夏の始めにあれこれと その4
廉価版の冷蔵庫の販売を始めたところ、
その補充用に、と販売を始めた冷蔵魔石の方が飛ぶように売れているのですが
「1週間とか、3日用の冷蔵魔石は売ってもらえないのかな?」
との問い合わせがちらほら入ってくるようになりました。
この問い合わせをしてくるのって
今度夏祭りに出店するお店の人が多いんですけど
者を仕入れてから、祭りで売り切るまでの短期間用の物があったら嬉しいとの要望なわけです。
で、スアに
「そんな短期間用の冷蔵魔石って制作出来るもんなの」
って聞いて見ますと、
「……採掘された、ゴミみたいなの、使えば出来る、はず」
とのこと。
なるほどなぁ
そんな普通捨てるような魔石を使えば可能なのか。
で、
改めて魔法使い地区長さん達を集めて、この件を相談してみたところ、
全員がなんか困惑の表情に……
はて? なんでだ?
そう、僕が思っていると
「そんな捨てるような魔石は、需要がないため市場に出回っていないから、逆に入手しにくいんです」
と、地区長さん。
あ~、あれか
売っても儲けにならないから、売ってないっていう……
で
コンビニおもてなし3号店周辺に住んでいる魔法使い達が利用している行商人を呼んで、相談をしてみたところ
「正直、ろくな金にならないくせに、石だから重いしさ、扱いたくないでございますねぇ」
との返事。
そこで今度は、
その行商人が仕入をしているという魔石鉱山を教えてもらい、そこへ直接話合いに。
すると、そこの責任者のエルフ、
「持って行ってくださるのなら、無料で差し上げますが……」
そう言ってくれました。
ただ
行商人が扱うのを嫌がる理由っていうのが
その端物魔石置き場を見て納得。
というのも
魔力を込めることが可能な魔石で、こめても数日しか持たないような端物の魔石って、欠片な場合もあるんですけど
たいていの場合、不純物が多いんですよね。
つまり、普通の石の中に混ざっているとか、そんなケースが大半。
不純物を取り除いて、純粋な魔石部分を集めて精錬していけば、大きな魔石になるんですけど
そんな手間暇をかけなくても、魔石の大きな原石がゴロゴロ産出しているので、そんな手間暇かけるよりも、掘り出した魔石の原石を加工する方が安くつくから、そんな不純物入り魔石は、いわゆる産業廃棄物扱いされていて、魔石を採掘し終わった坑道に破棄されているんだとか。
案内された坑道跡地には、責任者のエルフが言うように、
今も、不純物混じりの魔石がどんどん運び込まれています。
ふむ……
これをどうにか魔法使い集落まで輸送できれば……
そう僕が考えていると
一緒に来ていたスアが、何やらボソボソ言い始めました。
はて?
どうした?
そう思っていると、
スアは、目の前の石壁に向かって詠唱を始めたかと思うと、そこにドア風の魔法陣を生成した。
んで
「よばれてとびでて」
「じゃじゃじゃじゃ~ん! で、あります」
と、
その中から2人の女の子が出現しました。
「スア様の使い魔の1人、宝玉ミノタウロスのミノスコと」
「同じく、スア様の使い魔の1人、荷馬車魔人のシンシュールであります」
この宝玉ミノタウロスっていうのは、その角がすごく貴重な宝玉で出来ているミノタウロスのことで
その宝玉の角を狙った冒険者達に殺されまくって、今ではほぼ絶滅状態なんだとか……
で、荷馬車魔人っていうのは、その名の通り、荷馬車に姿を変化させることが出来る魔人なのだそうだ。
その魔人が知っている乗り物になら、なんでも変化出来る能力を持っているらしいんだけど、馬がいなくても荷馬車として働けることから、王都の商会の者達がこれを乱獲・自分達のお抱えにしてしまっているため、絶滅はしていないものの、今では王都の商会でしか姿を見ることがないんだとか
さっきボソボソ言っていたスアは
使い魔達に「力の強い人と、荷物を運べる人に仕事を頼みたい、の」って、相談してたんだとか。
んで、
このミノスコに、魔石のかけら混じりの石を掘り出してもらい
荷馬車化したシンシュールの荷台にそれをのせて魔法使い集落へ運ぶことに
ちなみに、
この魔石坑道跡地から魔法使い集落までは、スアの転移魔法扉を設置し、常時つながっている状態になっています。
この常時つながる扉なんですけど
僕はこうやってしれっと言ってますが
本当は、すっごく難しい魔法なんだとか
自称スアの弟子ことブリリアンによると
「そもそも、ピンポイントで、場所と場所を結ぶこと自体が超高度な魔法を必要とするのです。
しかもそれを常時接続状態でつなぐとなると、その魔法陣に安定的に魔力を供給するための魔法を別途展開し、その魔法を維持するための魔法を、また別途……」
まぁ、とにかくすごいそうです。
こういうとこでも
やっぱスアがいかにすごいかっていうのを改めて実感するんですよね。
「スアが奥さんでよかったよ」
そう言いながら僕、スアを後ろからギュッと抱きしめます。
するとスア、
照れり照れりと頬を赤くしながら
「そういってもらえるのが嬉しい、の」
そう言って、なんか喜び返してくれます。
意味は若干違うかもですけど
これもいわゆる内助の功? に、なるのかな、と。
まぁ、一方的に僕ばっかり得してるような気がしないでもありませんので
スアのご希望に添えるよう、夜、しっかり頑張ろうと思います。
◇◇
そんなとき、ふと思うのですが
スアのようなエルフの魔法使いと人種の間に子供って出来るのかな、と。
いや、まぁ
別にお互い人の姿をしているわけだし、最初はあんまり気にしてなかったんだけど
ここまであれこれ人知を越えた力を見せつけられ続けていると
結構本気で思うようになったんだけど
スア曰く
「……大丈夫、よ」
と、ニッコリ。
なんでも
かつての大魔法使いも、普通の人種や、亜人との間に子をなしているんだとか。
それを聞いて、今夜の夜戦の決意を新たにするボクなわけですが
そこで、ふと思ったのが
「スアくらいの魔法使いなら……その、子供が出来るように、そう言う操作をできたりするんじゃないの?」
って、こと。
するとスア、
少し考え込んで
「……出来なくはない、よ」
と
え? 出来るの?
そう僕が思っていると、
「でもね……しようとしたら、怒られた、の」
は?
怒られた?
「『生命の誕生に関することに、むやみに魔法を使用してはなりません』って」
は?
なんだ、そりゃ?
そんなこと、一体誰が……
そう僕が言うと、スア、なんか空を指さして
「……天界の、神様」
と、一言
……え~
僕の脳みそで理解しうる領域を、今、一瞬はみ出したので
とにかく
僕は地道に子作り頑張ろうと思います。
◇◇
で、翌朝
この上なく満足そうな笑顔 ~事後~ で寝ているスアをベッドに残して
僕はいつものように、早朝から弁当づくりにコンビニおもてなしの厨房へと移動。
すると
「タクラ様、これをみてほしいでおじゃりまするぅ」
そう言いながら、蛙人のヤルメキスが、僕に向かってかけよってきました。
すると、
ヤルメキスが持っている皿の上には、見事なロールケーキが……
「カップケーキを作り続けて早幾年月……このヤルメキス、ついにこのろおるけえきの作成に成功したでおじゃりまするぅ」
そう言い、感涙なヤルメキス。
いえね
このヤルメキス、
以前からカップケーキ以外の甘味も練習してもらってたんですけどね
シュークリームを焼いたのに、出来上がったらカップケーキ
エクレアを作ってたのに、出来上がったらカップケーキ
と
何を作っても、何故か出来上がったらカップケーキになっていたんですよね……ホント、何故だか……
で
その完成品を一口頂いてみると、
うん
これはばっちりだ
ちゃんと普通の『美味しい』ロールケーキに仕上がっている。
「よく頑張ったな、ヤルメキス」
僕は、ヤルメキスが、毎日カップケーキの研究と平行して、このロールケーキ作りにも取り組んでいたのを知っていただけに、感極まって、抱きしめた。
すると、いつもなら
『は、はわわぁ!?』
とか言いながら、大騒ぎするはずのヤルメキスが、何も言いません。
不思議に思って、僕の腕の中のヤルメキスに視線を落とすと、
ヤルメキス
なんか、もう真っ赤を通り越して、茹で蛸のような顔をして気絶してまして……
……す、すまん、ヤルメキス……ちょっと刺激強すぎたね
とにもかくにも
夏祭りに向けて、新しい商品がひとつ
「あぁ!?
さ、さっきのショックで、ろおるけえきの作り方を忘れてしまったでごじゃりまするううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう」
……うん
夏祭りまでに思い出してね、ヤルメキス。