第一話
第三話
「ねぇ、アンちゃん。今度の休み、僕とデートしない?」
「ゲホッ! ゲホッ!」
食べていたサンドウィッチが気管に入った。
昼休みの学食。ノアに誘われて、わたしたちは二人でランチをしていた。コリンもついてこようとしたが、ノアに「二人きりがいい」と押し切られてしまったのだ。
「わわ、大丈夫〜?」
「だ、だい……っ」
ノアが水の入ったコップを渡してくれる。わたしはそれをありがたく受け取って、喉に流し込んだ。
……で、なんだって?
──十六歳と、デート?
「そうそう。今度、試験休みで連休があるでしょ? 一緒にお出かけしない?」
……それは、デートじゃなくて、子守りではないだろうか。
せめて二十歳を超えてから、デートと言って欲しい。エスコートも期待できないし、何より、十六歳にお金を出させるわけにはいかないのだから。
少なくとも、お父様からは、そう教わって生きてきた。子どもや自分より身分の低い者には、お金を出させるものではない、と。
「えーっと……」
「だめ〜?」
断ろうと思った。休みの日は、一日寝るか、趣味の魔法研究に没頭するかの二択だ。何より、ただでさえ、学校で十代に囲まれて居心地の悪さを感じているのに、休みの日まで相手をするのは面倒だ。
「や、休みの日は……」
「えー? ボク、アンちゃんともっと仲良くなりたいな〜」
…………ん?
……もっと、仲良く?
わたしは当初の目的を思い出す──そうだ、さっさと友達を三人作って、ここを退学するんだ。
記憶を辿れば、ノアは初対面からわたしに対して好意的な態度をとってくれている──もしかしたら、友達第一号になってくれるかもしれない。
わたしは考えを改めた。
「……いいわよ、お出かけしましょう」
「ほんとに? やった、デートだ」
無邪気にノアが笑う。柔らかそうな明るい茶色の髪が、ふわりと揺れた。
「じゃあ、ノアのご両親に挨拶した方がいいわよね」
「挨拶? なんて?」
「息子さんをお預かりしますって」
ノアが、ぷはっと吹き出した。
「誘拐犯かよ。アンちゃんってば、面白いこと言うよね」
友達と遊ぶのに親の承諾はいらないよ、とノアは付け足した。
ノアに笑われて、途端にわたしは恥ずかしくなる。
「そ、そっか……」
年齢を意識しすぎてしまっていた──ノアの前では、わたしは二十六歳じゃなくて、十六歳の少女なのだ。
「それじゃ、次の休みね。正午に街の噴水広場で待ち合わせしよ」
「校門じゃなくて?」
「クラスの人に見られると、面倒かもだからね。逆にアンちゃんは、あの二人付き合ってるって、騒がれたい?」
……確かに。変な噂が立って欲しくはない。理由がなんであれ、目立ちたくはないのだから。
わたしとの約束を取り付けたノアは、立ち上がる。
「ボク、図書室に用があるから、またあとでね」
「は〜い」
トレーを片付け、図書室へ向かうノアに手を振った。
…………ん?
よく考えたら、家族や使用人以外の人と出かけるのって、初めてかもしれない。
しかも相手は子ども…………。
…………。
うーん……。
「いくら持って行けばいいんだろう……?」