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夏の始めにあれこれと その3


 そういえば、魔法冷蔵庫のことで少し気になることがあった。
 一般的に高価で、一般家庭ではなかなか手に入らない魔法冷蔵庫なのだが、
 コンビニおもてなし3号店周辺の魔法使い集落の皆の家には、だいたい一家に1台の魔法冷蔵庫があったわけで……

 するとスアは、
「……魔法冷蔵庫の高いの、って、いい魔石を使ってるから、ね」

 つまり
 一般向けに販売されている魔法冷蔵庫
 これに使用されている魔石は、短くても1年は冷蔵機能が持つように魔力が込められていて、
 加えて魔力の最充填が可能な品を使っているんだとか。
 最充填するのに魔法使いに依頼する金がかかるものの、魔石から購入するよりは安くすむんだそうだ。

 一方
 魔法使いの家に置かれているような魔法冷蔵庫というのは
 ほぼすべて手作りで、魔石も自分で作成した物が使用されている場合がほとんどなんだとか。

 効果が1ヶ月くらいしかもたず、しかも魔力を1,2回しか最充填出来ないような魔石であれば、そこらの山に探しに行けば結構転がっているのだそうで、魔法使い達が家で使用している魔法冷蔵庫に使用されている魔法冷蔵庫にも、この安い魔石が使用されているんだとか。

 ちなみに、この安価な魔法冷蔵庫の作成方法に関しては
「ゴブリンでもわかる魔法冷蔵庫の作り方 ステルアム著」に詳しいので、興味のある方はぜひご一読の程を。

 で、まぁ
 なんでこの魔法冷蔵庫のことが気になったかというと

 コンビニおもてなし各店舗で絶賛販売中のスアビールなんですが
 これを保存している店内の大型魔法冷蔵庫を見た客の皆さんが
「我が家にも、この小型版があればねぇ」
 って、口にされているのを結構聞いているからなわけです。

 そこで僕はスアに
「魔法使いのみんなが家で使っているような簡易な魔法冷蔵庫を、店で売れないかな?」
 って、相談してみました。

 最初スアは、びっくりしたうような顔をして、
「……魔法家電は、しっかりした作りで、長年使用出来る物でない、と」
 って、言いました。
 まぁ、普通はそうだろうな、とは思います。

 どうせ買うんなら、性能が良くて長く使える物を

 確かにそれが理想なわけですけど
 まぁ、僕の世界にも、安かろう悪かろうな品にも、一定量の需要があるのは世の常なわけです。

 どちらかというと、この、安かろう悪かろうな品を愛用していた僕にしてみれば、
 むしろ、この界隈に属する商品が無い方が違和感を感じるわけです。

 と、いうわけで、
 僕は、コンビニおもてなし3号店にいき、数人の魔法使いに来て貰いました。

 この数人の魔法使いというのがですね
 さすがに1000人近くになろうかという勢いで増え続けている魔法使い集落を、ある程度地区分けし、その地区事に

 住んでいる魔法使いのチェック
 コンビニおもてなしからの回覧板

 これくらいなことを主になってやって貰う代表者みたいなのを決めて貰っていまして
 それが、この数人の魔法使いさん達なわけです。

 便宜上【地区長】と呼んでいます。

 で、その魔法使い地区長さん達に、この廉価版魔法冷蔵庫の製造に協力してもらえないかどうか打診してみたところ、
「そうですね、とりあえずだいたいの見本を示していただければ、それに近い物を納品することは可能だと思いますよ」
 そういう意見が出たので
 僕は本店向かいの工房の主人、ルア……というか、まぁ、酒飲み娘48筆頭の彼女なわけですが
 その彼女に相談してみると、
「こんなんでどうだい?」
 と、相談してから30分ほどで、見本を3つ作り上げて来てくれまして

 さすがルア。ただの酒飲みじゃなかったんだ!?
「よせやい、照れるじゃないか」
 と、まぁ、本気で照れてるルアはさておき

 早速この見本を、魔法使い集落の地区長さんに見せたところ
 見本の中の1つを特に手にとっていき
「そうですね、このタイプなら、皆も作りやすいかと」
 と、皆賛同してくれました。

 とりあえず、まだ手探り状態のため
 まずは10台この魔法冷蔵庫を作成してもらい、コンビニおもてなし本店と2号店で販売してみました。

 さすがに場所を取るため、どちらの店にも1台ずつ見本として置いておいて、
 お買い上げの方には、未使用品をお渡しする方針をとってみたところ1週間かかって5台が売れました。

 ……正直、可も無く不可も無くといった感じだったわけです、はい。

 で、
 この魔法冷蔵庫で使用する魔石もコンビニおもてなしで販売しているんですけど
 本体の売り上げが、まずはそんな感じなので、こっちもすぐに売れるというわけがないよなぁ……

 そう、思っていたのですが、

 何故かこの魔石だけってのが、結構な勢いで売れていきます。

 なんでだ? って思ていたら、
「食品を入れておく保存庫はあるからさ、その中にこの冷蔵用魔石を入れれば、魔法冷蔵庫の代わりになるんだよ」

 常連さんあたりによく話を聞いてみると
 どこの家にも、冷蔵機能のない食品保管庫みたいな物は、どこの家にもあるんだそうで、

 で
 今回、廉価版魔法冷蔵庫の追加用にと販売していた冷蔵魔石を、それだけを買って帰って、この家の中にある保管庫に皆使用しているんだとか。
 効果はどれも1ヶ月程度しかもたない分、1個1個は安くなっているんだけど
「保管庫の中を冷やしたいのって、まぁ、夏の盛りの時期に限られるからね」
 と、客の皆さん。

 そんな声を、なるほどなぁ、と聞きながら
 僕は、再度魔法使い集落の地区長さん達を集めて、この1ヶ月程度持つ魔石作りに絞って生産を依頼しました。
 
 店で販売するため、
 魔石は袋で密閉した状態で納品してもらい、この袋を破くと、効果が開始する仕組みまで作成してもっています。

 で
 生産してくれた魔石は、コンビニおもてなしで全て即金買い取り。
 持つ期間が長ければ長いほど高価買い取りとし、魔石は各自で準備することとしたところ
 買い取り開始初日だけで、100個近い魔石が集まったのですが

 これを店に出すと、
 その100個が飛ぶように売れていきます。

 よく見ると
 一般家庭だけでは無く、
 行商のおっちゃん達までこれをこぞって買っていたので、話を聞いてみたら
「いやぁ、隣町まで野菜や果物を運ぶのにさ、こんなのがあったらいいなぁ、って思ってたんだよ」
 とのことで、

 今回は、最初の思惑とは違う結果になっていったものの
 結果的には、
 魔法使い集落の皆の新しい収入源が1つ出来たのと
 コンビニおもてなしの売れ筋商品が1つ出来たことで、まぁ、よし、なわけです。

 ちなみに、魔法冷蔵庫の方ですが
 売れる数は相変わらず遅いものの、結構定期的に、週に2.3台ずつ売れています。

 で
 この微妙な数を魔砲***************使いの皆さんに納品してもらうのもあれなので、
 ルアの工房で作成してもらうことにしました。

 ルアによれば、
「この廉価版魔法冷蔵庫ってのはさ、もっと王都に近い都会なら売れたと思うぜ。
 まぁ、こんな田舎じゃあねぇ」  
 とのことであった。

 まぁ、結果オーライにはなったけど
 今回の魔石冷蔵庫に関しては、いい勉強になったな、と、思った次第です。

◇◇

 そんな感じで、魔石の販売に力を入れ始めた中
 
 街では、夏祭りに向けた準備が急ピッチに進んでいます。

 すでに、周辺都市の代表が集まっての会議が1度開かれ
 中央広場の、各都市の販売ブースのスペース決めや、周辺街道での出店スペースの割り振りなんかが話し合われています。

 この結果はすでに持ち帰られていて
 すでに、その下見と思われる見慣れない冒険者風の人々の姿も多くみられるようになっているわけです。

 ただ
 こうして人が集まる際っていうのは
 得てしてよからぬことを考える輩も多く集まりやすくなるわけで

 時期を同じくして
 この一体の警備を王都から任されている辺境駐屯地の体調・ゴルアが、最近は2日に1度は街にやってきて警邏をしています。

 で、
 主要な店には最新の指名手配犯の絵入手配書も配って回っています。

 ブラコンベの、シャルンエッセンスが騙された件のこともあるし
 田舎とはいえ、こういうのもやっぱ怖いよなぁ、って思うわけで

 僕はゴルアに
「コンビニおもてなしでも、この手配書、しっかり掲示しておくよ」
 と約束したのですが

「それよりもタクラ殿……その、折り入ってお願いが……」
 と、ゴルアがこそっと相談してきたのが、

「スアビールを、なんとかまとめ買いさせてもらえないだろうか?」
 とのことでして

 と、いうのがですね
 このスアビール
 とにかくよく売れていまして、1人で何十本と買っていく人も多かったわけです。
 そのため、
 近くの村からわざわざ買いに来ても買えなかったって苦情も結構寄せられたため 

 現在、スアビールの購入に、1人あたりの購入本数制限をかけているわけです。

 で
 ゴルアの場合、駐屯地の皆用にもスアビールを買って帰っているため
 この本数制限に、頭を悩ませていたんだとか。

 まぁ、
 ゴルアはよく知った仲なんだし、それにこの一体の皆もお世話になっているし
 ってなわけで、駐屯地用には、別途スアビールを準備しておくことにしました。
 これに、ゴルア
「いやぁ、ホントに助かります。
 この田舎なんで、飲むか食うくらいしか、皆の楽しみがありませんのでねぇ」
 そう言って喜んでいました。

 ちなみに、この辺境駐屯地ですが
 ゴルアの前の隊長が、数人続けて、やれ不祥事だ、やれ着服だ、やれ仕事をしないだ、と、まぁ、とんでもない人材が続いたせいで、周辺の村落からも白い目で見られまくっていたんですけど

 隊長がゴルアになってからと言うもの
 最初は、若く経験の浅い、しかも女性の隊長ということで
「どうせ今回の隊長もすぐに首になるさ」
 的な色眼鏡でみられていたものの、

 実直に、粘り強く、管轄地区の巡回や、苦情の処理などをこなし続けているおかげで
 最近は、地に落ちていた駐屯地の評判は、V字回復しつつあるわけです。

「いやぁ、自分なぞ、まだまだ若輩ですから」
 そう言って笑うゴルアですけど、
 こんなド田舎でも、こうして頑張ってる人もいるんだよね。

 そう思うと、なんか嬉しくなってくるわけです。

 なんかそんなことを思っていると、
 スアが僕の側に寄ってきて、なんか本の原稿を見せてきます。

 で
 それを手にとって見ますと、
『ゴブリンでも出来る冷蔵魔石』

 なんでも、魔法使い集落の皆から、コンビニおもてなしで買い取ってもらえる魔石の作り方ってのを結構聞かれたりしたそうなので、それを本にまとめてみたんだとか
 ……ってか、スアさん、仕事早いな、おい!?

 で、これ
 本にまとめたら、また儲けようとして……なんて思われがちですが
 むしろ、魔法使い達はこうして本にしてもらえる方が嬉しいみたいなんですよね
 いつでも見返せて、いつでも確認出来て、しかも図解入りで懇切丁寧わかりやすいし、と
 スアの本って、そこらがすごく徹底しているので、好評なんですよね。
 実際、僕が熟読した、プラント魔法の本なんかも、魔法の知識が皆無の僕でも、すごくよく理解出来たくらいですから。

 で、この本ですが
 僕が目を通し……っていっても、本当にざっと見ただけなんですけどね
 その後、魔女魔法出版のダンダリンダによって即時書籍化

 で
 即ベストセラー化しました。

 改めて、自分の奥さんがすごいってのを実感出来たわけです、はい。

 で、ベストセラー祝いに何かして欲しいことがある?
 って、スアに聞いて見ましたら

「……赤ちゃん」
 って、赤い顔をしてそっと言ってきたわけで……

 はい、昨夜はいつも以上に頑張りましたとも、ええ

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