかしちゃったLが、王女様たちの元に帰ってきて。
「これで1つ、肩の荷が下りるよ!」
満面の笑みを浮かべるL。
「考えたものじゃな!」
「うん! スバルを通してお父さんとお母さんに謝らせて、クリスティさんの事もできるから、一度に済ませられるよね!?」
そう、上手くいけば一石二鳥だ。
だが、こんな現場を見る限り……ッ。
「確かに……スバルはようやっておるし、まあ何とかなるじゃろ!」
「……いえ、なんだか場が、いっそ険悪と化してませんか……!?」
「「えっ!?」」
哀れスバル。
笑みを浮かべるLをよそに、デネボラさんが正しく、現場を察していた。
これには王女様も、事の原因を作ったLも驚きの顔を浮かべる。
これにはデネボラさんも。
(スバル君、可哀そう……)
と心の中で、憐れんでいた……。
☆彡
「1人事か? それとも何の狙いだクリスティ?」
「……」
「……」
1人事、それはスバルとクリスティに投げかけた言葉だった。この人も見えない類のるいだ。
「違うわよ!!」
と断ずるクリスティさん。
「……」
「……」
クリスティさんは僕の顔を見て、僕は頷き得る。
「……今、こっちにいたのはアンドロメダ星人のLだったんです!」
「!」
「……で、今、別のアンドロメダ星人がきてます……レグルスという名の……!」
「「!!」」
これに強く反応を示したのは、他ならない娘さんを失った恵ご夫妻だった。
長女、ルビーアラさんが。
「アンドロメダ星人……!?」
「信じられないかもしれませんが、アンドロメダ星人の中には、エナジーア生命体といって、一般人には決して見えない、聞こえもしない、宇宙人がいるんです」
「……」
少年の言葉を聞く長女ルビーアラさん。
僕は顔をあっちに向けて。
「……あちらにいるのが、アンドロメダ王女様達です」
「……」
「……見えないでしょう? 実は多くのエナジーア生命体も一緒なんですよ」
「エナジーア生命体……」
驚き得る長女。
「はい、こちらのホテルを手配してくれた、星王様とガノスさん。その星王様は、王女様の御父君で、同じエナジーア生命体なんです」
「……」
あたしは驚き得ていた。
けど、この父は違う。
「……狂言だな!」
「……」
「……」
あたしが、少年君が振り向く。
「そんな眉唾話、誰も信じないぞ……!」
と。
「……」
「……」
それはそうだ。
この父を攻略するのは難しい。
(そうだよな……多分、これが一般見解だ……。どうしようもない、無理解だ……ッ!!)
俯いていた僕は、顔を上げて。
(どうすれば、この人達に、納得してくれるんだろう……?)
【――少年は、これから先、それと戦っていかなければならない……】
僕は、悔しさで、ズボンを掴む。
(やっぱり……僕だけがおかしいのか……!?)
「……」
クリスティ(あたし)はスバル君の様子を見ていた。何だかとても、悔しそうにしていた……。
「……」
【――が、ここで転機が訪れる】
「――いや、私にはその話、信じるに値する価値がある!」
「!」
「!」
振り返る僕にクリスティさん。
その声の主は、恵ミノルさんのもので。
恵アヤネさんも頷き得る。
「……ほう?」
「……なぜかしら?」
父ダイアン、長女ルビーアラと反論意識を持ちながら、対話を投げかける。
「ここまでの事態が起きているんだ! 地球が氷漬けになって、ここへの難民大移動!」
「……」
「……」
「そして、競技場への手配と! この子が捌いてくれた、謎の動物の肉……!」
「あっ……!」
「あっ!」
それには覚えがある。
他ならない自分達は、あたし達は、あれに追われていた。
「あれを捌いた道具は、私が君に送ったものだよね? スバル君!」
「はい!」
コトッ……
と僕は、『ケイちゃんの護り刀』をテーブルの上に置いた。
それを認めるは、恵パパに恵ママさん。
話は続く。
「――そして、このホテルへの手配……! この少年とその協力してくれた方々がいなければ、もっと事態は凄惨極まりないものになっていた……ッ!!」
「……」
「……」
一考の話の価値があるとダイアンさんもルビーアラさんも考えさせられる。
「宇宙人と言ってしまえば、それまでだが……」
そこまで語り、恵ミノルさんは腕組をして、再び語り出す。
「現状、我々の一般人の無理解と理解が及ばぬところまで来ている……!!
それに私達はあれを見た! 宇宙船を!! 宇宙人たちを!!!
また、ここへ来るときに見た、エイリアンのグレイがそうだ!!」
「……」
「……」
「ホントは気がついているのではないですかな……!? まだまだ未知の部分が、この宇宙には多いと!」
「恵さんのお父さん……」
「フッ……」
僕はお父さんに、言葉を投げかける。
鼻で笑い、笑みを浮かべる恵パパ。
「……私は今君が言った言葉を信じているだけだよ!」
「……」
顔が綻ぶ、柔和するスバル君。
「………………」
恵ミノル(私)は、スバル君から視線を切り、いると思われるレグルスを見ようとした。
「……そこにいるのだね?」
「いえ、こっちです」
「そっちか!?」
恵ミノル(私)は、その方向を見やると……何も見えない。
だが、そこにいるかもしれないからだ。
私は、スバル君を信じるだけ。
レグルスは、腕組をしていて、どっしり構えていた。
「……」
とここで恵アヤネさんが。
「……そこにいるのが、娘を奪った仇……なのねスバル君……ッ!」
「……はい……」
【先に引っ張り出されたのは、恵ケイの命を奪い、あまつさえ数多くの子供達の命を奪った】
【憎っくき仇レグルスだった――】
「……」
「……」
「……」
対面で睨み合いを利かせるレグルスに、
恵ミノルさんに、恵アヤネさん。
「……スバル君、通訳をお願いできるかしら?」
「……もちろんです!」
僕は、その意思に沿う。
「――レグルス、何か言いたい事はあるか?」
「……」
僕にそう言われたレグルスは考える。
「……」
「……」
その口をついて出た言葉は。
「……好きにしろ」
「……好きにしろ……だそうです」
そんな反応が返ってきた。これには2人とも俯く。
「……」
「……」
2人が考えに、考え出した結論は。
「……スバル君! 私達の言葉は、その人にわかるんだね!?」
「ええ、伝わります」
「そうか……!」
それだけ聞ければ十分だ。
私はアンドロメダ語を話せない。
特別な魔法の類もあるかもしれないが……スバル君に確認を取った限り、今は不要とわかった。
「では、尋ねるが……。なぜあんなに人を殺せた!? 山を燃やし、焼け跡に残ったのはススだらけの子供達の遺体だけだった……。……性別の区別もつかないほどに……」
「……ッ」
「……」
黙って見詰め返すレグルス。
(ホントにあれは、凄惨な現場だった……ッ!)
当事者だからこそ言える、心の言葉だ。
恵アヤネさんが語りかける。
「……あの後、あたし達がどんな思いで、その亡骸を拾ったと思いますか?」
「……」
「……」
黙って見詰め返すレグルスに。
哀しい顔を浮かべ、俯いていくスバル君。
それは、とても重い話だった……。
到底、子供には見せられないようなショッキングな出来事だ……ッ。
「少し触っただけで、その黒ずんだ遺骨が、灰になるよう砕け散った………………。跡に残ったものは、何もない……。……ッ、ううっ……」
語りながら、嘆き悲しむ恵アヤネさん。
「それでも、あなたは、心が痛まないと……!?」
「………………」
目線をちょっとだけ、下に向けるレグルス。
だが、正面を向いて、見詰め返す。
そこへスバルが。
「……レグルス、何か言ったらどうだ!?」
「……」
「……オイッ!!」
何も言わないレグルス。
これには僕も声を荒げる。
「………………」
「……クッ」
無言を貫くレグルスに。
苦虫を嚙み潰したような面持ちをするスバル。
「……スバル君、彼は何と?」
「あれから、何も言わない……んです」
「……そうか……」
「……ッ……ううっ……」
スバル君のその答えに。
納得の理解を示す恵ミノルさんに。
泣きじゃくる恵アヤネさん。
「お前……」
「子供達が不憫です……ッ!」
「……」
「死んで、燃やされて、遺骨の1つすら親元に帰れない……ッ!!
だってそうでしょ!! もう原形がわからないぐらい、燃えた森と一緒になって、黒いススだったもの!!」
もう大人泣きする恵アヤネさん。
「ううっ……」
「……」
「……」
「……」
「「……」」
恵アヤネさん、恵ミノルさん、スバル、クリスティ、ダイアンさんにルビーアラさん。
「……」
顎を上げて、見下し加減のレグルス。
自分が犯罪者だということは重々承知している。だからこんな傲岸不遜な態度を取る。
「……ッ」
僕は、悔しさを滲ませる。
「「「「「……」」」」」
これには一同、何も言えなくなる……。
と恵アヤネさんが。
「……あたし達の元に帰ってきた娘だけは、まだ、いい……けど!! たった1人の最愛の娘なの!!!
お腹を痛めてまで産んで!!
成長していくあの子の様子を見届けるのが、何よりの楽しみだった!!!
あたしの、掛け替えのない宝物!!!」
「……」
レグルスが。
「……」
スバルが。
「……」
恵ミノルさんが。
「……」
クリスティが。
「「……」」
ダイアンにルビーアラさんが。
娘を思う、悔しさを滲ませる母。
「ケイ……。
……。
し……。
……。
返して……」
「………………」
俯いていたあたしはその顔を上げて、その人殺しを睨みつける。
「!」
「あたしの娘を返してぇえええええ!!!」
はちきれんばかりの怒声だった。怒りだ、嘆きだ、悲しみだ。苦しみだ。
失った穴の葛藤だった。
「今すぐに返してぇえええええ!!!」
「……」
張り裂けんばかりの嘆きを上げる母。それはもう、どうしようもなくて……。
「うっ……うっ……ううっ……」
「お、お母さん……」
僕にはもうどうしようもなく、嘆き悲しむ母親を見て。
「うっ……ううっ……」
「………………ッ」
もう、もう、もうなんて言ったらいいのかわからないくらい、かける言葉なんて見当たらなかった……ッ。もうどうしようもない……ッ。
「……」
クリスティさんも、その光景を見守るしかない。
その目に映るのは、娘を失った母親の姿だ。
ズキッ
とここが、胸が痛んだ。
「………………」
「……」
レグルスは相変わらず、何も答えない……。
「うっ……ううっ……ケイ……ケイ~~~~~~ッ!!! ……ううっ……」
その場で打ちひしがれるように、泣き崩れるお母さん。
「……ッ」
その様を見てて、僕も悔しさを覚え、顔を歪ませる。
「……ッ、レグルス……!!」
「!」
「……」
立ち上がり、振り返るスバル。
「あんたはさすがに殺し過ぎなんだよッッ!!」
「……」
「少しは、誠意を見せたらどうなんだ!?」
「……」
「……」
「……」
だんまりのレグルス。
睨みつける少年に。
レグルスは目を閉じ、その眼を開けると――
「――いちいち、殺した奴の顔なんて覚えちゃいない」
「な、なんだって……?!」
「? スバル君、彼は何と……?」
「……『いちいち、殺した奴の顔なんて、覚えちゃいない……と!」
「!」
これには泣きじゃくていた母も豹変する。
「ああああああ!!!」
張り裂けんばかりの悲鳴……ッッ。
それはギターの弦が切れたかのような、悲痛なる心の叫び声だった……ッッ。
「うるさい地球人だな……」
「……ッ」
ゴゴゴゴゴ……怨
その身から怨魔の気炎が立ち昇る。
これにはクリスティを始めとした人達も驚く。
「あっあれは……!!」
Lにも、あの力には覚えがある。
その姿を見て驚いた。
「!」
こいつはヤバいな……。
「何が『うるさい地球人だ』ッッ!!!」
怨魔の気炎を乗せた拳を突き出す。
レグルスは、それを炎上する炎を上げてガードした。
ドォオン
ビリビリ
と衝撃伝播が走り、大気がビリビリと打ち震えた。
これには、まさかという思いで、
恵ミノルが、クリスティが、ダイアンが、ルビーアラが、少年の力に驚かされた。
と恵アヤネさんはこっちを向いておらず、泣きじゃくっていた。
「クッ……!」
「……」
ゴォオオオオオ
怨魔の気炎と炎上する炎が、ぶつかり合っていた。
その時、室内のスプリンクラー設備が働き、スバル達の頭上に、頭でも冷やせよ、と言わんばかりに水が降り注ぐのだった。
サァアアアアア。
「……」
「……」
びしょ濡れになるスバルに。
炎上する炎の勢いが弱まっていくレグルス。
「……」
「……」
2人の双眼は、相手の顔を映していた。
「……」
「……」
その眼の水晶体に映るのは、自分達の姿だ。
「え?」
「!」
顔を上げるクリスティさんに。
その顔を上げる恵アヤネさん。
そして、館内放送が。
『――当ホテルのバイキング形式の式場にて、火種が発生しました!!』
「……引け」
「……クッ」
「……」
「……ッ」
レグルスがそうスバルに諭し、突き出して拳を引いた僕は、怨魔の気炎を消したんだった。
同様にレグルスも。
『火種の元にホテリエたちを向かわせています。現場確認が済みまで、当ホテル内にいる方は、その場を動かないでください』
とホテルの館内放送が終わったのだった。
「あの馬鹿ども――ッ!! いらぬ手間を増やしおって……せめて外でやれ!!」←元凶
「まったくです!!」←共犯
「何でこうなんのかな……あの2人……」←原因
で。
こちらはアユミちゃんサイド。
「……」
アユミちゃんはずぶ濡れで、手にしていたパンがスプリンクラー設備の水にやられて、形を失い崩れ落ちるのだった……。
「よそでやって……」
内心、怒気をはらませていた。
そして、それはクコンちゃんにしても同じ。
「スープが台無し……」
あたしは食事を台無しにされるのだった……。
「……」
拳を引いたスバルは、
「……」
後ろにいるレグルスに流し目を送りながら、こう言葉を投げかける。
「……恵さん……いや、ケイちゃんは」
「?」
「最後まで救助活動を続けていたんだ……!」
「……」
僕は、服の上からその当時の傷跡に触れる。
「……あんたはその間、何をやってた……!?」
「……地球人のガキどもを殺しまくっていた」
淡々と現実を語るレグルス。
「……ッッ」
怒りで、唇を噛み締めるスバル。
そこへクリスティさんが問いかけてくる。
「……スバル君、あいつはなんて……?」
「地球人のガキどもを殺しまくっていた……って!」
「……ぁ……そう……」
察したあたしは、何とも言えなくなってしまう……。
レグルス、すこぶる悪いやつだった……。
「……」
「……」
これには恵ミノルさんも、恵アヤネさんも、何も言えなかった……。
それだけの事態を引き起こし、今に至るまで解決策は何も浮かばない……。当然だ、人の命はもう戻ってこないのだから……ッ。
「……」
「……」
そんな様子を見詰めるは、父ダイアンさんと、長女ルビーアラさん。
☆彡
――その時だった。
コトッ
と恵アヤネさんが取り出したのは、『恵ケイの位牌』だった。
「――私達の娘です……!」
「!」
「……」
僕はそれを見て驚き、レグルスもそれを見届ける。
「あの後、子供達に手伝っていただき、娘の遺体を焼きました……! ……これはその時の灰を集めて、位牌の中に摘めた、あの子の御神体です……!」
「……」
「……」
「……」
恵アヤネがそう説明し、心に思うのは夫恵ミノルさん、スバルに、レグルス。
「アイデアを出してくれたのは、他ならない、チアキお嬢様です……!」
「チアキさんが……なぜ!?」
恵アヤネさんに代わり、答えるのは恵ミノルさん。
「君達の戦いが終わった後、あの子の予知夢で、我々が遠い宇宙に移住するというお告げを受けてたんだ」
「あたし達は、片時もあの子と離れたくなかった……。当初は、心が追いつかなかった……。……でも――」
★彡
「――ケイを置いていく――!?」
「はい」
それは娘との永遠の別れを意味していた。
ケイはあたしにとってかけがえのない、たった1人の愛娘だ。
そんなの嫌だ。
だから、あたしはこの星に残る、ケイと一緒に。
「……嫌です。それならあたしも地球に残ります!! ケイと一緒に残ります!!」
「……」
「「「「「……」」」」」
あたしは、そう宣言した。
耐えられない。せめて最後だけは、わがままを言わせて。
「……」
チラッ
チアキ(あたし)が後ろを見ると、多くの修学旅行生達がいた。
「「「「「……」」」」」
この子達には、あなたの力が必要だ。
だからあたしは、心を鬼にして言わなぁあかん。
「……ッ」
(あたしは……『うち』は……、あんさんと違ぅって、歳は下やけど……。目上に立つ者として、立場をもって諭さなぁあかん……ッ!! だから、許してや、ケイちゃん……!!)
決心したうちは話す。
「娘さんと離れたくない気持ちはわかりんす……!」
「だったら……!!」
「でもなぁ、考えてもみぃ!! 残されたこの子たちの面倒は、誰が見れるんか!?」
「ぁ……」
「「「「「……」」」」」
「……」
「「「「「……」」」」」
これにはもう何も言えなくなる恵アヤネさん、
(なんかごめんな……ダシに使ぅって……)
うちは、心の中で謝る。
ここにいるすべての修学旅行生たちに。
(……ッ、けど、もうこれしか……ッ!!)
そこへ恵ミノルさんが歩み寄ってきて。
「!」
「……ッ、……ッッ。……」
あたしの隣を横切って、
旦那さんは奥さんの前へ。
「……ッ」
その旦那さんも、頭を悩ませながら、頭をかきむしって、1人の大人として決断した。
「アヤネ!!
「!」
「……」
「……」
恵ミノル(私)何とも言えない表情を浮かべていた。
心痛な面持ちで、妻アヤネ(お前)の肩に手を置いて。
「……辛いだろうが、子供達の面倒見切れるのは、……お前しかいない……ッ!!」
爪が肩に食い込むくらい、奥さんの肩を握りしめる。
頼む、わかってくれ。
「……」
「……ッ」
あたしは、自分の肩を見た。
亭主の手は打ち震えていた。
きっと、この人も悔しいんだと。
そして、1人の大人として、子供達の保護者にならないと……いけないと……ッ。
「!」
「「「「「……」」」」」」
「ケイちゃん……」
「ううっ……」
あたしは、この子達を見た。
ハッとした思いだった。この子達も同じ気持ちなんだ。
この子達も、心痛な顔を浮かべていた。
あの子なんかは、あたしの愛しい娘、ケイの遺体を見ていた。
あたしの愛娘は目を閉じて、微笑んでいるかのようだった。
「……お辛いでしょうが、うちかって辛いんや……ッ!! やけんどな、もう……ッッ時間がない!!」
「……ッ」
「……」
チアキ、アヤネ、ミノルと辛い……ッ。
アヤネさんが、それでもわがままを。
「ケイと離れるのは……、最後まで嫌ですッッ!! せめて、その……ッッ」
「……ッッ」
「わかってる……わかってるんや……ッ!!」
「ううっ……」
「……せめて、遺骨だけでも……」
「遺骨……遺灰……せや! あの方法なら……!」
旦那さんの言葉がヒントだった。
あたしは、うちはそれを聞き、あれを思い至った。
「これしかない……ッッ、許してやケイちゃん……」
そのケイちゃんは眠りついたまま、微笑んでいる様で、これから行うあたし等の行いを汲んでくれているかのような気がした。
「……ごめん……ホントに……ごめんなぁ……ッッ」
「……ッッ」
「……」
嘆き悲しむチアキ(うち)。
あたし、これから行われることに耐えられないと思い、夫の胸の中で泣いた。泣きじゃくる。
「あああああッ!!!」
★彡
【――そして、子供達が総出で手伝ってくれて、亡き娘の周りに木材を敷き詰めてくれた】
【愛娘の胸の上には、女の子達が探してくれた、色とりどりの生け花が敷き詰められて】
【その木材の敷き方は、『井桁型(いげたがた)』だった――】
囲桁型。それは、キャンプファイヤー等に用いられる組み方で、名前の通り、木を縦横に組んで、漢字の『丼』とした感じである。
これなら構造全体が燃えるため、火力が強く、大きな火柱ができるだろう。
「……」
【この炎がきっと、浄化の炎となって、娘の魂をきっと天国まで導いてくれる――】
「……」
【そうして、うちが見ている前で、ケイちゃんのお母さんが、亡き愛娘の胸の前に、花束を添えた――】
【そう、それはな……あの少女達が、摘んできてくれたものや】
(手向けやケイちゃん……)
あたしは、うちは言葉に出さず、心の中に言い留める。
娘の前でお母さんが。
「ごめんね、ケイ……、あの時、気づいてやれなくて……。ホントにごめんね、護ってあげらなくて……」
あたしは娘の前で涙を流す……。
あたしの後ろでは、
(……あなたの友達が涙を流してくれているわよ。きっと、仲が良かったのね……。
安心して、あなたの代わりに、ママも頑張るから……)
「……ッ、さよなら……あたしの一番の……ケイ……!」
そうしてあたしは引き下がっていき。
修学旅行生たちのリーダーが、その手を挙げて指示を下す。
「点火!」
4方向から火をつけ、火は次第に大きく燃え広がっていき。
炎から火炎を経て、井桁型に組んだ木材を赤々と熱しながら、火柱を上げる。
ゴォオオオオオ
それはまるで、死者を冥土に送る、キャンプファイヤーのように。
「聖火の炎だ……」
「ケイちゃん……」
「ううっ……」
その激しい火柱の中で、亡き娘の遺体は聖火に包まれていった……。
激しく立ち昇る火柱。
吹き荒び激しい吹雪の中、あたし達は片時もそれを背けなかった……。
「……」
【チアキ(うち)はな……その光景を忘れない――】
「……」
「……」
「……」
「「「「「……」」」」」
見送るは、チアキ、アヤネ、ミノル、そして修学旅行生たち。
「さよならや……ケイちゃん……」
激しい火柱が燃え上げる中、縦横に組んだ木材が音を立てていく。
パチパチ、パチパチ、ガラガラ……
と、あたし達はその音を聞いていた。
そして、うちの手に納まっていたのは、『位牌』やった。
★彡
やがて鎮火した後――
「こ、こ、こ……こんなに小さいの……」
「……うっ……ううっ……」
ショックを受ける。
人の最後は、こんなにも小さくなるのかと……黒ずくんだ遺骨、いや、遺灰……。
これには、涙を流す子供たち……。
それはとても見せられないものだ……ッッ、ショッキング映像なのでお控えしたい……ッッ。どうか、子供達の涙だけで察してほしいッッ。
「みんな、泣いてばかりいないでよ!! 一番苦しいのはお母様やお父様なんだよッッ!! グスッ」
「オイッ!」
「ああ……ッ」
「まずは、チアキさんあなたからだ……!!」
「ええ」
うちは、その少年からホテル厨房の備品である『長箸』を受け取り、手身近なところに『位牌』を置き、その中に1個入れる。
「順番通り女子からだ! 最後は、お父さんとお母さんだぞ!」
「うん」
あたしは次の人に『長箸』を回していく。
次々と『長箸』が回っていき、最後に……。
「お前」
「………………」
一言も発せないお母様は、フラフラした足取りで近づいていく。
心が病に犯されていた……。
その涙が枯れ果てて、顔面がクシャクシャで、胸が今にも潰れそうな勢いだった。
この様を見た少女達は、一様に涙を流していく。
お母様は、その震える手で『長箸』を伸ばしていき、その今にも砕けそうな白い遺骨を掴み取り、長い時間をかけて、『位牌』に敷き詰めるのだった――……。
涙の回想終了――
☆彡
「――でも、この方法ならずっと一緒にいられる……」
お母様は、愛おしそうにその『恵ケイの位牌』に手を触れる。
その様をみたクリスティ(あたし)は。
「娘愛だ……」
感動した。
「ケイちゃん……」
その少女の名を呟く少年。
その視線は、『恵ケイの位牌』に注がられていた――……
だがここで、この男が。
「わからんな……」
「!」
「死ねばそいつはただの骸だ。何も残らん!」
「……クッ! ……何だと、元はと言えばお前が……ッ!!」
「スバル君、彼はなんて?」
「……」
僕はお父さんに諭されて、平静を装う。
「……『死ねばそいつはただの骸だ。何も残らん』……と!」
「「「「「……」」」」」
何も言えなくなる一同……。
だが、ここでお父様が。
「……残っているよ、大事なものが……」
「!」
お父様は、僕の顔を見て。
僕の肩に手を乗せて、心にこう問いかける。
「……あの時、娘が必死な思いで紡いだのは、君達全員の生存だった……!!
だけど、それは叶わなかった……」
「……」
「だけど! たった1つだけ叶ったものがある……! それは……、……君が生きてる事だ!!」
「ハッ!」
「君が生を繋いだのは、私の娘が必死にその身を削ったからだ!」
「……」
「……」
恵アヤネさんも、それに応えるように頷き得る。
恵ミノルさんの手向けは続けられる。それは次に、命のバトンを紡ぐために――
「――娘は、君の中で生き続けているよ。今も――」
「……ケイちゃん……」
僕はその時、こう心にくるものがあったんだ。
だから、この胸を掴んだ。
心のどこかに、確かに、君のメッセージが届いたから……。
「「「「「…………」」」」」
一同が、それを認める――
☆彡
おまけ
【あの世】
それは天国行きか地獄行きかを決める閻魔大王様の審判の間。
閻魔大王は閻魔帳を見て、恵ケイのこれまでの人生における、良し悪しを決めていた。
フヨフヨ
恵ケイには肉体はなく、魂のみの存在だった。
他の多くの魂たちと同じように。
その審議は当然――
「――恵ケイ、天国行き!!」
天国行きだった。
恵ケイの魂は、係員の案内の元、天国行きへ案内されていく。
それを見送る閻魔大王たち。
その視線を正して。
「やれやれ……この死人の量、いったいいつになったら終わるのだ……?!」
あの日から数えて、あり得ないほどの大量の死者の魂が溢れかえっていた。
そこには、ズラリと並ぶ死人の魂、列をなしていた。
これには私も嘆息す。
「まるで終わりが見えん……」
とそこへ。
一切れの羽が、
フワリフワリ
と舞い落ちながら、床上に落ち。
天から、とある翼の生えた若者が降り立つ。
「!」
その様を見た閻魔大王様が、こう口を零す。
「……ヘルメス様か……!」
【神ヘルメス】
金髪の頭髪に、青い眼、整った顔立ちに、背中からは翼が生えていた。
「……あの子が恵君だね?」
「……」
「閻魔帳に改ざんしといてくれよ。スバルは『地獄行き』と……!」
「……理由は?」
「……聡明な君なら、もうわかるだろ?」
「………………」
閻魔大王は閻魔帳を手に取り、スバルのページを見て驚いた。
閻魔帳とヘルメスを見比べる。
「……承知した」
TO BE CONTINUD……