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店とビールと魔法使いと村と…… その3

「スア、悪いけどシャルンエッセンスをここに呼んでもらえるかい?」
 僕がそう言うと、

 スア、
 なんかすごいジト目で僕を見つめてきます。
「……あの女、旦那様に色目使うから嫌い、ね」
 
 いや……スア、自慢じゃないがそれはありえない。
 君に結婚してもらえた僕ではあるけど、僕がモテないのは筋金入りだ。
「うむ、店の主としてはなかなかな御仁ではありますが、異性としてはちと威厳がたりませぬでなぁ」
 賛同ありがとう、イエロ……あれ、おかしいな……なんか目から汗が……

 で、まぁ、
 スアがブツブツいいながらも、詠唱を始め、目の前に魔法陣を展開したんだけど

 すると僕達の目の前に、素っ裸で水浸し状態のシャルンエッセンスが……

「は!?」(僕
「な!?」(イエロ
「キ!?」(セーテン
「え!?」(メルア
「ふぁ!?」(シャルンエッセンス

 呆けたような声を、皆が一通りあげた後

「ふお、お風呂で湯浴みをしておりましたはずですのに、な、なんで愛しの君の前に、このような姿でぇ!?」
 我に返ったシャルンエッセンスは、悲鳴にも似た声をあげながら、うずくまっていきます。
 えぇ、素っ裸で。

 で、スア
「……この女狐……そうまでして旦那様を籠絡したい、か」
 背中から、なんかよからぬオーラを噴出しながらシャルンエッセンスに肉薄していってるけど、

 待ってスア
 それは理不尽だろう?
 その状態のシャルンエッセンスをここに召喚したのは、他ならぬお前だろ?

 そう、僕がつっこむと、
 スア、ハッとなって
「……わ、私としたこと、が……」
 頭を抱えてうずくまっていきました……やれやれ。

 ヤルメキスが持って来てくれたバスタオルを体に巻き付け、どうにか素っ裸は解消されたシャルンエッセンスは、まだ若干恥ずかしそうにしながらも立ち上がっていきます。

 まぁ、そう恥ずかしがらなくても、男は僕しかいないんだし、
「……その1人が問題なのではありませんか……」
 そう言い、うつむくシャルンエッセンス。

……あれ? 僕そんなに嫌われてたの? 
 と、まぁ若干内心でダメージをくらいながらも、僕は改めてシャルンエッセンスに向き直っていきます。

「シャルンエッセンスってさ、貴族だよね?」
「え、えぇ、そうでございますわ。父も母も兄もいなくなりましたので、この私が当主を務めておりますわ」
「そのシャルンエッセンス家は、税金とかはどうしてるの?」
「税金も何も、我がシャルンエッセンス家は、タクラ様のコンビニおもてなしに借金を返済中でございますゆえ、現在は無税でございますわ」

 そう
 シャルンエッセンスが営業しているコンビニおもてなし2号店

 あれこれあって、無一文に近い状態だったシャルンエッセンスに
 僕は、元コンビニごんじゃらすだった店舗を、コンビニおもてなし2号店に改装する費用。
 それに加えて、ごんじゃらす時代の負債の肩代わりやら、当面の給料の立て替え払いなど……まぁ、結構な額を立て替えています。

 ただ、コンビニおもてなし2号店の売り上げ自体は順調に推移していまして、
 開店までに掛かった経費を無視すれば、日々の収支は黒字であり、皆の給料・日々の仕入なんかも、すべて2号店の売り上げのなかからまかなえていて、立て替えたお金も、予定より早く返済してもらっている状態なんです。

 で、まぁここからはあれこれ細かな話もあったんだけど

 要約すると、
 コンビニおもてなし3号店とその周囲敷地の管理権限をシャルンエッセンスに貸し付けました。
 名目は『お金貸してるんだから、この土地の面倒も見てね』ってことで。

 こうしておけば、あの土地は貴族であるシャルンエッセンスが借金を返し終わるまで、僕の代わりに管理してる土地ってことになるわけです。

 で、ここでシャルンエッセンスが貴族なのが効いてきます。
 この世界の貴族には、貧民救済義務というのがありまして
 困っている人達が頼ってきたら、積極的に自分の領地に住まわせてやることが、建前とし義務づけられています。
 
 なので、

 あの土地はシャルンエッセンスに貸してます
 あの土地の者達はシャルンエッセンスが保護してる方々です
 なので、村にしなくてもいいでしょ?

 とまぁ、
 読んだばかりの「辺境地における村制度について」の内容部分をかいつまんであれこれ考えたわけなんですけど

「……すいません、私自身、こういうのに疎いのであれなのですが、いけるんじゃないかって気がしないでもないです」
 ……おいおい、メルア

 そこはさ、もっとこう、胸をはって威勢の良い返事をしてもらえないもんかね?

 で、まぁ
 とにかくこの案を持ち帰って貰ったわけです。

◇◇

 そして数日後

 晴れ晴れとした笑顔のゴルアとメルアが、コンビニおもてなし本店にやってきました。

 はい
 僕の案、うまく行きました。

 最初は、
「そんなの詭弁ですわ! そこに住んでる魔法使い共の生活状況を調べ上げれば、そのシャウエッセンスとかいう美味しそうな名前の貴族が貧民救済しているのが詭弁だとすぐわかるはずですわ」
 と、例のお~ほっほっほっほな方々が中央辺境局に文句を言っていったらしいんだけど

 それを貴族院とかいうお偉いさん方がストップさせたんだとか

 ……こっからの内容は、ちと、不本意な内容も混じっちゃうんだけど
 要は、この貧民救済義務ってのを悪用して、荒稼ぎしている貴族が多いんだとか。

 この制度って
「私、貧民受け入れました!」
 って、貴族が自己申告すれば、それで認められます。
 実質的に、監査もありません。

 自分の領地で貧民を働かせまくって、金を搾り取って、気持ち程度の食い物だけを与えて……

 そんなあくどい領地経営を平然とやってる貴族が、まぁ、結構多いらしくて
 シャルンエッセンスの1件を調べるとなると、他の案件でも申し立てが出たら調査しなきゃならなくなる、と……

 で、特に貴族の四公とかいう、すっごいお偉い貴族の中のグリード家とか言うのが特に怒ったんだとか……
 で、お~ほっほっほっほの方々も、そんなお偉いさんには勝てなくて、すごすご引き下がった、と

 まぁ、結果オーライではあたんだけど
 なんていうか、腐った貴族の片棒を担いだというか、同じ事をしたみたいで、なんかやだなぁ……って思ったりしたんだけど

「……魔法使いのみんなは、すごく助かった、よ」
 と、スア。

 実際問題として、
 最近はハローお仕事掲示板のおかげもあって、お金を稼げるようになってきた魔法使い達ではあるけど、とにかくこの人達の知的探究心はとどまるところを知らないといいますか、最低限の食事代以外は、全部本の購入にあてちゃってるんですよね……

 まぁ
 いつかこの魔法使いの誰かが、ど~んと大きな発明でもして、ば~んと税金治めてくれることを祈っておこう、うん。

……でもちょっと待って
よく考えたら、スアがベストセラー作家なんだし、十分税金治めてるよね?

 なんか、そう考えたら、
 かなり気が楽になったボクなわけです、はい。

◇◇

 しかしまぁ、上級魔女のお茶会倶楽部も、ホント懲りないというか……
 この調子だと、またそのうちなんか言いがかりをつけてきそうな気がしないでもないなぁ……なんて思ってたら、

 ずし~ん……ずし~ん……

 って、スアさん! だからその岩石魔人はやめてってばぁ!


 で、まぁ、
 またもや岩石魔人で、王都でふんぞり返っている上級魔法使いのお茶会倶楽部の面々を踏みつぶそうと出発しかけてたスアをどうにか押しとどめて

 で、別の案件です。


 例の、組合の顔役的なおっさんに、シャルンエッセンスがぶち切れた結果
 現在、コンビニおもてなし2号店ではビールを扱ってないんだけど
「スアビールをどうか扱って欲しい」
「あのうまいビールを飲ませてほしい」
 と、お客からの要望が殺到してまして、

 で、シャルンエッセンスは
「お売りしたいのは山々なのですが、かくかくしかじかで、あの店のご主人と諍いがございましてですね……」
 と、『正直に』←はい、ここ大事ですよ
 皆に告げたところ

 え~、2日で、このおっちゃんの店、潰れてなくなりました……
 で、おっちゃん、夜逃げ同然で街からいなくなったとか……

「あ、あの……た、タクラ様……」
 さすがのシャルンエッセンスも、震えた声をしてましたけど
 気にするな、シャルンエッセンス。
 君は、『正直に』←はい、ここすご~く大事ですよ
 皆に伝えただけなんだ、うん。

 とまぁ
 そんなわけで、問題おこしたおっちゃんの酒場が無くなったので、店で販売を再開しても問題なくなったわけです。

 早速僕は、3号店に回していた商品を2号店にも回すよう段取りしたところ
 コンビニおもてなし2号店では、販売再開初日からスアビールが飛ぶように売れました。

 特に最近、暑くなってきているのもあって
「このシュワシュワがいいんだよなぁ」
「キンキンに冷えてるしなぁ」
 と、大好評です。

 この世界の酒っていうと
 エールっていう種類の酒らしいんだけど、
 当然炭酸はないし、あまり冷やして飲む習慣がないんだとか。

 まぁ、魔法冷蔵庫ってのも、そこまで普及してないらしいしね。
 なので、コンビニおもてなしでビールを買ったお客さん
 なんか店の前で、すぐにビールを開けて飲んで、で、ついでに店で食べ物も買って……ってなのを、公道でし始めちゃって……

「タクラ殿……さすがにこれは困ります……」
 と、駐屯地のゴルアに怒られた次第です、はい。

 そこで僕が考えたのが
 コンビニおもてなし2号店の屋上を開放し、そこに机や椅子を並べて、そこで飲み食いしてもらうっていう方法。

 要は、ちょっとしたビアガーデンです。

 2号店の営業時間中は、店で買った品を持って、この屋上で飲み食いしてもらう。
 営業時間終了後には、試験的に、この屋上で簡単な肉焼きなんかを提供しながら、スアビールも提供する。

 すると
 例のおっちゃんの酒場が潰れたのもあって、
「ほほぉ、屋上で酒というのも斬新だな」
 ってので、結構話題になって、連日遅くまでお客さんで賑わっている次第です。

 ただ、
 これによって、2号店のみんなに遅くまで仕事をさせることになっちゃったなぁ、って恐縮していると
「何をおっしゃいますの! 閑古鳥が鳴いていたあの頃を思えば、この盛況を、喜びこそすれ、嫌がる理由がどこにあるというのでしょう!」
 シャルンエッセンスはそう言ってすごく張り切ってくれたわけです。

 そんなシャルンエッセンスにつられるように、
 あのメイド達もすごく頑張ってくれてます。

 そんな2号店の皆の頑張りに、少しでも報いようと、僕もたまに調理場に顔をだして、シャルンエッセンスと一緒に肉焼きを作ったりしてるのですが
「あ、あわわ……た、タクラ様と並んで焼くなんて……」
 って、シャルンエッセンス、いつも真っ赤になってるんだよなぁ……

「しかしシャルンエッセンス、結構料理上手になったねぇ」
「あ、いえ、その……なんといいますか……まだ焼くだけですけど……そ、その、き、気になる殿方に美味しい物を食べていただきたいっていいますか、なんといいますか……それでその、日々練習をですね……」
「なるほどなぁ、シャルンエッセンスも、そんな相手が出来たのか」
「あ、あの、その、で、できたといいますか、いるといいますか、その、あなたとあひええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」

 なんか会話の途中でシャルンエッセンス、ゆでだこみたいになって暴れ出しちゃったんだけど、
 なんだったんだ、アレは……



 っとまぁ、そんな感じで、
 どうにか、あれやこれやも、無事いい方向に片付いたかな、って。

◇◇

「……ってな感じだよ」
 夜のソファの上
 2号店のビアガーデンのことをスアに説明していると
 スアはワクワクした表情を浮かべながら僕の顔を見ています。

 2人とも裸でして、
 まぁ、その、夜のあれをいたした直後なわけですが

「……旦那様は、ホントにすごい、よ」
 そう言って僕にまた抱きつくスア。

 僕がすごいわけじゃなくて
 そういうことを考えた人達がすごいだけなんだよ。僕はそれを真似してるだけで……

「……誰もが、実行に移せるわけじゃ、ない、よ」
 そう言いニッコリ笑ってくれます。

 僕的には
 こうして、いつも僕の事を立ててくれるスアこそ、素敵というか、最高の奥さんだと思うんだけどね。

「……もう、恥ずかしい、よ」
 僕の言葉に、顔を真っ赤にして照れっ照れになるスア。
 
 スアのその顔
 すっごく好きです。

 はい、そんなわけで、第2ラウンド開始。
 あとは、秘密にさせてもらいますね。

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