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赤ちゃん狂想曲 その1

 スアが自分の母乳をベースにして完成させた粉ミルクなのですが、店にやって来たママさんから
「商品化出来ませんか?」
 と言われました。

 で、よくよくお話を聞いてみるとですね……

 この世界の子供はですね、離乳食までは母乳で育てるそうなんです。
 で、スアのように母乳の出が悪いママさんは、母乳がよく出るママさんにお願いするのが当たり前になっているんだとか。そうやってみんなで子供を育てていくんだそうです、はい。
 ですが、やっぱり他のママさんにいつもお願いするのもですね、気にするママさんも多いらしく、また逆に、お乳の出がいいからといって頼まれまくるママさんも、体が辛くても断りにくいケースがあるそうなんですよ。
 で、このお乳の代用品になりうる粉ミルクが手に入るようになれば、そういったママさん達みんなが喜ぶんじゃないかってお話なんですよ。

 そこで僕は、早速スアと相談しました。
 で、とりあえずこの粉ミルクをプラントの木に突っ込んでみたわけです。

 このプラント魔法がかけらてた木はですね、コブ部分に増やしたい自然由来の果物や商品類を突っ込むとですね、翌朝には実になって増えるという代物なんです。

 でも、いくら自然由来の成分でも、それをカガク的~パルマ風表記~に抽出したものは増産出来なかった事例があったため、ちょっとドキドキしながら一晩待ってみた結果。
 このプラントの木に寄生している益虫の牙目クモがたくさんの実を回収してきてくれました。

 牙目クモは、プラントの木の蜜を好み、この木に寄生して生活しながら実を目当てにやってくる害虫や害鳥をことごとく撃退した上にですね、プラントで出来上がった木の実を指定した場所に毎朝持って来てくれる習性をもっているという、非常に役にたつ蜘蛛なんですよ。

 で、その実を2つに割ってみますと……はい、無事粉ミルクが詰まっていました!
 スアも、自分が魔法をあれこれ使用して調合していたので、うまくいくか心配しきりの様子だったんですけど、これで粉ミルクの増産に目処がつきました。

 で、今度は工房のルアにお願いして木製の粉ミルク入れを作成してもらいました。
 確か、僕が元いた世界では800gぐらい入った物が大缶としてよく売られていたように思うので、そのサイズの物と、お試し用に200gくらい入るサイズの粉ミルク入れの計2種類を作成してもらいました。

 ほ乳瓶はですね、店の在庫を確認してみたら未開封の新品が10箱×12個出てきましたので、それを販売することにしました……まぁ、こんだけあればなんとかなるんじゃないかな、と思っているわけです。
 スアは、このほ乳瓶の口の部分を不思議そうに見つめていまして
「……ここ、カガクだねぇ、うん」
 そう言いながら、あれこれ調べていました。
 この柔らかい部分は、確か天然ゴム製のはずなんですけど、確か天然ゴムって、何か化学反応させて作るんじゃなかったっけ?
 となると、この世界では再現不可能なのかなぁ、と思っていると、スアがですね
「……似た樹液を、知ってる、よ」
 そう言いながら、パラパラと本を調べ始めました。
 ちなみに、この間のリョータはですね、僕お手製の抱っこひも……といえば格好いいんですけど、
『抱っこひもって、確かこんなだったような気が……』
 と、記憶をたよりに作成したですね、なんちゃって抱っこひもを使用しているスアの体の前側に固定されていたわけでして、リョータも気持ちよさそうに寝ているので、今のところなんちゃって抱っこひもも無事役にたっているな、と安堵しきりだった僕なわけです、はい。

 とりあえず、その口の部分の研究はスアにお願いするとして……って、いいますか、120個ものほ乳瓶がですね、そんなに一気に売り切れるとも思えないんで、まぁスアにはのんびり研究してもらおうかと思っているわけです。

 で、ほ乳瓶は使用前に煮沸消毒する必要がありますので、その説明書きを手書きで作成してそれをコピー機でコピーし、ほ乳瓶の箱の中へ入れておきました。
 もともとこのほ乳瓶の中に入っていた取扱説明書にはですね、レンジでチンする方法とか、薬液にひたす方法などといった、この世界では実現不可能な方法が併記されていましたので、煮沸消毒の部分だけをわかりやすくまとめたわけです、はい。

 ちなみに、この説明書をコピーするのに使用したコピー機ですが、これはもともとコンビニおもてなしに導入していた物でして、元の世界にいた頃は1枚10円でコピーサービスを提供していました。
 この世界でもですね、地図とか、契約書の写しをとりたいといった風にコピーの需要はあるので、1枚いくらでサービスを提供してもいいんですが……在庫の紙がですね、そんなに無尽蔵にあるわけではないのと、この機械が万が一故障した場合、僕では修理が出来ないわけなんですよね……なので今回のようにどうしても必要な時意外は使用しないようにしているんです。
 しかしですね、やっぱあれなんですよ。
 この世界にやってくる前にですね、相当無理して店に太陽光発電を導入しといよかったなぁって心から思っているわけです。
 太陽光発電を導入していたおかげでですね、この電気が存在しない異世界でもコンビニおもてなしには電気が流れていましてですね、そのおかげで、コピーは使えますし、電気自動車も使えますし、飲み物やサンドイッチ類を冷やすための冷蔵棚も使用可能ですし、自動ドアも使用出来ています。

 話が少し逸れましたけど、そんな感じで、粉ミルク販売のための準備をあれこれ整えて行きました。
 まぁ、リョータのために作成する粉ミルクを、毎回多めに作ってそれを販売しようといった感じだったわけです、はい。

 そんな感じで始まった粉ミルクの販売ですが……

 初日は、お試し用が5個売れました。

 翌日は、大缶サイズが10個売れ、お試し用が26個売れました。

 で、3日目の今日……開店前のコンビニおもてなしの前にママさん達が列をなして待っています……って、えぇ!?

 列に並んでいるママさんの1人に話を聞いて見たらですね
「このお店の粉ミルク、これ、すごくいいんです! 子供に飲ませてみおたらですね、すごく美味しそう飲んでくれたんで、追加を買いにきたんです」
 そう言ってにっこり微笑んでくれました。

 で、他のママさんにも少しお話を聞いて見るとですね……
 赤ちゃんが、夜中にミルクを欲しがるケースとかも、やっぱあるわけですよ。
 そんな時にですね、申し訳ないと思いながらも、いつもお世話になっているママさんに、子供におっぱいをあげてもらえませんか? と、お願いにいかないと行けないケースが毎晩のように発生していて、お互い疲れが溜まってしあうなんてことがしょっちゅうおきているんだとか……
 それでも、今までは他に解決策がなかったので、みんな我慢していたそうなんですが……

 そこに、なんの前触れもなく登場したのが、この粉ミルクだったわけです、はい。
 その存在がですね、この2日ほどの間にこのガタコンベの街はもとより、この街の周辺集落にまで広く伝わっているそうで、そういった皆々様までもがこの列に並ばれているんだそうです、はい。


 こういった話を総合していくとですね……どうもこの粉ミルクのような製品を待ち望んでいた人々がすごく多かったんじゃないかって、思えてきたわけです。

 で、ですね、
 この日は開店を少し早めました。
 朝から列に並ばれていたママさん達に、少しでも早く粉ミルクやらほ乳瓶やらを販売してあげようと思ってあれこれ頑張ったところ、この日準備していた粉ミルクは昼までにはすべて売り切れてしまいました。

 普通ならですね、よく売れてよかった、と喜ぶところなんですが、この売れ方は非常にまずいです……

 というのがですね、現在、我が家の巨木の家のプラントで生産しているこの粉ミルクなんですが、この3日間フル生産した中から、リョータの分を差し引いて残った分を店頭にならべていたわけです。
 それがこの日ですべてなくなってしまったということはですね、これ以上粉ミルクを欲しいと言われる方々が増えたとしても圧倒的に量が足りなくなってしまうわけです、はい。

 そこでしばし考えた僕は、スアと一緒に転移ドアをくぐってコンビニおもてなし3号店へと移動していきました。

 で、伝説級の魔法使いであるスアの登場に気がついた、店に客としてきていた魔法使い達がざわざわし始める中、僕とスアは店の裏へと回っていきました。

 この3号店の裏にはですね、以前スアが接ぎ木して育成しているプラントの木が複数あります。
 スアに確認してもらったところ
「……うん、そろそろ使えそう、よ」
 使用可能のお墨付きが出ましたので、僕はこのプラントの幼木を使用して粉ミルクの実の増産体制を整えていきました。
 スアの計算だと、この幼木が100本ありますので、単純計算で、本店裏の巨木の家のプラントのおよそ30倍の生産量が見込めるとのことでした。
 さしあたって、これだけの量を生産出来る体勢を整えておけば当面は大丈夫だと思われます。

 次は、販売する容器です。
 この容器を作成してくれているルアの店には、大サイズとお試しサイズの容器はそれぞれ1日20個づつ納入してもらうよう口約束していたのですが、今のペースだと、大サイズだけでも1日100個は必要だろうと思われているわけです。

 で、それをルアに伝えると、さすがのルアもびっくりした表情を浮かべていきまして
「タクラぁ、そりゃ無理だってぇ、ウチの工房はさ、コンビニおもてなしの弁当の箱や調理器具なんかも作ってんだ。生産場所も限られてるし、これ以上生産量を増やせと言われてもなぁ……そりゃ、夜を徹してやれば出来ないこともないけど……」
 そう言いながら考え混んでしまいました。

 さすがにこれは難しいか……そう、僕とルアが首をひねっていると、そんな僕らの前に、ルアの旦那の
「ぶ、ぶぁか! だ、旦那じゃねぇし! た、ただちょっと一緒に暮らしてるだけですしぃ」
 ……と、まぁ、ルアと同棲中なのが発覚したオデン6世さんがですね、なんか右手の親指をグッとたててます。
「……まかせて、いい手がある」
 そう言うオデン6世さんなんですが……

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