18.社長がイケメン過ぎて引いてしまいます
29階までエレベーターで上がる。
開いた扉の前に、アンティーク家具っぽい机の上に花器が置かれ、フラワーアレンジメントされた花も活けられていた。
(29階のフロアを全部借りきってる? ……もしかして30階も? すごい……)
ちひろは、緊張で心臓がバクバクしながら、手の中の紙に書かれた社名と表札を見比べた。
「株式会社ベルスロープ。ここね」
やはり高そうなビルはセキュリティがしっかりしているようで、扉の横にカメラ内臓インターホンがある。
押すと、すぐにインターホンから声が流れた。
『はい。株式会社ベルスロープでございます』
ちひろは息を整え、よそ行きの声を出す。
「本日十三時に面接をしていただく、中杢ちひろと申します」
『お入りください』
ガチャリと鍵の開く音がしたので、取っ手を持ちゆっくりと扉を開けた。
「失礼します……」
オフィス内は、とても清潔で整然としていた。
明るいライト、清掃の行き届いた室内。緑鮮やかな観葉植物があちこちに置かれ、とても清々しい気持ちになる。
デスクが三列に並び、それぞれパーティションで区切られていた。
29階の窓から見える景色は壮観だ。
デスクに座る者は、誰ひとりとして無駄話をしていない。みな黙々とキーボーとを叩いている。
(一流企業のオフィスみたい……というか、一流企業なのか。こんなすごいビルの中に入っているんだもん)
以前の会社と比較するのも悲しくなるくらい綺麗すぎて、あんぐりと口が開いてしまう。
そして女性が多い。
というか女性しかいない。
(びっくりするほど、男性社員が少ないのね)
そんなことを考えていると、現れた女性が手のひらを向けた。
「社長室に、ご案内します」
「あ、ありがとうございます」
ちひろは案内された部屋に、足を一歩踏み入れる。
「失礼いたします。中杢ちひろです」
頭を深々と下げる。
後ろで扉がパタンと閉まる音がしたので、ゆっくりと頭を上げた。
最奥に大きなデスクがあり、そこにひとりの男性が座っていた。
(……このひとが、社長?)
そこにいるのは、ちひろが思い描いている社長像からは、まったくかけ離れた印象の男性であった。
肩までの黒髪を無造作に後ろに流し、あごには渋い無精ヒゲ。
更には色のついたサングラスまでかけている。
スーツはスーツだが、イタリアンテイストと言おうか、なんというか。
光沢のある黒のジャケットを着こなせるのは、イタリアのサッカー代表選手かパリコレモデルくらいではなかろうか。
開襟のシャツは大きく開いており、筋肉質な胸元がチラ見えして、イケない色気を醸し出している。
ギィ……と椅子を軋ませて、彼が立ち上がった。
すると下半身はグレーのデニムに、足下はくだけた白のスニーカー。
(すごい……メンズ雑誌から抜け出てきたみたい。それとも本人がモデルとか? あり得ないくらいセクシー……)