17.面接に大遅刻っ!? そのうえどうにも場違いです…
「ええ。少しだけなら」
ちひろと女性で、そのあたりの地面を一生懸命に探す。
電柱の後ろ、道路、マンホールの近く。
可能性のありそうなところを、片っ端から目を向けてみる。
すると植え込みの中に、可愛い花柄の小銭入れを見つけた。
「ありました! これですね」
ちひろはそれを取り上げると、手のひらでついた土を取り払った。
「ありがとうね。お嬢さん」
小銭入れを受け取った女性が、嬉しそうに笑った。
「よかったですね。見つかって」
「何か、お礼を……」
「いいです、いいです。私、急いでいるので……」
今何時だろうと腕時計を見ると、まもなく面接の時間であることに気がつく。
「どうしよう! 遅刻しちゃう!」
「どうしたの?」
ちひろは女性に面接先の情報が載った用紙を見せて、目的の場所がどこかわかるか訊いてみた。
「そこの花屋が入っているビルじゃないかしら?」
女性の指さす方向には、様々な色の花にあふれたおしゃれないフラワーショップがあった。
上を見ると、ちひろが驚くほどに高いビルである。
それも最近建てられたのではないかというくらいにピカピカだ。
(気がつかなかった……え? 本当に、こんなすごいビルに面接先の会社が入っているの?)
「遅刻するんじゃないの?」
女性に声をかけられ、ちひろは我に返る。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。こちらこそ」
小さく頭を下げると、急いでフラワーショップへと向かった。
フラワーショップの横にエントランスがあり、そこからビルの中に入る。
すぐに、カウンターが目に入った。
中にいる女性が、ちひろの姿を見ると恭しくお辞儀をした。
(ええ? 受付嬢がいるの? このビル!)
「あ、あの……株式会社ベルスロープは……」
緊張してたどたどしくなるちひろに、受付嬢はにっこりと笑った。
「29階でございます。そちらのエレベーターからおあがりください」
「あ、はい。ありがとうございます」
ちひろはエレベーターに向かおうとしたが、一瞬足を止めた。
「あの、このビル何階建てですか?」
「30階建てでございます」
ということは、最上階ではないが、かなりの高層階だ。
(うわあ……賃料高そう)
というちひろの表情を読んだのか、受付嬢がにっこりと笑った。
「株式会社ベルスロープ様は、29階と30階の2階分をオフィスにお使いいただいております」
「あ、はい、そうですか……」
エレベーターも最新式で、ほとんど揺れないし音もしない。
(私、場違いな会社を面接するんじゃ……)