第1章の第13話 トゥフリーズ・ポーセィション(ナ・パゴシィ・パイモース)
☆彡
【南極大陸】
――南極大陸を調査する調査船。
その甲板に立つは、防寒着姿の男性。その人は、あの森林火災に巻き込まれ、今やアユミと共にいる少女の父親だ
その少女の名はクコン、つまりクコンの父親だった。
「……」
クコンの父は1人、目線の先にそびえる悠久の、いや、今や儚い氷の大地を見据えていた。
その男のもの悲しそうな顔、瞳、哀愁漂う背中、それはもどかしさであり、自身の力のなさを象徴するかのようだ。
「……これが今の南極大陸の姿か……! 学生時代に見た資料とは似ても似つかないな……」
と愚痴をこぼした。
そう、昔は巨大だった氷の大陸も、今や人類が犯した影響により幾つかに分裂し、その数が減少の一途を辿っていた。
見えるは剥き出しの岩肌群。氷で形成されていた大陸は、今や見る影もない。
男はその中の、一際大きい氷の氷壁を見詰める。
【なぜこうなったのか……諸説ある。
まず初めに、北極大陸から説明しなければならない。
北極大陸は現在存在しない……。
そもそも北極大陸は巨大な氷から形成されており。南極大陸のように岩石の上から形成されていないのだ。
そして、北極の氷がなくなり、今や世界各国の交通の要所となっている。貿易船や豪華客船等が度々通る運河となっているのだ。
最後に調査船の目的。
それは、近海調査するためだ。ここ近海の魚を水揚げし、その生態系を調べるのが今回の任務(ミッション)だ。
ただ、そこで1つ問題が浮上する。俗に『臭魚』と呼ばれている新たな品種が水揚げされたからだ】
「……」
「……何を見ているんですか? 先輩!」
見据えるクコンの父親に向かって、同僚が話しかけてきた。
その同僚は私よりも若く、慣れたように私の横に立ち、あの氷の丘壁を観察する。
「あぁ、3つあるうちの一際大きいやつですね! 昔資料で見たんですが、当時は雄大だったそうですね! 今では信じられませんよ!」
「……儚いものだな……。何か私達にできることはないんだろうか……?」
「う~ん……なら、情報を残しましょうよ! それを次の世代に繋げるしか今は手立てがありませんって!」
「……」
結局人任せか。
「なーに大丈夫ですって! 人類には優れた科学力があるんですから! いつか誰かが、その技術を確立してくれますよ! きっと……!
それができればその人達はノーベル賞もの! 私達の誇りです!!」
「そうだな……!」
「そうですって!」
(そうだ、これは人任せだ……! なら、今の私達にできることは何かないだろうか……?)
それは次の世代に残すために、1つでも多く物を残す必要がある。
いつの日か誰かが、私達が残してくれた物を発見して、役立ててくれれば、こんなに嬉しいことはない。
「さあ、どうです! いっちょう南極大陸をバックして、記念撮影を撮るなんて!」
「軽いなこいつは……」
俺はそう思った。
後輩はそれでもめげずに、話を続ける。
「一緒にあの珍しいオーロラもつけて……って、何ですかあの雲?」
「……雲……?」
私は彼の視線の先を見上げて、初めて気づいた。それが異常であることに。
「……初めてみる雲だ……! あんなの知らないぞ……!」
「例えるなら月明かりに照らされた雲みたいですよね、ただその規模と色合いが大きく違う……! 当然だとは思いますが、これはあの怪しいオーロラが原因でしょうね」
「オーロラ奇天烈雲か……」
「うわぁ~~」
「何だ?」
「ネーミングセンスないですねぇ……」
「……」
彼に言われた私は恥ずかしく思う。っつーか精神を逆撫でされた。
「なら他にいいアイデアはあるのかっ!?」
と語気を強めて食ってかかる。それに対し彼は平然と。
「せめて真珠母雲としましょうよ……それが近い印象ですよきっと……」
あっさりと返された。
(何だこれは……すごい負けた感が……)
私は呆気に取られた。
(ダメだ、ネーミングセンスに関しては若者には逆立ちしても勝てん……!)
「……」
「……」
程なくそれに決定した、真珠母雲と。
ハッキリ言える事はただ1つ、あれの正式名称は今はまだ確立できなさそうだ。
「……」
「……」
今の私達の頭の中では、まだ……。
と私は彼の方に目を配り、彼は腕時計型携帯末に手を伸ばしていた。
「……」
あぁなるほど。さっきオーロラをバックに記念撮影するとか言ってたな、こいつ。
「……ダメですね、やはり……」
「……そうかお前もか」
「全ての電子機器が壊れているんですよね」
それはそうだ。
「そのせいで私達は今、絶賛、ここ南極大陸で遭難中でしたね! 帰る目途がたたない、危機的状況……! ……こうなったら泳いで帰りましょうか?」
「……冗談でも、大人なんだからもう少し頭を回せ!」
私は正論を投げかける。
「例えば、デジタル等を外し、人力で帰れるようアナログ仕様に再変換するだとか。まだ他に手はあるだろ?」
「そこは技術者次第ですけど、このご時世、そのアナログに強い人……いましたっけ?」
「……」
いない。これには返す言葉もない。このご時世、そんな珍しい奴は少ないのだ。
「手探りだ!! こうなればやるしかない!!」
「マジですか……先輩……!!」
「……」
このご時世、アナログに強い奴なぞ希少だ、むしろマニアックといっても差し支えない。そんな希少な人材を探す時間も労力もない。
なら自分達でやるしかない。ただ問題が。
「部品次第だな」
「溶接なら私でもできますが……、船に突貫工事用の機材なんて積んでませんよ!」
「う~ん……万が一のためのエンジンなら積んであったはずだ!! そのエンジンからモーターを取り出して、アナログ式に改造して、溶接しよう!!」
これには若手の後輩もいい顔はしない。マジか、その顔にはありありと出ていた。
「こうなれば廃材活用理論から打ち立てよう! 後で要会議だ!!」
「まぁやるかやらないかでいえば、やる!! しかないですよね……男なら……死線の2度や3度経験してやりましょう!!」
「……その言葉、忘れるなよ」
と私は彼に念を押した。こうなればやるしかないだ。
――私と彼の足が船内に進む。その道の途中。
「あっそう言えば知ってます?」
「何がだ?」
「あなたの奥さんが、魚を捌こうとしていますよ。それも調査用の……!」
「……それか!」
(こいつが俺に会いにきたのは、それを伝える為か……!)
「だろうな。冷凍機械も全て逝ってるからな……! 人間何かを食わずにはいられない。それが調査用の魚といえど、何か腹に入れなければ……!」
「……」
言葉の続きに困る後輩。
「……何だ? まだ何かあるのか?」
「いえ……」
言葉に詰まる後輩。その顔にはありありと出ていた、あれは臭魚なんだよなぁと。
――その奥さん側(サイド)。
クコンの母は、その調査用の魚を捌いていた。
その身を切った瞬間、ムワァとなんとも表現し難い異臭が辺りに漂う。
「うっ……!」
「胃や腸どころか、肉まで腐ってる……!!」
思わずあたし達は、余りの臭さのあまり鼻をつまんでしまう。これはもう条件反射だ。
「やっぱりダメなんじゃ、この魚、『臭魚』でしょ!」
――クコンの父傍(サイド)。
「『臭魚』か……」
「ええ……とても食用には向きません」
「手立てが1つだけある」
「マジィ!?」
「あぁ……ドリアンだと思って食えばいい……」
「……」
「……」
これは私の口から出た言葉だが、この時私も彼も能面みたいな顔になっていた。
ドリアン、それは果物の王様であるが……同時にとても臭い食べ物である。
私がそんな話を叩いている頃――妻達は今日の献立について奮闘していた。
――その奥さん側(サイド)。
「ダメよあたし達がこれを美味しく調理しなきゃ!」
と言い切る。ただ、「くさぁ~!」と周りの人達が手を振って、臭いを遠ざけようとしてきた。人によっては涙まで流して。
「……こんなの食える人いるの~~!!?」
「……」
「人類史を紐解いても、食べた人はいるそうよ。ただ……もの凄い下痢と吐き気に襲われ、病院に担ぎ込まれたそうな……」
「「「……」」」
一同言葉を失った。ただ、それでも話を繋げる。
「確か、急性盲腸炎……だっけ診断名は?」
「だ、大丈夫よぅ! ちゃんと調理すれば!!」
「……」
「……」
「……」
不安、自信なんてない。ただ、それでも挑戦するしかなかった。
【チャレンジ1:とりあえず焼いてみる】
「……駄目! 臭いが取れない!」
臭い、もう涙目だ、これはある種タマネギよりキツい。ただそれでもめげずに。
「次っ!」
【チャレンジ2:油で揚げてみる】
一口噛んだところで。
「ウェヘ! ゲホッゲホッ!」
凄い吐き気に襲われた。それはもう体からの拒絶反応だ。
「ダメッ! とても人が食べられるものじゃないッ!!」
もっともなご意見だ。
余りの激マズ料理に周りの人達はむせていた。おおよそそれは、人が食える範疇のものではなかった。
「ダメ……! こんなの食えない……ッ!!」
「「「……」」」
あまりの激マズ料理に激しく同意す。皆顔色が青い。
満場一致で、その激マズ料理及び臭魚をゴミ箱の中へ捨てて、蓋をした。
――その後全員、頭を悩ませる。頭を抱える。
(今日の献立どうしよう)
そればかりが今みんなが思っていることだ。ただその中で。
「何でこんなものが発生してるのよ――!!」
と切れ気味の意見が飛んできた。それに対しあたしは返答を返す。
「……それは歴史の授業で習ったでしょ!?
『昔の人達が、現在の生活水準を保つために、問題を先送りにしてきた問題だって』!」
「「「……」」」
一同顔が暗い。
そうだ、確かあれは小学生時代に習った。
【――それはCO2の増加、地球温暖化、汚染水、大気汚染、そしてプラスチックゴミ等の問題。
そのせいで食用の魚が減少し、今や希少価値が高く、一部の富裕層達しか食せないまでになっている。
そして、多くの一般市民は養殖物で済ませるか。それすら買えない生活水準の低い人達は、当時の味を再現したリサイクルフードを食しているぐらいなのだ】
「あぁもう最悪……ッ!!」
女性の1人が顔に手を当てて、大げさに反応を取った。あぁ、食ったことがあるのか。
一同思った(不憫……)と。
「あぁもうなんであたし達の世代でこんなにも食せないまでになってるのよッッ!!」
「「「……」」」
みんな顔が暗い。
【――世界の海のおおよそ3割以上は、ここ100年間余りで劇的に生態系が変化し、口にできないマズさまでになっている……。
このまま行けば、一部の富裕層達だけが養殖物で済ませ、私達一般庶民がリサイクルフードで過ごさなければならない日が、現実のものとなるのだ……ッ!!】
そうだ、それだけは絶対イヤだ。
なお、天然物は天然記念物扱いになり、国からの保護を受け、誰も食せないようになるのかもしれない。
「……ねぇこれからどうする?」
「食料備蓄は?」
「本来なら今日任務(ミッション)が終了して、帰る予定だった……ところへこの異常事態(アクシデント)よ。1日分しかない。切り詰めて2日ってところね……」
「2日……それまでの間に、幸運にも食用の魚にありつけるかどうか……」
ここから先は運頼みだ。そこへ。
「――調子はどうだ?」
と甲板にいた男性2人が入ってきた。
振り向く女性達。
とその時だった。
――ドンッ
と轟音がした。
瞬く間に船体が大きく揺れる。
そして、海が荒れる音ともに何か巨大な氷の塊が崩れていくような地響きがした。
「何だ!? 何が起きた!?」
――グワァングワァン
と大きく揺れる船体。
そして金属が裂かれる音ともに大量の海水が流れ込んできた。ただならぬ異常事態が発生した。
「み、水がッ!!」
「違う海水でしょッ!!」
「何でもいいでしょッ!!」
「ってなんで異常警報が鳴らないんだ!!」
「それは設備が逝ってるからで!!」
「ちゃんと整備しなさいよ!!」
「あっ……」
次の瞬間、ドバァとここにも海水が流れ込んできた。俺達私達はどうする事もできず瞬く間に浸水した。
――その原因を引き起こしたのは、他でもない、『核融合炉の巨獣』だった。
「オオオオオ」
そして、そいつは今、全身からただならぬ地獄の業火を噴き出し、ここ南極大陸を焦土と化していった。
燃え盛る大陸。
見据える眼光。
次なる目的地へ飛ぶ――
船体に寄せては返す大津波が押し寄せる。
それは沈むまで間もなかった。
船内に不気味な音が鳴り響く。ガタッガタッとギリギリと不気味な金属音が鳴り響き、船内のいたるところで急激な気圧の変化が生じていた。海水がブシャ――ッと流れ込んでくる。
これはマズイ、全員がそう思った。
船は大きく流され、不運にも岩礁に横腹からぶつかり、船体が大破した。
乗組員達が船内から外へ放り出される。
海は撹拌し、荒れ狂い、とても危険な状態で投げ出されてしまった。
外はもう、荒れる海流そのもので人の力ではどうしようもなかった。
「――」
「――」
息ができない、声が出せない。今できるのは体の動かすことだけだ。
これでは船体にしがみつくも、どうすることもできない。
なら最後にできることは。
「ッッ」
私は妻に手を差し伸べた。
妻がその合いの手に反応し手を返すも。
この激流のせいで互いの爪がこすれ合って、離れ離れに。クックソ。
そして、どこからかそれが波に乗り急浮上した。
それは偶然にも私と妻の目に止まることになった。
それは家族3人で取った記念写真だった。
(クッ)
(クコンッ!!)
くしくも私達夫婦の最後の願いは、娘クコンに再会することだった。
だがそれは、激流に呑まれ暴れまわる船の一部に阻まれることに――。
【―――クコンの御両親は最後に、娘の無事を何よりも祈った】
☆彡
【静止軌道ステーション】
ここは宇宙、静止軌道ステーション。その手術室
現在、手術室は、人の手のよって患者さんの体にメスを入れていた。
だが、その患者さんを治療しても次の患者さんが控えている。医師の疲労はピークを迎えていた。
(クソ―ッ途切れない、集中力が持たないぞ!!)
【クリス(27歳)医者】
この患者さんを治療している医師の1人だ
その時だった。別の医師が判断ミスを犯し、患者さんの体内を傷つけ辺りが血の海に。
「しまった! 済みません!!」
「何やってんだしっかりしろ!!」
「申し訳ありません!!」
同僚が1人怒られた。
(……無理もない。今まで俺達はAIロボット達に寄りかかっていた……。今もどこかで整備士さん達がAIロボット達を修理中だろう。だが直せる見立て(めど)が立てられない)
整備士さん達には毎度頭が下がる思いだ。だが、今の当面の問題はこれだ。時代遅れの手術器具。
(それがいきなり旧時代のコレを持たせられても、満足にできない)
コレとはメスやクーパー等だ。
最低でも電気メスは持たせてほしい。それすら壊れて使い物にならないが……。
(加えて次々運び込まれる患者さんの数、絶対数的に医師の数が足りてない……ッッ!)
そうだ。普段なら俺は作業時間を終え、就寝に入っている。
ミスを犯した医師とて同じだ。
それがいきなり起こされて、現場で働かされているのだから、精神的に辛いぞこれ。
(……愚痴ってる暇もないな……。これ以上術野が悪くなる前に、止血しないと……!)
俺は術野に手を伸ばし、クーパーで動脈を一時的に止血することにした。
多少は効果があった、どうやらこの周辺で間違いない。
(ピンポイントで当てるのは経験と慣れた器具がいる! だがそれは望めない)
「止血成功しました! ガーゼをお願いします!」
補助を行ってくれる医師がガーゼで術野に広がった血の海を退けてくれる。
その間、慣れた手つきで現れた女医が、俺の額の汗を拭ってくれる。
「フゥ……」
貴重なインターバルだ、一度気を落ち着かせよう。
(今地上(した)で何が起こっているんだ?)
☆彡
【カナダ】
凄まじい速度で『核融合炉の巨獣』が通り過ぎていった。
そいつが通った跡に残るは、崩落した建築物の山があった。
その1つ、いかにも高級ホテルだったものが崩落し、その現場には裸のおっさんの遺体があった。
☆彡
【インド】
『核融合炉の巨獣』は、海上を凄まじい速度で駆け抜け、瞬く間にスリランカを超え、ここインドに迫る勢いだ。
速い、早過ぎる、そいつが通った跡に起こるは、大津波の嵐だ。
男は何も知らないまま、養殖魚達を無駄に死なせないために、海水温度をどうにか調整しようと孤軍奮闘していた。
【ボブ(30歳)水産物の卸売市場若手社長】
「どうすれば設備が直せる? まだか……!」
俺はこうなった後、知り合いの設備士に応援を要請していた。
もちろん電話が使えない以上、今使いの者を徒歩で行かせている。
だが、いくら待てどもこない。
(クソッ! こんなときにエアカーが使えればッ!! そもそも何で全ての設備が逝ったんだ!!)
そうだ、あの時あれは突然壊れた。
だが、そんな事はこれから起こる事の前触れに比べれば、小事でしかない。
それは地響きに似た音が聞こえてきた。
「何の音だ?」
俺は養殖場から外に出た。
その眼に映ったのは正に悪夢だ。
俺は言葉を失った。
それは悪夢さながらで、その高さの全貌が見えない巨大な大津波が迫ってきているからだ。
「何だあれは……あんなデタラメな大津波見たことも聞いたこともない……」
俺は怯えに怯えた。
雲は大荒れ、あの大津波の奥に垣間見えるは竜巻じゃないか。
あり得ない大きさだ。
俺は血相を変えて、養殖場に逃げる。
(何だあれは!? 何だあれはッ!?)
走る、走る。
(ダメだ助からない。何か手は……ッ!!)
俺は走りながら、生きるために考えた。走る、走る、
そこでふと目に止まったのは、奥に見える水槽とその付近にあるバールだった。
(ッ……これしかない!!)
俺は藁にもすがる思いでバールを手に取り、奥に見える水槽の中へ身を隠した。
その水槽は当然、養殖魚を飼っている水槽だ。
魚のぬめりが、うわぁ嫌だぁ。だが、このまま死ぬより断然マシだ。
(み……水の中ならその衝撃が幾分か弱まるはず!)
俺は一縷の望みに賭けた。
そうだ、今から山に逃げてる暇はない。
そもそもあの大津波の高さだ、山も飲まれる危険があった。
もう間もなく巨大な大津波の濁流に呑み込まれていった――
☆彡
【元中国(モス)】
その下水道では、淑女が少年少女を連れて、ここ下水道を通り逃げていた。
その淑女の名は、リンシェン、国際警察の女性だった。
彼女は今も、救助活動を行っていたのだった。
【リンシェン(30歳)国際警察】
「何でここから逃げるのお姉さん!?」
「今地上は危ないからあるよ!! 黙って私に付いてきて!!」
「「……」」
顔を見合わせる少年少女。
淑女の意見は当たっていた。
今地上は荒れに荒れていた。
原因は他でもない、アンドロメダ王女が起こした『青白い光熱の矢』ブルーフレイア(キュアノエイデスプロクスア)による余波が大きい為だ!
そのせいでほぼ全ての建物が崩落し、地滑りがいつ起こらないとも限らない。
それに加えて、大嵐が吹き荒び、落雷や豪雨が音を立てている。
とても地上から逃げるのは危なく、ここから逃げるのが幾分かマシである。ただ1つの懸念は……】
「……ねえ、段々と水位が増してきていない?」
「そういえば……」
「……」
そうだ、明らかに水位が増していた。
このままでは下水道内で溺れ死ぬのは時間の問題だ。
一度どこかで地上に出る必要がある。
だが、それはあくまで一般論だ。
「大丈夫ある!!」
少年少女がその声に聞く耳を立てる。
「こういった防災訓練は受けてあるよッ!! このまま直進すればッ……!
防災上の貯水槽設備がその先にッ! そこまで逃げれば食べ物も飲み物もあるね! だからもう少し頑張るあるッ!!」
子供達の目に光が宿る。
「さあ、もう少しある!!」
だが、その時だった。
どこか遠くから何かが聞こえてきたのは。
その音に振り向くリンシェンと少年少女。その顔が見る見るうちに強張っていく。
「は、走れ――ッ!!!」
もうここからは猛ダッシュだ。
――ゴゴゴゴゴ
何かが迫りくる音。それは濁流だ。それは激しい音を立てて迫る。
「ダメだ、追い付かれるッ!!!」
「ッ」
私は覚悟を決めた。
大急ぎで私は子供達を抱きかかえる。
その拍子で幸運にもお姉さんのおっぱいに子供達の頬が触れる。
「お、お姉さん!?」
「息を止めるあるッ!!」
「えっちょまさかッ!!」
そして、そのまま汚水の中へダイブ。
「ドブネズミはイヤ――ッ!!!」
それは少女の叫びだった。
だが、これしか助かる手立てがない。水の中なら衝撃が幾らか和らぐことは周知の事実。
助かるためには、もうこれしか手がなかったのだ。
そして瞬く間に、現場は濁流に飲み込まれていった――
☆彡
【戦時中の某国】
そこは今2か所の国が跨って戦時中であり、今は休戦中。
兵士達は今、夜間の休養を取っていた。
敵対心を向ける男がいた、その男の名はロバート。
【ロバート(33歳)兵隊長】
「……」
「……熱心ですね先輩!」
俺に声をかけてきたのは後輩の兵士だ。
後輩の手にはマグカップが2つ。
俺はそのうちの1つを受け取った。この香り、中身はコーヒーか。俺は早速頂く。
俺が嗜んでいる横で後輩は身を乗り出して、辺りを伺う。
「敵の斥候は忍んでいませんね」
「あぁ、物音を立てずに奇襲を仕掛けてくる気概のある奴は、そうはいない」
「……あぁあの女ですか」
「あぁ……あの女だ!」
思い当たる人物がいた、それはあの女だ。
その女側、女は今テントの中で武器の手入れをしていた。
武器の手入れをする女がいた、女の名はアイシャ―。
【アイシャー(33歳)兵隊長】
忍んでテントの中に入ってきた人物がいた、恐る恐る近づいていく。
アイシャーは今、こちらに気づいていない。
女は今、武器の手入れに熱が入っている。だから、こちらに気づいていない。
「……」
フッ、本気で気づいていないと思ってるのか。アタイはナイフを手に鏡面部に映る相手の出方を伺う。
アタイの後ろに立つだなんてな。
アタイは事前に仕掛けておいたロープを切った。
相手には私の背中が邪魔して、こちらの仕掛けが見えるはずもない。
仕掛けが発動した。
鉄杭の穴の中をロープが勢いよく引かれ、重り(バッグ)が勢いよく落ちる。
テントに仕掛けておいたナイフが射出され、相手の頬をかすめる。
そのナイフはそのままアタイの元へ。
当然アタイはそうなる事も織り込み済み、アタイはその飛んできたナイフを掴み、猛然とダッシュ、相手を押し倒し、その上に乗る。
相手は面食らったことだろう。まともな状況判断など追いつかない。
アタイは、相手目掛けてナイフを振り下ろす。もちろん身内ないの揉め事だ、殺生なんてしない。
――ザクッ
とワザと外したナイフが突き刺さる。
「アタイに用かい?」
「……」
とぼけていた後輩の娘の顔が見る見る変わっていって、喜びの笑みに変わる。
「さすがですね、アイシャーさん」
「フン……アタイの寝込みを襲うなら、寝たところでしな!」
「いや~前回それでしたんですが、まんまといっぱい食わされましたからね~」
「はぁ……これで何件目だい?」
アタイは首を切り、このテントの隅にいる彼女等に視線を飛ばす。
そう、他にもいたんだ。
「今日だけで4件目だよ。あんたを含めて」
「あら~……みんな絶滅しちゃった」
「……ハァ」
こんな事は日常茶飯事だ。だからアタイは武器の手入れに取り掛かる。
もういい加減止めてくれ。
「……アイシャ―さんの眼鏡に適う人なんているのかな~?」
「……」
眼鏡か、それなら――
「――敵だがいる!!」
「それって例の……」
「あぁ……」
距離が離れたところで、2人の言葉が交わる「奴だけは俺(アタイ)が、やるッ!!!」
「いや~それにしてもあの戦いは熱かったですね!!」
ロバートの後輩が熱弁する。
「奇襲を仕掛けたアイシャ―姉が単騎で切りかかり」
併せてアイシャ―の後輩も熱弁に入る。
「それにいち早く気づいたロバート隊長が死闘!!」
「現場は荒れに荒れ、時間が経つごとに泥沼状態に!!」
「銃火器やドローンが飛び交う仲、一進一退の攻防の末――」
「両者痛み分け」
「フッ」
「チッ」
ロバートが鼻で笑い、アイシャ―が舌打ちする。
「そうだな、俺は足を……」
「アタイは両腕を切り刻まれ、化膿して切断を余儀なくされた」
そう、間に合わなかったんだ、医療の手が。
「「今や義足(義手)だぜ」」
それは不満不満だ。
「「おいっこれだけは言っておく。俺(アタイ)たちの喧嘩に横槍を入れるな!!」」
と後輩達に前もって釘を入れる。
「これは俺の」
「私の」
「「聖戦(ケジメ)だッ!!!」」
それは両者離れたところで、同じ意見、思いだった。
「「イエッサー!!」」
【――そして、何処かで誰にも知られることなく、闇夜に侵入していた者達がいた」
「ウッ」
「ガッ」
次々闇夜に襲撃され、命を落としていく。
足音を立てず次々侵入していく暗殺者達、それは闇夜に乗じた侵入だった。
そのグループの1人が待ったをかけ、仲間達を一度ここで待機させ、自分1人でひっそりと内部に侵入した。
自分1人の方がやりやすいと判断したからだ。
「……」
「……」
「……」
「……」
暫くした後、手招きをし仲間達を施設に引き込んだ。
驚くべきはその俊敏性と手際の良さだ、暗殺者の名はマジュラ。
【マジュラ(年齢不明)暗殺者】
その素性や性別等は、フードに隠れ伺えない。
「やったなマジュラ! だが、なぜここを襲撃したんだ!?」
「……ついてこい」
それだけ言い、俺は足音を消し階段を降りていく。
仲間達は顔を見合わせ、言葉が足りないマジュラの後をついていく。その時だった。
カンカンとどうしても鉄音が立ってしまう。
「おいッ!!」
「……」
慌てて俺達は顔を見合わせる。
無理だ、こいつみたいに足音を立てずに降りるだなんて。こんな鉄製の階段では無理だ。
「ハァ……俺が先に降りて、用を済ませてくる! お前達はその後降りてこい」
「あ、あぁ」
「わかった!」
マジュラは1人、鉄製の階段を足音を立てずに降りていき、闇夜の中に入っていた。
そして、暫くして、銃声が何回かして、安全と判断したマジュラは、仲間達に降りてくるよう促した。
【トップシークレットルーム】
俺達はその部屋であるものを見て、言葉を失った。それだけの衝撃だった。
「お前、これ……」
「あぁ、前時代の失敗作だ!!」
「マジか、廃棄されたはずだ!!」
「……俺達はこれを使って、世界を揺るがす!!」
マジュラは言い切った。
それは闇のベールに包まれたものだった、それだけは手を出してはいけない代物だ。
「頭は確かかマジュラ!!! それは世界政府直轄の代物だぞ!!! 安易に手を出すべきじゃない!!!」
――ダンッ
と銃声と白煙が上がり、ドサッと反抗の意思を持った仲間が倒れた。
その遺体からは血の海が広がり、周りにいた仲間達は怯え、顔が引きつった。
撃ち抜いたのは他でもないマジュラだ。
「……ルールは俺が決める!! お前達は黙って従え!!」
「「「!」」」
「……今、世界は誰のものでもない!! 今世界が求めているものは何か!? 世界を脅かす存在は何か!?
答えは1つ――絶対的な強者だ!!!」
それは確かなカリスマ性だった。さらに男は語る。
「人が誰しも持っているものは何か!? それは勇気でも愛でもない、恐怖だ!! 死への恐怖、俺は恐怖政治を敷き、新たな人類史を築く!!!」
「「「!」」」
残りの仲間は戦慄した。
「マジかこいつ、イカれてる、クレイジーだ!!」
「具体的にどうやってだ!?」
「……いい質問だ。これから先、真っ先に復興するところはどこだ?」
「「「……」」」
俺達は顔を見合わせ、こう答えた。
「モス国か?」
「違う、ロシア連邦だ!!! それはアメリカでも日本でもインドでもない!!」
「!!!」
「人口密度、さらに技術者等の推計をみてもそれは明らかだ! ……ロシアを攻める!! そして優秀な科学者や技術者を引き抜き、新しく建国する!! その為の武器がこれだ!!」
その時だった。
――ゴゴゴゴゴ
俺達は辺りを見渡す。
「何の音だ」
この時マジュラはフードを深くかぶりなおし、神経を尖らせていた。
(……何だ鳥肌が……)
それは何かの前触れか。
だが、それは突然の奇襲だった。
いきなり辺り一帯が炎の海に包まれた。
「!」
「!」
同様にロバートグループ、アイシャーグループにも強襲劇があった。
辺り一面の岩だらけの場所が、突然火の海に様変わりした。
やったのは他でもない、『核融合炉の巨獣』だった。
「オオオオオ」
口内に高出力のエネルギーを集束させ放ち、薙ぎ払うように辺り一面炎の海に変える破壊光線だ。
――ゴゴゴゴゴ
そして、ある一か所で甚大な大爆発事故が起きた。そう、他でもないマジュラ達がいたあの場所だ。
「オオオオオ」
喜びの声を上げる『核融合炉の巨獣』。
一瞬でその場に移動し、辺り一帯のエネルギーを吸収し自らの与力とかす、
そうして我が身をさらに進化させていくのだ。
☆彡
【深海】
彩雲の騎士は、深層海流に乗り流されていた。
(どこまで流されるんだろう)とふと思う。それは突然起きた。
「!」
突然、波の勢いが変わり、急流になったんだ。
(マズい! 早くこの子を起こさないと……!)
僕はこの子を起こそうとした。けれどどうやって起こそうか。
(悔しいけれど今の僕達は一心同体なんだから……どうすればいいの、これ!?)
と思う。どうしようもない。
つまり、声を投げかけるしかないのだ。
(起きて! 早く起きて~~!! このままじゃ向かう先は……!!)
おそらく深海の奥底しか考えられない。海流に乗って叩きつけられでもしたら……ははっ、笑えない。
(いや……待てよ!
向かう先は深海の奥底じゃない、こっこれは……)
視線の奥。
その目線の先からブクブクと泡立っていたところがあった。それに接近するごとに熱気も相まって。
(深海どころじゃない!!! 深海底の熱水噴出孔だっ!!」
あ、熱い。
「いや、この数と総量は尋常じゃない!!)
それは通常の黒い熱水(ブラックスモーカー)を凌駕していた。
あっ熱い、こっこれは、この星の活発な活動を示唆しているのか。いや違う――
(――そうかわかったぞ! この場所は……ッ!!)
僕は、ここがどーゆうところかわかった。
同時に申し訳なく思う。
この時僕は、この子を起こそうとしていた。尻尾をコチョコチョと当てがって。
う~ん、こんな方法しか思いつけない、なんだかゴメン。
(早く起きて)
僕は尻尾を器用に動かして、この子の鼻の辺りをくすぐると。
「「へっ、へっ……ヘッション!」」
彩雲の騎士は無理矢理クシャミで起こされた。
(……おっ起きた?)
(いっ今のはいったい!?)
今何が起こった。くしゃみで起きたけれども。
(……ってここは!?)
(深海底の熱水噴出孔スポットを通ってる!! 今僕達は深層海流に乗っているんだ!!)
(深層海流~~?!)
聞きなれないフレーズが飛んできた。今どこにいるのよ。
(向かう先は恐らく……)
(って今君!! その尻尾で僕の鼻の辺りをくすぐったでしょ!?)
(それしか手がなかったの……一心同体である以上、他に起こしようがなくて……)
(精神世界で起こせばいいでしょ!! 戦闘中にできていたんだからそれぐらい……!!)
(……!!)
(今気づいたな……! どうやら彼はどことなく抜けてるらしい。こんな事もう勘弁だ!)
と僕は思う。
そして、ツッコミを入れる。
(深海底で起こされるって、そんなのレアケースなんじゃ? んっ……)
(深海底だってなんだそりゃ!? えっ!? 僕、深海底でくしゃみで起こされた事!? 何なの僕!? もう訳がわかんない!!)
(っっ解説は後回し!! とにかく今は大ジャンプで深海底から飛ぶんだ!!!)
(何が何だかよくわかんないけど……)
(早く~~!!)
「「よくわかんないけど……やっ!!」」
彩雲の騎士(僕達)は、その場で大ジャンプして、みるみるうちに上がっていく。
おぉすごいぞ僕、グングン上昇していく。
そこでふと下を見下ろしたんだ。
「……」
あのまま急流に乗り流されていった先にあったのは、巨大な岩肌だった。
(あれは……何だ……!?)
そして、海面にバシャンと飛び出た。
僕はすぐさに現場を見渡した。それは異常気象だった。
黒雲を飲み込む大竜巻、それは稲光を発していて、その出所は巨大な穴だ。
「海が割れている……!! しかもこの現象は……ッッ!!!」
「……ッ」
それはやっぱりだった。
そう、そこはアンドロメダ王女が、『青白い高熱の矢』ブルーフレイア(キュアノエイデスプロクスア)を投じたポイントだった。
【――それは大異変だった】
海にポッカリと空いた大穴、その穴に向かって流れ込み大量の海水。
その穴の真下から噴き出るは、溶岩とメタンハイドレートの蒸気。
それが流れ込む海水と鬩ぎ合って発生するは、爆音に似た突風の嵐。
いや、これはもう台風だ。
中心には竜巻、その近辺にもいくつかあり、このおかしな現場を取り囲むように台風が発生している。まるで結界だ。
「!」
今、僕の目の前を横切ったのは雷だ。
いや雷だけじゃない、辺りをよく見れば、よく見なくても吹雪が吹き荒んでいる。
それも雷の光に反射したのかいくつもの光を放って。
見惚れるとかそんなんじゃない、正直怖いくらいだ。
上空には黒雲があって、その黒雲が竜巻に吸い込まれている。
この現象の行き着く先は――
「――何なんだこれ……」
「アンドロメダ語でこの現象は、『トゥフリーズ・ポーセィション』(ナ・パゴシィ・パイモース)!!」
「……」
「君達の言葉で、『氷結への脈動』――……」
それは大きな音を立てて始まっていた。この事は今、多くの人達が知らない――……
TO BE CONTIUND…