戸締まり用心、火の用心 その1
最近のスアの格好といいますと、抱っこひもでリョータを背負ってあっちにテコテコこっちにテコテコっていうのが定番です。
研究室であれこれしている時間も最近はリョータを背負ったままやっているので、ずっと立ちっぱなしでやっています。
で、時々その格好で洗濯を干したり、取り込んだりもしているスアなのですけど、その姿を目ざとく見つけたママさん達がですね
「奥さんが赤ちゃんを体に巻き付けてるの、あれなんですか!?」
と、コンビニおもてなし本店に聞きにこられたわけでして……
どうもこの世界では、赤ちゃんは抱っこする以外の選択肢がないみたいなんですよね。
そこで、抱っこひもを僕が手縫いで……って頑張ろうとしたんですけど、元々裁縫がそんなに得意でない僕の腕では商品として売れるレベルの品物が出来上がらなかったものですから、コンビニおもてなしが誇ります裁縫上手のお方に話を振ってみましたところ
「はいはい、これくらいならすぐですわ」
魔王ビナスさん、そう言いながら仕事の合間に1時間で50本の抱っこひもを完成させてくれました……相変わらず、ホントすごいです、ビナスさん。
で、早速本店で販売してみましたところ、粉ミルクを買いに来たママさん達が買って行かれまして、1週間もしますと、ガタコンベのママさん達のほとんどが抱っこひもを使って赤ちゃんを連れて街中を歩いているという、ちょっとびっくりな光景が展開されていったわけです、はい。
◇◇
今回、赤ちゃん関係商品の開発の関係であちこちとびまわっていたせいで、臨時でコンビニおもてなし4号店の店長をダークエルフのクローコさんにお願いしてたんですけど、僕が不在の間もほとんど問題無く店を回してくれていました。
「ってゆ~かぁ、店長がやってたこと見てたしぃ、これくらい出来ないとお給料もらえないじゃん?」
そう言うクローコさんですけど、これは嬉しい誤算でした。
見た目と言葉遣いはあれですけど、仕事にはしっかり真摯に向き合ってくれる人だとは思っていたんですけど、店長代行まで出来るとは思っていなかったものですから、ホント助かるわけです。
とはいえ、まだ入店して間がないので、僕が店長のままでクローコさんには店長補佐として仕事をして貰いながら経験を積んでもらう事にしました。
当然その分時給を上げたのですが、するとクローコさん。
「やば! 店長めっちゃやばいって! アタシ、超頑張るしぃ!」
と、改めて元気満々になって毎日働いてくれています。
4号店は、門の守護者の幽霊……じゃなかった、思念体のララデンテさんが出店で温泉饅頭を売る姿がいつのまにかララコンベ温泉の名物になっていまして、組合のペレペが作ってるララコンベ温泉見所マップの中にもしっかり絵入りで紹介されていたりします。
ツメバとクーログロによる門の遺跡での出張販売も好調ですし、何よりありがたかったのが当初週2,3日のみ出勤予定だったアルバイトのクマンコさんがですね
「こンのお店の時給が一番いいですしぃ、何より店長さんが良い方ですしぃ、店のみんなもいい人ばかりですしぃ、お仕事をですね、こンのお店1本に絞ったんですぅ」
ということになりまして、毎日昼過ぎまで勤務できるようになったんです。
このおかげで、お昼時にツメバとクーログロが門の遺跡で出張販売に行っている間の人手不足が解消されることになりまして、いや、ホント助かったわけです、はい。
◇◇
そう言えば、なんか王都の方から至急便が来たとかで、組合のエレエがコンビニおもてなし本店にチラシを持って来ました。
そのチラシというのが、裏の世界であくどい商売を手広くやっていた闇の嬌声っていう集団がいるそうなんですけど、王都の騎士団がですね、こいつらを一網打尽にしようとしてこいつらの本拠地に乗り込んだそうなんですけど、どうやら事前に察知されたらしくて現在こいつらが全員行方不明なんだそうです。
「王都からですね、何かあったらすぐに辺境駐屯地に連絡するようお達ししてきておりますので、タクラさんもよろしくです」
とのことだったんですよ。
すると、この日の夕方には辺境駐屯地の隊長であるゴルアがガタコンベの街にやってきました。
用件はやはり闇の嬌声に関することでした。
ゴルアはまず組合に行ってあれこれ話をしたあとに、僕のコンビニおもてなしにやってきました。
「このお店はこのあたりの都市の中では一番勢いがありますので、くれぐれもお気を付けください」
そう言ってですね、何かあったらいつでも連絡をくださいと言ってくれました。
で、そこまで言われるとですね、コンビニおもてなしとしても何か手をうっておかないとと思いまして改めて各店の警備体制を見直して見たんですけど……
本店は、夜の時間は店の裏のビアガーデンで、イエロ・セーテン・ルア……は、最近欠席気味らしいんですけど、代わりにテンテンコウ♀と、ララデンテさんが朝方まで酒盛りしていますので、まず安全だろう、と。
3号店は、周囲が全部魔法使いの集落でして、そのど真ん中に店があるわけですからこの状態で何か起きたらですね、その方がびっくりなわけです。
4号店には、24時間働けますよ、の、黒騎士骨人間(ブラックナイトスケルトン)のクーログロがいますので、こちらも万全です。
と、なると、今一番危険があるとすればコンビニおもてなし2号店と、エンテン亭なわけです。
どちらも常連さんが見守ってくださっていますし、特に2号店の方はかつてシャルンエッセンスの屋敷で働いていた人達が鉄のガードを形成してくださっていてですね、以前もシャルンエッセンスの成功を聞きつけて金をせびりにやってきた父母兄弟をことごとくブロックしてくれていますしね。
とはいえ、そういった第三者の皆さんの協力に頼り過ぎるのもあれなので、ここにはとりあえずスアが召喚した水晶聖戦士骨人間(クリスタルセイントソルジャースケルトン)を、2号店とエンテン亭にそれぞれ1体ずつ待機させることにしました。
2体とも、影の中に潜むことが出来るので、いつもは姿を見せていませんが、24時間常に店内のどこかにいて、目を光らせてくれるわけです、はい。
で、ですね、この水晶聖戦士骨人間(クリスタルセイントソルジャースケルトン)ですが、この世界で生成出来る骨人間の最強形態だそうでして
「……ゴルア達の辺境駐屯地なら、1体で壊滅させちゃう、よ」
と、ゴルアが聞いたら真っ赤になって怒りだしそうですけど……間違いなくスアの言う通りだと思うので、このことは絶対にゴルアの耳にはいれないようにしようと思っています……ゴルアには悪いけど、ゴルアだと
「ならば勝負だ!」
とか言って挑んでいって返り討ちに遭うのが目に見えるようですしね……あはは。
◇◇
防犯対策をあれこれしていた際にですね、そういえばこのあたりって大雨とか振らないよなぁ、と思った訳です。
僕がこの世界にやってきてからというもの、街の中で雨が降ったことがほとんどありません。
ですが、街の近く……特に水源の方では適度に雨が降っているおかげで、川の水が涸れることはないし、そのかげで農耕用の水路も水が涸れたことがありません。
で、組合のエレエに聞いてみますと
「いえいえ、場所によっては大雨降ってますよ。北のオトの街ってとこなんか、こないだ大雨のせいで川が決壊しかけたって話ですし」
と、いうことらしく
「このガタコンベでも、タクラさんがやってくるまでは雨がよく降ってましたけどねぇ」
そう言いながら、首をひねっていたわけです。
で、巨木の家に帰った僕は、スアとあれこれ話をしている際に、この雨の話をしてですね
「なんか不思議なこともあるもんだねぇ」
って言ったんですけど……そうしたらスアがニッコリ笑ってですね
「……晴れだと、お客さん来るって、言ってたよ、ね」
そう言うわけです。
……え?
す、スアさん……ま、まさか天気を操作してるとか……ま、まさかそんなことは……
「うん……狭い範囲しか出来ない、よ」
そう言うスアなんですけど……よく思い出してみたらですね、街中で雨が降るのって、決まってビアガーデンが閉店している店休日の夜中だけだったような気が……
なんかそんなことを思い出していると、スアの言う狭い範囲がどのくらいなのか聞くのがちょっと怖くなってきたわけでして。