修練と国名2
気合いを入れ直すと、自身の魔力の研究に集中する。
そうして色々と分かってきてはいるが、それでもまだ肝心の部分は不明のまま。
「そもそも、なんでこんな性質の魔力に変化したのやら」
他と大して変わらない普通の魔力だったのだが、それが急に今みたいな変わった性質を持つようになった。変わる前に意識の内側で感じた夢のような世界で、ちょっとした遊びのようなモノをしたが、他には特に何かした訳ではない。
それに、そんな夢のようなモノを体験しただけでここまで変わるというのも不思議なものだ。
「魔力が何かしらの性質を持つ。聞いた事ないと思うんだよな・・・他に事例があれば参考になるんだが。魔力を吸収する魔力というのにも心当たりは無いし」
情報の無い摩訶不思議な世界。それは完全に未知の世界だが、研究してみれば完全に知らない世界といった感じでもなかった。
それでもそういった根本部分の研究は進んでいない。この魔力で何が出来るかは分かっても、この魔力は何なのかは不明。
まあそれでも、その分未知への挑戦としてやりがいは感じているのだが、同時に懐かしさも感じているんだよな。
そちらについても何故かは分からないが、それでも悪い予感はしていない。
「うーむ。まぁ、新しい力として歓迎するしかないのだろうが」
実際問題として、この魔力がなんであれ、こうなってしまった以上は受け入れなければならないのは当然だ。元に戻す方法も、その可能性もないのだから。まぁ、そのうえでこうして研究しているのだが。
さて、まず優先させるべきは、魔力を吸収するという特性を自在に引き出したり抑えたり出来るようにする事。これが出来なければ先の話は難しいし、出来れば強力な力になってくれる。
「力を自由に引き出したりするのは出来る様な気がするんだよな・・・うーん、まずは魔力精製の段階で特性が出ないように完全に抑える事から始めるか」
色々悩む事、知りたい事などはあるのだが、それでもまずはそこから。本当に退屈しない世界だと思いながらも、少し前までの平穏が恋しくなってくる。これから先はどんどん騒乱は激化していくのだろう。なにせ死の支配者の侵攻は順調に進んでいるのだから。
人間界を制圧した魔物達も大分戦力は回復してきたようだし、油断は出来ない。
「だからこそ、早くこの力を自分のモノにしたいのだが」
少量の魔力を精製してみて、そこで発揮される魔力の特性を必死で抑えながら考える。
あの時の苛立ちをもう感じない為にも、国を護れるほどの強さは得なければならない。その為には死の支配者と戦えるだけの強さがなければならない。というのが最低条件なのがかなり大変なのだが、何故だか今では昔ほどの絶望感は抱いていない。なんというか、死の支配者もまだ手が届く範囲なような、そんな感じがしているのだ。これは自分も成長しているからこその心境の変化なのだろうか? よく分からない。
とにかく、今は研究と修練あるのみ。国の方はボクが関わらなくても何の問題もなく回っているからな。
少々虚しくなったがそれが事実だからしょうがない、国の運営なんて何にも知らないし、プラタ達もボクにそこは期待していないようだった。
それからも自分の魔力の研究を続けながら日々を過ごす。あまりにも熱中しすぎて地下に籠っている間に季節が過ぎようとも、ボクには関係ない。
そのおかげでかなり特性を制御下に置けるようになってきたが、まだまだ完全ではないのが気に掛かる。引き続きこのまま地下に籠るとしよう。
◆
完全なる自給自足。それは意外なほどあっさりと達成されてしまった。
元々土地は大量に余っていたし、人手は増えるばかり。それに何百、何千人分以上の働き手に匹敵する働きをみせる存在が複数いるのも大きい。
「土地を豊かにするのは不可能ではないですからね」
上空より国を睥睨しながらプラタはそう呟く。
世界の管理者の一人でもあった妖精にとって、それぐらいは容易い事。それに特化した精霊を創造してしまえば済むのだから。ただ、あまりにも土地が荒れていると、それも相応の時間が必要になってくるが。今回に限って言えば大きな問題はなかった。
「食糧は問題ない。水は地下に大きな水脈が在りましたし、外から持ってくる事にも成功していますから、そちらも問題はないでしょう。防衛に関しても日々固めていっていますが、そちらは少々不安が残るといったところ。ただ、どうも向こう側はこちらを攻める気がないように感じるのですよね。勢いと言いますか、敵意と言いますか、そういったモノがこちらに向かっていないようですし。それに南の魔物も、今度は北上ではなく南下しそうな動き。これはもう少し猶予はありそうですね」
プラタは世界を観る種族である妖精なので、その程度は容易く把握出来る。それに日々プラタ自身も成長しているので、今は昔ほど死の支配者に対して無防備という訳でもなかった。
他にもやるべき事は山ほどあるが、それを補佐する人員は大量に確保している。その大半がプラタ自身が創造した精霊ではあるが、優秀なので問題ない。それに住民の中からも採用しているので、いずれは精霊の比率は下げたいとプラタは考えている。
「実務に対する私への依存度も下げなければいけませんね。最終的な目標は、私が関与しなくても国が回るようにする事ですが、これは暫くは無理そうですね。今はまず、国の土台をより強固なものにする事を優先せねば。ここに国を創ってまだ一年程なのですから、焦る必要はありませんし」
各所に眼を向けながら、プラタは冷徹に見通していく。
未だに世界情勢は油断出来ないものの、焦っても上手くはいかない。それに今はもう、そこまで死の支配者に手が届かないとは思っていない。
懸案事項であったシトリーに関しては、最近少し良い方向に動いている様なので、今は確実に一歩ずつ国を築いていくだけであった。
◆
相変わらず時が経つというのはあっという間だ。
自身の魔力の性質について研究していただけで、かなりの日数が経過したのだから。おかげで大分扱えるようにはなった。少なくとも、ほぼ魔力の性質を任意で引き出せるようにはなったが、まだ実戦では使用していないので、不安はある。
それでも一段落ついたと思うので、久方ぶりに外に出てみようかな。その前に、地上の状況を確認しなければ。
『プラタ、今いい?』
『如何なさいましたか? ご主人様』
久しぶりに聞いたからか、プラタの声が何だか懐かしい。久しぶりと言ってもたまに会話をしていたのでそこまで間が空いた訳ではないが、それだけ長い付き合いという事なのだろう。実際そうだしな。
『うん。久しぶりに外に出てみようかと思っているのだけれども、現在の地上の様子はどうなっているのかと思ってね』
研究に集中している間は外との連絡はほとんど取っていなかったので、そう尋ねてみる。今まで緊急の連絡はなかったし、大きな問題は起きていないと思うが、それでも時間が経ったのだから、何かしらの変化は起きていると思う。
『国に関しては順調に発展しております。小さな問題は幾つか在りますが、ご主人様を煩わせるほどのモノは何も。ですが、国の外に関しては大きく動いております』
『国の外という事は、死の支配者や南の魔物達の事?』
『はい。南下していた死の支配者の軍は、既に魔族の国を呑み込み更に南下を続けております。現在は荒野の中ほどのようです』
『ん? 荒野まで来ているの?』
『はい』
『でも、この国は問題ないんだよね? どういう事?』
この国があるのは、荒野の北側だ。魔族の国を過ぎて荒野に到達しているのだとしたら、その途中にはこの地が在るはずだ。無論、この国が発展していっているとはいっても、迂回できないほどに広大な領地を有している訳ではないので、この地に攻め込まずに荒野に出る事は不可能ではないだろう。
だがその場合、逆に荒野に出る必要が無くなる。というのも、魔族が各方面に進軍していたように、道というのは一つではない。
この国が在る場所は元々迷宮都市の在った土地だが、ここは荒野への道をふたするように存在しており、ここを迂回して荒野に出るにはあまり大軍は通れない。それでも大軍を通そうと思うと、小分けして送らなければならない。その為、魔族も人間界の北側に居たエルフを攻める時は少数精鋭を送り、主だった兵士は現地調達していたぐらいだ。
そんな場所だ、死の支配者が送り出している軍勢の規模や目的については知らないが、仮に南下するのが目的であれば、わざわざ迂回してまで荒野に拘る理由が分からない。あの地は特に何も無い不毛な地でもある訳だし、何か理由があるとも思えないが。
そんな事を考えながらも、プラタに訳が分からないと問い掛ける。
『少し前の事で御座いますが、死の支配者の軍勢がこの国の横を素通りしていったのです』
『素通り?』
『はい。この国を囲んでいる結界ギリギリを横切るように』
『うーん? それは挑発という事?』
結界ギリギリを見極めるのは、そこに結界が在ると知っていればさほど難しい事ではない。しかし、それをわざわざする必要性はない。この国は広くなったといっても、まだ迷宮都市が在った土地全てを領土にしている訳ではないので、通ろうと思えば結界ギリギリでなくても通れる。
勿論そうやって横を通ろうとすれば、結界ギリギリでなくてもこちらから確認出来てしまうが、それでも結構な距離は空く。それに、結界ギリギリで通るよりは穏便に通れる可能性はあるだろう。どう考えても、目と鼻の先をわざわざ通るなど、こちらに喧嘩を売っている様にしか思えない。
現状のこちらの戦力は、いくら死の支配者といえども油断は出来ないもののはずなのだから、そんな挑発など軍を危うくするだけの様に思える。
『おそらくですが、こちらを結界から引きずり出そうとしたのではと愚考致します』
『ふむ、なるほど。あの結界は結構強固だからね』
プラタ謹製の防御結界は、以前ボクが適当に創った人間界用の結界など歯牙にもかけないほどに強力な結界だ。それこそ、少し前に人間界を襲って亡ぼした魔物達程度であれば、どんなに攻撃しても永遠に壊せないだろうほどに強固。奥の方に控えていた魔物はどうか知らないが。
それで護りを固められたうえで相対すとなると、死の支配者の軍勢の数が激減する事だろう。あの結界は攻撃魔法も組み込まれているし、創造主でもあるプラタの攻撃であれば、内側からでも外に攻撃できるらしいし。
本当に何でもありの結界だが、そこをわざわざ触れそうな距離で素通りして荒野に向かったという事は、そういう事かもしれない。プラタでも単独では死の支配者の軍勢を滅ぼすのは大変だろうし。
それに、これでこちらが出てこないのであれば、後顧の憂いを気にせず進軍出来るかもしれないからな。でもやはり、そうまでして荒野に拘る理由は不明なのだが。
あの地は資源も乏しいし、住んでいるのも異形種とちょっとした生き物ぐらい。それだって貴重な素材が取れる訳ではないしな。うーん、謎だ。この辺もプラタに訊いてみるか。
『しかし、そうまでしてわざわざ荒野に出る意味があるのかな?』
『そうで御座いますね、おそらく死の支配者側にとって荒野に出る必要性は無いのではないでしょうか』
『そうなの?』
わざわざ結界を掠めるようにして進んだのだから、挑発以外にも何かしら意味があるのかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。
『単純に南下しているだけなのかと。ああいえ、一応意味というのでしたら、全ての場所を征服するという意味はあるのかもしれませんが』
『ふむ、なるほど。でもそうなると、ここを無視したのは何故だろう?』
『それは分かりませんが、今はまだ時期ではないのかもしれません』
『時期、ね・・・』
今まで何だかんだで大人しかった死の支配者が本格的に動き出したのも何かしらの時期が来たからなのか、それとも気紛れか。もしくは何かが片付いたから辺りだろうが、死の支配者側の情報はほとんど入ってこないから推測も難しいな。
『まぁ、死の支配者の事はこれ以上考えようにも情報が少ないから、今は南進して荒野にまで到達しているというのが判ればいいかな。そういえば、他の道からは南進していないの?』
『全ての道から南に進み、歩みは遅いですが確実に周辺を征服していっているようです』
『そうなんだ。という事は数もかなりの数になっているんだね・・・それはしっかりと統率されているの?』
『はい。完全に掌握しているようで、全体の侵攻も乱れなく進められております』
『そうか。やはり死の支配者は凄いな』
『はい』
『それで、死の支配者の軍が過ぎた後には何も残っていないの?』
『国は完全に亡ぼされております。建物は無事な物も多いのですが、生存者はおりません』
『そうか。そして、それは全て死の支配者の手駒になるのか』
『はい』
改めて考えてみても異様な事だ。倒せば倒すほどに手駒が増えて、その手駒は死んでも死なないのだから。死後の世界を支配しているというのは、本当に厄介なものだな。
『現在確認出来る軍隊と戦った場合、この国の戦力で勝てる?』
『戦力が戻らないという前提であれば勝てる可能性は高いのですが、無尽蔵に生き返る敵と死ぬと寝返る味方という特性がある限りは、勝つのは不可能かと』
『やはりそうか』
一応確かめてはみたが、それは最初から分かっていた事だ。そもそも死なず減らずなんてふざけた軍に勝つなんて土台無理な話だろう。
だが、このままでは世界のどこにも隠れ場が無くなってしまう。世界を蹂躙する事が向こうの目当てだとしたら、どうする事も出来ない。個人で強くなっても、大軍を相手にひっくり返すのは難しい。まして蘇る相手では効果も大してなさそうだ。
かといって諦める事はないが、修練の意味を問いたくはなるな。広範囲で倒していっても、結局は直ぐに出来た差を埋められてしまう。
『死の支配者側の指揮官は?』
『幾人も居りますが、その中には見知った顔も少し』
プラタの言葉に、直ぐに圧倒的だった存在を思い出す。といっても、一人しか知らないが。それは爬虫類の様な艶めかしい肌を持つ大人な女性。あれはとても強い存在であった。今だと対等・・・というにはまだこちらが下か。難しい。
『そっか。ああそういえば、聞き忘れていたけれど、妖精の森はどうなったの?』
『妖精の森と巨人の森には、誰も侵入しておりません。まるでそこには誰も何も無いかのように完全に無視しておりますので、おかげで平穏ではありますが、不穏でもあります』
『ふむ。そちらにはまだ手を出していないのか』
『はい』
プラタの返事に頷いた後、どういう事かと内心で首を捻る。話を聞く限り、どうやら内側の世界限定で征服しているようだが、死の支配者がそんなに温いとは思えない。であれば、もしかして外側はもう征服し終わっているとか? いや、そもそも誰も支配していないのか。それに仮にそうだとしても、妖精の森と巨人の森を攻めない理由にはならないだろう。こちらもまた謎だな。
『・・・まあいいか。それで、死の支配者の動向は分かったけれど、魔物達の動向はどうなっているの?』
動いたのは死の支配者だけではなく魔物もだとプラタは最初に言っていたからな。
『魔物は南へと侵攻を開始しました』
『人間界の南という事は、魔物の国がある方角か』
『はい。ですが、死の支配者の攻撃後は、南の先の竜人と魔物の生き残りは大半がこの国に移り住んだか、別の場所に居を移しておりますので、ほとんどもぬけの殻です』
『そうなの?』
『はい。ですので魔物達も簡単に制圧し、南に支配権を伸ばしました。しかし、その広さに対して魔物の数が少ないので、また数を増やしている最中です』
『なるほど。という事は、もうすぐ両者が衝突するという訳か』
荒野の先に在る森は既に魔物の支配圏なので、死の支配者側が荒野を抜けた場合、そのまま森へと侵攻するだろうから、そうなると両者が衝突する事になるだろう。
その結果、戦う事になるのかは分からないが、それでもそれが終われば区切りになりそうだな。そして、どちらに転ぼうとも残るはここのみとなりそうだ。
状況を聞いてから改めて考えてみれば、ここも随分と危うい位置に在るものだ。まぁ、それは最初から解っていた事ではあったが。
とにかく、現在は死の支配者側と魔物の衝突待ちのようなものか。それまでに如何にここの戦力を上げる事が出来るかで今後が決まる。
そうなってくると、ボクの役割は死の支配者が死者を回収出来ないようにどうにか画策してみる事だろうか? それが出来れば苦労はしないが、もしも可能であれば、十分逆転の一手となり得るだろう。
『いずれは衝突するでしょうが、それはまだ時間を要するかと』
『そうだね。でも、死の支配者側は荒野の半ばだから、もう少しじゃない?』
『はい。ですが、進軍速度が落ちている様に感じられます』
『ふむ』
死の支配者の考えは分からないが、それではむざむざ魔物が増える時間を与えるだけのような気がするが・・・それが狙いなのだろうか?
しかし、魔物は他の大多数の種族と違い、死ねば魔力に還り消滅してしまう。いくら死の支配者が死後を支配しているとはいえ、死後は魔力に還る魔物を支配するのは不可能だろう。
であれば、戦力強化にはつながらないと思うのだが・・・んー。よく分からないな。
『なんでだろう?』
『申し訳ありません。そこまでは不明です』
『そっか。それならばしょうがないか』
情報が無い以上、考えていても仕方がない。知りたかった現在の外の状況は知る事が出来たし、十分だろう。
『ありがとう。おかげで少し外の様子が分かったよ』
プラタにお礼を言った後、会話を終えて外に出る準備を行う。準備といっても背嚢を背負うだけだが。本当にこれは便利だな。未だによく解らない魔法道具なのが残念だが。
これもまだ未完成品だと思うのでいつか完成させたいと思うも、あれから進歩しているのだろうかと疑問を抱くぐらいに何も解らない。成長はしているとは思うのだが・・・やはりどこかで実戦を経験した方がいいな。人間界で相手した魔物では、相手としてはいまいち不足していたからな。
しかしそうなると、現状では難しい。現在外は死の支配者の領域だし、生き物が居るかは怪しいところ。居たとしても大したことなさそうだ。かといって、死の支配者側の誰かに攻撃するのは流石に不味いだろう。今はまだ色々と整っていないのに、喧嘩を吹っ掛ける事になりかねない。死の支配者が末端の兵士まで大切にしているかは分からないが、要らぬ挑発は止めておこう。
「しかしそうなると、相手はこちらで用意するか誰かに頼むしかないか」
適当に魔物を創造するにしても、量産した魔物では個々の素質が低いし、単体でしっかりと創造したとしてもタシ程度しか創造出来ないとなると、訓練相手としては不足。倒す事を考えれば生半可な相手には頼めないので、その場合は格上に頼むしかない。そうなると相手は限られてくるからな。
「みんな忙しいだろうし、難しいな。やはり魔物を創造する方はいいか」
倒す為に創造するというのも可哀想な気もしてくるが、創造した魔物に意志があるかどうかは微妙なところ。
タシの場合で考えれば、おそらく最初から在ったのだろうが、あまりはっきりとはしていなかったと思う。タシに今ほどしっかりと意志が宿ったのは、名前を付けた辺りだろう。
「んーそうなると、やはり名付けは大事という事になるのかな?」
しかし、名付けも全て意味がある訳ではないだろうし、何かしら法則でもあるのかもしれない。それもタシの場合で考えれば。
「自分で創造した相手に名付けると意志が宿る?」
可能性としてはなくはないが、微妙なところだな。まぁ、今はそんな事は横に措いておいて、訓練相手についてだ。
タシぐらいの相手では加減した魔法でも軽く消滅させてしまう。であれば、誰かに代わりに魔物を創造してもらうとか? そうなると、やはり格上相手に頼むしかないから・・・うーん、それぐらいならまだいいかな?
魔物創造は難しくはないので、慣れればそんなに時間はかからない。それでもわざわざその為だけに時間を作ってもらうのも気が引けるし、何より強い魔物を創造しようとするとかなり疲れてしまうだろう。死ぬ事はないだろうが、最悪気を失いかねない。なので、流石にそこまでしてもらうのは無理だろう。忙しい相手を疲れさせるか、失神させるとなるとな。
では訓練相手をどうするか。というところまできて、結局は自分で創造した方が・・・となるので堂々巡りだ。
困った。更に上を目指すのであれば、実戦にしろ訓練にしろ相手が必要なんだがな。うーん、どうしたものか。
考えながらも、とりあえず外に出る為に地下三階に向かう。長い事放置していたので、問題ないとは思うが、まずは転移装置の確認からした方がいいだろう。護りの魔法道具はずっと作動しているので大丈夫だろうが、そちらもついでに確認しておこう。
そういえば、死の支配者側の軍隊が近くを通った時には反応しなかったな。やはりまだ範囲が足りないか。せめて結界の少し外まで魔法道具の効果範囲を伸ばしたいところだ。こちらも頑張らないとな。
地下三階に到着すると、転移装置の近くまで行く。防護の魔法道具を弄るのはもう少し技量を上げてからの方がいいかもしれない。今なら少しは改良できるだろうが、これはこれで複雑だからな。今思えば、一応とはいえよく形に出来たモノだよ。
それはそれとして、目の前の箱を積み上げたような大きな転移装置に目を向ける。
相変わらず無骨というかなんというか。自分で創っておいてなんだが、もう少し外観をどうにか出来なかったものか。増設するたびに箱が増えていったので、気づけば高さ・・・何メートルだろう? 二メートルは余裕で越えているとは思うが。
地下三階は天井が高いのでそれぐらいでもまだ余裕はあるが、それでもこれ以上大きくしない方がいいだろう。
さて、当初の何倍も大きくなってしまった転移装置だが、これも割り込みを防ぐ事に全力を注いだ結果だ。おかげで容量の余裕が無くなり、転移装置の有効範囲を広げるのに別枠で用意しなければならなくなったほどだ。
そんな転移装置を眺めた後、転移装置に触れて状況を確認していくも、どうやら問題はなさそうだ。念の為に外に置いてある送受信機も確認した方がいいかもしれないな。ここから確認する限りは問題なさそうだが。
そうして問題なく動作するのを確認したところで、転移装置を起動して外に移動する。外、というか建物内に設置してある送受信機を使って、一階の地下から上って直ぐの部屋に転移した後、こちらからも送受信機の様子を確認しておく。
問題ないようだったので、そのまま部屋の外に出た。
部屋の外には警備の者が門番として常に立っているので、外に出た後に挨拶を交わす。相変わらず筋肉が肥大化したような姿だが、頼もしいと言えば頼もしい。
ここの門番を務める兵士達には何度か顔合わせしているので、いきなり外に出てきても不審者扱いはされない。むしろ平伏して挨拶をされるのは何だか申し訳ない。座るのも大変そうな見た目なので尚の事。
それでもらしく振舞わないといけないので、鷹揚に頷いて挨拶を返しておいた。多分こんな感じでいいのだと思う。国主なんて詳しくは知らないので、自分なりに思い浮かべる国主でいいだろう。プラタにもその辺の指導とかはされなかったし。
そのまま廊下を進む。進むのは最初にここを通った時とは反対方向。
廊下の様子は何処も変わらないが、こちら側はそこまで長くはない。
部屋を出てから十数分ほど歩いたところで、扉がポツンと一つだけ現れる。その先は行き止まりで、こちら側の廊下にはこの部屋が一つ在るだけ。
その扉に手を掛けて開ける。相変わらず魔力認証での個人識別は少し指がピリッとするな。
個人認証が終わり抵抗なく扉が開くと、そこは普段転移時に使用している部屋よりは少し広い部屋。
くすんだ白色の部屋の中には、中央辺りに部屋と同色の丸机と椅子が置かれていた。机は簡易的な小さな丸机だが、椅子だけは背凭れ付きの立派な椅子。豪奢とまではいかないが、安宿にでもありそうな丸机とのつり合いが全く取れていない。
部屋の中に入ると、背後で勝手に扉が閉まる。
それを確認したところで机に近づき、それに触れる。安っぽい見た目だが、これはプラタが設置したれっきとした転移装置。椅子の方は丸机に合わせて創られたただの椅子だが、動かす事は出来ない。それでも机の横に扉の方に向けて固定されているので、座る事は可能。
椅子に座る必要もないので、さっさと転移する。
意識の漂白と一瞬の浮遊感を感じた後、一階の兵舎近くの部屋に到着する。ここは門番が使用している転移装置らしい。
兵舎があるのは大分先だったので、一気に移動出来た。とはいえ、ここから玄関まではまだ距離がある。それでもかなり近づいたな。
部屋を出てのんびりと進みながら、拠点内に目を向ける。この辺りでプラタが設置している罠は視る事が出来るので、引っ掛かる事はない。
拠点内でもこの辺りは変わっていないだろうが、それでも久しぶりなので何だか新鮮だ。
そうして拠点内を見ながら玄関まで到着すると、外に出て中庭に出る。久しぶりの太陽光が眩しくて目が痛い。今はもう昼過ぎなんだがな。
中庭は正面玄関を出て直ぐに噴水があるが、そこから建物を回るようにして進むと芝生と花しかない場所に到着する。来賓向けではなく今来た方向の中庭なので、廊下に窓もほとんど無く、中の様子を気にせずのんびり出来た。
暫く進んでそろそろいいかと思い、芝の上に寝転がる。
雲はあるが青空が広がる空は清々しく、今まで長い事地下に籠っていたので、なんだかもの凄い解放感を感じるな。それに、いつもより空が高く感じて、思わず手を伸ばしてみたり。
まぁ、当然ながら空に届く訳もないが、空へと伸ばした腕を撫でていく風が気持ちいい。思わず欠伸が出て、少し眠くなってきた。
今日は外に出るという目的はあったが、他に明確な目的があった訳ではない。気晴らしみたいなものだ。
気づけば過ごしやすい気候になっているし、どれだけ長い事地下に籠っていたのだろうか。それで成果が出ていればいいが、どうなんだろう。やはり実戦かそれに近いものを経験してみなければならないかもな。