夏の始めにあれこれと その1
スアビールの売り上げですが
好調→絶好調→超絶好調
とまぁ、すごい勢いで右肩あがりです。
この世界で一般的に飲まれているエールという酒は
僕の世界にあったエールビールの類いの物とは異なり、発酵させてない、いわゆる果実酒を作るのに近い製法で作られています。
そのため、冷やして飲むという習慣があまりないわけです。
ここで、スアビールです。
スアビールは、
スアの使い魔の森で、酒の妖精バルンカッスが、小分けにし、木箱に詰めた物を出荷し
巨木の家の根の部分に作った巨大な冷蔵地下室で、雪山族イエリィが冷蔵してくれて
で、それを、水晶一角獣(クリスタルユニコーン)族のヴィヴィランテスが、転移魔法門をくぐってコンビニおもてなし2号店、3号店へと運んでいってくれてるんですけど
「……あのさ、ヴィヴィランテス」
「あら? 何かしら? スア様の旦那さん?」
「……お前、いつまでそのハニワ馬姿してるんだ?」
「え~? だってぇ、仕方ないでしょぉ?
この姿だとぉ、背に木箱をすっごく乗せやすいんだもん」
……いや、違うな
……お前、そのハニワ馬姿、やっぱ気に入ったんだろ
でなきゃ、スアビール運搬しながら鼻歌うたてるわけがないってんだ。
で、まぁ、
ハニワ馬姿にもかかわらず、日々運搬業務を頑張ってくれてるヴィヴィランテスなわけです。
こんなスアの使い魔達の頑張りもあっての、
スアビール大盛況なのですが、
その好調と相まって
2号店でお試しでやってるビアガーデンもどきが、これまた絶好調なわけです。
スアビールは
冷え冷えを、グイッとやってしゅわ~っとなるのが最高なわけです。
これが、僕の元いた世界でなら
「よ~し、買って帰ったら冷蔵庫で冷やして……」
ってなるんですけど、
この冷蔵庫
一応、この世界にもあるにはあります。
通称『魔法冷蔵庫』と言いまして、中に冷蔵魔石という、冷蔵魔法をかけ続ける魔石が仕込まれている冷蔵庫なのですが……正直、あまり普及していません。
理由は2つ
・値段が高い
これが、僕の元いた世界の値段で、1台100万はするんですよねぇ
で、この値段の大半が、魔石の値段なんだとか……
・維持費が高い
で、魔石が異常に高いにもかかわらず、その魔石は年に1回は交換しないといけないんだとか
そのため、僕の元いた世界の値段で、維持費で毎年100万近くかかるわけで……
と、まぁ、
そんなわけで、この魔法冷蔵庫は王都で暮らすようなお偉い貴族さんにでもならなきゃ、買って維持するのが難しいってわけです、はい。
そんなわけで
家に冷やす道具をもってない方々が、コンビニおもてなし2号店の屋上を積極的に利用してくれているわけです。
タイミング的に、この都市にあった最大手の酒場がちょうどなくなったばかりだったっていうタイミングも重なったんだとは思うんだけど、そのおかげもあって、このビアガーデンは連日大盛況なわけです。
で
この仕組みを、3号店でも利用出来ないか、と思い、
1階の店舗部分から、2階にある、無駄に豪華な、ベランダへ直接あがれる階段を設置し、そこに机や椅子を配置。
ここで働いている小型木人形3人のうちの1人に、ここの専属としてついてもらったところ、
ここ、結構好評です。
ただ、意外だったのが、
この3号店のビアガーデンの利用者は、魔法使いよりも、その使い魔達の方が多いってこと。
ここ、コンビニおもてなし3号店は、
ここで働いている
エレやスシスら、木人形が、「24時間働けますが、何か?」
な、人達なもんだから、24時間営業している店です。
そのため、当然のようにこのビアガーデンも原則24時間、いつでも開店しているのですが
そんなビアガーデンに、日に日に寄り合っては
「ウチのご主人様ってさぁ……」
「それならウチのご主人様だって」
「おっと、そういう話なら、俺のご主人様を忘れてもらっちゃ困るんだな」
そんな感じで、ご主人様への不平不満を語り合いながら、グイグイやっているわけです。
なんか、あまりにも毎日愚痴を言い合っているけど、
あれってマジで大丈夫なのかねぇ……
って、僕がちょっと心配していると、トトト、とスアが寄ってきまして
「……本当にいやだったら、口にすらしない、よ」
そう教えてくれたわけです。
言われて、改めて観察してみると、確かに話の序盤は、一方的な愚痴・不平・不満の言い合いなんだけど、これが小一時間もすると
「それでもさ、アタシのご主人様ってさ、いつもお優しくて……」
「わかるわかる、私のご主人様もね……」
「おっと、そう言った話題なら俺のご主人様も忘れてもらっちゃ困るな」
と、いった具合で、なんか惚気合戦になっているのに気づいたわけです。
ま、まぁ
このコンビニおもてなし3号店のビアガーデンスペースが、使い魔達のストレスのはけ口になってくれたんなら、こちらとしても、むしろ嬉しくもありますので……
とまぁ、新規導入した
コンビニおもてなし3号店ビアガーデンスペースは、こちらも好調に推移し始めています。
そして、本店ですが
いきなり、その場所の確保でつまずきました。
と、言うのも、
僕の家たる、店の屋上は無理です。
と、言いますのも、
このコンビニおもてなし本店の屋上には、『太陽光自家発電用ソーラーパネル』が、所狭しとならんでおり、他の店のように解放するわけにいきません。
んでもって、あれこれ思案していますと
「ご主人殿、ここの飲み会に加わって貰う形にすればよろしいではないですか」
そう言って、酒飲み娘48センターのイエロが、スアビールを流し込みながらそんな意見を出してきました。
まぁ、確かに
毎日狩りから帰ってきたら、イエロとセーテンは店でスアビールを大量に買い込んで、店の裏にある河原で飲み会をしています。
たいがい、これには向かいの工房のルアも加わるのが常なんですけど、
試験的に、いつもイエロ達が飲み食いしている場所の周囲に机や椅子を並べ、ここでの飲食を可能にしたのですが、ここではすぐに問題が発生しました。
というのが、
前が川と言うので、ゴミをそこに流す人達が続出したわけです
一番捨てられてたのが、ビールを入れている木の樽でして、
解放開始初日から、まぁ、川のあちこちにあるわあるわ状態で……
普通の木の樽でしたら、まぁここまで廃棄されることはないと思うんですけど
このスアビールに使用している木の樽は、約500mlと約1リットルの2種類ありまして、
どちらの木の樽も、飲み終わった後は簡単に破壊できて、そのまま薪に出来るようになっています。
そういう簡易式なもんですから、余計にポイ捨てしやすいんでしょうねぇ……
う~ん……これは困ったな、って思っていたんだけど
すると、ここでスアがテテテと寄ってきましてですね
「……まかせて、ね」
そう言ってくれました。
で
スアがしたのが
飲食スペースにした河原の一角に、ゴミ箱を設置する、ってことだったんだけど
驚くなかれ
このゴミ箱を設置した途端に、ゴミのポイ捨てが皆無になり、このゴミ箱の利用率が、ほぼ100%になったわけです。
……まぁ、当然裏があります、はい
このゴミ箱には、スアの魔法がかかっています。
誰かが、ゴミを川に捨てようとすると、その脳内に直接
『ゴミはこのゴミ箱に!』
と。訴えかける仕組みになっているわけです。
そのため、皆
「おっと、そうですね、川に捨ててはダメでしたね」
と、思いとどまり、ゴミ箱に捨ててくれているわけです。
これ、
単純だけど、効き目抜群だし
うん、さすがスアだ! ありがとう
そう言いながら、僕はスアをギュッと抱きしめた。
すると、スア、
その顔を真っ赤にしながら
「……は、恥ずかしい、よ」
って、言いながら、その顔に照れっ照れの笑顔を浮かべて、すっごく嬉しそうだったわけで……
そんなわけで、無事コンビニおもてなし全店で、ビアガーデンスペースが開店したわけです、はい。
◇◇
そんなビアガーデンスペースとなった店の裏、河原のあたりですが
ここは、最近はパラナミオのお気に入りの遊び場になっています。
以前、家族みんなで水遊びをしたのがよほど気に入ったらしく、
学校から帰ったパラナミオは、ご飯を食べると
「パパ! ママ! 川で遊んでいいですか?」
と、すぐに聞いてきます。
で、まぁ、パラナミオが川に行く時間っていうと、お昼の店の来店ピークも過ぎているので
スアがアナザーボディを駆使しながら、その相手をしてくれています。
なんで、アナザーボディかというと、
最近は、ここ、解放しているせいで、誰かいるもんですから、重度の対人恐怖症のスア、自分がそのままってわけにはいかないんですよね。
で
この川遊びなんですけど、
「パパ! 今日も取れました!」
って、毎日のようにパラナミオが取ってくるのがウルムナギです。
僕の世界で言うところの、鰻のでっかいバージョンみたいなこの魚……
なんか、パラナミオ
こいつを見つけては、ボコってノックアウトして持って帰って来ます、はい……
しかしまぁ、
我が家で消費するにしても、こいつでかいですしねぇ
色々思案した挙げ句
このウルムナギの蒲焼きを、店の弁当として売り出してみました。
最初は
「はぁ!? これ、あのウルムナギか?」
ってな具合で、皆目を丸くしてたんですけど
試食を食べて貰うと
「はぁ! これ、あのウルムナギか!」
と、発言の中から「?」イントネーションがすべて無くなる高評価ぶりに変わりましてですね
販売初日からなかなかの売り上げを記録しました。
とはいえ、
やはり川の物といいますか、魚系は、好き嫌いがあるみたいで、
苦手な人は苦手なようですし、ウルムナギってだけで、敬遠する人もいたのは事実です。
まぁ、そこらは追々、何か手を考えようとは思っています。
でも、この結果で何が嬉しいって
「じゃあ、パラナミオ。今日もお店のために、ウルムナギを取ってきてね」
「はい! わかりました!」
そう言って、笑顔で川に遊びにいって、遊びながら頑張ってくれるパラナミオの姿を見ることが出来るようにはったことにつきます、はい。
まぁ、ウルムナギにとっては、いい迷惑なのかもだけど
このウルムナギって、水田に乗り込んでいって、苗を食い荒らす害獣指定されてるようなヤツなので
店で捌いたついでに、その尾びれを組合に提出すると、1匹あたり、僕の元いた世界でいうところの1000円もらえるんですよね。
で、このお金はですね
魔女信用金庫でパラナミオ名義の通帳をつくって、しっかり貯金しています。
……そういや、昔
こうして自分の口座を作ってお金貯めてたっけなぁ、って自分のことを思い出してたんだけど
……僕の場合、このお小遣いを親が勝手に使いやがって……で、返してもらえなかったんだよなぁ……
うん、そんな事にならないように気をつけないとね