こんにちは赤ちゃん その3
タクラ家に新しい家族、男の子のリョータが加わりました。
僕達はコンビニおもてなし本店の裏にあります巨木の家で暮らしているのですが、朝夕の食事は本店2階の社員寮で暮らしている社員やバイトのみんなと一緒に食べています。
社員寮には、現在本店に勤務しているイエロ・ヤルメキス・テンテンコウ
2号店に勤務しているシャルンエッセンスと、シルメールらメイド達6人
コンビニおもてなし食堂エンテン亭で働いている猿人4人娘
以上の13人が暮らしていまして、スアが、プラント魔法を利用して巨木の家に作成した巨大な実の食堂に集まって食事をしています。
で、セーテンとブリリアンの2人は巨木の家の脇に小屋を建てて住んでいるのですが、いつの間にかこの食事の輪に加わっているんですよね……まぁ、2人分増えるくらいは問題ないから別にいいんですけどね。
で、
そんな朝食風景が、今日は一変しています。
と、いうのがですね、スアがリョータを抱っこして実の食堂の中に現れたもんですから、
「リョータくん!」
「うわ! ちっちゃい!」
「かわいいでごじゃりまするなぁ」
「ダーリン、アタシにも早く仕込んで欲しいキ」
「いや、やはりめでたいでゴザルな」
と、まぁ、みんなの視線がリョータに集中していきまして、みんな食べるのが遅い遅い……まぁ、僕もだったんであんまり言えないんですけどね……あはは。
さて
そんなリョータの食事ですが……
ですが……
ですが……
……えぇ、大変苦労しております。
と、いうのがですね、スアは非常に小柄です。
体の前面は見事に絶壁です。
よくもまぁ、この体の中にリョータが入っていたんだと、びっくりするレベルなんです、はい。
まぁ、授乳期になれば、胸も少しは大きくなる……と、思っていた時期が僕にもありました。
一応、スア曰く
「……でない、ことは、ない」
そうなんですけど、リョータが
ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ……
と、その絶壁からおっぱいを必死に吸おうと頑張るとですね、スアがこの世のものとは思えないような顔をして固まるわけです、はい。
さすがのスアも
「こ、これは専門外、かも」
と、なっていたのですが、かといってリョータに何か口にさせてあげないといけないわけです。
で、近所のママさん達に、こういう場合、この世界ではどうしているのか聞いて見ますと
「そうねぇ、そういう時はよくお乳の出るママにお願いしてますよ」
なんだそうで……あぁ、そうか、この世界には粉ミルクとかないのか。
僕がそう思っていると、スアが
「粉ミルク?」
と、反応してきました。
そんなスアに、僕は
「母乳に近い栄養素を粉にしてあってね、それを人肌に温めたほ乳瓶に、人肌の温度のお湯に溶かして、それを飲ませてあげるんだよ」
そう説明していきました。
そういえば、無駄に品数の多い、爺ちゃんの代から山積みになっているコンビニおもてなし本店の在庫の山の中にほ乳瓶があったような気がして、早速地下にある倉庫を漁りに行ってみますと……僕の記憶どおりありました、ほ乳瓶。
この世界の雑貨屋では見たことがなかったものですから、まぁ売れないだろうと思ってですね店には一度も並べたことがなかったんですよね。
で、新品のほ乳瓶が12個入った箱を持って巨木の家に帰るとですね、スアは研究室に移動していました。
僕が戻ってきたのに気がついたスアは、いきなり上半身裸になると、胸を突き出して
「吸って……そして、出して」
そう言いながら、ビーカーみたいなガラスの容器を僕に手渡してきました。
つまり、おっぱいを吸い出して、これに入れろということのようです。
で、なんと言いますか……結婚以来毎日欠かさず揉んでいたのに成長の痕跡がほとんど見られな
「それはいいから!」
はいはい……で、僕は、そんなスアの胸に吸い付いて、ゆっくりおっぱいを吸い出していきました。
……しかし、これはリョータが手こずるわけです。
僕は、スアが痛くならないようにゆっくり吸ったのですが、ほとんどでてきません。
で、少しきつめにすいますと
「ひ!?」
と、スアが悲鳴を上げるわけです。
で、まぁ、とにかく、ほんの一口分のおっぱいをビーカーへと移した僕は、それをスアに手渡しました。
すると、スアは、そのミルクの上に魔法陣をいくつも展開していきます。
で、スアはですね、なにやらその魔法陣を確認しながらフンフンと頷つつき、部屋の棚の中にあるいろんな材料を取ってきては、刻んだり、乳鉢ですったり、時にかみ砕いてから混ぜ合わせたりと、あれこれ作業を続けていくこと20分。
「……こんなもの、かな?」
スアが手にしているフラスコ状の入れ物の中には、白い粉がいっぱい詰まっています。
スア曰く
「……私の、母乳と、同じ成分を、粉にした、の」
だそうでして……って、え? 何? この世界初の粉ミルクを20分で作っちゃったってことなの?
で、早速その試作品の粉ミルクを人肌に温めたほ乳瓶に入れて、人肌に温めたお湯を加えて溶かしましてですね、それをリョータの口に咥えさせてみましたところ、
ゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴッゴ
と、すさまじい勢いで吸い込んでいきました。
……おそらく、スアのおっぱいの量では足りていなかったのでしょうけど、この飲みっぷりは、なんといいますか、見ていて気持ちがよかったです、はい。
で、その夜から、
みんなの前で、粉ミルクを豪快に飲んでいくリョータの姿が解禁となりまして。
「うわぁ、すごく飲みますのねぇ」
「さすが男の子でごじゃりまする」
「ダーリン、アタシにも早く仕込んで欲しいキ」
「いやはや、早く一緒に酒を飲めるようになりたいでござるな」
みんなの笑顔の前で、スアに抱っこされて元気にミルクを飲むリョータの姿に、みんながほんわか笑顔になっていきました。
◇◇
その翌日、
「タクラさん、こんにちはぁ」
と、赤ちゃんを抱えた若い奥さまが僕を訪ねて店にやって来ました。
「奥さまのおっぱいの出が悪いとお聞きしまして、お役に立てたらと思ってまいりましたの」
そう言う、若いママさんのおっぱいは牛……あ、いえ、すいません、失言です。
とてもおっぱいの出がよさそうです。
とてもありがたいお申し出なんですが
「実は、こうこうこういうものを嫁が開発しましてですね、無事リョータにミルクをあげることが出来るようになったんですよ」
粉ミルクとほ乳瓶のことを説明して、ご厚意に感謝したのですが、
「あの……よかったらそのほ乳瓶と粉ミルク? それを拝見させてもらうことは出来ないでしょうか?」
若い奥さま、なぜか興味津々といった様子で僕にそう尋ねてきました。
で、すぐ巨木の家に戻った僕は、スアに事情を説明すると、スアはおもむろに粉ミルクをストックしている大きな瓶とほ乳瓶を、僕が作った肩掛け袋に入れていき、そしてリョータを抱っこして僕の後ろについて来ました。
いや、あの……スアはさ、超絶対人恐怖症なんだし、無理しなくてもいいんだよ、と伝えたところ、
「……ママです、よ。……リョータのためにも、頑張る、の」
そう言いながら、テクテク僕の後をついて来ます。
なんか、スアも頑張ってるんだなぁ、と、微笑ましく思ってしまうんですけど……よく考えたら、僕より遙か年上なんだよね、スアってば。
「まぁ、可愛い赤ちゃんですねぇ。私のリスアと同い年ですねぇ」
「……ど、どうも」
満面の笑みを浮かべている若いママさん~初対面~に、気圧されながらも必死に挨拶を返していくスア。
そんなスアは、袋の中からほ乳瓶と粉ミルクを出していくと、それを手にしたまま、若いママさんにですね、
「……粉ミルクは、ね、私の母乳と同じ成分です、よ。それをお湯でね……」
いつもの、たどたどしい口調で、一生懸命説明していきます。
それを、若いママさんは、真剣な眼差しで聞いていたのですが、スアの説明を聞き終えた後、そのママさん、
「あの、奥さま、この粉ミルクって、もっとたくさん作ることは出来ませんか? 出来れば、コンビニおもてなしさんで販売するとか……」
そう聞いてきたわけです。