赤ちゃん狂想曲 その2
粉ミルクを入れて販売するための木製容器の製造ですが、現状のルアの工房では
「さすがに無理だってぇ、他にもあれこれ作ってっからさぁ」
と、ルアに言われてしまったわけですけれど……
え~、現在、夜中少し前のルア工房の中です。
オデン6世さんを中心に、10人の人達がすごい勢いで作業しています。
……いえ、正確には、10人の骨人間(スケルトン)が作業しています。
ルアが雇っている職人さんが勤務時間を終えて帰宅した後、日が暮れるとですね
「……では」
と、オデン6世さんが骨人間(スケルトン)を召喚しました。
その召喚した骨人間(スケルトン)達に作業をさせはじめたわけです。
デュラハンだけに、こういう召喚はお手の物の、オデン6世さんなんですよね。
で、この骨人間(スケルトン)達はですね、一晩中働けますし、しかも無料(プライスレス)です。
ルアが作成しているような精巧な武具や、職人さん達が本来請け負っている細かな作業なんかはさすがに無理ですけど、こういった単純作業なら問題なくこなせるらしく
ある骨人間(スケルトン)は木を切り
ある骨人間(スケルトン)はそれを削り
ある骨人間(スケルトン)はそれを組み合わせ
と、まぁ、見事に息のあった流れ作業を展開してですね、どんどん粉ミルク用の容器を作成していくわけです。
「あんた!……あ、いや、じゃなくて、オデン6世、これすごいよ!」
ルアが、オデン6世さんを『あんた』と呼称しているのが発覚する中、感動しきりなルアと僕なわけです。
で、ルアなんですが
「なぁ、あんた……あ、いや、じゃなくて、オデン6世ちょっと頼みがあるんだけどさ」
そう言いながら、店の地下室へ。
ここは、1階の5分の1程の広さしかない、こじんまりとしたスペースなんですけど。
「倉庫代わりにしてんだけどさ、ここをもうちょい拡大して、作業場に出来たりしないかな?」
そう尋ねるルアに、オデン6世さん
グッと右手の親指を立てました。
で、この地下室でも骨人間(スケルトン)を召喚したオデン6世さんはですね、骨人間(スケルトン)達を駆使して、このこぢんまりとしていた地下室を1階の店幅くらいにまで広げていきました。
で、ここでルアは、骨人間(スケルトン)達に簡単な作業をして貰う事にしたわけです。
具体的に言えば、コンビニおもてなしが発注している
弁当箱
サンドイッチ入れ
そして、粉ミルクの入れ物
こういった物を、この地下室で24時間、骨人間(スケルトン)達に製造してもらうことにしたわけです。
骨人間(スケルトン)達は凝った作業は不得手にしていますが、単純作業は大得意なわけでして、しかもこの地下室なら日の光が入りませんから、消滅してしまう心配もないわけです、はい。
まさに適材適所なわけなんです。
「これで、昼間やってくる職人達に他の作業をさせることが出来るよ」
ルアは、そう言って笑ったのですが
「ルア、だったらさ、こういう物も作れないかな?」
そう言いながら、僕は、簡単な図面をこの世界の紙に書いていきました。
「なんだこれ? いろんな形をした木をこんなにいっぱい作って……何にするんだ?」
ルアは、図面をみながらちんぷんかんぷんの様子ですが、
「まあ、とりあえず試作してみるけどさ」
そう言いながら、工房にあった木材を使ってちゃちゃっと作ってくれました。
ささくれがあまり出ない、軽くて丈夫な木を選んでもらって
それを、1個1個しっかり磨き、角も丸くしてあります
口に入らないサイズで統一してもらい、出来上がったその木を、組み合わせた上で、まとめてしまうことが出来る木箱も作ってもらいました。
積み木です。
ウチのリョータにはまだ早いですけど、ある程度成長した子供さんの遊び道具としてどうかな、と思った訳です。
先のママさん達から、この世界には赤ちゃんが遊ぶ玩具といえば、ぬいぐるみくらいしかないと聞いていたものですから、試しに試作してもらったわけです。
で翌日、この出来上がった試作品をですね、先日リョータのためにおっぱいを提供しにやって来てくれたママさんに見てもらったところ、
「これ、どうやって使うんですか?」
と、困惑しきりなわけです。
すると、そのママさんの赤ちゃん
「あ~」
と言いながら積み木にハイハイして寄っていくと、なにやら手にとって嬉しそうにそれを振っています。
で、僕がその子の前で積み木を組み合わせて
「ほら、お家が出来たぞぉ」
って、作ってみせると、赤ちゃん、キャッキャ言いながら拍手しています。
それを見たママさん、途端に目を輝かせてですね、
「こ、この子、ぬいぐるみにはほとんど興味を示さなかったのに!」
そう言いながら、積み木で一心不乱に遊び始めた我が子を見ながら、感動しきりのご様子です。
この反応を見るとですね、どうやら積み木もいけそうな気がしてきたわけです、はい。
◇◇
で、その積み木の試作品を一度持って帰ったらですね
「パパ、それはなんですか?」
リョータのお世話をしていたパラナミオが僕に駆け寄って来ました。
ちなみにスアは研究室にお籠もり中のため、パラナミオがリョータのお世話をしてくれていたそうなんですよね。
で
「これはね、積み木と言って、こうこうこうして遊ぶ物なんだ」
そう説明すると、パラナミオはいきなり目を輝かせはじめてですね
「パパ、これ、パラナミオも少し遊んでみていいですか!」
そう言うものですから、試作品を渡して上げたところ、そのままリョータの側に戻って行って積み木であれこれ遊び始めました。
「ほらリョータ、高い塔が出来ました」
「ほらリョータ、大きな四角ができました」
パラナミオは、自分がくみ上げた積み木を嬉しそうに見つめながら、出来上がる度にリョータに教えて上げています。
で、ベッドで横になっているリョータは、パラナミオが教える度にキャッキャと笑っていました。
……なんか、いいですね、こういう光景
僕はそんな2人を見つめながら、にへらぁ、と口元を緩ませていた次第です。
すると、おもむろにスアが研究室から出てきたかと思うと
「……旦那様、これ、どう?」
そう言いながら僕を手招きします。
で、スアの研究室に行きますと、そのイスの前に、ほ乳瓶の口部分が2つ置かれています。
1つは、僕が元の世界から持って来ていた在庫品の物。
で、もう一つが、スアによるこの世界産の試作品です。
スアによると、この世界に存在するゴムの木の樹脂を主材料にして、あれこれ素材を魔法で融合させて完成させたんだとか
在庫品には、この世界に存在しない素材が混在していたため完全に同じ物にはなっていないそうなんだけど
「……完全自然素材だから、赤ちゃんにも優しい、よ」
そうスアが言うのですから、むしろこれの方が安心安全なんじゃないか、と思ってしまうわけです、はい。
で、触ってみると、柔らかさも申し分ありません。
煮沸消毒しても問題ありませんでした。
で、我が家で使用しているほ乳瓶の口をこれに変更してリョータにミルクをあげてみたところ、リョータはいつものようにミルクを飲んでくれました。
その光景に、僕もスアも感動しきりだったわけです。
スアは、リョータが一生懸命しゃぶりついているほ乳瓶の口の部分を見つめながら
「……どんな魔法を成功させた時より、も、嬉しい、よ」
そう言いながら笑顔で涙ぐんでいました。
僕は、そんなスアをそっと抱きしめ
そこにパラナミオが加わってですね
なんか、リョータも「あ~、あ~」と言いながら手を伸ばしていたわけで
そんなリョータをスアが抱っこして、今日はタクラ家だけでの家族の輪が出来上がりました。
◇◇
スアは、ほ乳瓶の口部分の生成に成功すると、巨木の家に、新たに1つ実の部屋を作りました。
その実の部屋の中にあれこれ自作の機械を運びこんでいくと、おもむろになんか魔女魔法出版の本を開け始めたんですが……
隔週刊・ゴブリンでも作れる木人形~改訂版
スア監修・制作指揮の商品です。
これを全10巻集めて、それぞれの本には行っているパーツを組み合わせると木人形が出来上がるっていうキットなんですけど……す、スアさん、それってかなり高価な代物だったんじゃありませんでしたっけ?
そう言う僕に、スア、
「……この木、良いのを使ってるから、ね、とてもいいの、よ」
と、お値段よりも、機能性重視のご様子で……はい、来月魔女魔法出版のダンダリンダがどんな顔で請求書を持ってくるのか、今から胃が痛いです。
で、その本を使用して作成した木人形を2体、この実の作業部屋に常備しまして、ほ乳瓶の口を作る作業に従事してもらうことにするそうです。
この木人形は、ルアのとこの骨人間(スケルトン)同様に、24時間休みなく働けます。
使用する材料の生成は、魔法を使用する必要があるため毎日スアが生成しまして、それをこの木人形2人がこの部屋の機械を使用して魔法瓶の口の形へ生成する作業を行うことになったわけです。
これで、どうにか魔法瓶の口部分の増産の目処がつきました。
……さて、今度はほ乳瓶の本体部分か。
やっぱ、この世界に存在しないものをゼロから作るって、あれこれ大変ですけど、これで、我が家のリョータを始め、この世界のママさん達が救われるのならば……って、まぁ、独りよがりなんですけどね、はい。
とにかく、頑張ってみようと思うわけです。
◇◇
この日、あれこれ作業を終えて寝室に戻ると、今日もスアとパラナミオが、リョータを挟んで寝ています。
スアの頭のところには魔法袋が置かれているんですが、おそらくその中には人肌にぬくめた粉ミルクの入ったほ乳瓶が入っているはずです。
魔法袋に入れておけば
中身は劣化しませんし
温度も入れたときのまま、ずっと保存出来ます
なので、夜中にミルクをあげないといけないときでも、すぐに対応出来るわけです。
この魔法袋は非常に高額なんですけど、仕組みは同じで内容量をすごく少なくし、その結果お求めやすい価格にすることが出来た荷物運搬袋って商品をすでにコンビニおもてなしで販売しているのですが、いっそ、ほ乳瓶が数本入るサイズの袋を作って、さらにお求めやすい価格にするのもありかもな、なんてことを考えていますと、そんな僕に気がついたスアが、眠そうに目をこすりながら体を起こしていきまして
「……だっこ」
そう言いつつ、両手を僕に向かって伸ばしてきました。
僕は、苦笑しながらスアの後方へと回っていき、スアをギュッと抱っこして上げました。
スアは、僕に抱っこされながら、幸せそうに微笑みつつ、また寝息を立て始めました。
で
「……次は、女の子、ね」
寝落ちする寸前にそう、呟いたわけでして……
はい、また頑張ります。