第五話
後日、試験の合格者とその点数が廊下に張り出された。
一位はクソガキだった。わたしは狙い通り、合格者の中でも真ん中ぐらいの順位。狙い通り。こっそりとガッツポーズをする。
「何でその順位で嬉しそうにしてんだよ」
後ろからクソガキの声が降ってきた。ガッツポーズを見られたらしい。
クソガキはわたしの隣に立ち、順位表をまじまじと睨みつける。
「っつーか、俺の順位、不当だろ。お前の魔力貰って一位獲れても、気分良くねぇ」
そう。クソガキが一位なのは、目立っていたからだ。不利状況でも果敢に薔薇ゴーレムに挑み、しかも土ゴーレムまで倒した──だが、クソガキは全てわたしのお陰だと思っているようで、とても厄介である。そのままわたしが目立たないように、目立っていて欲しい。
「先生に抗議してくる」
「あ、ちょっ、馬鹿! やめなさい!」
くるりと踵を返し、職員室に向かおうとするクソガキの襟を掴んで引き留める──眉間に皺を寄せた端正な顔が振り向いた。
「……また馬鹿って言ったな」
「言ってない」
「言った」
「言ってない」
ばちばちと火花が飛びそうなほど睨み合う──初対面の再現のように。
わたしはアホらしくなって、ため息をついた。
「試験に受かったのは、あんたの実力でしょ。わたしはちょっと手伝っただけなんだから、これは妥当な順位よ」
「……アンタって言うな」
「は?」
さっきまでの睨んできた目つきはどこへやら。クソガキは視線を逸らして、口を尖らせていた。
まるで、拗ねた子どもみたいに──いや、「まるで」じゃない。ただの拗ねた子どもが、そこにいた。
「……俺は、デリックだ」
「…………え」
なぜ、今、名乗る?
思考を巡らせて、一つの回答に辿り着いた。
──まさか、名前で呼んで欲しいってこと?
「わ、悪かったわよ。……デリック」
恐る恐る、呼んでみる──陰でクソガキと呼んでいた、罪悪感を乗せて。
「…………ん」
デリックは頬を僅かに赤く染め、満足そうに口角を少しだけ上げてから、去って行った。
名前で呼んだから、なんだって言うんだ。
一体、何が嬉しいんだ。
デリックの背中を見送ってから、わたしは頭を抱える。
……十六歳、わっかんない!!