16.面接日当日のできごと
心配させたくないちひろは、ハローワークで仕事を紹介されたことを説明した。
「次の会社はね……えっと……」
ちひろは手を伸ばし、トートバッグから一枚の紙を引き出した。
長谷川から渡された紙には、紹介先の企業名と業務内容、職務内容や給与形態などが、几帳面に書き込まれている。
聞いたことのない会社名だ。
業務内容には、下着の卸製造販売と書かれていた。
「下着の卸製造。まだ本決まりじゃないけど」
『決まったら、どんな会社か教えてちょうだいね』
「うん。わかった」
電話を切ると、ふうと嘆息した。
長谷川に渡された紙をさらりと流し読みし、紹介状と一緒にトートバッグへと戻す。
明日の面接に備えるため、早めに就寝することにした。
ちひろは布団の中で、あれこれと新しい会社について考えてみる。
(下着の卸製造業かあ。もし就職できたらお父さんとお母さんへのプレゼントを、社内販売で買えたりできると嬉しいんだけど)
そんなことを思っていたら、そのまま寝てしまった。
§§§
ちひろは、リクルートスーツとローヒールパンプスに身を包み、ビジネス街を歩いていた。
手には長谷川から渡された会社概要の書かれた紙、鞄の中には紹介状と今朝書き上げたばかりの履歴書が入っている。
なんでも紹介してくれる会社のCEO兼代表取締役社長は、長谷川の知り合いらしい。
慢性的に人手が足らず、すぐに働ける人材が欲しいとのこと。そんな依頼に、ちひろはうってつけということだ。
都心のビジネス街――
地図を頼りに、ちひろはその下着卸製造業の会社が入っているビルを探す。
卸製造業という言葉から、前職のような古ぼけたビルだと考えていた。
ところが、まったくそれらしいものが見えない。
「うーん。それっぽいビルが見当たらない……」
左右を見回していたら、困った顔をした和服姿の年配の女性が、うろうろしている姿が見えた。
「どうしたんですか?」
声をかけると、女性が驚いたようにはっと面を上げた。
「小銭入れを落としてしまったみたいなの。……たいした金額は入っていないのだけど、孫に貰った大切なものだから、どうしても見つけたくて」
孫のプレゼントというなら、確かにそれは大切なものだ。
「一緒に探しますね」
「まあ。……いいの?」
実のところ、面接の時間が近づいてきている。
しかし、困っている女性を置いていくことはできなかった。