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夏の始めにあれこれと その2

 商店街組合のエレエから、商店街の全店主に招集がかかった。

 その日
 僕は店の営業を終えると、指定された組合の集会所へと出向いていった。

 そこには、すでに結構な数の店主達が集まっていて
 僕の顔を見るなり、
「よう、タクラさん、お疲れ」
 皆、そう言って気さくに声をかけてくれます。

 思えばこのガタコンベに、原因不明の何かによって異世界転移して3ヶ月弱
 気がつけば、僕もすっかり商店街の一員になっていまして、
 やってくる人々ほぼ全員と面識があるわけです。

「そうそう、タクラさん。あのスアビール、よかったらアタシの店でも仕入れさせてもらえない?」
 酒場のケットシー・ミレニアールとそんな会話をしていると、
「やぁやぁみなさん、暑い中お集まりくださってどうもうなのです」
 そう言いながら、組合のエレエが集会所に入ってきました。

 入るなり、エレエは、全店主に1枚のチラシを配っていきます。

 そのチラシには『夏祭り主催に関するお知らせ』って書いてあります。
 皆に、そのチラシが行き渡ったのを確認して、エレエはおもむろに話を始めました。

 この夏祭りなんだけど
 辺境都市ガタコンベの周囲にある、同じ規模の辺境都市4つと、小規模の都市10近くが一緒になって、辺境都市4つが持ち回りで、この祭り主催している。
 ちなみに、春の花祭りは僕も参加済みで、秋の収穫祭はまだ未経験だ。

 で、
 先の春の花祭りは辺境都市ブラコンベで開催されたんだけど、
 今回の夏祭りは、ここ、ガタコンベが主催で行われることになったらしい。
「本当でしたら、わがガタコンベは秋の収穫祭でございましたのですが、夏祭りを主催予定でしたララコンベがですね、ちょっとそれどころでなくなってきておりまして……」
 
 このとき、エレエは言葉を濁したんだけど
 みんなその理由は知っていた。
 と、いうのが、ララコンベは崖の狭間の集落に毛が生えた程度の規模しかない、本来なら辺境小都市か、もっと小規模な村か集落に分類されるべき都市だったんだけど、一時、異常に人口が増えた時期があったため、その時、勢いにまかせて都市にまでしてしまったんだとか。

 で

 その、一時異常に人口が増えたっていうのが
 この崖で、大規模な魔石の鉱脈が見つかったからなんだとか。
 この鉱脈を掘り、輸出することを公営事業としていたララコンベは、その財政が一時すごくよくて、
 そのため、王都へも多額の税金を納めていたんだとか。

 でも、この鉱脈が、あっという間に尽きたんだとか。
 試掘の際には、
「今後100年は掘り続けても大丈夫」
 と、王都からやってきた調査員が言っていたんだそうなんだけど、
 実施に掘っていたら、わずか2年ほどで、鉱脈は尽きたんだとか。

 ちなみに、この試掘なんですけど
 だいたい、魔法使いが地下検索なんかをおこないつつ調査してくそうなんですけど
 このララコンベの試掘を行ったのが、上級魔法使いのお茶会倶楽部から派遣された上級魔法使いだったとか……おいおい、仕事くらいちゃんとしろよな、と思ったりしたんですよね、その話を聞いた際には……

 で、まぁ、
 そんなわけで、元々何も地場産業がない、ララ集落だったこの一帯。
 魔石の鉱脈が尽きてしまえば、あとは悲惨なものです。

 公共事業も縮小せざるを得ず、
 その公共事業で街の規模を拡大させていた街は一気に人口減となり
 今では、下手に都市なもんだから、王都に多額の税金を納めねばならない現状、
 今回の夏の夏祭り主催は、なんとしても大成功させねば、と、都市の皆が張り切っていたところで、
 領主が夜逃げしてしまったのが、つい先日だったわけです……

 その余波のせいで、
 ララコンベでは、今は夏祭りを主催する余裕がないわけで
 おそらく、街としての破産宣告をし、集落に格下げになるだろうと噂されています……

 なんか、世知辛い話なんですけど
 僕らの住んでいる辺境では、こんなことは日常茶飯事らしく、10前後ある小規模の都市も、しょっちゅう村が集落に収縮したり、逆に小都市になったり、はたまた、全住人が移住してなくなったりしているわけです。


 ちなみに、僕らの住んでいるド田舎辺境地域における
「辺境都市」「辺境小都市」の呼称は、王都近辺のその呼称とは若干異なっていて、
 先日、大武闘大会が開催されたバトコンベなんかは、本当の意味での辺境都市でして、

 街の規模及び整備度合い
 役場を中心とした行政制度
 住人数
 そう言った、王都の中央辺境局が定めている基準をクリアし、
 その中央辺境局から『この都市は間違いなく辺境都市です』そう認定されている都市なわけです。

 ですが
 僕らの済んでいる、ここ辺境都市ガタコンベの「辺境都市」は
 今では『自称』的意味合いが非常に大きかったりします。

 何故かといいますと
 元々は、このガタコンベも、バトコンベみたいに、中央辺境局の基準をきちんと満たした上で、中央辺境局から『この年は間違いなく辺境都市です』って認定されていたわけです。
 それがまぁ、田舎の悲哀といいますか……
 地場産業もないもんだから徐々に都市民が減り
 田舎故に領主が亡くなっても、その代わりのなり手も現れず……そんな状況に陥っているわけです。

 で
 本来なら、辺境小都市なり、集落に格下げして貰えばっていうのもあるんですけど
 辺境都市のままでいると、都市として納める税金も多くはなりますけど、その恩恵も大きいわけです。

 主に公共事業なんですけど
 街を覆っている城壁や、周辺の都市との間を結んでいる街道の整備及び維持補修
 会わせて辺境駐屯理による警護をしてもらえた上で、都市が組織している衛兵や自治警備隊なんかにも補助金がもらえます。

 時に、街道と城壁の維持補修費がもらえるのは非常に大きく
 ……というのが、この城壁の年間維持補修費として王都が支払ってくれているお金だけでも、都市として治めている税金の1.5倍近いわけなので、メリットの方が大きいわけです。

 
 さて、話を戻しますと

 そういう顛末があり、
 ララコンベから、この夏祭りの主催を引き継ぐこととなった我がガタコンベ。
「急なことで申し訳ないのですが、皆様ご協力のほどをよろしくなのですです」
 そう言って、エレエは皆に向かって何度も何度も頭をさげていました。

 まぁ、この話なんですけど
 商店街の中でも、優良な店

 ~しっかり儲かってるとか
 ~長年優良経営しているとか

 そんな店舗の店主には事前に話がありまして、
 で
 僕もそんな中の一人に選んでいただけていて、この話も事前に聞かせて貰っていたわけです。

 エレエからはすでに
 中央広場に出す、都市の出店の目玉をお願いされています。

 さてさて
 こうして正式に皆へも発表されたとなると、あれこれ準備も進めないとな、
 そう思いながら帰宅すると

「パパ、今日も頑張りました!」
 って、パラナミオがいい笑顔で僕を出迎えてくれました。

 そんなパラナミオに案内されて店の裏へと回ると
 まぁ、案の定といいますか、当然のように、そこにはウルムナギが転がっていました。

 このウルムナギ
 この世界では、蒲焼きの文化がなかったせいもあり、あまり好んでは食べられていなかったわけで
 で
 店の裏の川には、ちょっとした岩場や、崖の下の川辺なんかには、超高確率で潜んでいます。

 それを
 以前、僕が褒めたのと
 1匹1000円になる
 このWパンチが引き金になっているパラナミオが
 遊びがてら、こいつを素手でぶん殴ってきKOして持って帰ってくれてるんですよね。

 在庫も十二分にあるし
 この鰻の蒲焼きも出店の目玉の1つにしてしまおうとか、あれこれ画策している僕だったりします。

 そんな僕に、スアも
「……なんでも手伝う、よ」
 そう言って、ガッツポーズをしてくれます。

 そういえば、スアは春の花祭りでも頑張ってくれたもんな。

 電気自動車おもてなし1号の後部座席に隠れてアナザーボディを操作してたんだよなぁ。
 そんでもって、
 この花祭りで、蛙人のヤルメキスとも出会ったわけです。

 ヤルメキスも、今ではすっかり貴重な戦力です。
 彼女が作るカップケーキを求めるお客さん~主に若いお姉さん達が、毎日のように、カップケーキに列を成しているくらいです。

 ヤルメキスには、そろそろ普通のケーキの増産にとりかかってほしいなとも思ってるんですけど、
 というのも
 すでに休日を使った試作では、普通のイチゴのホールケーキの作成に成功しているわけなんで。

 と、まぁ、そんなことを思っている僕なんですけど
 当の本人が
「ま、ま、ま、まだまだカップケーキを極め切れていないでおじゃりまするゆえにぃ」
 そう言うため
 今は、本人の意思を尊重して、カップケーキ作りを頑張って貰っている次第です。

 せっかくなんだし
 夏祭りには、それっぽい新作のカップケーキを出してほしくもあるな、ってなわけで
 その旨をヤルメキスに伝えると
「ひ、ひ、ひ、ひええええええええええええええ!? そ、そ、そ、そんなに早くに考えねばならないのでごじゃりまするかぁ?」
 そう言いながら、なんかど派手に後方宙返りしながら転がっていった次第でして。

 まぁ、今度の休みに、また一緒に思考錯誤してみようかな、と、考えているんですけどね。

 さぁ、あれこれ忙しくなってきたけど
 かつて、元の世界で店をやってたときの、あの閑古鳥の日々を思えば、やる気も満々なわけです。

 なんか
 その過程で、こんな可愛い奥さんまで出来て

「……そ、そんな、可愛いなんて」(照れ照れ

 しかも、こんな可愛い娘まで出来て
「パパ……そ、そんなに喜んで貰えて、パラナミオもうれしいですぅ」

 うん
 ホント、異世界に来て良かった、と、心から思っているわけです、はい

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