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第2章の第21話 ソーテリア星女王ブリリアントダイヤモンド! ケイちゃんの護り刀

☆彡
【ソーテリアー星 王都『ヴァシーキリテルブロサ』】
そこは自然発生した浮遊島にあった。その王宮である――
アンドロメダ王女(わらわ)たちはここ王都に着ていた。
ここ王都の特徴は、他では珍しいたくさんの浮島を有していたことじゃ。
わらわたちは、そこの王宮に顔を見せていた。
今ここにいるメンバーは、わらわ、L、デネボラ、ヒース、シャルロット、以下数名の兵士たちじゃった。
わらわたちは来賓客として、貴賓室に招かれていた。
そして、ここを収める女王様と面会を申し出た。
そして、その時が訪れた。両扉が開き、この国の女王様が姿を現した。
女王は、宝石のような体つきで、ここの種族を表しているようだった。
「ようこそ、おいでくださいました。アンドロメダ王女以下数名の皆様方! 話は伺っております。わらわはこの国の女王ブリリアント・ダイヤです」

【ソーテリア星 ジェムナイト生命体 女王ブリリアントダイヤモンド女王】
全身がダイヤモンドの女王様だった。
ドレス姿に身を包み、皇帝陛下のマントを羽織っていた。

ヒースさんやシャルロットさんを始め、胸に手を当てて、会釈をした。
「わらわはアンドロメダ星の王女、アンドロメダじゃ」
「私はそのお付きのデネボラと言います」
「僕はオーパーツのLだよ」
これにはブリリアント・ダイヤも反応した。
「私はアクアリウスファミリアのヒースと言います」
「同じくシャルロットと言います」
「これは皆様ご丁寧に。まずはお座りになってください」
その椅子は大理石でできていた。
わらわたちはそれに腰掛ける。
もといLは小さいのでちょこんと収まる。
「わらわたちの目的は、大きく分けて2つ!
1つは、難民生活にあう地球人類の一時的な移住先じゃ!
もう1つは、ここにおるLの開拓者としての許しじゃ!」
「……」
「……あなたがLですね。初めまして」
「初めまして」
「自分の自己がホントにおありなのですね。目覚めてからいったい何歳になるのですか?」
「う~ん。アンドロメダ星の暦でいうと、今年で33歳になります」
意外な年齢だったが、アンドロメダ星には赤い恒星があり、公転周期上、それが普通だった。
地球の年齢に換算すると、それはスバルと同じ11歳ぐらいである。
「まぁ33。お若い!」
「あなたは何歳になるの!?」
この瞬間、ビキッとこの空間が打ち震えた。
「あれ……?」
「L……お前は外に出ておれ」
「デリカシーがないなぁ」
「それ女性には聞いてはいけない、NGワードだよ」
「おとなしく外に出ていなさい」
と姫姉、デネボラ、ヒース、シャルロットさんから外に出ていけと言われたのだぅた。
渋々、L(僕)はこの部屋を後にした。
「……Lが大変失礼しました」
「アンドロメダ星ではどのように躾を?」
「……自由に伸び伸び育てていました」
「なるほど……」
とわらわは納得した。
「何不自由はなかったようで、ホッとした」
とわらわは安堵した。
「あれからいったい何1000年経ったのか……Lは、我がソーテリアー星の至宝だった!
時の発明王トナは、ある遺跡からLを見つけ出し、そこから2つの古代兵器を作った。
1つは『エナジーア変換携帯端末』。もう1つは『細菌兵器』だった。
わらわたち、ソーテリアー星は栄華を誇った。だが、今ではこのありさまよ……。
その後、『L』といくつかの『エナジーア変換携帯端末』はアンドロメダ星に寄贈された」
「その話は父上に聞いた。
じゃが、今、大事にしたいのはLの気持ち。スバルと一緒に開拓者になりたいという気持ちじゃ!」
「スバルか……あの少年の演説ならわらわも見た。若いな……」
「フッ」
そうか、あの宇宙の法廷の場でのことを見ていたのか、それならば話が早い。
「さて、Lの開拓者になりたいという意志じゃが……」
「……」
「……」
「「……」」
アンドロメダ、デネボラ、ヒースとシャルロットは固唾を飲んだ。
「わらわは反対票を投じる」
それは思った通りの反応だった。
「……それはなぜ?」
「Lを調べただけで、その2つの古代兵器が誕生したからじゃ! 当時でそれよ、今の近代技術でそれを行ったらどうなる? それ以上のものが作られたら?」
「……」
「その非難を受けるのは、アンドロメダ王女、あなたじゃ! その覚悟はおありか?」
「……」
「……」
わらわは俯き考え、一度デネボラに視線を移した。
それは前に、デネボラがわらわに注意したことじゃからじゃ。その問題を解決しなければ先には進めないのだ。
「……じゃが、時代が変わろうとしている」
「……」
「初めは小さな波紋じゃった。その小さな波紋が集まり小さな波となるように、やがてそれは大きな大河となる!」
「何の話をしておる?」
「……スバルじゃ!
わらわは、Lを通して、スバルという地球人を知った!
食談を通して、地球とアンドロメダ星、双方を救う真理を垣間見た!
あやつのあの足掻くさまは好きじゃ。絶対に勝てるはずのなかった厄災の混濁獣を倒しおった!
それにあろうことか、許すも許さないもなく、わらわに歯向かわなかった。それどころか救おうとした!
地球の全球凍結をいつの日か、解凍して見せる、と!
その為のファミリアを立ち上げるといった!
問題を通して最適解の答えを導き出しおったのじゃ! あやつこそがLが求めていた人材じゃ!
スバルは稀にみる逸材じゃ! Lの適合者じゃしのぉ
だが……2人ともまだまだ若い。
そこはわらわたちがバックアップするつもりじゃ!
Lのかっさらいにも目を光らせよう」
デネボラが、
ヒースが、
シャロットが強く頷いた。
「地球人スバルか……。よかろう。だが、条件がいくつかある! まずは、そのスバルという人間性をわらわは知らん。じゃからその者と一度面会したいものじゃ!」
「おお、応えてくれるか女王ブリリアント・ダイヤ!」
「フッ……。……じゃが……地球人たちにここでの暮らしは難しいでしょう」
「……」
「鉱物資源が多く、空から弱酸性の雨が降り、気圧も高く、その上重力も重い……。アンドロメダ星よりキツイかと……!
その上、生きている動物たちの多くが鉱物や金属成分値が高く、余程の開拓者でなければ生きられない……!」
「やはり難しいか……」
「いいえ、ここの特定のスポットであれば、それが可能だと聞いた事があります!」
それはヒース言葉だった。
「あらあなたは……」
「私はアクアリウスファミリアのヒースと申すものです」
「……それはご丁寧に。それで特定のスポットとは?」
「『ヒヨリ街道沿い』です! そこのスポットはアンドロメダ星の眼下に当たり、重力の影響が互いに引き合い、和らぎ。気圧も安定しています。
そこに生きる動物たちも生態系が変化し、鉱物や金属成分値が低いとフォーマルハウト様から聞いた事があります!」
「よくお調べで」
とここで口をはさんだのはシャルロットだ。
「それだけじゃないですよ! 肉の赤身は柔らかく上品だと! 川魚も生でいけるとフォーマルハウト様が言っていたですよ
それだけじゃないですよ! ガニュメデス様が言うには、そこのブドウは寝かせると発酵して、葡萄酒としてもいけると言ってたですよ!」
「フォーマルハウト様もガニュメデス様も、若い頃はここに着てましたからね。
ですがこれとは話が別。こちらには何ら旨みがありません」
場に静寂が流れた。
当然だ、誰がタダで宿をだすものか。
その月費は誰が立て替えるのか。

「失礼ですが……。先にスバル君と話をし、スバル君がファミリアを立ち上げ、地球の緑を復活した暁には、
私たちアクアリウスファミリアとアンドロメダファミリアの双方に、地球の資源を流すと締結してくれました」
これにはブリリアント・ダイヤ女王もピクッと反応を示した。
それは旨みのある話だった。
「こちらがその署名です」
その白い紙には、赤いインクが使われていた。いや、赤いインクではない、それはスバルの血だった。

「確か……全球凍結は地球全土がその領域に覆われるんでしたよね!?」
「ええ。最短でも向こう約1億年は氷漬けの時代が到来します」
「ホゥ」
それはいい話だった。
「彼が住んでいた地球は、過去3度の全球凍結時代があります。
それぞれ、約22億年前、約7億年前、約6億年前。
最後の全球凍結は先カンブリア紀時代でした」
「ホホホ。それはまた……」
これはいい情報だった。愉悦が止まらん。
「ホホ、地球人たちに貸しを1つ作るのもまた一興かな!」
ここでヒースは目を細めた。
(なんて腹黒いんだ。だが、地球とアンドロメダ星、双方救うには、この道しかない――)
僕はここにはいない少年に謝った。
「……いいでしょう。喜んで署名しましょう」
それは旨そうな話だった。
海老で鯛を釣ったのだった。
Lへの開拓者(プロトニア)への道のりは、スバルをブリリアント・ダイヤ女王に会わせるというものだった。
さらに、今回こうして、地球人類の移住先を確保できたのは大きい。
着たかいがあった。
今回の掴みは上々だった。
――そんな時、この部屋の両扉がトントンと叩かれた。
「何じゃ客人の前じゃぞ。入れ!」
と両扉が開き、顔を見せたのはなんとアンドロメダの兵士だった。
「何じゃ、わらわの方か」
とアンドロメダが呟いた。
「王女大変です!!」
「何じゃ騒々しい」
「地球からの連絡なんですが、地球人一行のアユミさんが拉致られました!!」
「何じゃとー!?」
「おやおや、これは騒々しい。これは助けに向かった方がいいのではなくて。のぅアンドロメダや」
「クッ……世話が焼ける女子たちじゃ!」
ここで声を上げたのはシャルロットだ。
「何してるんですか!? 早く助けに向かうですよ! さあ、急いで!!」
「L様は先に動いて、既に帰りの宇宙船に向かわれました!」
「……ッッ。事態は急を要するようじゃ! 行くぞ皆の者!」
こうして、アンドロメダたちを乗せた宇宙船は、地球に向けて飛び立つのじゃった。


――その頃、地球にいたスバルは正座されて、女子たちから散々の叱責を受けていた。
原因は当然、女風呂にいたことである。覗き(?)はいけないと思う……うん。だけど……。
(み……惨めだ……ッッ)


☆彡
あの後、スバル君は女子たちから袋叩きにあい、叱責を受け、散々な扱いを受けていた。
不憫に思えたあたしチアキは、その仲介に入り、その嵐は過ぎ去っていった。
で、現在、あたしはスバル君の治療に当たっていた。
その顔に傷薬を塗ってあげる。
「染みるけど我慢しててよ」
「痛ててて」
「はい、おしまい」
「酷いよもう女子たちは……! 僕はただブラシで床をこすっていただけなのに」
「その状態なら、訳ありでわかるんやけど……。あたしのビンタで伸びてたんやろ?」
「そうだ!」
あの後僕は気絶して、意識を失っている間に女子たちに見つかり袋叩きを受けたんだ。当然無防備だから痛いのなんの、メチャ痛かったんだぞ。
僕がそのことについて、いざ言おうとしたら。
「でも、あたしの裸を見ようとしたんだから、おあいこ様よ。……これでこの話はおしまい」
「……」
僕はガックリと項垂れた。
僕は彼女たちに袋叩きにあい。
チアキさんは僕に裸を見られようとしたことで、おあいこ様だというのだ。なんか納得できない。
そもそもビンタを食らって、伸びてたんだけど。
「でも、痛かったなぁビンタ……伸びてたし……なんで?」
「……」
「僕、強くなったはずなんだけど……」
「……それはあたしが、5歳の頃から霊力を使えからや」
「5歳!? 霊力ぅ!?」
ということは、彼女は僕の先輩だった。
「道理で……」
あの威力……。
「んっ……霊力? 魔力じゃなくて?」
「……」
あたしはこの子が何も知らないのかと思い、変な目で見た。
「霊力と魔力は、似て非なるもの。」
「……」
そこから彼女は長話をする。
「一般的に人の体には、
生命エネルギーと呼ばれる気と。
精神エネルギーと呼ばれる魔力と。
魂のエネルギーの霊力の3つが備わってる
魂には精神が纏わりついててな。これを繋ぐのが心や。
これが人体を動かす3要素と呼ばれててな」
「ほうほう。それなら先生たちに習ったな。この場合、心というのは精神と魂を繋ぐ大事なものだとか」
それにはあたしもうんと頷いた。
「そして自然界には、様々なマナと呼ばれる力があって、
大別して、火、水、地、風、光、闇、月、木、金、そして霊の計10要素がある!
気の発動条件は、自身の肉体と気を使って戦うエネルギー!
対して魔力の発動条件は」
「はいはい。それなら知ってるー! 魔力と自然界に満ちるマナです!」
そうやと頷くチアキさん。
「次に霊力、こいつのコツは大変! なにせ自分の魂と魔力を操作して、霊を操り、攻撃するんやからな。
でも、威力は他の2つの追随を許さへん」
「道理で……、僕が無意識に張っていた魔力の障壁を貫通したわけだ……」
要は、そーゆうわけだった。
「でも、チアキさんは凄いな、5歳の頃からかぁ……道理で勝てないわけだ」
「ううん……。本気で殺しあったら、多分、勝つのはあなた。
こっちは霊力の操作が難しいもの。
マナに愛されてるあなたが羨ましい……」
「?」
(そうや。光がこの子を護っとる……! しかも、以前よりも段違いの光の強さや)
「……」
あたしは俯いて考えた。どうやってそこまでの光を得たのか知りたい。
「ねえ、教えてくれる? どうやってあなたはそこまで強うなったの?」
「……君なら、いいかな」
僕は、ありのままを話した。
それを知ったあたしは驚いた。
「インドネシアのイジェン火山で、死にかけた――ッッ!?」
「うん。多分、ずっとずっと強くなったのはそーゆうことだ思う。
「……それにしては妙や……」
「?」
「神様から第二の命を授かったんなら、もっと強うなってもおかしくないはず……! う~ん……」
考えても、それはわからなかった。
強くなる以外に、何か大事なことでもあるんやろうか。
ちなみに死にかけであって、なにも死亡していない。大変失礼である。
「ねえ、何か不思議な能力とか授かってない?」
「さあ……特に何も感じないけど……」
「そう……」


――その時だった。
スバルとクコンが左腕につけているオレンジとピンクの腕時計型携帯端末が反応を示したのは。
(これが鳴ったということは、何か緊急事態のを報せる合図)
すぐにスバル(僕)はその場から離れる。
ここにはいないクコンさんもその場から離れる。
「ごめん。何かあったみたいだ!」
僕はチアキさんに謝った。
「ごめんねみんな! 何かあったみたい!」
あたしは体育館の中にいて、おじ様やおば様たち、お子さんたちの相手をしていたけど、この場から離れることにした。
僕、あたしは、ほぼ同時に外に駆け出した。
そして、ほぼ同時にそのスイッチを押して、ホログラム映像を映写させる。
そこに映っていたのは、アンドロメダ王女だった。
ただし、あたしクコンには見えないし聞こえないので、機会音声だけが耳に届く仕様だ。
『大変じゃぞスバル! クコン!』
「何があったんですか? 王女! まだ帰るには早いかと……!」
『レグルスの奴がやりおった!』
「え……レグルスってあのレグルスですよね!?」
『そうじゃあのレグルスじゃ! あやつがお主の彼女を拉致したのじゃ!!』
「なっ!!」
僕は驚いた。
『そうならぬよう、奴がいる病室には見張りをつけていたのじゃが、
ぬかったわ。
あろうことか、エナジーア変換携帯端末とシシドの身柄を持ち出して、地球へ飛んでいったのじゃ!』
「なぜ、アユミをッ!? 狙うなら僕のはずだ!!」
『あやつの真意はわからん!! 今、そちらに迎えの船を渡す。お主はその船に乗って、最後にアユミが消えたポイントへ向かうのじゃ』
「……ッッ」
『幸運を祈る……ブツッ』
そして、ホログラム映像が切れたのだった。
辺りに静寂が漂う。
スバルとクコンはその場でつっ立っていた。


「あいつが生き返った……」
あたしクコンは震えた。
思い出すは、あの地獄絵図だ。
泣き叫ぶ子供たち、舞い散る血飛沫、バチバチと燃え上がる山火事。子供たちは次々と息絶えていって……。
「……ッッ」
あたしは自分を抱きしめた。
その時だった。背後から声をかけられたのは。
「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん」
「!」
それは、おば様を始め、おじ様や子供たちだった。
「何を怯えてるんだい?」
「今、その腕時計型携帯端末は動いていたな。誰と話してたんだい?」
「何でお姉ちゃん、ビクビクしてるのー?」
(……あたしそんなにビクついて……)
見ると手や足が震えていた。
「ハッ!」
ニコニコ笑みを浮かべている、避難民のみんな。
何も知らない、あいつの恐ろしさを。
(ダメだこの人たちを巻き込めない……ッッ)
「聞いてみんな!! 今あたしの友たちがあの炎の死神に連れ去られたの!!)
これには一同ピクッとした。
「そいつって、第1班を殺しまくった奴だよな!」
「なら俺たちの仇だ!」
大人たちは武器という武器を手に取った。
あたしは首を振った。
「違う違う!」
「何が違うんだい? お嬢ちゃん!」
「あれとは戦ちゃダメよ! 逃げなきゃ!」
「何言ってんだお嬢ちゃん! 俺たちは大人だぜ! それにこれだけの人数だ! 袋叩きにしてやるよ!」
「もし現れても、僕がカウンタを合わせて、てやぁ!! と打ち負かしてあげるよ」
「ダメよ! あいつにはどんな物理攻撃もきかない!! シシド君が撃った拳銃だって、効果がなかったんだもの!!」
あたしは怯えた。
「あいつが次に狙うなら、あたしかスバル君のどちらかだわ! 速く安全な所に避難しないと……!」
――その時、体育館に雷が落ちた。瞬く間に燃え上がる炎。
吹雪はビューッビューッと吹き、体育館の中の様子は伺えない。
「まさか……」
その呟きが落とされた。
体育館の壁が爆破し、直線状にいた人たちから血飛沫が上がり、瞬く間に燃え上がる。
どこからともなく、悲鳴が上がった。
あたしは怖くなり、駆け出していた。
1歩、2歩、3歩とその走りが笑えるくらい遅くて、ハハッ、なんなのこれッッ。
血飛沫が物凄い勢いで迫ってくる。
そして――
目の前に大きな炎が現れたんだ。
(ダメだ!! 死ぬ――)
あたしの意識は、そこで手を放した。
後に残ったのは、大量の倒れた人たちと燃え盛る体育館だった……。







スバル(僕)は、外に出ていた。
外は吹雪が吹雪いていて、とても寒かった。
「……大変なことになった……」
そこへ「スバル君」と、呼んだのはチアキさんだった。
「……」
「行くの?」
僕はコクリと頷いた。
「そう、男の子やね。……それじゃあ見てあげる」
「何を……」
チアキさんが取り出したのは水晶玉だった。
その球が光り、磔となったアユミちゃんが映し出された。付近には誰もいない。
「アユミちゃん!」
「……酷いわね。でもここはどこなんやろうか? 日本じゃないみたい……」
「……ッッ」
(アユミちゃん……アユミちゃん……)
僕は目を瞑り、危機感知能力を最大限まで広げた。
白い鳥が大海原を飛んでいく、そこで見えたのは天高くそびえる1本の柱だった。
それは人工的な島で、アユミちゃんが磔になっていた。
その発見した方角は――
「――いた! あっちだ!」
「え~と……あっちにあるのは……ちょぉ待ってて」
チアキさんの持った水晶玉がぼんやりと光り、その地形を移してくれた。
日本海を超え、そのずっと先――それはアース・ポートだった。
赤道上に作られた宇宙エレベーターへの入り口。
ここを渡る交通手段は車か船のどちらかであり。
主に湊湾(みなとわん)から長い桟橋が伸びているので、最近までは、車での通行が行き交っていた。
また、海上でもあるので、船での観光名所となっていたんだけど……、
現在では通行止めだ。
「ここは赤道上のアース・ポートやね」
「アース・ポート!? 何だってそんなところに!?」
「……因縁!」
「!」
「アース・ポートは地球人類の象徴! 宇宙へのスペースマーク!
アンドロメダ星と地球の因縁は、このずっと先、宇宙探査機が起こした事故や。
その因縁に終止符を打とうとている! アンドロメダ星人レグルスが、君たちを倒して」
「……ッッ」
なんて奴だ。
「……スバル君。占ってあげる。ちょぉそこに立ってて」
「?」
チアキさんは懐から何かのカードの束を取り出した。
それを宙に張り付けていく。ぼんやり光っているのは霊力だろうか。
そのカードがグルグルと周り、1枚だけ宙に躍り出た。
その1枚がゆっくりと降りてきて。チアキさんはそれを受け取った。
「……なんてカードが出てくるんや!」
チアキさんの顔は愕然としていた。
「いったい何が……」
それは死神が、斜め一線に鎌を振り下ろし、美女2人のどちらかを選べというものだった。
「二者択一! どちらかが助からない……」
「……ッッ」
僕は走り出そうとしたその時。
「待って!」
後ろから声をかけられて、その場で立ち止まる。
「今から、親書を書き留めます。その封書をもってアンドロメダ王女に渡るようにできる?」
「…………。できるけど」
「少しだけ……あたしに時間を頂戴」
「……わかった」
立ち止まった僕は、何かあるのか勘ぐり、チアキさんの元へ歩み寄り、一時2人とも、準備のためにホテルの中へ戻るのだった。



☆彡
チアキは1人、親書を書き留めていた。
『親愛なるアンドロメダ王女様へ。
突然の返事をお許しください。
スバル君から事情を聞きましたところ、こちらでも対策を講じようと思います。
誠に勝手ではありますが、地球産の野菜や果物、その土を残したいと思い筆を取りましたことお詫び申し上げます。
先だって送ってもらった恵けいちゃんが入っていた棺桶の手押し車には、冷凍機能が備わってることがわかり、役立たせてもらおうと思いました。
つきましてはアンドロメダ星移住際、こちらからの持ち込みをどうかお許しいただきたく、先だって親書をお送りしましたことを失礼つかまつります。
p.s.チアキより』
あたしはその親書を封書の中に入れて、封をのりづけしたのだった。
そして、あたしの知らないところで、
大人たちが子供たちに伝えて、ケイちゃんが入っていた棺桶の手押し車の中に、先ず土から入れて、野菜や果物、種を次々と入れていくのだった。
また、別のある場所では――
ホテルのオーナーが気をきかせ、一振りの護り刀を僕に譲ってくれた。
全長15~18㎝ぐらいのとても短いもので、本来は結婚した時や葬儀の時に親が子に持たせるものだ。
「これは……!」
「これは私があの子がどこかの誰かにお嫁に行く際、準備していたものだ。
また葬儀の際、あの世で自分の身を護る為に持たせるためでもある……。日本の古い文化で、親が子に贈るものだ。……まさかこんな形になるとは……!」
「……そんな大事なもの受け取れませんッッ!!」
僕はそれを突き返そうとしたが、ホテルのオーナーはそれを制した。
仕方なく、突き返そうとしていた手を胸の辺りに戻す。
それを認めるホテルのオーナー。
「それは、地場産業の腕利きの職人に打たせた護り刀だ!
鞘は伝統に倣って白鞘。
刃は銀紙9号、刃物硬度指数はHRC69以上だ。ハイカーボン含有量は4、現在の高度鍛造技術で特別に作られたものだ!
昔は銀紙3号というロストテクノロジーで作られた炭素鋼よりのステンレス鋼が実在したらしいが……。
一部の腕利きの鍛冶師を除いて、今では白紙2号や青紙スーパーとともに失われた鍛造技術なんだ……!」
切実だった。
200年前の20XX年では、その鋼材が実在したらしいのだ。
たたら製鉄の玉鋼というものがあり、主にこちらは、一部の鍛冶屋に降ろされて、日本刀の鍛造に使われているため、一般流通はそもそもない。
その源流をくむのが安来鋼であり、和鋼の伝統を引き継ぎ生産されている鋼。切れ味、靭性、耐久性に優れ、当時、日本の刃物の多くにこの鋼が使われていたらしい。
白紙2号と青紙スーパーは炭素鋼の1つで、ロマンがある切れ味鋭い炭素鋼なのだ。だが錆びやすい。
白紙2号は板前や高級料亭の職人が好き好んで使用し、また、肉や魚の味を引き立てるのによく使われていた鋼材だ。
これはおそらく炭素鋼だからなせる、食材を切った時の酸化被膜の影響だろう。
青紙スーパーはマニアック寄りで、炭素鋼の中で1番切れ味が鋭い。
だが、水っけや吹き残し、砥石で研いでいる最中に赤錆が発生し、きちんとした研ぎの技術と薬品がなければ、たちまちその見た目が悪い。これは研屋の企業秘密だ。
一般人にできる対策としては、刃物椿油で錆止めするか、わざと黒錆びで防ぐしかないだろう。黒錆びならば赤錆を防ぐことが可能だ。
そして銀紙3号だが、こちらは炭素鋼寄りのステンレス鋼でできている。
一般流通量が少なく、非鍛造の銀寿と鍛造鋼手打ち刃物の銀三がある。もちろん、銀寿よりも銀三の方が圧倒的に切れ味、長切れがいい。
切れ味は白紙2号に近く、炭素鋼のように砥石で研ぐことができる。しかもステンレス鋼の圧倒的メリットで錆びにくい。
食材を切った時でも、馬肉、イカやタコの和え物の味がよく引き立つ。これはおそらくステンレス鋼に含まれる酸化クロム膜の影響だろう。
ん、なぜこの違いが現れるのか。
それは、炭素鋼とステンレス鋼の違いで、脊椎動物の赤い血ヘモグロビンと無脊椎動物の青い血ヘモシアニンを、炭素鋼で切ったときの酸化反応と酸化クロム膜の違いだろう。
一流の料理人は、自前の包丁を2丁携帯しているもので、メイン用と保険用とで使い分けているのだ。
この食材を切った時の僅かな違いを感じ取れる職人さんは、神の舌を持つ一流の料理人といっても差し支えない。
またこのわずかな違いを感じ取れるのは、おしとやかに食べるうちの娘ケイとチアキ姫ぐらいだろう。目の前の少年はがっついて食べるため論外。
だから、今目の前にいるこの少年に熱弁しても、きっとわかってくれないだろう。ハァ……。
「……」←刀剣よりゲーム趣味
僕は試しに、そのケイの護り刀を白鞘から引き抜くと。
「……!」
見事としかいいようがない鏡面反射の短刀であった。自分の顔が映り込むほどだ。
一般的に鏡面反射にするには砥石が必要で、
荒砥の500番。
中砥の1000番4000番。
仕上砥の6000番8000番。
最終仕上げの12000番30000番。
そして、革砥50000番で仕上げるわけだが……ここまでなってくると高級料亭や一流のホテルじゃないと無理がある。あとは一部のマニアぐらいだ。
だから私は、もっとも基本的リーズナブルなこの砥石を差し出す。
「これも渡しておこう」
スバルは、森平砥石烈火シリーズを手に入れた。
「森平砥石烈火……?」
「これは森平砥石火シリーズの後継機だ。
創業者の森平さんが死去した後、その技術と伝統を世に残すために、後任の人が引き継いだものだ。
それだけ優れていた人間国宝といってもいい人だったらしい。
……これは天然砥石と人造砥石の長所をいいとこどりした、その故人が生涯をかけてこの世に残したものだ。
80年余りの蓄積された知識と経験を駆使し、5年の歳月をかけて、天然砥石に比する切れ味と研ぎ味を徹底追及した最高品質のオリジナル砥石だ。
炭素鋼、ステンレス鋼、水を浸せばすぐに研げる。もどかしい砥石を水の中に浸す時間はいらない。
そもそも人造砥石とは品質が安定していて使いやすいが、粒子が尖っているから刃に傷が入りやすいというデメリットがあるんだ。
だがこれは天然砥石に近く、鋭利な刃がついて、長切れもする、素晴らしい砥石だ。
私のお古だが、持っていきなさい。必ず役立つはずだ。
「――うん」
こうして僕は、ホテルのオーナーから『ケイちゃんの護り刀』と『森平砥石烈火シリーズ』を譲り受けたのだった。
ちなみに、2022年(令和4年過去)では、粉末ハイス鋼のHAP40のステンレス鋼HRC65といういい包丁がある。
ただし、問題は刃を研ぐ際の砥石だろう。
人造砥石にはレンガ砥石、セラミック砥石があり、炭素鋼ならレンガ砥石、ステンレス鋼ならセラミック砥石が研ぎやすいとされている。
さらに言えば、軟質、硬質があり。鋭い刃付け、長切れを求める人は軟質。忙しい合間をぬって刃を研ぐ人ならば硬質が良いとされている。
そも人造砥石よりも天然砥石を選り好みする人ならば、かかる費用は高額である。


☆彡
――その後、僕とアチキさんは、見るも無残な山火事の跡を歩いていく。
とここで、途中まで付き添ってくれたチアキさんと別れた。
今僕たちの目の前には、アンドロメダ星の宇宙船が停まっていたからだ。
「初めて見た……あれが宇宙船」
チアキさんの見送りはここまで、
僕はそのまま歩みを進めると、後ろから声をかけられた。
「スバル君!!」
「!」
「……頼んだよ!」
僕は親指を立ててグッドサインで返した。
宇宙船の前で待っていたのは、シンギンさんだった。
吹雪が吹きつける。
「シンギンさん!」
『スバルさん。隊長がご迷惑を!』
「それはいいんです。それよりも場所はわかってますか!?」
『隊長が持っていたエナジーア変換携帯端末の周波数を頼りに今探っているところです!』
「それならずっと向こうにあるアース・ポートを目指してください! そこにアユミがいます」
僕は、その方角を指差した。
『なぜそれがわかるんですか!?』
「僕の危機感知能力と! あそこにいる彼女の水晶占いで現場を特定しました」
『なんていう場所なんですか!?』
「地球のランドマークならぬスペースマーク、それがアース・ポートなんです! 他に見えたのは宇宙まで伸びている宇宙エレベーターです!」
『そんなところに隊長がっ!? なぜ隊長はそんなところに!?』
「彼女が言うには、因縁なんです!
アースポートと宇宙エレベーターは地球人類の象徴!
それにはあの宇宙探査機が関わっていて、それが地球とアンドロメダ星との因縁らしいんです!
だからあいつは、それを壊そうとしてる!
僕たちを倒して、その因縁を断つつもりなんです!!」
『!!』
スバルの言葉はは妙に説得力があった。
だが、それは全て彼女の受け売りだ。
「急いで乗ってください! 案内をお願いします!」
『はい!』
シンギンさんは宇宙船の階段を駆け上がっていく。
僕は踏みとどまり、一度チアキさんをみた。
チアキさんは頑張ってねと手を振っていた。
僕はグーから親指を立てて、グットサインを彼女に伝える。
そうして、僕たちを乗せたアンドロメダの宇宙船は飛び立っていったんだ――
「――がんばってね……」
と言ったところで……。後ろから不審者同然の子供たちの声が聞こえてきて。
「おい、押すな!」
「変な所触んないでよ!」
「良く見えないって!」
「うわっ!」
と見る者が見ればバレバレだが、山火事後の炭化した木々の間から小学生たちがその身を押し合い、将棋倒しのように崩れてきて。
これにはあたしも呆れるばかりだ。
「「「「「あははははは」」」」」
「……」
あたしは冷やかな流し目を送り、その場を後にした。
馬鹿共は、その場に残して。


☆彡
――上空、吹き荒ぶ吹雪がアンドロメダの宇宙船を叩きつける。
その間に僕は、サンバイザーとイヤホンが一体になった翻訳機を装着していた。
「すごい吹雪ですね。段々と強くなってる。隊長と戦う際はご用心を!」
「はい」
吹雪がビューッビューッと唸り声を上げていた。
「――とそうだ!」
僕は頼まれていたものを取り出し、シンギンさんに渡す。
「これは……?!」
「『チアキからの親書』です! 必ずアンドロメダ王女様に渡して欲しいとのことです!」
「それならあなたが……」
「いえ、彼女が言うには、僕はレグルスとの戦いの後、致命傷を負い、また眠りにつくそうなんです!
その間に、地球人の難民たちを拾うことになるんですが……僕が致命傷を負って倒れているため、まるで役に立たない……そう予知夢を見たらしいんです」
「予知夢……なるほど!」
つまり、その間に私から王女に伝えて、この親書が効力を表すわけか。
「でも、当然日本語で書かれているから、王女様も読めないので、アユミかクコン、あともう1人地球人の力が必要になってくる、とも言ってました!」
「もう1人……?」
「僕にもわかりません。彼女にはそれが見えたらしいんです」
私はなるほどという思いで頷く。
「でもその前に、アンドロメダ王女様に渡るよう信頼できる人に渡してください……との事でした」
「信頼できる人……」
これには私も嬉しく思い。あの時チラッと見えた少女だろうなと勝手に勘ぐった。
だとしたら、あの子ホントに凄い。
「……フッ、任せてください。不詳、この私、シンギン副隊長が信頼できる人で承りましょう!」
と気分を良くしたシンギン副隊長さんがその親書を預かる運びとなったのだった。
「よろしくお願いします」
僕はそれだけを願った。
これでチアキさんに頼まれていた仕事は、シンギンさん預かりになった。後は、今後の展開を信じるだけだ。
アユミちゃんはこの時、寒空の下、磔にされているのか。急がないと。
「もう少し2時の方角です! そうそこであってます!」
「すごいですね、『危機感知能力』! もうクライシスサーチング(クリシィエクスベルシーフォラス)と呼称してもよろしいじゃないんですか!?」
「クリシィエク……え、何!?」
「宇宙共通語で、危機感知と言います! クライシスサーチング(クリシィエクスベルシーフォラス)」
「クリシィッッ舌噛んだ……!!」
「時間をかけておいおい学習していきましょう! 開拓者(プロトニア)を目指すなら必要なことですよ!」
「ううっ……」
これは学習だけでも大変そうだ。
「……ハッ! クコンさんも捕まってる!」
「ッッ……作業員!」
「はい、クコンさんが着こんでいた防寒着にも位置情報システムが取り付けてあります!
その周波数帯を探ったところ、降ろしたところにはいません!! おそらくアユミさん同様拉致られたかと!」
「……ッッ」
「何てことだ!」
僕とシンギンさんは衝撃を受けた。
今、僕の脳裏には、あのチアキさんのカード占いがよぎった。

「……なんてカードが出てくるんや!」
「いったい何が……」
それは死神が、斜め一線に鎌を振り下ろし、美女2人のどちらかを選べというものだった。
「二者択一! どちらかが助からない……」
「……ッッ」

僕は首を振って、その最悪を振り払った。
(僕は、占いを信じないぞ……そんな未来……変えてやる!)


☆彡
【アース・ポート】
――そして、そのアース・ポートでは。
磔にされたアユミ同様にクコンも磔にされ、その首に爆弾の首輪を取り付けられていた。
美少女2人の磔である。が、防寒着姿なのがいかにも残念だ。
「これで準備OKだ」
俺は準備を済ませ、奴等がくるまで待つことにした。
外は吹雪が吹雪いていて、夜の月が昇っていた。今日の月は新月だった。
そして、俺は気づいた、あいつ等の接近を。
「意外に早いな。さすがに優秀な奴等が揃ってる」
俺は、人質の前で待ち構えることにした。

――そして、僕は宇宙船の中で、あいつの気配を強く感じたんだ。
「いた! あそこだ!」
「モニターを切り替えろ!」
作業員がモニターを操作し、モニターが切り替わる。
そこに映っていたのは磔にされたアユミちゃんとクコンちゃんの姿だった。
「アユミちゃん! クコンさんも!」
「すぐに付近に降りるんだ」
「ハッ!」
そうしてアンドロメダの宇宙船は、その付近に降りて、
スバルとシンギン以下の兵士たちは、その磔の場所に走っていくのだった。
磔にされたアユミちゃんが眼前に差し迫ったところで――
「――停まれ」
と災禍の獣士の声が響き、僕たちはその場で急停止した。
すぐに僕は声の出所を探り当てて、顔を上げてこう叫んだんだ。
「災禍の獣士!!」
「久しいな、地球人の小僧」
「!」
僕はある点に気づいた。
それはあの時、僕がぶった切ったはずの左腕があるのだ。
(どうなってる……!? 確かあの時、僕がぶった切ったはずだっ!!)
僕はよく観察した。
(よく見ると、あそこだけ炎の色が違う……義手か)
僕はそう仮説を立てた。
とそこへ話を割り込んできたのは、シンギンさんだった。
「隊長やめてください!! こんな恥ずかしいことは!!」
「……」
「隊長!!」
「……」
隊長は何も答えず、ただ地球人を見下ろしていた。
その視線は、災禍の獣士の左腕に縫い付けられていた。
「フフッ……これか?
これは知り合いに腕のいい義手がいてな。そいつに作らせたものだ。
……相棒のシシド坊やにも、同じようにプレゼントしておいた」
「……」
なるほどそーゆうことか。
とその時だった。
災禍の獣士の後ろから何かが現れたのは。
シンギンはそれを認めて、呟きを落とした。
「あれは……」
「フフッ……」
それは災禍の獣士が考えた余興だった。


――アンドロメダ王女たちを乗せた宇宙船は、地球付近を飛んでいた。
その時、地球から謎の電波を受信したのだった。
作業員たちは、それをいち早く気づいた。
「王女アンドロメダ様! 地球から謎の信号を受信しました! モニターに映しますか!?」
わらわは「映せ」と言い。
作業員たちは機械を操作をし、モニターがその戦場を映した。
それは磔になったアユミとクコン。
災禍の獣士を見上げる形のスバルとシンギン以下の兵士たちであった。
「アユミちゃん!」
と漏らしたのはLだった。
「どうやらただならぬ事態が起きたようじゃな。急げ」
「ハッ!」
宇宙船の速度が上がり、地球へ向けて降下していく、次第に宇宙船は炎に包まれていった。
それは熱圏突入の際の影響だった。


☆彡
災禍の獣士の後ろから現れたもの、それは無人航空機(メイビーコロ)であった。それはもう黒い塊のようなもので、いったい何1000匹いるんだ。
私たちの感覚して近いものは、ドローンだろう。
「あれは……無人航空機(メイビーコロ)」
「メイビーコロ?」
「ハチの羽音にちなんで命名されたものだ。メイビーというのは実際にいるハチとトンボみたいな生き物が合わさったような生き物で、
目には複眼があり、360度の視界が見渡せる。
羽は8枚あり、最高速度に乗った時はマッハ1を超える。
威嚇の際には本能的に嫌うほどの怪音波が出る。それは攻撃的で、10匹以上集まった時は、新築の建物が倒壊するほどの共鳴周波数を叩き出します。
人の鼓膜など1匹いれば十分に破壊できるでしょう。
尾には毒針があり、鉄板に穴を空けるほど強力で。その毒の殺傷力は、象なら謎の死を遂げるほど強力なもの。クジラほどの大きな体格でも2、3分もあれば絶命します。
即効性の抗生剤が届く前に、年間、アンドロメダ星で1千人の死傷者が出ているんです。
これは他所の星から来た外来生物で、プロトニアたちが初期のころから、討伐対象に指定される案件というやつなのですよ!」
(人体がズタズタになる案件がきたよ!? 大丈夫なのか開拓者(プロトニア)生活ーっ!?)
僕にとって、それは衝撃的な生き物がいることを示唆していた。
「でもこれは生き物じゃないから、まだ大丈夫だよね?」
僕は今更、開拓者(プロトニア)たちの仕事の大変さが分かった。
あんな外来生物がいるなんて、アンドロメダ星は怖いところだ。
「ねえ?」
「……あれは小型ロボットですが、一般的に毒針を持ってます。政府関係者や要人の暗殺に用いられるもので。
人間の皮膚の部分に打ち込めばイチコロ……!
最近の事件では、女の嫉妬が原因で、TVで話題になった美人モデルさんが狙われました。
彼女は人型ヒューマンタイプで、自分が世の中で一番の美の美しさで、神にも勝る、星王婦人の誰よりも美しいと誇張したんですよっ!!
それが原因で、周りから批判が殺到し、表舞台から消えるも彼女は負けず嫌いだった……。
その事が原因で火がつき狙われた。
ある晩寝苦しさを覚え、体全身が熱かった。一夜にしてその容姿が変貌してしまう――
20代の若さから一変、90代のおばあちゃんに変わり果ててしまう。
顔は深いシワとシミ、ホクロだらけで、皮膚はよぼよぼ、足腰が悪く自力では立つのが難しいほどだった。
それはウィルス性の老いだった」
これにはスバルも驚愕した。言葉が出ない……ッッ。
「そこから彼女の転落人生が始まる。
さっきも言ったようにウィルス性で、実は空気感染してしまうんです。
すぐにTVで報道されて、その街一帯に大規模な封鎖指令が発令されました。
被害は彼女だけではなく、周りにも感染して、老いが伝播していった……。老若男女問いません。
無事だったのは、同じエナジーア生命体か、鉱物生命体ぐらいでしょう。その他の種族は全て、老いてしまったのです。
その人たちの慟哭、嘆きは計り知れません……ッッ!!
耐えられず、その絶世の美女だった人は身投げ自殺をし、息絶えました……」
「……」
僕はとんでもない事件を聞いて、言葉を失ってしまった。
「未だにその犯人を特定することができず。そのウィルス性の老いは研究機関を通して、ほぼすべてのファミリアが所持していることになります。
こういった事件は、必ず誰かが道楽目的で起こしたもので、決して許されるものではありません。
ただ、人が美を追求する以上、半永久的な美を手に入れようと薬を製造する以上、必ずといっていいほどそれが生まれるものなんですよ!!」
「……」
美とはときに醜悪である。
「安心しろ! このメイビーコロにはそんな毒も、ウィルスも持たせていない!」
「「!」」
「俺が責任もってカスタマイズしたもので、出国する際、検査機関も通している!」
これにホッとするスバルとシンギン副隊長とその他の兵士の皆さん。
「主に追求したのは速さと正確性、そして映像の送受信機能だ!
そしてこいつ等は、オスの映像送信器で、地球全土に配備させたメスの映像受信機に送信させている」
それを聞いたシンギン副隊長は一安心した。
(そもそもそんな犯罪行為犯したら、その他のファミリアから叩かれて、今度こそアンドロメダファミリアは滅亡だッッ!!!)
どれだけの被害拡大になるのか想像に難くない……。
ブルリとシンギン副隊長は脅威を覚えたのだった。


――その証言に沿うように、まるで映写機のように黒雲に投影されて、今のスバルたちの状況をリアルタイムで全世界に報せていた。
その状況を見て、一番驚いたのは恵起ホテルに帰る途中のチアキだった。
「あれは……」」
次に驚いたのは、カナダにいるクリスティという女性だった。
「あの子はやっぱりあの時の!!」
それは世界中で投影されていた。
「オウ アメイジング!」


「地球全土に送信!? いったい何のために!?」
「決まっている、お前が偽善者だということを、世に報せるためだ!!」
「気を付けろスバル君! 君は今、ハメられている!」
「!」
どうやら僕はハメられたらしい。
アユミちゃんたちを人質に取ったのは、このためか。
「さあ、化けの皮を剥がしてやる!!」
「……ッッ」
思った以上に過酷な状況に追い込まれた。
ここからは僕は、言葉を選ばなければならなかった。
(メイビーコロがあんなにいる以上、いつでもアユミちゃんたちを殺せるか……ッッ!!)
人質を取られた僕は、脂汗をかき、それが頬を伝う。
「地球全土を覆う全球凍結を、いつの日か必ず解凍すると言ったな? あれは嘘なんだろ? そもそもできるはずがない!」
「いや、できる! 宇宙にはまだ未知の技術、科学が眠っているはずだ!」
「随分他力本願だな……! だが、現実を知れ! 今も全球凍結した星はある! それはなぜか!? 決まっている、できないからだ! そんな夢物語は!」
「いいや可能なはずだ!」
「何を根拠に言っている! お前たちは月光の民族……狐人(アンテロポスサイエンポウ)を知らないのか!?」
「アンテロポスサイエンポウ……?!」
それは初めて聞く名前だった。
「そいつ等の住む星、アンテロポス星は今も全球凍結したまま、帰れないでいる!」
「!!」
僕は衝撃を受けた。
「やったのは他でもない、エナジーア変換携帯端末の所持者、与力の力を持つ者だった」
俺はここから、昔話を語る。
アンテロポス星の悲劇を――


TO BE CONTIUND……

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