赤ちゃん狂想曲 その3
現在、赤ちゃん用の粉ミルクとその関連商品の生産体制を整えるべく奮闘中の僕です。
ここまで
粉ミルクと、その販売用容器
ほ乳瓶の口部分
ここまでは量産体制がほぼ整いました。
さしあたって残るはほ乳瓶の本体部分です。
僕が元いた世界の商品ではこの部分はプラスチック製なんですが……この世界にプラスチックは存在していません。
となると、やはりガラスかなぁ……と思うんですけど、軽くて割れにくくて、そして先のところにほ乳瓶の口部分をセット出来る……そんな細工を出来て、なおかつそれを量産出来る人……
まず僕はスアに相談しました。
以前スアがですね、コンビニおもてなし2号店を改装した際に、道に面している部分を覆い尽くすほど巨大なガラスを生成するのに成功していたもんですから、その流れで出来たりしないかな、と思ったわけなんですけど、
「……こんな細かい細工は無理、かな」
そう言いながら、申し訳なさそうな表情のスアだったわけでして……
というわけで、今度は商店街組合のエレエに聞いてみました。
「ガラス職人は、この街にはいないですねぇ」
との返事が返ってきてですね、やっぱここでも無理かぁ、と思っていましたら、エレエがですね、少し考えていきまして、
「そうそう! ブラコンベですよ! あそこに有名なガラス職人さんがいるですよ!」
そう教えてくれました。
僕は早速転移ドアをくぐってブラコンベへ移動しました。
出口がコンビニおもてなし2号店の奥になっているんですけど、店方からはシャルンエッセンスやシルメール達の元気な接客の声が聞こえています。
今の僕は、4号店の管理をとりあえずクローコさんにお任せしている状態なので、とにかく早く赤ちゃん関連の商品生産に目処を付けて、店に戻りたいと思っているわけです、はい。
で、早速、このブラコンベの商店街組合で話を聞いてみましたら、
「ガラス職人のペリクドさんですね」
と、応対してくれた蟻人の女の子がすぐに教えてくれました。
このペリクドさん。イタチ人の方らしいんですけど、僕は組合で教えてもらった住所に早速向かいました。
ペリクドさんの家は、ブラコンベの3本ほど裏の通りにあったんですけど、店には特に看板も表札も出てないもんですから地図を書いてもらわなかったら間違いなくたどり着けなかったと思います。
「こんにちはぁ」
僕が、玄関をノックすると、程なくしてイタチ人さんが顔を出しました。
あ、いや、この人は人イタチさんだな、うん。
亜人の方々はですね、大分類として2種類の種族があります。
人種の容姿なんだけど、動物の耳や尻尾が付いている獣人さん。
動物の容姿なんだけど、人種のように立って歩いている人獣さん
で、僕の前に現れたのは顔から手足、尻尾まで完全にイタチの姿で立って歩いておられるので、人イタチさんになるわけです。
「あんた誰?」
怪訝そうな表情で訪ねて来たペリクドさんにですね、
「あ、初めまして、私コンビニおもてなしの店長をしておりますタクラと……」
そう僕が言いかけるとですね、ペリクドさん、ぱぁっと顔を明るくしまして
「あぁ、あんたあのコンビニおもてなし食堂の社長かい?」
って、いいながらいきなり上機嫌になりました。
話を聞いてみると
「いやぁ、あのエンテン亭ってさぁ、すっごくうまいもんだからさ。俺、毎日通ってるんですよ」
とのことで、なんと言いますか、人ってどこでつながってるかわからないもんですねぇ、と、思った訳です。
で、ですね、ひとしきりエンテン亭の話題で盛り上がった後にですね、僕はほ乳瓶を取り出しまして、
「この口の部分以外をですね、ガラス製で、しかも大量生産してもらうことは可能でしょうか?」
と、おずおずと切り出してみました。
すると、ペリクドさんは、ほ乳瓶を手にとってあれこれ見回していきまして、
「へぇ、こりゃ面白いね、職人魂をくすぐられちまうな」
ってな感じで興味津々なご様子です……で、考えること5分、
「よし、やってみようじゃないか。とりあえず試作品を作って見るからさ……そうだな1日時間をくれないか?」
そう言うと、ほ乳瓶を持って店の奥へと入っていきました。
で……そのまま店に取り残されてしまった僕は、さてどうしたもんかと思いながらも、このまま居ても仕方がないので一度コンビニおもてなし4号店へと戻って仕事をしていきました。
◇◇
そして翌日です。
僕が朝一でペリクドさんの店を尋ねますと
「おう、来たな。出来てるぜ」
そう言ってペリクドさんが僕に手渡してくれたのは、
形は、元の世界のほ乳瓶と瓜二つ。
本体がガラス製で、ほ乳瓶の口部分をひねって止める部分は木製になっています。
この木の部分の素材は、ガンクツの木というものだそうで、
「熱に異常に強くて、しかも腐りにくく痛みにくいってんで、家の材料によく使われてる奴だ。
沸騰したお湯に入れても全然大丈夫だぜ」
しかも、加工してしまうと、水も吸収しなくなるそうなので、申し分ない素材だと思われます、はい。
で、この商品ですけど、ガラス製なのにすごく軽いんですよね。
元の世界のほ乳瓶に比べれば確かに少し重いですけど、そう気にならないくらいの差しかありません。
「色々混ぜ合わせてな、ガラスそのものに粘り気を持たせておいたんだ。だから軽いけど割れにくくてさ、沸騰した湯に突っ込んだ後、すぐに水に入れても割れないように仕上がってるぜ」
そう説明しながら、ペリクドさんは手に持っていたほ乳瓶の試作品を手からひょいっと放り投げていきました。
で、床にこーん、という音をたてながら落下したほ乳瓶ですけど……えぇ、割れることなく転がってます。
うん、これはばっちりです。
僕は早速ペリクドさんに、この商品を納品してもらうようお願いしたところ、
「そうだな……弟子をフル動員して、まぁ1日100個なら納品出来ると思うけど、それでいいかい?」
そう、返事を頂けましたので、もう二つ返事でお願いしたわけです、はい。
で、料金もですね、ことのほか安くしてくれたんですけど、なんでも
「お乳の出が悪いママさんのための商品らしいぜっていったらさ、嫁のアンタンサによ、『そりゃ採算度外視してでもやっておあげ!』って言われたんでな」
と、いうことだったそうで……まぁ赤字にはならない値段設定にはなっているそうなので、今後もそれでお願いすることにしました。
「あ、そうそう店長さんよ、物は相談なんだけどよ……」
で、ここでペリクドさんから思わぬ申し出がありました。
「おたくのコンビニおもてなしでさ、俺んとこのガラス製品も扱ってくんねぇかな?
こないだまで卸してた店と大げんかしちまってさ……今、販売先が無くなって困ってたんだよ」
そう言いながら苦笑するペリクドさん。
で、商品を見せてもらうと、
ガラス製のコップや皿、水差しに花瓶と、どれもすごく綺麗な出来上がりになっています。
当然僕は、このお話もお受けさせていただきました、
今、ルアの工房と契約しているように、商品が売れたら、その代金の何割かをコンビニおもてなしが徴収させてもらう方式で、ペリクドさんも了承してくれたので、その方式でやっていくことになりました、はい。
なんか、思いがけずに新商品がさらに手に入ったわけで……これもリョータのおかげかな、と思ったりもしているわけです、はい。
◇◇
こうして、準備を整え直してですね、改めて粉ミルクの発売を再開しました。
今回は、しっかり在庫を準備した上で、コンビニおもてなし本店・2号店の2店舗で販売を開始したのですが、すでに商品が知れ渡っている本店の方では、朝から押すな押すなの大行列が出来まして……それでも、なんとか全員にお売りすることが出来ました、はい。
2号店の方は、販売初日だったこともあってか、まだお試し品しか売れなかったそうですけど、本店のパターンでいくと、2日後くらいにドドッときかねないな、とは思っています、はい。
ちなみにですね、
今回の粉ミルク販売再開に合わせまして、赤ちゃん用の遊び道具も販売してみました。
積み木と、おしゃぶりです。
おしゃぶりは、スアが木人形達に作成させているほ乳瓶の口部分を作る際に、そのついでで作ってもらったんですけど、お試しで購入したママさんとこの赤ちゃんがですね、すごく喜んで吸いついてたもんですから、それを見たママさん達が我も我もと買っていってくれまして、かなりの売れ行きになりました。
積み木の方は、意外にも赤ちゃんのママさんだけじゃなくて、パラナミオくらいのお子さんのママさんも結構買っていかれました。
どうもこの世界って、子供や赤ちゃん用の商品ってのが結構枯渇しているんだなぁ、と、つくづく思ったわけです、はい。
おそらくですけど、王都ってとこならこういった赤ちゃん用の商品なんかも充実してるんじゃないかって思うんですよね。
やっぱ、片田舎ゆえに、こういう商品をつくろうとまで思う人がいなかったんだろうな、と、思うわけです、はい。
僕の場合、元いた世界の知識があったからこそ、こういう発想にいたれたわけですけど……こうして試行錯誤の上で開発して販売を始めた粉ミルクや、その関連商品をですね、ママさん達が笑顔で買っていってくれる姿は、本当に嬉しく思うわけです、はい。
こうして、コンビニおもてなしに、新たに
粉ミルク
ほ乳瓶
ほ乳瓶袋~ほ乳瓶が3本と、人肌に温めたお湯の鍋が入るくらいのサイズの魔法袋
おしゃぶり
積み木
ペリクドガラス工房のガラス製品
こんな新商品が加わりました。
あ、ちなみにですね、粉ミルクの商品名ですが『リョータミルク』です。
◇◇
この夜、あれこれ残務を終えて巨木の家に帰っていった僕。
今だに絶賛営業中のビアガーデンの方から、イエロ・セーテンの声に加えてララデンテさんの笑い声と、テンテンコウ♀の歓喜の声が聞こえる気がするのは……うん、気のせいですね。
で、家に入ると、ちょうどスアがリョータにミルクをあげているところでした。
出来たてのほ乳瓶から、美味しそうにリョータミルクを飲んでいるリョータ。
その姿を、パラナミオも嬉しそうに見つめています。
「あなた、これ、すごくいい、ね」
そう言って、ニッコリ笑うスア。
最初、出の悪い胸をリョータに吸いまくられて、悲鳴を上げまくってたスアを見ているだけに、その笑顔が僕もすごくうれしいわけです、はい。
僕、スア、パラナミオに見つめられながら、リョータは粉ミルクを一生懸命飲んでいます。
いっぱい飲んで、大きくなれよ、リョータ。